アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

185 勝利の天使

「おかえりなさい・・・ただいま」
「ただいま・・・おかえり」

 まるで、鏡のようにお互いがお互いの放った言葉に対して噛み合う言葉を選び交わす。

「突然バカでかい魔力の沸騰を感じたからもしやと思ったが──」
「ええ。どうやら取り戻したみたい」

 そして、それを一番側で見ていたウィルとアイナが感慨に浸るように──

「このピリっと空気が凍りつくような魔力。さすがね」
「すごい・・・話には聞いていたし、ステータスも確認はしていたけど・・・」

 リゲスとエドガーが感嘆と、リアムの中で躍動する爆発的な魔力を感じ取る。

「おいコラリアム!」
 
 しかし、1人──

「お前な! なんのために私が手取り足取り特訓してやったと思ってる!」
「えっ?」

 なんのためにと聞かれれば、オークたちと戦い勝利することで精神的な傷の克服を図り魔法を使えるようになろうと・・・──

「今のは見なかったことにしといてやる! だからちゃんとで勝負しろ!」
「えー・・・」

 全くもって、リアムの復活を気にも留めないどころかなかったことにしようとする暴力的なカミラの発言。それに手取り足取りという部分にも疑問が残る。

「おいカミラ! もともとこの戦いはリアムの心の傷を自信を持って克服させようって組んだ一戦だ! なら吹っ切れて魔法が使えるようになった今、それを自重する必要なんざないだろ!」
「うっせぇな。あいつが怪我しねぇとウチのレイアの出番がなくなるだろうが!」
「ほ、本気で言ってるんじゃねぇんだよな・・・?」
「はんッ! シーラネッ!」

 ウィルに今回の目的を諭されながらも、しかしカミラはそっぽを向き話を聞こうとしない。

「な、なんと・・・いや! なんと体を真っ二つに切られたリトルウルフがまさかの復活! それどころか多少火に耐性を持つオークジェネラルを、あの凄まじい炎の魔法で骨も残らず灰としてしまいました!」
「「うぉぉぉー!」」

 コンテスト会場では、何事もなく復活したどころか、オークジェネラルを凄まじい炎の柱で灰にしてしまったリアムに沸く声が半分──

「あやつ・・・一体何をしたのだ」

 そして、リアムが何をしたのかという混乱が半分で会場を二分していた。

「なにやら切られた場所に黒い靄のようなものが見えましたけど・・・」
「ええ。それから、どうやら右目の魔眼・・・も発動しているようですが」

 ブラームスの呟きにリアムがなにをしたのかと考察するマリアとパトリック。

「・・・」

 一方で、その光景を見ながらも動揺を見せず沈黙する夫婦が1組。

『ヴィンセント殿の家はたしか魔族と人間の混血の家系。そしてたしか、リアムくんのステータスにも魔族の血胤という魔眼の項目が・・・まさか』

 その2人の様子をスグ隣にいながらも、ふと視界の端で見ていたパトリックはこの時何かを察したという。が発動しているらしい魔眼。そう例えば、ブラッドフォード家とリアムの間に、魔力や血の盟約に近い何かが結ばれている・・・とか。

「刺突三日月!」
「ヒール!」

 それから30分後──

「ブォ・・・」
「・・・やった」

 レイアの契約精霊アリエルを傍に、リアムはついにその偉業を成し遂げる。

「な、なぁ・・・リトルウルフはさ・・・ずっと魔法使ってたんだよな・・・」
「いや・・・その・・・途中のアレ以外はわかんねぇけど・・・」
「使ってたよな! きっと身体強化か何かしてたんだ。そうだ・・・じゃないと」

 また、再びコンテスト会場でもそれに合わせて、終始絶えることのなかったザワつきがこの日最高の盛り上がりを見せ──

「リトルウルフとレイアの勝利! えーッギルドで公開を許可された情報によれば、なんとリトルウルフは1年前のあの悲劇から魔力をうまく使うことができない魔力障害に陥っていたようですが──!」
「複数体のオーク相手に、子供が剣だけで勝つなんてありえない──」
「9匹のオークたちを剣術だけで殲滅! 途中ヒヤッとする場面もありましたが、今回相棒を務めたレイアの回復の見事なサポートもありこの勝利! ジェネラルの攻撃を避けたあの魔法はなんという魔法だったのかは私にもわかりませんが、皆さんもご覧になった途轍もない火柱! どうやら完全復活を果たしたようです!」
「「うおおおぉぉぉお!」」

 ナノカのまとめを皮切りに、それは歓声へと変わった。

「凄すぎだろ! 本当にまだ9歳のガキかよ!」
「おいそこの観客! ガキではなくリアム様とお呼びなさい!」

 とある観客の声は歓声として、他の観客たちの声に合流していき──

「・・・ありえない」
「だが現実だぜ・・・俺たちは笑っちまったが、昨日カミラの言ってたことは・・・」
「ああ・・・あながち嘘じゃなかったのかも・・・」

 死んでしまうとは情けない。また今朝たまたま死に戻りしてやってられないと酒でも煽ろうとテールを出ようとしていたところ、あまりの歓声に会場に立ち寄ったとある観客の感嘆な呟きは、傍白と化して会場を支配する歓声の中に消えていく。

「・・・どうする。ぼく達はまた、とんでもなく一気に遠いところに置いていかれてしまったのではないか?」
「置いていかれたって・・・しょうがないでしょリアムなんだから! 影を踏むくらいギリギリの意地でも這いつくばってでもついていかなきゃ!」
「魔法の力が堪能なお前達はまだマシさ。俺なんて年長で使えるのは僅かな身体強化くらいだ・・・ハハ」
「わ、私も。身体強化と魔力感度がちょっと高いだけなんだけど・・・ヤバ」
「はわわわわ。私はみなさんの強化とお茶とお菓子を用意することしか・・・リアムさんはそれすらできてしまいますぅ! どうしましょう!」
「ふ、フーンだ! 公爵家の娘の私ならあのくらいの魔法・・・でも剣術は無理」

 今回、リアムの復活を見届けるためにこの会場で観戦をしていたアリエッタのメンバーだが、見届けるどころか全員が一気に1年年前に元々開いていたリアムとの差以上にを実力を離されてしまったことに困惑を覚える。

「大丈夫・・・です。リアムは決して私たちを置いていかない。レイアと一緒に戦ったように・・・檻の中から私を救ってくれたように。皆さんと繋いだ手を離すことはしない・・・と思います」

 しかし一人、これからどうするかと自らの先行きに不安や焦燥感を覚える他のメンバーとは対照的に、今か今かと体をソワソワさせて、嬉しそうに希望の凱旋を待つ期待の表情を浮かべるティナ。

「それに・・・」

 そして、「それに・・・」と言葉を途中で一旦止めたティナがコンテストの映像が流れるスクリーンを見上げてみれば──

──ヒュ〜・・・

 耳を劈くような少し不快にも感じなくもない高い音。それから──

──ドーン! パァン!

 しかしそれが一気に花を開かせれば、乾いた何かが破裂し、勝者を祝福する火花が枝垂れる落ちる音が会場中に響き渡る。

「リアム様が今日、帰ってくる」

 そしてティナが口角を上げて目尻を下げて頬を緩めれば、言葉の続きを口に両耳を前に立てて限りなく映像に集中し、そこに映し出された文字を歓迎するのだ。



──”Congratulations Challengers!”

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