アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

191 鍵穴

 三角形底辺線上の空間に浮かぶ・・・いや空いた穴。

「鍵穴・・・」

 そして──

「・・・鍵」

 いつの間にか手に握られていた鍵。これは──

「挿して・・・回す」

 この時リアムの思考はとても明瞭で、手に握られていた鍵をそのためにあるのだとわかる空間の鍵穴に挿す。すると──

──カチッ。

 カチッと、何かがハマる音。

「・・なみに、先立つ前に一つ注意して置くと、エリアFのボスモンスターは祈りを捧げた祈祷者の実力に合わせて力を多少変化させますので、ご注意を」

「へっ?」

 が──

「「はっぁあ!?」」

 少しだけ時間をおいて振り向いた後ろから聞こえてくる、仲間たちの驚愕する声。しかし──

──ギャリ。

 突如として、回した時計周り方向に鍵穴に挿さったままに回り出す鍵。そのスピードはどんどんと上がり──

──ギュリン。

 また唐突に動きを止める。瞬間──

「下がってくださいリアムさん」

 下がってくださいと言いながら、背中の服を掴んでリアムを後ろに引くヨンカ。そして──

「台風の目・・・?」

 そこに現れたのは──

「いや、青白い大きななにかのゲート」

 わずかながらに一定のスピードで渦を描くゲート。しかしその先の景色は、青いような緑色のような白っぽい光で遮断されて見えなかった。

「これがエリアFの最後の戦場に続くゲートです。この先に行けば、いつものボス戦のように戦いが始められます」

 まるで見るものを吸い寄せるように凛と美しく佇むゲート。しかし同時にそれは、ピリピリと体の中に潜む恐怖を引き起こすように、深淵を覗くような怖さもまた、孕む美しさだった。
 
 それから──

「さあ今日も始まりました! なんと今日は1ヶ月に1度はあるかないかのエリアFのボス戦に話題尽きないアリエッタが挑みます! 司会実況は私、ナノカが担当しまーす!」
「イエェイイ!!!」
 
 コンテスト会場では──

「今日もよろしくお願いしますね」
「こちらこそ」

 いつもの面々が、顔を合わせてアリエッタの戦いを今か今かと待ちわびていた。

「ここはあまり、変わり映えしないのね」

 ゲートが現れまもなくして、アリエッタが転送された先は──

「だな。あまり変わらない。ただの荒地だ」

 荒地。ステージの構成はシンプルで、言うならトードーズと戦った場所をそのまま荒地ステージにしたシンプルな戦場だった。

「ここが境界。まさに果てって感じですよね」
「・・・どうしてヨンカさんまで来てるの?」
「いいえお気になさらず。皆さんの戦闘中手出しはしません。これは私の趣味みたいなものですから」

 するとなぜか、これは趣味だとのたまうヨンカもまた、一緒に侵入してきていた。

「レベルに合わせて姿を変えるボス。つまりはそれは、冒険者たちへの試練を表しているわけなのですが──」
「はぁ」
「苦しくも冒険者が下された果てに残ったモンスターの後処理を私がする。その冒険者たちの壁を、今の私の実力でどれだけ通用することができるのかを試すのです。そしてそれを成し遂げた時、これがまた、私は生きているのだと実感することのできる高揚感へと変わるんです」

 この生活するには過酷な場所に、ずっと案内人として留まるヨンカ。その彼女の趣味とは彼女にとっての生きる意味と化していた。
 
「それから、あまりボーッとしてると──」

 そして、そんな彼女の趣味の理由に面食らっていると──

“ Are you Ready? ”

「来ますよ」

 空に浮かぶ見覚えのある文字。しかし、彼女の指差した先は──

「何か落ちてくるぞ・・・」
「すごい勢いで・・・」

 そのはるか上空を指していた。そして──

──ズドォン!

「「なんだ!?」」

 はるか上空で点だったそれはスピードを緩めるどころか、ぐんぐんと加速してリアムたちのいる50mほど先へと落下した。

「ヴラゥ!」

 舞う砂煙。その中で咆哮するのは──

「シャーッ!」

 巨大な獅子の頭と体に、尾は大蛇。だが──

「なんだあれはぁー!・・・キメラ、なのでしょうか?」
「ものすごいスピードで落ちてきたぞ・・・?」

 リアムたちの映像が届き、開始のコールがされたのも束の間、降ってきたその異形に実況のナノカ含め会場の観客たちもざわめく。

「嫌な予感がする・・・」
「もしかして、リアムちゃんがやっちゃったのかしら・・・あれ」
「リーダーだからありえるわね。こんなことなら先に教えてあげてればよかったわね・・・ヨンカちゃんにちゃんと説明受けなかったのかしら?」

 その降ってきたものを見て、ウィルの脳裏によぎった悪い予感。またそれを、言語として現実にするリゲスとアイナ。

「あれは獅子の尾に蛇を携えるキメラ。また今回は空からの登場ですから、この場合背には翼があり、空も飛・・・あれ、おかしいですね・・・翼がない。代わりに・・・」
「山羊か?」
「ヤギだね」
「それも子ヤギ」
「カワイイ・・・」
 
 いつもはこんな落ち方をしてこないはずのソレにヨンカが疑問に首を傾げれば、ただでさえ異形のモンスターの背中についていたのは翼ではなく、子ヤギの1首。そして──

「メェ・・・」

 次の瞬間──!

