アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

165 送り火

──ザザッ

「なあそれ、本体じゃないだろ」
「さぁ、なんのことでしょう」

──ザ

「しらばっくれんな。お前達と最後に戦った時、お前はジジイだったろ。しゃべり方ももっとジジむさかったし、そんなどこぞの万能若執事みたいなしゃべり方じゃなかった」

──ザ

「それは、今の私の立場からほめ言葉として受け取っておきましょうか」

──zあ

「戦いの終わった今、私の仕事は世界のバランスを調整するとともに──様のお世話をすることですから」

──ザァァァァ※※※





「うわぁぁぁ!」

 月が真上を通り過ぎる真夜中。

「リアム!」
「なんだどうした!」

 突然の叫び声に、同じ屋根の下に住む者たちは慌てて廊下を走り、件の部屋へと急ぐ。

「はぁ・・・はぁ」

 そこには──

「熱い──!」

 両の手で背中に感じる熱さをどうにかしようと、自らを抱きしめるようにして苦しむリアムがいた。

「なにかあったの!?」
「リム坊?」

 そして、後に追いついた2人もまた、その光景を目撃する。

「鱗が瘴気を吸っている! まさかこの鱗、死の魔力を吸収しているのか!?」

 まさか──

「だけどこの1年、こんな症状は──」
「うぅぅぅ!」
「いけない! ウィル、アイナ! 彼をすぐ外へ──!」

 ・
 ・
 ・

「この、背中の硬いのはなに?」

 リアムの唐突な最後の質問。

「それはね。鱗だよ」

 すると、意外にもその答えはエドガーの口からすんなりと出てきた。

「おそらく竜鱗症なんだけど・・・」

 しかし──

「リアムくんはさ。竜にあったことはあるかい?」

 その答えとは裏腹に、話はそう簡単には終わらなかった。

「リアムくん。僕の声が聞こえるかい?」

 それは肩甲骨の中間あたり、僅か10cmほどの範囲に現れていた。

「・・・はい」

 激痛に耐えながらも、リアムは何とかエドガーの問いに応える。

「よし。だったら話は簡単だ。リアムくん。とにかくなんでもいいから、魔法を使って自分の中の魔力を吐き出すんだ」

 リアムに魔法を使って魔力を放出するように指示するエドガー。しかし──

「で、ない」
「えっ?」
「ま、ほうが、使え、ません」

 エドガーの問いには応えたリアムが、この時、魔法を使うことはなかった。

「こんなことって・・・」
「おいエド! 一体何が起きてるんだ!!」

 すると、その光景を隣で見たいたウィルがエドガーを問いただす。

「いや、その・・・」

 ありえない現実との直面にウィルの気迫。これには流石のエドガーも一瞬、たじろいでしまうのだが──

「たぶんだけど、あの鱗から吸収された死の魔力がリアムくんの中で浄化されて命の魔力として精製されているんだ・・・とても常識では考えられない量が・・・」

 スグに冷静さを取り戻して、ウィルの質問に答える。

「何でだ! リアムは死んだんじゃなくてボス戦をクリアしたはずだ! イデアちゃんが見せてくれたステータスにも、称号はあった!」

 ウィルが更に吠える。

「わかんないよ! だけどこの鱗だ! この鱗が外部のこのエリアの魔力を吸って、リアムくんの中の魔力バランスが崩れてる! だから──!」

 それに応じて、エドガーの口から告げられる一つの解決法、そのヒント。つまりは──

「今スグに、このエリアから出ればいいんだな」

 ここはエリアD。未知の不思議な魔力が満ちる認められた者たちしか入ることを許されない区域に建てられたログハウスの外。


 しかし──

「ア゙ルジ」「ヒメ゙サマ゙」「バガ アレ゙ハ ヒメ゙サマ゙ジャナクデ アル ジ」

 彼らの行く道は、このエリアに巣食う亡者達によって阻まれる。

「こんな時に──!」

 それにいち早く気づいたウィルは、リアムを急いでこのエリアから運び出そうと、臨戦態勢をとるが──

「なんだ・・・この数は」

 同時に、自分たちを囲むその亡者達の多さに躊躇する。すると──

「サガレ ニンゲン」

 そんな彼らを囲む亡者達の中から、一際異彩を放つ存在が一歩、前に出る。

「しゃべった・・・」

 エドガーが驚愕する。

「嘘だろ・・・」

 ウィルが現実を疑う。

「モンスターが喋りかけてくるなんて・・・」

 しかしその疑いはアイナの直面する現実への吐露によって、皆の中で現実であるという実感が構築されていく。

「バカモン! 今スグに突っ切ってでもリム坊をエリアの外に連れてきな!」

 すると、気付けするように放たれるマレーネの一喝。

「・・・モグリ! アイナ、いけるか?」
「久しぶりだけど・・・バルサ!」

 これには皆もたまらず動き出す。ウィルはアイナへ久方ぶりの戦闘の催促をしつつモグリの召喚、そしてアイナは契約精霊であるバルサを呼び出す。

「待って!」

 しかし──

「僕の中のもう一人が、助けたいなら待てと言っているんだ!」

 簡潔に、しかしウィルとアイナの出鼻を挫くには十分な一言をエドガーが叫んだのだ。

「「・・・!」」

 すると、出鼻を挫かれたアイナとウィルはしっかりと動きを止めたのだが──

「エドあなた!?」
「エドの中のもう一人ってことは・・・」

 同時に、信じられないような目で彼をみる。

「ニンゲン ソノカタヲ コチラニ」

 こちらに喋りかけてきたアンデッドが、エドガーが胸に抱えるリアムを要求する。

「おいエド!」
「待って!」

 ウィルとアイナが、目の前の光景に対し叫ぶ。すると──

「ウィル、アイナ。僕を信じて」

 一度サッと振り返りエドガーはそう告げると、一歩、また一歩とアンデットに近いていく。

「ソゴニ オケ」

 そして、一定までエドガーが近づくと、リアムをそこに置くように指定する。喋りかけてきたモンスターはドラウグル。知性を持ち、一説にはかなり貴重なレガシーを守っているというこのエリアDではかなりレアなアンデッドだ。

