アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

175 カミラ

「そうか。そんな後遺症が・・・」

 エドガーは、突然研究所を訪れてきたリアムの話を聞く。みれば、彼の右手には怪しく夜の光だけを照らす大人の手ではすっぽりと覆えるくらいの石がギュッと握られていた。だが──

「うーん・・・でもちょっと今は・・・」
「なにか問題がありますか? こんな夜分遅くに訪ねてきておいて不躾ですが、ボクにできることならなんでもしますから・・・」
「リアムくん。ボクにそっちの趣味はないけど、夜を迎える前になんでもするとかは言わない方がいい・・・特に男のエルフの前では」

 特に深い意味はないが、これは人生の先輩からのアドバイスだよ・・・と、先に今の発言について言及し、リアムによーく言って聞かせるエドガー。

「それにね、今はちょっと・・・」

 そして数秒後、リアムの言動の本当の意味を拾ったエドガーは、遠回しに申し出を断った上で受け入れを──

「やっぱり、いけませんでしたか?」
「ああ待ってくれリアムくん! 別にボクが悩んでいるのは
「いや、リアムくんがまずいと言うか危険というか・・・」

 拒否する。すると──

「おーい! エド、買い置きのミルクってどこあった・・・」

 研究所の中から、とある女性の声が──

「ヤバイ!? えぇっと隠れらる場所隠れるば・・・」

 それを聞いたエドガーが急に慌ててリアムを隠そうとあたりを見渡す。しかし──

「け・・・」
「しょ・・・」

 次の瞬間──!

「オラァくたばれー! ウィルの息子ぉー!」
「うわぁぁぁ!」
「カミラストーップ!」

 目が合った瞬間、エドガーを探して外に出てきたバスタオル姿の女性が、玄関に寄りかからせて合った剣を手にとって間合いを詰めてくる。

「クッ・・・」

 一瞬の入れ替わりのうちに亜空間から取り出した刀で、リアムはその刃を受け止める。

「って!なんで突然斬りかかってくるの!?」
「ケッ! ヤり損ねたか」
「カミラ危ないよ!」
「あ? こんくらい大丈夫だろう? ただの挨拶さッハッハ!」

 エドガーの言葉に、「冗談さ冗談!」と高々に笑って今の強襲を水に流そうとするカミラ。

『いや斬りかかるスピードがマジだったんですけど・・・それに』

 それにしても・・・なんか入れ替わりにかなり慣れてきてらっしゃらないですか、イデアさん?

「んで、なんでこいつがここにいるんだ?」
「いやそれがさ。いま彼、精神的な問題で魔法が使えないんだって」
「はぁ!?」

 それから、剣を鞘にしまいポンポンとそれで肩を叩きながら、リアムに斬りかかってきた女性はエドガーから事情を聞く。

「なるほどな・・・1年前のボス戦とその後の仮面との戦いのトラウマのせいで魔力操作に障害を起こしてるから魔法が使えない・・・か」

 そして──

「ニシッ! そいつはイイや! ざまぁないぜ!」
「カミラ!」
「・・・んだよエド。ちょっとしたジョークだろ? そんなに怒っちゃいやーん!」

 エドにカミラと呼ばれた赤い髪の女はリアムをザマァと笑い、エドに怒られると甘い声を出してぶりっ子する。

「カミラ・・・ということはもしかしてあなたが・・・」
「おいガキが! しっかりとさんを付けろっての」
「ははは・・・まあリアムくんは昨日初めてだったボクと同じように、彼女に会うのは今日が初めてだよね」

 エドガーが、カミラの隣に立って彼女の紹介をする。

「紹介するよ。ボクの妻のカミラ。君のお父さんとお母さん、リゲスにボクとパーティーを組んでいたアリアの最後のメンバーで、そしてレイアたちの母親でもある」
「やだぁエドったら。妻っていうよりお嫁さんとかの方が可愛くていいな・・・な゛!」
「・・・はい。カミラさんにはお嫁さんの方が似合っているかと・・・」

 ・・・ガラわるぅ!

