アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

183 レベル1

「おはようございますみなさま!」
「あれ?なんで実況がナノカちゃんなんだ?」
「今日のスケジュールでは確か、『ルーキーキャット』がオークズに挑戦するはずだからリッカちゃんじゃないっけ?」

 朝のまだ少し気だるげも残る観客たちの前に登場したのはナノカ。しかし──

「本日この時間は、現在ノーフォークスクールの3年生で結成された『ルーキーキャット』のエリアCボス戦コンテストをお送りする予定でしたが、急遽予定を変更して別のチームによるボス戦をお送りします」

 どうやら、今朝に予定されていたボス戦に挑むパーティーが変更になったらしい。

「始まったわね」
「なんかこっちまでドキドキしてきた」
「そんなんでニカさん守れるの? まったく・・・ソワソワ」
「・・・ソワソワ」
「まだ、納得いきませんか?」
「そうじゃないが・・・ただボクもあいつの復活戦に立ち会いたかっただけだ」
「それはみんな同じでしょ? 全く聞き分けのない子供はこれだから」
「なんだと! アリエッタの中で一番ガキっぽい癖に!」
「あーら私は淑女だから、そんな煽りにはのらない・・・」

 会場の一角、真剣というか賑やかというか──

「の!お生憎様・・・フン!」
「ぬおぉぉ!思いっきり・・・のっているではないか」

 ナノカの登場に湧く集団がいた・・・一人だけ、裏拳の不意打ちを喰らった顔面を抑えて悶えているような気もするが──

「護衛もなし。ミリア一人で大丈夫か・・・」
「私たちは遠くで見守ってましょ。子供達には子供達の世界というものがありますもの。それより・・・──」
「はい。まさかここでアリアの5人が映っているところを観れるとなると──」
「ワクワクとしますな。しかし緊張もまたある」
「今日は存分に私も応援しますぞ。若の復帰戦ですからな」
「そうね。リアムくんには勝利を勝ち取ってもらいたいわね・・・それにしても」

 そんな、賑やかな集団を少し離れた後方の席から見守る集団がまた一つ──

「マレーネさんも来られればよかったのに」」
「しょうがないさ。それに──」

『再結成? たしかにそいつは年甲斐もなくはしゃいでしまいそうにもなるが・・・』

 追憶の中の乱雑そうに見えてしっかりと整頓された器具が置かれた調剤室のテーブル、試験管の中の液体を片手に、別の液体の入ったフラスコを手に取る彼女は・・・──

『まだ。私が見届ける時じゃないさ』

 試験管の中の液体を入れると変色したフラスコの液体をジッと観察しながら、こちらを振り返ることなくそう呟いた。

『あの言葉の意味は一体・・・』

 彼女を誘うため、今朝に森の木陰の薬屋を訪れたヴィンセントは彼女の呟いた言葉の意味を一人、考え込む。

──そして。

「いってらっしゃい」
「「いってきます」」

 リアムとレイアは、後ろから聞こえてきた「いってらっしゃい」に「いってきます」を返し、ギルドカードを右手に境界線を越え──

「それじゃあ私たちもいきましょうか」
「ボクたちは一応只側で見守ってるだけだけど」
「フフ。もし仮面(あいつ)が出てきたら私とバルサがボコボコにして火達磨にしてやるわ」
「こえぇよアイナ・・・ま、私もレイアだけは何をしても死守するけどな」
「よしッ! それじゃあ俺たちも行くぞ!」

 その後に、頼もしく大きい背中が5つ──

「「いってきます!」」

 振り返ってウィンク、微笑み、凛として、嗤うように・・・そしてとことん純粋な表情を見せると、2つの小さな背中を追って境界線を次々と、超えていく──。

「来たッ!」

 エリシアが叫ぶ。映像が景色を映すと同時に、そこに現れたのは──

「「リアム!」」

 彼女らのパーティーのリーダーであるリアム。

「「レイア・・・」」

 ウォルターとラナの妹にして、今日戦うもう一人のメンバー。

「おいあれってまさか──」
「嘘だろ? なあ嘘だと言ってくれよ!」
「ハハ・・・頬いてえ。現実だ・・・」

 だが、それに加えてもう一つ──

「間違いない!ノーフォーク最強の冒険者パーティー、アリアだ!」

 アリアの登場に、ワッと沸く会場。

「アリアって? たしかリトルウルフが組んでいたパーティーの名前じゃなかったっけ・・・ほら、リーダーのあいつが消息不明で今はアリエッタって名乗ってたが」
「馬鹿それは第2世代! あそこに映ってる5人は勝利はできなかったものの、未だ攻略者のいないテールの最終ボスのところまで初めて辿り着いて死闘を繰り広げた伝説のパーティーだ。まあそれも20年近くも前の話だから、お前らみたいな若い奴らが知らないのも無理はないが」
「仮に今のアリエッタがリーダーの復帰でアリアに戻るとしたら、初代アリアは既に解散済み、よって今映ってるアリアはリ・アリアってところだな」
 