「・・・・・・」

 エドガーは苦しむリアムを、指定された通りの場所にソッと置いて後退する。ドラウグルの前に彼を寝かせたはいいものの、正直かのモンスターから漂ってくる悪臭は耐え難いものだった。すると──

「ワガタマシイニシュクフクノチカラヲ」

 ドラウグルが──

「「ワガミダマ゙ニ シュグフグノヂカラヺ」」

 アンデッド達が──

「ワレラヲカエスミチシルベヲ オアタエクダサイ」

「「ワレラヺガエスミチシルベヺ オアダエクダザイ」」

 祝詞の一節のように、誰かを崇める一節を輪唱していく。

「ワガタマシイハ ジョオウノモノ アナタサマヲマモルタテ」

 そして──

「ソシテワガタマシイハ イマ アルジヘトカエル」

 独唱。

「ソノチュウセイノアカシトシテ ムクイトシテ ドウカカレラニゴジヒヲ」

 すると──

「リアムの左目から──」
「緑の炎が──」
 
 彼らの中央に寝かされたリアムの左目からは、燃え盛る炎のように立ち上る緑色の光が。

「アルジ チカラ ワケテ」
「アリガトウ゛ アルジ」
「コレデ ミライニイゲル」
「ザヨウナラ アリガドウ」

 アンデット達がその光を求めてリアムに押し寄せていく。

「おいエド!」
「エド!」
 
 それを見たウィルとアイナは当然、リアムの安否をエドガーに問うのだが。

「大丈夫だよ2人とも。あれを見てよ」

 エドガーに促され、再び現実を直視する2人の目に映ったのは──

「サヨウナラ」「サヨウナラ」「サヨウナラ」・・・

 その光景は一見すれば生贄──。しかし──

「アンデッド達の放つ瘴気以上の命の魔力を放出している・・・あれなら」

 アンデッド達は決してリアムに触れようとはしなかった。崇めるように敬うように、さらには慈しむように、リアムの放つ光に影響されてか、体から蛍火のように安定した美しい光をその体から滲ませていた。
 また、影響を受けていたのはリアムも同じ。彼らが浄化されていくにあたって、激しく揺れていた光は安定した揺らぐ光へと変わっていく。


 やがて──

「ニンゲン アルジノウロコ キエタ」

 たった一体。この場に残ったドラウグルが、リアムの側で皆を呼ぶ。見れば、リアムの閉じられた左目から立ち上る光は湯船から立ち上る湯気のようにゆったりと揺らめくものと同等、後は消えゆくのみと予想できる安心感のあるものに変わっていた。

「コレヲ」

 そして、ドラウグルは自らの胸に手を突き刺すと──

「これは・・・」

 リアムやアンデッド達が放っていたものと同じ色の光を放つ魔石をエドガーに差し出す。

「ワガアルジニ」

 そして彼はそう言い残すと──

「・・・・・・」

 次の瞬間には、灰となって夜の森に吹く風に乗って去っていた。

「鑑定・・・」

 エドガーは、目の前からドラウグルが消えたことを確認すると──

 ドラウグルの魂:宝の番人であるドラウグルが守る宝は彼自身の命だった 彼は仲間のために戦い脅威に立ち向かう かの者が認めた主人のために生と死出の旅時の狭間の一生を使って 所有者:リアム

 その手に握る、彼から託された核を鑑定する。

「すごい!すごいや!」

 エドガーはそれを見て歓喜した。

「「リアム!」」
「どきな・・・」

 一方、すぐにリアムの元へと駆け寄ったウィルとアイナを退けて、マレーネがリアムの健康状態を診る。

「安定した呼吸、脈拍・・・そして、背にあったウロコが消えている」
「よかったぁ・・・」
「一先ずはいいんだよな!?」
「そうだね」

 マレーネの言葉に、ウィルとアイナが安堵する。しかし──

「こらエドガー! なにをボーッと石なんて眺めてるんだい!念の為今日はもうこのエリアから出た方がいい!」

 エドガーの反応だけは、マレーネの指摘した通り2人と違っていた。

「大丈夫だよ母さん。そんなに急がなくても」

 すると、エドガーはマレーネの言葉をはっきりと否定する。

「たしかに、今日リアムくんを家に帰してあげるのには賛成だけど・・・」

 そして、ゆっくりとした足取りでリアムに近づくと──

「彼にはこの子がついている」

 彼の左手に、ドラウグルから受け取った核を握らせる。

「おいエドガー・・・お前一体何を感じたんだ?」

 ウィルが尋ねる。

「感じる・・・そうだね。確かに最初は直感だった・・・けど」

 それに、エドガーはまるで見えない何かが見えているような錯覚を捉えながら答える。

「今はそれが確信に変わっている。目の前で起きた現象、またリアムくんを選んだ彼の存在が、それを肯定する証拠としてボクの想像を現実に引っ張っている」

 虚像が実像に。鏡像が現実に。

「混じってる。そう、リアムくんの中には、かの偉大なる恩方にまつわる何かが混じっているんだ」

 彼は頑として断言できるほどの確信を得て答える。

「・・・ボクの娘と同じように」

 大切な娘を例に出して。その眼光を緑色に鈍く光らせて。

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