アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

163 へびにらみ

「ゲイルくん。申し訳ないですが、私は手を引かせてもらいます」
「え?」
「あんな化け物相手にちょっかいを出していたら、命がいくつあっても足りない」

 突如始まった2回戦の映像の終幕を前に、大きいフードマントは後ずさりする。チラリと見えるその頬には、ツーっと一筋の汗が流れていた。

「どうしても彼に喧嘩を挑むというのであれば、魔王か竜でも引っ張ってきなさい」
「そんな無茶な!」

 そんな、無茶なことを言う大フードマントに抗議する小フードマント。

「いいんですか! 自分の商会を捨てて!」

 しかし──

「この地の我が商会などとっくに廃れたもの。今のソレはいわばカビの生えた既得権益です。命令で再興するために色々暗躍してきましたが、悪巧みも命あってのものですからね」

 その抗議も虚しく、大フードマントは体をクルリと翻し──

「今回の一件でおそらく公爵家が動くでしょう。予想以上の大事になりましたから」

 物騒な一言を呟く。そして──

「とにかく、私は一抜けさせてもらいます。さようなら!」
「せ、先生・・・」

 大は小を置いて、逃げるように去っていった。

「ここは・・・リヴァイ・・・ブ」

 一方、リアムは一人立っていた。だが──

「あ・・・れ」

 そのまま、崩れ落ちるように伏せ倒れる。

「・・・だれ?」
「チッ! やっとかよ」

 ここはどこだろうか。なんだか見覚えがあるような、ないような。

「これは残響だ。だから手短に用件を伝える」
「・・・・・・」

 目の前で誰かが喋っているが、会話の内容がしっかりとは頭に入ってこない。

「いいか、俺はあいつに勝てたんだ! 本当の体さえあればな!」
「あいつ?」

 あいつ・・・誰のことだろう。

「だが今となってはそれがどこにあるかわからねぇ・・・」

 顔の見えない君。だけど君が悔しがっていることだけは声色、口調からわかる。

「だからなぁ!お前は早く覚醒できる体を用意しろ! お前の貧弱な体を少し弄ったところであいつには勝てねぇ!」 

 君が叫ぶ。

「それか、また断魔剤でも飲んでケルビムの枷を解くんだな」

 黒く長い美しい髪が揺れる。そしてチラリとこちらを覗いたんだ。

「そうしたら、じっくりお前の体をいじってやるよ」

 影を落とした顔の黒の奥で、紅の2つの怪しい輝きが僕の命を縛りつけるように。

 ・
 ・
 ・

「・・・!」

 まぶしい。

「ここは・・・」

 朦朧とした意識の中、窓から差し込む光を受けて体をノソリと起こす。

「母さん?」

 体にかけられた布団の上で、両腕を枕にスヤスヤと寝息を立てるアイナがいた。どうやらここは、ベットの上らしい。

「ん・・・ンゥ」

 すると、アイナはリアムのつぶやきに反応するように呻き──

「ふぁぁ・・・あれ、リアム?」

 大きくあくびを一つすると、寝ぼけたようにリアムの顔をみて彼の名を呼ぶ。が──

「リアム!? ああリアム!!!」

 その後、スグに明確になった意識のもとで、彼の名を連呼し──

「マレーネ!エド! ああ後ウィル! リアムが目を覚ましたわよ!」

 おそらく、近くにいるのであろう人物の名を呼ぶ。すると──

「おきたかい。リム坊」

 最初に部屋に入ってきたのは、マレーネだった。そして──

「よかった。目を覚ましたね」

 次に部屋に入ってきたのは、見知らぬ人物だった。

「ああ。こうして面と向かって会うのは昨日の夜・・・いや、リアムくんは気絶していたから、君がまだ生まれて間もない頃のことかな」

 すると、ポカンと彼の顔をリアムが見ていたせいか、それに気づいた男はブツブツと口を動かして──

「はじめまして、でいいのかな? 僕はエドガー。昔一緒に君のお父さんお母さんとパーティーを組んでいたチームメイトで、ウォルター、ラナ、そしてレイアの父親です。いつも子供達がお世話になっています」

 とても丁寧に自己紹介をし、軽く礼をする。実に優しく、心が落ち着く声だ。

「いいえこちらこそ。僕はリアムです。エドガーさんのお噂は、いつもレイアさんたちからお伺いしております」

 一方、年上、つまりは目上の彼に先に自己紹介させてしまったということからリアムは慌てて自己紹介をする。その慌てようは、思わず正座して頭を下げてしまうほどだ。 そのような文化はこの国にはないのだが。

「おーい! みんなどこだー?」

 すると──

「ウィル! こっちよこっち! リアムが起きたの!」

 部屋の外、少し遠目の場所から皆を探すウィルの声が聞こえてきた。それを聞いたアイナが、スグに彼を呼び寄せる。

「おお! 起きたのか!」

 そして、ウィルがものすごい勢いで部屋にやってきて部屋の入り口に立つ。ドタドタドンドンと、どうやらここは2階らしい。だが──

「ウィル。慌てすぎだよ。一旦荷物を置いてくればよかったのに」

 エドガーの指摘した通り、ウィルは両脇に果物やら野菜やらが入った麻袋を抱えて部屋にやってきたのだ。おそらく彼は今、買い物から帰ってきたばかりだったのだろう。彼もまた息子同様、慌てん坊である。

