アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

207 お伽噺

「だけどきっとそんな奇跡は中々に起きない。ウォルターは運が良かったんだ」
「うん。私もそう思う」

 2人は炎が燃え移り煙をあげる森の風景を眺めながら、互いの意見を一致させる。だが──

「ものすごい風だ! これは・・・!」
「リアムの魔力」

 一方それとは違った方向から、突然に先ほど炎の上がった方向へと木々をなぎ倒しながら接近する風の塊が飛んでいく。
 おそらくウォルターたちの方へと飛んで行ってしまったのは偶然であろうが。

「参ったな・・・これは」
「研究所の方にだけは撃たないでってルールに付け加えておけば良かったね・・・」

 次々と地形が変わっていく様がここからだとよく見える。まだ研究所のある方へ魔法は飛んでいない。レイアの言った通り、ルールに書いておけば良かったかと思ってももう遅い。本当に大事な資料はいつも持ち歩いているが器具類は別・・・こうなったらどうか研究所に守りの加護を、神に祈るほかあるまい。

「そういえばリアムくんと言えば実はね、レイア。彼が言ったようにボクらはくじ引きでイカサマをしていたんだ」
「・・・うそ」
「正確に言えば、ラナとレイアに・・・だけだけどね」

「あの時イカサマを指摘された時は驚いたよ」と、苦笑いを浮かべながら頬を掻くエドガー。

「ねえレイア・・・イデアちゃんの容姿は、なんとなくボクと君に似ているとは思わないかい・・・?」
「えっ?」
「あっいや、なんでもない。すまない今のは忘れて」

 すると、唐突にエドガーが妙なことを口にする。たしかに、白髪に緑色の目・・・リアムがイデアと入れ替わった時の姿は、私たちによく似ているかもしれないが・・・。

「そうだね・・・うんレイア。すまないついでにもう一つだけ、少し昔話に付き合ってくれ・・・」

 と、またも唐突に、エドガーはある人間の国に生まれたエルフの血を引く男の辿った数奇な運命の一つを話し始める。

 


 魔力契約。つまりは己の魔力(いのち)に誓う契約とは、逃れられない世界の絶対のルールであり、真理だった。
 だが、それは100年前のある出来事をきっかけにその真理は人々の中から忘れ去られた。
 ・・・そう。たった一人の、精霊王の犠牲によって──。

「君は・・・混じってるのか」
「お前は・・・」
「ボクはただの通りすがりの吸血鬼。魔族だよ」

 約100年前。突如として国の各地に現れたオブジェクトダンジョンの調査探索中、男は一人の吸血鬼と出会う。

「へぇ・・・それも混じってるのは命の精霊か。これはめずらしい」
「なんでそれを!」

 吸血鬼と名乗った男は、男と出会うや否やスグに彼の正体を言い当てる。

「おかしいな・・・回復ならいざ知らず、まさか命とは・・・」

 しかし吸血鬼はそう言うと、そのまま黙り込んでしまった。

「どういうことだ! さっきからなにを言っている!」

 男は叫ぶ。一瞬で自分を蝕むこの力を、言い当てた吸血鬼に向かって。

「そうだね。良いものを見せてもらったお礼に、最新のお伽噺でもしてあげよう」

 吸血鬼は嗤う。良いものとやらを見て気分が良かったのか、はたまた男の滑稽な様に興奮したのか。

「勇者の使っていた剣。その名を聖剣。その聖なる剣の力は──」

 吸血鬼の話とは、本当にごく最近の話だった。

「心を許したあらゆる精霊の、あらゆる力をのせて斬撃とする世界と楽園の創造と共に神が作りし剣。──神剣」

 それは、十数年前に突如として王国に現れた勇者の話。

「勇者と竜王の戦いは熾烈を極めた。だが戦いも終盤。勇者は竜王との戦いに終止符を打つべく、空間の精霊王の力をのせて次元に穴を開けた。そして──」

 そう。それは勇者と世界の源である神の聖域を蝕もうとした竜の王との戦い。聖戦と呼ばれる戦いの記憶。

「命の魔法。その中からこの世界に存在するありったけの死の魔力をかき集めた命の精霊王ごとを刃とし、勇者は竜王を・・・」

 世界の運命は勇者の勝利によって生かされた。かの者を英雄とした。しかし同時に、なくてはならないものを失った。

「その時、世界中の命の属性からは死の特性が消え、生を司る回復属性だけが残った」

 世界から魔力が一つ消えた。個性が消えた。特徴が消え属性が忘れられて・・・──

「命のバランスが崩れた・・・」

──属性が、残った。

「でも君の中には、まだそれが残っている」

 その出会いは、一晩の奇妙な絆が作り出した男の人生を変えるきっかけになった。

「そしてここには、これからソレが溢れることになる」

 ・・・気づけば吸血鬼は消えていた。急にいなくなったのではない。消えたことに気づいた時には男は眠っていて、朝を迎えていたのだ。

「その吸血鬼さんは?」
「さあ。一晩経ったらどこかに消えてしまっていたよ。吸血鬼は夜に生き、影に紛れる存在だからね」

 おとぎ話のように、雲をつかむようなお話。しかし現実のお話。事実、現在生の魔力と混じることはないが、このダンジョンの中にはかの魔力が溢れている。

「さて。話を戻そう。レイアはたしか魔力を伴う契約を公爵様たちと結んでいるはずだよね」
「はい。父さんも結んだんでしょう?」

 エドガーは話をほとんど始めの魔力契約の話へと戻す。

「そうだね。そして縛る力は絶対から著しく変化したものの、今の世界でも一番強い契約の手段の一つとして用いられている」

 そして、そう前置きしなおすと──

「魔力とは無から与えられ、生によって育まれ、死によって終わり還る。よってこの特性が根幹となる契約は、全ての精霊とその王たちの頂点に立つ王の中の王の力、または命の属性によってのみ破棄することができる」

 遂に、レイアへの試練達成条件を明らかにし始める。

「ただし──、命の属性といってもそこには階級があり、扱うことのできる上限が設定されている」

 階級。つまり精霊に下位・中位・高位・王と階級があるように、それに干渉できる存在もまた、限定されているということであろうか。

「レイアの試練はただ破棄すること。アイナとの修行で知覚した君の中のもう一つの力を引き出して公爵家と結んだ契約を解き、ここに溢れる死の魔力と生の魔力を己の中で融合させてそれを成し遂げるんだ」

 契約の破棄。そんなことを勝手にしてしまってもよいのだろうか・・・しかしそう言えば一人、公爵家が使用するこの国最高レベルの魔力契約の陣をいともあっさりと解呪してしまった人物が──・・・。

「ただしもしかすると、薬を飲むより危険で死に近い試みかもしれない。なぜなら君の中に宿った力はボクから流れ出してしまった副産物で、この世界の理から少しズレた場所にある枷のない不安定な力だ。だからボクも手伝うよ・・・あくまでも補助だけど」

 あくまでも補助。つまり力をコントロールして解呪することは自分でやらなければならない。

「いくよレイア。ボクと一緒に君の中に存在する精霊の名を呼ぶんだ」

 説明を終えたエドガーが急かす。

「・・・わかった」

 しかしレイアは意外にも、落ち着いていた。なぜなら・・・──

「アニマ」

 2人が同時に同じ名前を呼ぶ。それは不幸にも共有してしまった忌むべき呪いと同時に、彼らが親子の証。

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