アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

197 つきおとす

「どうしてなの・・・父さん」

 リアムは対面するウィルに尋ねる。

「別に不思議なことじゃないさリアム・・・」

 するとウィルは──

「お前らは今日・・・この領地の・・・この街にあるダンジョンのラストボスへの挑戦権を勝ち取った」

 今日のリアムたちのボス戦を振り返る。

「だがかつてこの街にはその挑戦権を獲得し、最初にラストボスの聖域にまでたどり着いたパーティーがいた」

 そして振り返る。自らの、自分たちの過去を──。

「そのパーティーの名はアリア。テールのラストボスと文字通り、死闘に背水の陣で臨んで・・・負けた」

 負けた・・・背水の陣、それは=引退か。

「そしてお前たちはまた、そんな奴らの意志(なまえ)を継いだパーティーの一員」

 名前は最早意志。夢敗れた者たちのタスキ。

「もうとっくに廃れた名前だった。そう、いわゆる過去の栄光ってやつだ」
「そうね。だけど最初私たちはそんな過去の栄光であっても、あなたたちが継いでくれると言うなら、別に安泰する理由もなかった・・・けど」

「だけど・・・」と、逆接する言葉を残し、再び黙り込んでしまったアイナ。

「しかし、しかしだ──!」

 そんなアイナとは真逆に、力強く叫ぶウィル。

「もしも・・・もしもその老兵が再び立ち上がろうとしていれば・・・」

「・・・いれば」と、思わずウィルの言葉を途中で復唱してしまうリアム。

「──お前たちは、どうする?」

 ウィルはそんなリアムたちをからかうような、そしてそれを楽しんでいるかのような表情で聴く。

「まさか、そんな・・・」

 その言葉の真意に気づいたリアムが狼狽える。ここまで話されれば、彼らが何を言いたいのか──

「なぁに心配はするな! 何もルールなし、どちらか一方が戦闘不能になるまで殴り合おうっていう無秩序な戦いじゃない!」

 何を求めているのか──

「ただ、アリアは元々独唱を意味する言葉だ。ならば、二つも同じ名前のパーティーがあるなんておかしいとは思わないか・・・?」

 誰にでもわかる。

「だからこそ決闘だ! その名前を・・・旋律を・・・──最後の称号を賭けて!」

 彼らが求めているものは、きっとアリアの名前と・・・挑戦権。もし僕らに勝つことができたら、再び昔の宿敵にもう一度、挑戦するとでも言うのか。

「だ・・・だったらボクたちはこのままアリエッ」
「おぉっと! アリエッタのままでいいなんてつまらないことは言うなよリアム!」
「聞いたわよ。前回も今回も、あなたが復活しておいてあなたたちはアリアを名乗らずにアリエッタを名乗った。その理由は──」
「・・・俺たちに追いついたと自分たちが自覚できるまで・・・だったか?」
「どうして父さんたちがそれを・・・!」

 戦うくらいだったらアリエッタのままでも・・・と言いかけたリアムを止めて、ウィルとアイナがいつか彼が口にした言葉をはっきりと突きつける。

「アッ・・・ムグッ!」

 突如、後ろから聞こえてきた「しまった!」とでも言わんばかりに零れた音・・・答えを聞くまでもなく、誓いの言葉を当事者以外に漏らした犯人がわかってしまった。

「ムググ・・・グ・・・ググ!」
「ミリア息! 手を離して!」
「は・・・はぁ・・・息するのまで忘れちゃった・・・」

 中継はおそらく、ブラームスかマリアだろう。

『いやそんなに必死にならなくても、別に悪いって責めるつもりもないんだけど・・・』

 それでもミリアさん、今更呼吸を無視するほど慌てて両手で口を塞いでも遅いですよ・・・。

「・・・話を戻そう。だが俺は今日の戦いを見て、お前を認めてしまった・・・いや!」

 わざわざ、話を戻すといって仕切り直すウィル。流石の判断力というか、切り替えの早さと言うか──

「齢10にして既に俺たちが立ち入った領域に行こうとしてやがる・・・そんな冒険者を・・・それも俺の息子だ。認めない理由が何処にある!」

 ウィルの言うことには力があった。熱が篭っていた。

「・・・だから大人にこれ以上多くを言わせるな・・・リアム」

 ウィルの立つ扉、玄関の奥で目を伏せて話を聞いているアイナの姿。先ほどの合いの手、また異論や質問をしないところ、どうやら既に2人の間で話は決着しているらしい。

「いいか。決闘の待合場はエリアDのエドの研究所。日付は来週の今日、時間は正午だ。間違えるなよ」
「それからルールは追々、エクレアに紙に書いたものを渡す。それを持って約束の場所、約束の時間に来て・・・もちろん、アリアの全員で・・・そして──」
「そして・・・アリアの全員で、お前たちを待つ。いいな」

 淡々と、決闘の日取り、場所、時間を決めてしまうウィルとアイナ。

「またな、リアム」
「またね、リアム」

 そして彼らはそれだけを告げると──

「待って父さん! 母さあぁぁん──!」

 一瞬にしてリアムたちの前から消えた。決して見えなかったわけではない。それでも呼び止めるには、不十分すぎる束の間だった。

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