「健康状態に問題はないねぇ」
「うん。こっちも問題なしだよ」

 それからは、回復属性と医療の心得のあるマレーネ、そしてエドガーが2人体制でそれぞれカルテの魔法をかけてリアムの健康状態をチェックする。すると──

「で、健康状態も確認できたところでだね。リアムくんにいくつか聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

 リアムの健康状態を確認し終わるや否や、何やら深刻そうな顔をするエドガーが、彼に質問をする許可を求める。

「はい。なんでしょうか?」

 それに、リアムも快諾してみせるのだが──

「ありがとう。それじゃあまずはね・・・」

 許可が取れたと口を開いたエドガーから告げられた言葉は──

「命の魔法。この魔法の名に、聞き覚えはあるかな?」

 そんな聞きなれない、何やら大仰な魔法の名前だった。

「いいえ・・・」

 しかし、彼にはそんな魔法の名の心当たりはなかった。当然、その質問にはノーで答えるリアム。

「そうか・・・」

 すると、リアムの答えを聞いたエドガーは残念そうにうなだれる。

「こらエド。個人的な質問からするんじゃない。もっと他に聞くべきことはあるだろうに」
「す、すみません。かあさん」

 が、スグに彼の母親であるマレーネに咎められ、反省モードだ。これにはウィルとアイナ、そしてリアムもクスリと笑う。

「じゃあ2つ目の質問をするけど、リアムくん。君が今覚えていることを教えてくれないかな?」

 そして、束の間の反省を経たのち、エドガーはリアムの記憶について尋ねる。

「はい。えーっと、たしか・・・」

 が、これには少し時間がかかった。なにせ途中途中でリアムには記憶が飛んでいる部分があったのだ。彼は自分が覚えている──

1. ボス戦で魔法が使えなかったこと
2. 突然現れた変な人物にいきなり襲われたこと
3. 襲われ意識を失い、しかしそれを取り戻してみると、イデアが自分の体を乗っ取っていたこと
4. 意識を取り戻し体も返還されたのち、自分を襲ってきた人物は笑いながら消え、するといつの間にかリヴァイブの門の前にいて、その後は・・・

 という4点を、記憶を辿るようにして詳細(ストーリー)をここにいる全員に話した。

「思ったより情報が少ないな・・・」

 すると、ソレを聞いたウィルが──

「ええ。結局あれはなんだったのかしらね」
「やっぱり、ダンジョンのシステムに介入していた点を考えると管理者側の・・・」

 いや、大人たちが揃って、リアムの身に起きた不思議について考察をしていく。

「どらにしても、こうして意識が戻ってよかったさね」

 すると、ソレをポカンとベットの上で聞いていたリアムの頭を、マレーネが優しく撫でる。

「リム坊。実はね、お前さんの懸念の一つは既に解決済みさね」

 そして──

「それはリム坊がボス戦で魔法を使えなかった理由だよ。あの時お前さんは断魔剤による中毒状態、つまりは毒を盛られておった」

 衝撃的な事実を告げる。

「それって・・・」
「ほら、お前さんボス戦の前日にブラームスの娘が手を加えたシチューを食べたじゃろ。あれに皆が目を離したすきに犯人が毒を盛ったらしくてな・・・今もその犯人は逃走中じゃ」

 まるで煙を掴むように実感のわかない話。それからどうやってそのことがわかったのか、そして──

「それから、犯人の共犯がおってそいつが捕まり、全部ゲロりおったわ。共犯の少年の名はゲイル。元々予定されていた公爵家主導の監査がウォーカーの商会に入り、事実が露見した」

 さらに、それを確実なものへとした事件の存在、詳細をマレーネが教えてくれて、ようやく自分が毒を盛られたのだという実感をちょっぴりとだけ感じることができた。その後の話では、実行犯に拐かされたという名目上ゲイルの父が保釈金を払うことで釈放されたのだとかで──

「スクールでも居場所がなくなったゲイルは現在引きこもっているとか。いい気味といえばいい気味じゃろうて」

 ふん!と鼻を鳴らして因果応報だと語るマレーネの言葉には同感だ。しかし少しだけ、胸に残るこのチクリとした不愉快な違和感はなんだろうか。だが──

「それからな、もう一つリム坊に報告しておくことがあるんじゃが」

 話が一段楽と・・・リアムが思ったのも束の間、マレーネの話が締められることはなかった。

「お前さんな、ここ1年ほど眠ったままだったんだよ」

 その後、マレーネの口から告げられたのは──

「・・・えっ?」

 スグに受け入れることも、ましてや理解することもできない衝撃的な一言であった。

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