「おい今、ガラ悪いとか思ったろ」
「いえ、そんなことはないです・・・はい」

 お嫁さんというニュアンスを強要してきたカミラに対し、ダダ漏れの心を読まれて萎縮するリアム。

 ・
 ・
 ・

 それから──

「ということで、おそらくその傷っていうのが・・・」
「ボケて魔力の使い方ミスって魔法が怖くなるー・・・とかは聞くがな」
「そんなバカみたいな話と一緒にしちゃダメだよカミラ。リアムくんの場合は全然毛色が違うんだから」

 服に着替えカッカッカと笑うカミラに対し、エドガーが優しく叱る。しかしエドガーの言う毛色が違うというのはあながち間違いではなく、事実、他の魔法イップスにかかった人とはまた、リアムの場合少し毛色が違っていた。

 この世界にも精神的な問題を抱えるということはよくある話で、生活に支障をきたす問題、そうではない些細な問題、何れにしてもそれが生物としてある意味正常なリアクションであることに変わりはなかった。よって、とある失敗や精神的な問題により一時的に魔法が使えなくなったり、使うことが怖くなってという話も、あるにはあるのだ。
 しかしリアムの場合は、そのどれとも微妙に毛色が違っていた。
 魔法という空想概念はあっても現実には使えることはなく、いや、もしかしたら一般認知されずに普及していなかっただけで、本当に使える人間もごくわずかにいたのかもしれないのだが・・・

『失う怖さ・・・か』

 元々、魔法が使えることが一般的ではなかった世界の記憶を持つリアムからしてみれば、彼は普段から自分の異質性、特異性に疑問を持つことは普通で、なんの問題もなく表ではそれを使って見せるものの、その裏ではもしかしたら突然・・・という恐怖があったことは実は否定できない。
 そんな、心の弱さにあのボス戦で魔法が突然使えないという不意打ち、そして再び死にかけるという臨死の追い討ちが、彼の気づかない心の奥底に棘となって刺さっていた。
 
「なにか・・・いい治療法はないでしょうか」

 リアムは縋る。この1年、自分の体を医者として診ていてくれたエドガーに、良い治療法はないかと。すると──

「わかるよその気持ち。ボクも昔、同じような経験をしたことがある」

 意外にも、同じように魔法を使えなくなった経験があるというエドガーがリアムに共感する。

「理由はまた全然違うんだけどね。それで、同じような経験をしたボクから言えることはやっぱり・・・克服、かな」

 そして、その解決法も彼は知っていた。

「リアムくんの場合は、例えば再戦。一番効果の見出だせる可能性として、エリアCのボス戦にもう一度挑むこと・・・だと思う」

 普通・・・といえば普通だが、やはり地道にやるしかない。勝つしかない。

『分かっていた・・・分かっていたけど!』

 リアムは心の中で悔恨を唱える。頭の中ではもう、とっくに分かっていた。しかし、自分でそれを認めることが・・・──

「怖いかい?」

 エドガーが、震えるリアムの肩に手を置く。

「・・・はい」

 しかし彼らは知らない。その実、仮面にボコボコにされたことは映像から推測することができて知っていても、リアムは意識あるうちに肺を潰され、挙句に両腕を一度仮面に奪われていることを。

「イデア・・・水を一杯出してくれない?」

 いつの間にか乾いてしまっている唇。

「はい」

 体が震え、どうやって自分の体を支えていたのか、支えているのかが曖昧にわからなくなる。

「ありがとう。失礼します・・・」

 リアムはエドガーたちに断って、イデアが魔法でコップに出した水を飲む。冷たい感覚が喉から食道を通って胃に到達し、確かに自分の芯が、存在がそこにあるのだと擬似錯覚させてくれる。