 その会場の外まで響く異様な盛り上がりを聞いた新たな観客達が、次々と会場に入場してくる。

「ややこしすぎて完璧に全て把握はできてないけど・・・とにかく、おっさんのネーミングセンスが悪いことだけはわかったよ」
「うっせぇ!」

 1年前に死亡説さえ出ていたリトルウルフの復活と、十数年前にこの街を湧かせた伝説のパーティーの復活だ。

「さぁて。今頃会場はどうなってると思う?」
「たぶん大騒ぎでしょうね」
「でも私たちで、じゃないわよ」
「そうだね。そしてこれからもっと──」
「あたりまえだ。あいつは2ヶ月とはいえ、私が鍛えたんだからな」

 いつか見た川原。対岸を前に、5人の大人達が凛と立ち構えていた。だが──

「はぁ・・・はぁ・・・!」

 そんな彼らの更に川の側。リアムは震え始める体を抑えるために、震える右腕を、また震える左手で押さえていた。

『体が震える・・・力が抜けていく・・・』

 突如として、甦ってくる忌むべき記憶。止まない震え──。

『・・・血が・・・抜けていく』

 頭では理解していても、体が覚えている記憶が、彼をパニックに陥らせていた。

「リアム!」

 が、次の瞬間──!

「大丈夫!もしリアムが傷ついたら私が完璧に治してあげるから!」

 怖さに怯える彼の隣に立つ少女が、手に握る大杖をギュッと握り大声を上げる。

「それに私だって怖いんだよ? 1年前、私はリアムを治して上げることもできずにただ何が起きたのかわからないままリヴァイブに還された」

 リアムを勇気づけるため、レイアが叫ぶ。その小さな体を震わせて、力いっぱいに、無力だったあの日の自分たちに立ち向かう糧とするべく。

「それから私も怖かったんだよ? この1年間、もしリアムが目を覚まさなかったらどうしようって!」

 本当はリアムには知られたくなかったレイアの動機。

「私がこの勝負を全力でサポートする! たとえすり傷でも風穴のように大きな穴が空けられようとも、できた傷は痣も残さず綺麗に治してみせる! だから──」

 隠しておきたかった。さもなければ、優しい彼ならばきっと「違う」と慰めてくれると思ったから。

「だから・・・」

 しかし今のリアムはどうだろうか。一人恐怖に怯え震えている。・・・まるで、一人で戦場に立っているかのように絶望を抱えて。

「だからお願い。勝って──」

 だから今、一人で抱えてしまえない恐怖をなんとか押し込めようと震えるリアムに気づいてもらわなければならない。彼が私のことを負い目と思おうとも構わない。私も一緒にその気持ちを抱え支えてあげたい。だから──

「一緒に、アリアに帰ろう」

 だからレイアは笑ってリアムに手を指し伸べる。そして心から懇願し、切望する。

「・・・!」

 リアムは気付く。そのレイアが笑みの裏に隠したモノを写すように、己の中蔓延する今までただ圧縮して隅に追いやって見て見ぬ振りをしていただけの感情に。

「リアム?」

 リアムは立つ。レイアが差しのばした手を取らずに、静かにゆっくりと。

「レイアは・・・」

 そして気付く。今回なぜ、リアムが魔法の力を取り戻すべく挑むこの戦いに彼女が参加をしたのか。

『Are you Ready?』

 ・・・見える。今、自分が対峙しなければならない脅威が。

「違う。今ボクが戦うべきなのは──」

──ズゥン・・・ズン!

 スッと落ち着いて明瞭になった感覚が森の木々が揺れを感じとる。対岸の川の更に向こう側。止まることはないとわかるソレが、地面を揺らし水面をざわつかせる。

「ハハ・・・ビリビリくるや」

 そして空気が震える。まるでリアムの震えを──

「ありがとうレイア。こんなボクのために」

 加速させるように。

「だけどさ。その手はボクには取れないや。ゴメンね」

 しかしリアムはにっこりと笑みを浮かべて前を向く。みれば震えはそう気にならないほどまでに落ち着いていた。

「そして。その誘いをこの場でしなくちゃいけないヤツは──」

 あの日迷惑を持ち込んでしまったのは自分だ。レイアは治すことができなかった自分に責任があると責めていたが、それは違うのだ。

「あの日。ここから只レイアの手を煩わせた挙句、眺めていることしかできていなかった・・・」

 ボクはレイアに重荷を背負わせてしまった。そして今、その彼女が勝ってほしいと言う。償うチャンスをくれている。

「──自分だ」

 だから、勝ってボクが彼女に手を差し伸ばす。あの日置いてきてしまったモノを取り戻して──

「ブオォォォォォォ!!!」
「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」

 一緒に、──帰るために。

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