アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

180 狼の雛

──2日目。

『大丈夫・・・きっと本当に危なくなったら・・・』
『. 。zZZ』
「ちょっとー!」
『ああすまんすまん。空を眺めていたらウトウトと・・・』

──5日目。

「一つの頭を避けたら首の下からもう一つの頭がある方にあえて突っ込んで──」
「シャーッ!」
「2撃目を真正面に捉えたら外か内にさらに大きく体を逸らす」
『おいおいマジかよ・・・だがその一手は──』
「よし、ついに頭一つ──」
 リアムの刃が、2撃目を放ってきた首をすれ違いざまに切り落と──
『頭上注意』
「えっ・・・ぎゃー 落石ー!」
『たまたま怯んだが愚策。初撃を繰り出した首のインターバル次第では既に持ち直していてもおかしくない』

──10日目。

「イタタ・・・ふぅー」
「もうボクが手伝わなくても手当てするのも慣れっこになっちゃったね」
「それよりさエド。また獲れちゃったよ極彩鳥」
「生け捕りだと1匹大銀貨5枚はくだらない珍しい鳥なのに・・・」
「いやーなんかこいつがいると毎回獲れるんだよな」

──15日目。

「ほら、歩いてください」
「・・・せめて一枚毛皮をくれないかい」
「あれ・・・あの後ろ姿・・・気のせい」
「シャーッ!」
「かッ──!」

──20日目。

「やった。本当に頭一つ落ちた。あとは──」
『日焼け注意』
「はっ・・・って雨じゃん!この量はやばいって!」

──1ヶ月後。

「はぁ・・・はぁ・・・やっと、倒せた・・・」

 ついに、リアムはツインヘッドスネークの双頭を切り落とし絶命させた。もう上から石もモンスターも光の雨も降ってこない。あとこの修行が始まって半分くらいが経った頃、見覚えのある二人がコルトの山の方へ向かう後ろ姿が見えたような見えなかったような・・・気もするが、まあいっか。

「マジか・・・思ったより数倍早かったな・・・」

 元々リゲスに鍛えられていたというだけあって、基本の動きは初めからできていた。であれば、あとは魔法がないという恐怖に打ち勝って堂々と剣を振る。その過程でしなやかで衝撃にも負けない上質な筋肉が育てば──

「斬るときにしっかり手首を締める基本はもちろん、ウロコの隙間から切っ先を入れるときは繊維に沿って縦に・・・あとは翻す要領で断ち切るように肉を断ち斬りやがった・・・」

 正攻法なフォームと不規則な攻撃に対するアグレッシブな動きによる回避かカウンターの2刀流。リアムの成長はカミラの想像をはるかに超えていた。蛇の双頭の攻撃をしっかりと見極めて避けるだけではなく、攻撃するときにもそんな小技を駆使して見事に勝ってみせた。そして──

「はぁ・・・あっ」

──2ヶ月後。

「本当に、刀一本で辿り着きやがった」

 峡谷の入り口の反対側、頂上と谷底が合流し交わる場所。そして──

「コルトの麓、エリアGの入り口・・・そしてここがエリアFのセーフポイント」

 リアムは刀を杖に、ようやくたどり着いた目の前にそびえ立つ山を見上げて──

「女の・・・子?」
 
・・・倒れこむ。
 なぜリアムがここまで早く急成長を遂げたのか。それは彼の前世の知識にあった。この世界ではまだまだ育っていない医学。それは回復魔法という裏技があるせいで、余計に発展が遅れていた。
 力の速筋、持久力の遅筋のどちらを育てるかによって変えなければならない運動強度と時間、回数。それらをリアムは蛇との戦いの中で地味に実践を繰り返し、足りない分を補うように筋繊維の破壊と超回復が間に合う程度の運動量を心がけて毎日の戦いと秘密のトレーニングで補完していた。またこれには、魔法は使えない分エドガーからもらっていたポーションの効果が大きく、特に疲労管理がほとんど必要なかったことが急成長の要因としてあったのだが──

「1ヶ月で蛇を仕留めたセンス。2ヶ月でさらに数体のモンスターと戦いここまで辿り着いたスタミナ」

──ゾクッ。

 リアムの急成長の理由はそんな理論の枠に当てはまるものだけではなかった。カミラが感じた震えの正体が、それを雄弁に語っている。

「ちくしょー・・・負けず嫌いめ。さすがはあいつの息子と言っていいのか・・・ムカつくな・・・」

 崖の上から飛び降りることもなく、ついにただ地面と平行に歩くだけでリアムの隣に立ったカミラがポツリと零す。

「カミラさん」

 すると、カミラとリアムの元へ近づいてくる小さな影が。

「ボス戦ですか?」
「違うヨンカ。すまないこいつは私の連れだ」

「ボス戦ですか?」と、カミラに話しかけてきたヨンカと呼ばれた女の子。リアムやエリシア達よりかは年上らしい体つきであったが、ミカやラナよりかは明らかに年下とわかる大きさの少女。

