アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

171 判決 被告ルキウス・エンゲルスを──

「これだったら、ボクが教えなくてももう大丈夫じゃないかな」
「えっ?」

 とあるお城の1室で──。

「ボクもさ、申し訳ないけどちょっと今自分のことで手一杯で・・・」
「ちょ・・・」

 待って。

「だから、これからはミリア自身でスキルを磨いていってよ」

 リアムはそういうと、クルリとミリアに背中を見せ── 

「公爵様たちにも、そう伝えておくから」

 この部屋を、後にしようとする。

「まっ・・・」

 待ちなさいよ。

「リア・・・」

 だれのために私が1年ここまで努力したと思ってんのよ・・・──

「ム」

 
 ・
 ・
 ・


「ちょっと待ちなさいよ!ガルルルル」
「えっ?」
 
 次の瞬間──

「ガブリ」
「ぎゃー! 痛い痛い痛い!」

 部屋を出て行こうとしたリアムに背後から飛びついたミリアが、彼の首筋に躊躇なく噛み付く。

「ミリアが獣化したー!」

 リアムは必死に突然噛み付いてきた彼女を剥がそうとするが──

「リアム、獣化はこういう」

 それを隣で見ていたティナが、獣化と聞いて自らの体を獣化させてボケる。

「ティナ! 今はボケてなくていいから助けて!」

 静かで窓から差し込む陽の光がピアノを照らす美しい部屋で、なんとも場違いな音が鳴る。1年ぶりのミリアも、変わらずお転婆である。



「まあまあ落ち着いて!ボクも純粋な悪気だけがあってあんなことをしたんじゃないんだよ!」

 集会後、学長室にてルキウスが今にも殴りかかりそうなアランに必死に弁明する。

「じゃあ何の意味があってあんなことをしたというんですか?」

 同じ部屋で、あの騒ぎのせいで自分の教室にも帰れなかったリアムが満面の笑みを浮かべて尋ねる。

「あははは。目が笑ってないよリアムくん」

 だが、その細められた目の奥ではルキウスの指摘した通りに、フツフツと静かに煮える怒りが見て取れた。

「だってそうでしょう! あんな悪ふざけ流石にタチが悪すぎる! やっていいことと悪いことがあるって昔習わなかったんですか!」

 リアムが怒る。だが──

「いやーだってしょうがないじゃない。公爵様の命令だったんだから」

 ルキウスから告げられたのは、今回の事件のなんとも意外な黒幕の正体であった。

「公爵様・・・が?」
「そうさ。詳しいことは・・・それこそ今日、君は城に呼ばれているんだろう? だが僕から簡潔にその目的を告げておくと・・・」

 なんと、今回の件の黒幕はノーフォーク領領主にしてアウストラリア王国公爵──

「今日のアレの目的は、君が帰ってきたことを大々的に知らしめること。君の安否について情報規制をしてその指揮をとったのは公爵家だからね。理由は事実に基づく噂を流して混乱の再来を最小限に抑えるため・・・ということらしいけど?」

 ブラームス・テラ・ノーフォークその人であると。

「嘘だな」
「嘘ですね」

 が──

「本当!これは本当だって!」

 これを聞いたアラン、そしてリアムは話を鵜呑みにしようとはせず、圧倒的なルキウスへの不信感による否定から入る。

「では学長先生」
「なんだい?」

 リアムの尋ねに、ルキウスが応える。

「公爵様はですね。あんなサプライズをしてボクのことを周知させろと、そうご命令なされたのでしょうか」
「あれはね。ボクの独断。どうやってそれを実行するかは一任されていたから」

 すると、ルキウスの口から告げられたのは──

「へー・・・つまり先生は、ばらさなくてよいイデアのことまで面白半分に公開したと」

 リアムの中で怒りに燃える神経をさらに逆撫でする一言だった。だが──

「いや、イデアちゃんのことも周知させておくようにとのご命令だ。じゃないとあの時のコンテストで映像に映った少女は誰だったのかという論争が再燃するからね」

 突然に現れ、突然に消えてしまった少女。たしかに、ルキウスの言う通りあまりにも不自然な姿くらましは先ほどの対立を見ても、多少の問題を生みそうなものである。しかし、それならそれで謎で終わらせてしまえば・・・──

「つまりは、これからボクがイデアと頻繁に入れ替わらないといけない事態が起こると?」
「事態・・・というか主にダンジョン攻略にあたって・・・だろうけどね。いずれ君はテールの完全攻略を目指すんだろう?」
「それは・・・そのつもりですけど」

 今、リアムは魔法が使えない。さらに言えば、これから先ボス戦の難易度は極端にレベルが上がると聞く。であれば、もしかするとイデアと入れ替わってその力を借りなければならない事態もなきにしもあらずだ。

「じゃあ、今日この件についてボクに事前に説明がなかったのはどうしてでしょうか。アラン先生方にもお話しされていなかったようですが」
「ああ、聞いてないな」

 リアムの質問に、たしかにその通りだと肯定してみせるアラン。

「・・・どうしてですか?」

 その答えをもって追い風とし、リアムはルキウスを追い詰めていく。しかし──

「だって話したら渋るでしょう? それに、サプラーイズ! でやったほうが面白いじゃない」

 ルキウスはあまりにも・・・あまりにも場にそぐわない晴れやかな笑顔で答えた。

「アラン先生」
「なんだいリアムくん」
「是非、学長先生には大切なたいせーつな生徒を、無闇矢鱈に自分の趣向だけで危機に晒したということで、罰をお与えになって欲しいんですが」