「へぇ・・・イデアを介せば魔法は使えるんだな」

 すると、その一連の様子を見ていたカミラが呟く。

「他にも、ステータスの魔石のような魔法鍵だけで起動するオート系の魔法陣が組み込まれた魔道具や魔石なら使えるみたいです」

 そして徐々に落ち着きを取り戻し、体の震えが止まったリアムがカミラの疑問に答える。しかし──

「じゃあ別に、お前が魔法を使えなくてもいいんじゃねぇの?」

 カミラの口から、何気なく出てきたその一言。

「いや、ダメだ・・・」

 その一言が──

「あぁん?」
「それじゃあダメなんです!」

 落ち着きを取り戻したリアムの心に火を付ける。

「どうして?」

 カミラが、間髪入れずに問いかける。

「・・・目が覚めて次の日の今日、ボクはスクールでその眠っていた1年間、代理として通っていたイデアが僕自身だったことを暴露されました」

 たった2日にも満たない時間の出来事。

「正直、ボクを応援してくれる人たちもいたけど、イデアの人気もすごかった」

 しかしこれまでの人生の中で、こんなに濃密でたくさんの辛い経験が押し寄せてきたのは、初めてだったかもしれない。

「それじゃあボクの存在意義は? イデアはいちスキル、でもボク以上に魔法の才能があって万能。人気もあって・・・ 」

 リアムは今日の出来事を早送りするように思い出していく。その中のスクールでの一幕、自らの前で2つに割れた集団が言い争っている姿がこびりついて次に行かない。

「・・・自分がなくなるのが怖いか?」

 カミラからの当然のような質問。

「怖いですよ! 」

 怖い。リアムは不安定な感情で、しかし一心不乱に答える。

「怖いですよ・・・だってその先に待ってるのは──」

 だってボクが起きた時、みんなは知らなかった。あの時ボクの両腕が仮面に消されたこと。その後、深く沈むのが怖い暗い海の中に意識が完全に溺れそうになっていたこと──

「その先に待っているのは・・・──孤独だ」

”『こいつの魂がこの星の輪廻にのってる? ふざけるなどうせ──の代わりにこいつの魂を枷にして、俺を次元の狭間にまた閉じ込める気だったんだろ?』”

 暗闇の中で聞いたボクの中のもう一人の誰かが喋っていたことも、知らなかったのだから。

「あっははははは! こいつは傑作だ!」

 だが──

「笑い事じゃないですよ! ボクにとっては生きる意味にも等しい問題なんですから!」
「いや、悪い悪かったって!たださ、なんか昔同じような奴を見たな・・・と」

 悲観、理不尽を呪うようにを語った少年の言葉をカミラは──

「もっと正確に言えば、同じように有り余る幸せを素直に受け入れられず、自分が不幸だと悲観するつまらない目をした男を、だ」

 笑った。

「しかしどうしたものか・・・その眼は別に死んでるわけじゃあないんだよなぁ」

 そして語る。

「ちょっとは気に入ったよ。お前はちゃんとその苦しみを知っている。これでいいと甘えた慢心をしない。そしてただ逃げるんじゃない・・・立ち向かっているんだろう」

 リアムの心の葛藤を暴き、戦っているのだという真実を。

「私の知るその眼をするヤツは──」
 
 語る。

「静かに泥沼の中で獲物が来るのを待ち仕留めようとするしぶとい野犬。どんなに美しいその毛が汚れようとも、熱を奪われ体が冷えようとも・・・ただただ静かにその時を待って耐え忍ぶ」

 彼女の知る、もう一人の今のリアムと似たような眼をしていた誰かのことを。

「私・・・ましてや他の奴らからしたらイデアの力は喉から手が出るほど欲しいものだろう。そしてそれさえあればと、手にすれば一体どれだけの人間が己の力に陶酔するか」

 語る。

「しかしお前はそんな大層な力を持っていても傲ることはなく、自分の存在に対し疑問を投げかけ生きようともがく」

 曰く、自分が同じ立場にいたらもがくことをしようとするかもわからない。

「私はどこまでいってもその生を掴もうとする強欲さ、貪欲さは嫌いじゃない。むしろ大好物だ」

 そして叩く。少し曲がっていたリアムの背中をバシバシと。

「イタイ! イタイですって!」
「あ、でも気に入ったって言っても本当にちょっとだぞ? お前の場合あいつの息子ということとプラスマイナスすればようやく0.1くらいのプラスだからな」