「・・・ッ!?」
「リアム?」
『なんだあの子ヤギが発しているこの空間を今にも潰してしまいそうな覇気!・・・みんなは感じていないのか・・・』

 クリンとした純粋な瞳。だがまるでまだ甘えたがりの子ヤギが出した鳴き声に、リアムの体が震え戦慄する。

「ティナちゃん?」

 同時に──

『どうやらティナは獣人の野生の勘で何か感じたみたいだ。嫌な予感が当たらなければいいけど──』
「ティナ。あのヤギから感じる気・・・わかるかな?」

──コクコク。と、ティナがリアムの問いに肯定で答える。

「それじゃああの気に覚えは・・・」

──コクリ。

『・・・やっぱり』

 どうやら感の鋭いティナも気づいたらしい。あの時とは違い、その恐怖を周りにばらまくことはないが、しかしその微かに漏れ出している圧力のにおいを、ティナとリアムだけが捉えていた。

「円型(ドーム)魔法障壁(ウォール)」

 瞬間、目の前に存在する事実を悟った瞬間にリアムは一歩踏み出して間髪入れず皆をドーム型の魔力障壁で囲う。

「な、なにをしてるんだリアム!」
「ごめんみんな。あれはキマイラ・・・だと思う。なぜ背中のヤギが子供なのかは知らないけど、ボクが知ってる神話に出てくる生き物によく似てる」

 ただ一人、外に残ったリアムが亜空間から刀を取り出しながらあの生物の正体を暴く。

「そしてあのヤギの部分から感じるんだ。あの時の突き刺すような感覚ではないけれど、それでも仮面(アイツ)と同じ匂いがする」

 刹那──

──ゴォォォ!
「・・・! ファイア!」

 グッパリと開けられたライオンの口から吐き出される強烈な火炎。それに対しリアムも真っ直ぐ火炎に向けて強烈な火を放ち相殺する。

『火には水では?』
『しょうがないだろ。咄嗟だったんだ』

 裏で火には水でしょうとこの世の常識を唱えるイデアに、咄嗟の反応だったのだと言い訳をするリアム。

「とにかく今は、ちょっとでも思考を整理する時間を──」
「メェェェェェ」
「へっ?」

 リアムが、頭の中を少しでも整理するためにまずは時間を稼ぐ方法をと、焦っていたところ──

「飛ん──」
「ガァァア!」
「──ッ」
「シャァッ!」
「速ッ! あっぶな避けた後のあの尻尾の蛇の追い打ちにも気をつけないと!」

 背中の子ヤギが鳴いたかと思えば、獅子の足元に黒い板が出現し加速した。どうやら空間属性の魔法で本体の足場を作り、そして──

「リアムやエリシアが前にやったリバウンドサーカスと同じ原理だ。攻撃の瞬間に足場を瞬時に反発の効果を持つ。さらに──」
「メェェェ!」
『右ですマスター!』
「うわっとッ・・・あぶなッ!」

 さらに、突進を避けられて後ろに勢いよく飛んでいったはずのキマイラが、なんとリアムのすぐ右10mほどの場所に姿を現し、さっきと変わらないスピードで突っ込んできたために、リアムは空へと逃げる。

「ゲートを攻撃後に挟みフェイントまで入れてくる。こんなの──」
「翼で飛ぶよりも断然に──」
「速い。そして厄介です」

 障壁の中から、なんどもこの戦場でボス戦を見てきたヨンカが厄介だと言う。しかしそれもそのはずである。なにせ今まで彼女が目にしてきたボスは一様に、空間や闇の魔法を使ったりはせずに、口から炎を吐いたり毒を吐いたりするだけだった。

「くそ・・・やっぱり空中に作れるよね・・・その足場」
「メェ・・・」

 当然のように、突進後に宙に浮かぶ透明の板の上に立つキマイラ。また──

「メェー」
「クッ! 前進──」

 一瞬で足場の色が闇に染まったかと思えば、空に浮かぶリアムめがけて飛んでくる。

「これじゃあ息つく暇もない──」
「ガァァ!」「シャア!」「メェェ」

 前進してキマイラの攻撃を避けたリアム。しかしまた空中で反転しては軌道修正を繰り返し、息をつく暇もなく襲いかかってくるキマイラ。

「・・・! ボーっと戦いを眺めてる場合じゃない! ボクたちも戦わないと!」
「けどリアムが作った障壁が固すぎて・・・外に出れない!」

 一方地上では、リアムの加勢をと慌てるアリエッタの面々であったが、どうにもリアムが皆を守るために作った障壁を破るワケもできず、右往左往していた。

『みんなはそのまま待機してて』

 すると──

「リアム!?」
『キマイラはこのスピードだし、このまま障壁を解除するかボクがそこに戻っても、多分ひとたまりもない・・・』
「・・・そうね」

 突如として、頭の中に届くリアムの声。これは魔力を伝って届くイデアのテレパシーのようなものだ。

『けどきっと何か策はあるんだ! そしておそらくそれは、みんなの協力が必要で・・・』

 脳に直接語りかけてくるように届くリアムの声。だがそれは徐々に──

『だから・・・』

 弱くなり・・・そして──

「選手、交代です」

 リアムの髪の毛が白に染まる。

「マスターが対策を練っている間、私が代わりにじゃれてあげましょう」
 
 同時に、リアムの声の代わりに耳を伝って入ってきたのは、上空に浮かびながらキマイラを手招きする少女の単調な煽り声だった。

「アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く