 これには──

「ほう。して、なにか君が求める具体的な罰などはあるかい?」
「そうですね。3日間食料なしで雪山を雪中行軍なんてどうですか?・・・一人ですけど」
「えっ・・・」

 リアムとアランは2人して、学長地獄突き落とし計画を企画し始める。その内容は、ルキウスが一憂するほどかなり物騒だ。

「それはいい考えだ。だが、紛いなりにも彼はこのスクールの学長。3日間も仕事せずにとなると、機関としての機能が滞る」
「ほっ・・・」

 さすがに、リアムの口から出てきた制裁の重さが大きすぎたのか、アランのやり取りでルキウスは一喜する。

「そこでどうだろう! 行軍は取りやめて、その分5日間、雪山にイグルーでも作って執務三昧というのは! 道具や書類のやり取りは魔道具を使い、その魔力も全て学長持ちだ」

 が──

「ちょ、ちょっと待ってくれたまえアランくん! 流石の僕も、そんなことをしたらタダでは──」
「大丈夫です。私もお付き合いしますから、死の間際ギリギリまでしっかりと側で見定めさせていただきます」
「いや、君がついてくることが最もな罰・・・あ」
「決まりですね」

 季節はこれから休暇が始まるほど本格的な夏。しかし、エリアCボス戦の前にも見た通り、ダンジョンの中に入ればさらに深い部分に雪山もある。あそこで5日間の山籠もりともなれば、相当きついであろう。

「そんな! アラン先生までこんな碌でなしの罰に付き合わせるなんて!」
「碌でなし!?」
「気にするなリアムくん。これは良い機会なのだ。執務の気をそらす物も研究環境も、サボり仲間もいない! この碌でなしを酷使して隔離し仕事に専念させることで、十分な報酬の還元が期待できるのだよ」

 サボり仲間・・・それはおそらく、ノーフォークのギルド長ダリウスのことであろうか。

「わかりました。・・・ありがとうございますアラン先生。ではお言葉に甘えて・・・あっ!先生には後で雪山でもすぐにあったかで食べれる食事や、寒い中でも快適に過ごせる魔道具などを差し入れさせていただきますね」

 そうして、リアムはアランの言葉に甘えることとし、差し入れの提案を──

「ありが・・・」
「リアムくん! 是非私もその魔道具の差し入れを希望します! あなたのことですから、きっとオリジナルの魔法陣などが刻まれているのでしょう!?」

 しかし、礼を述べて快くリアムの提案を受け入れようとしたアランを差し置いて、その提案に逸早く食いついたのは、リアムの担任であり実は話の冒頭からずっと学長室にいたケイトだった。

『イデア。ケイト先生の魔法陣研究のお手伝いとかはしなかったの?』
『はい。魔力提供に関しては、魔力量強化の点からも無駄に保有する魔力の消費と、フランの負担軽減ができメリットが多くありました。しかし陣の生成助言は、私を所有するマスターの権利、いたずらで急激な文化発展の予防などと考慮して、そして何よりケイトへの研究者としての敬意を持って控えました』

 リアムは裏でこっそりイデアに確認をとる。しかしイデアはどうしてそこまでケイトに配慮を配ることが出来たのに、ルキウスとの契約とやらを結んだ時にもう少しリアムへの思いやりを組み込めなかったのか。

「リアムくん」
「なんですか?」
「ゴメンね、テヘ」
「今更遅いですよ」

 急に静かになったリアムに対し、ルキウスが最後の譲歩を求めるが、ソレは虚しく早々に却下される。

「とまあ、おふざけはこのくらいにしておいて・・・」
「おふざけでボクの罰決めちゃったの!?」
「それはお互い様です。ボクはもう城の方に向かわせてもらうことにします。なので──」

 そうして、リアムはルキウスを冷たく遇らうと──

「ケイト先生。エリシアとアルフレッドとフラジールに、伝言を頼めますか? ボクは用事で公爵城に行くので、よければみんなも後から来てくれ・・・と」
「魔道具・・・」
「じゃあ一つだけ」
「よっシャー! 任せておいてください!」

 教師が生徒にたかるというのもどういうことであろうかと、本気でこのスクールの教師たちが心配になってもくるが、アランもいるし、今回はこれで手打ちとしよう。それに決して、陣の生成の助言をするわけでも、丁寧にそれの解説をするわけでもない。彼女は純粋に研究対象としてソレを欲しているのだろう。

「行こう。ティナ」

 ちなみに、ティナはリアムの家族ということで、この後予想されるクラスメイトたちの質問攻めから非難するために、こうして教室には戻らずにリアムと行動を共にしていた。

「はい」

 そして、リアムとティナはこの絶望と希望渦巻くカオスな学長室を後にし、公爵城へと向かうのであった。

「よかったなフラン。予算外の経費で研究材料が増えるぞ」
「はい!ありがとうございますアラン先生!」

 と、実はもう一人、ケイトに引っ張られて連れてこられたフランが、山籠りに際して購入する空間系魔道具を経費(ルキウスの財布)で賄われることで、荒む前の自由に満たされた心をちょっぴり取り戻したことは、また棚ぼたのお話。

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