 それから宣言する。

「だからレイアとの仲を決して認めるわけじゃないからな!手を出そうとしたらぶっ殺す!」

 全くもってどこからそんな話が出てきたのかと、先ほどまで人生のどん底だと沈んでいたリアムが呆れてため息を吐くほどに。

「はぁ・・・そんな事実は一切ありませんから。レイアはボクにとって大切なただの幼馴染です」

 手を出すも何も彼女は大切な同い年の友達、幼馴染なのだから。それにリアムにはエリシアという既に結婚を約束した彼女(ヒト)がいる。

「その言葉、忘れるなよ」

 そのリアムの言葉を聞いたカミラは、ビシッとリアムの顔を指差してダメ押しする。しかし──

「で、ところでだ・・・」

 蛇足ついでに、カミラの話はあと少しだけ続く。

「はい?」

 リアムは首を傾げて相槌をうつ。

「今日は確か、ウィル達がお前の快復を祝ってパーティーをすると計画していたんだが・・・」
「えっ?」
「そうか。リアムくんには内緒で進めるって言ってたから、君は知らずにここに来てしまったわけか・・・」

 ・・・・・・え?

「確か場所は居酒屋 ”神楽”。お前とアオイの共同名義の店だろ?」

 でも店に出す料理のレシピなんかはノートにまとめていたけどまだ途中・・・まさか──

「イデア」
「はい。マスターの憶測通り、私が残りのレシピを記憶から補完し完成させました。ちなみに店の名前は神楽鈴、鈴屋にかけてなにかないかと模索した結果これに落ち着きました」

 ・・・神も仏も無いのか。いや、元々あともう少しで開店と、アオイたちと着実に裏で計画を進めていたのである。であれば、イデアに感謝こそすれど、非難するのは違うか・・・どんな店になったのかだけが気がかりだけど。

「ちょうどいい!」

 すると、リアムが頭の中でそんなことを考えていると──

「今日はさ、お前が主役ってんでイラっとして殴ったらいけねぇなと思ってたから」
「・・・はい?」
「出席を自粛したんだが、こうして話してみれば何の問題もなかったし、私たちも参加するかエド」

 カミラが、今からでも自分たちも参加しようと嬉々として提案する。・・・いや、なんか殴るとかなんとか聞こえたんですけど・・・というか! さっきあなた思いっきし出会い頭に剣でボクを切ろうとしてましたよね!?

「・・・けど、今からじゃ間に合うかな?」
「大丈夫だって。イデアがいるじゃん。てことでさ、パパァーっと私たちも転送して、パパァーっと終わったら一緒にここに帰ってこようぜ?」

 エドガーの懸念を、早々に払拭していくカミラ。それにして──

「・・・一緒に?」

 行くのは一緒、だが帰りも一緒とは──

「おう。だってお前、でエリアCボスのオークたちに挑むんだろ? だったら私が稽古つけてやるよ」
「それはいい考えだねカミラ。ボクも、この1年間君の看病をしていた身としてしっかりと行方を見届けたいし・・・どうかな、リアムくん?」

 リアムの疑問を聞いたカミラが、当然のようにして答える。そしてまさかカミラから出たその素晴らしい提案に、エドガーも賛同するのだが──

「それは願っても無い申し出で、とても嬉しいお誘いなんですけど・・・」
「なんだ? なんか煮えきらねぇな?」

 ここでイマイチ、リアムの気がのってはこなかった。

「あの、今までボクは、剣・・・刀はリゲスさんに習っていたんです。だから・・・」
「あーあー気にすんなってそんなこと! 何なら今日リゲスも来るって聞いてたからさ、サッと許可もらっちまえばいいよ」

 が──

「あいつはたしかに色んな武器を使うのに長けてるが、剣一本の腕に関しては断然私の方が上だ!」
「そうだね。リゲスは元々みんなを守る壁役(タンク)、そしてカミラは──」

 そのリアムの懸念は、すぐに2人に背中を押される形で限りなく小さなものとなる。

「おう! アリアの前衛が魔法剣士(アタッカー)、剣狼と双璧をなした赤薔薇のカミラといえば私のことだ!」

 そしてカミラは盛大に見栄を切る。これには──

『まさかリゲスさんがタンクだったなんて・・・もし、アタッカーのカミラさんが剣を教えてくれるとなれば・・・』

 リアムの心に、希望が芽生える。もしかしたら剣、刀一本でも、オークの群と戦うことができるようになるかもしれない、と。だが──

「むふふ。これで堂々と表だってウィルの息子をいじめる口実が・・・」
「はぁ・・・カミラってばまったく」

 やっぱり訂正。その裏でこっそりと笑っているつもりのカミラの心の声がダダ漏れだ・・・先行きが不安です。

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