「そうですか。ならばキャンプの方で休まれては?」
「ああ、そうさせてもらうよ」

 カミラはヨンカに提案された通り、しばらくここまで頑張ったリアムを休ませるべく、エリアF、そしてエリアG手前の最後のセーフポイントで休憩を取ることにする。
 この場所からコルトを見上げると、昔の傷が疼く。ここから先、あの山のデッドラインにあるボス戦場まではセーフポイントも・・・──

「んーあれって赤薔薇じゃないか?」
「そうだな。で、あの脇に抱えてんのは最近噂の絶えないリトルウルフか?」

 すると、あまりの苦行の疲労と緊張感の途切れのせいで眠ってしまったリアムを抱えてキャンプに入ると、昼間から酒をあおっている冒険者共が──

「おーいカミラ! どうしたんだこんなところまで来て!」
「まさか昔のリベンジでもしに来たのかー?」
「バカ言え。リベンジだったらこんなひよガキじゃなくてアリアのフルメンバー引き連れてくるさ」

 酒に酔った冒険者達の戯言に、サラッと冷めた対応をとるカミラ。

「ハッハッハ。そりゃそうか。で、なんでリトルウルフを連れてんだ?」
「わかったデートだろ? うひゃーまさかカミラにそんな趣味があったとは・・・」
「ふざけたこと言ってるとぶっ殺すぞ。こいつはな、私の弟子で今峡谷をこの刀一本で踏破したところさ」

 そして──

「嘘だろ・・・」
「全く冗談きついぜカミラは。ガキがそんなほっそい剣であの谷を抜けられるわけねぇだろ」

 冒険者達は、それは嘘だと冗談だと笑って流す。そんなことがあるはずがない。このエリアのボスを倒した自分たちでもそれは難しいのだから。
 するとこれにはカミラも──

「お前らみたいに昼間から酒飲んでる碌でなしと一緒にするんじゃねぇよ」

 最初はただ因縁ならぬ腐れ縁のあいつの息子というだけで敬遠していた。理由はなんか癪に触るから。そんな単純な理由で敵視していたのだが──

「そんなきついこと言うなよカミラ。ジョークだろジョーク。それに・・・」
「この先は酒でも飲まなきゃやってらんねぇんだ」

 が、カミラの熱はそんな覇気のない冒険者達の言い訳によって冷めていく。

「ケッ。だからいつまでたっても2流なんだよ」

 呆れたように悪態をつきながらも、澄まし顔で冒険者達の体たらくとだらしのなさを指摘するカミラ。

「だがお前らだって、まだここのボスは倒せてないだろ?」

 しかし冒険者達もまた、エリアG、テール最後のボスを倒せていないカミラにそれは言われたくないと反論する。

「あの天下のアリア様だってクリアできなかったんだ。なら俺たちはここで酒でも飲みながら他の雑魚達を狩っているのがお似合いなのさ〜」
「雑魚ってったって、みんな上級ボス級だけどなハハ」

 酒の入った盃を掲げて酔いどれる情けない姿。

「お前らは一生そこで、志の低い夢を見ているがいいさ」

 カミラはそんな彼らを蔑んだ目で見下す。

「俺たちの夢が志低いだと・・・ならお前らが制覇してみせろよ! あの頂をな!」
「おいおい無理さ。所詮アリアの牙はもう折れてる。ああやって雛を育てる親鳥をやってる方が性に合ってる奴らなんだからさ」

 再び、カミラ・・・ではなくアリアを引き合いに出してバカにする冒険者達。彼らは怖かったのだ。面と向かって彼女を非難することが。だから── 

「・・・子育てに躍起になってる親鳥結構! 私は自分の子供達をこの上なく愛してるからな!」
「「ヒィッ!?」」

 それに、まさかこの数相手に噛みつく事もないと冒険者たちが侮っていた矢先──

「だが・・・」

 カミラは大切な仲間たちを侮辱され、ほんの一瞬だけ頭に血を上らせる。しかし──
 
「雛鳥は雛鳥でも、この灰かぶりの狼から預かった雛はいつか王を気取った虎狼を殺す・・・竜になるかもな」

 彼女はその赤く美しい髪を揺らし眉間に僅かな皺を作ると、リアムを抱えるその腕を僅かに震わせて、捨て台詞に期待交じりの愛憎を零して来た道へと戻り去っていく。
 

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