アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

153 歯噛み

「ティナ足止めありがとう!」
「・・・コクン!」
「喰らいなさい! 火と風を複合した薔薇の花──」

 ティナに翻弄されて、片膝をついたオークの正面から、エリシアが杖を構える。

「ローズファイア!」

 メラメラと、しかし放散せず形を持った炎がオークを包み、傷もろともに焼け焦がす。そして──

「・・・ブォ」

 やがて、体の芯まで熱に侵されたオークは情けない断末魔を漏らすと、軽い地揺れを起こすほどに大きな体を勢いよく地面に叩きつけた。

「うそ・・・」

 その光景を、対岸から見ていたリアムが呟く。

「イェイ! やった、やった!」
「フンス!」
「たく、結局いいところ全部持ってったわね」
「そ、そんなことよりお前は、ゼェ。もっと手加減してだな・・・ゼェ。他の奴らに被害が出ないようにずっと相殺していた僕の身にもなれ!、ゼェ」
「ハァ、ハァ・・・アルフレッドったらすっごい息切れ・・・!」
「お前もな。よく頑張ったな」
「えへへ」

 だがそんな彼の呟きも知らず、対岸では善戦した仲間たちが手放しで勝利の喜びを分かち合っていた。しかし──

「終わっちゃった・・・」

 その光景をリアムの隣にずっといたレイアもまた、そっと呟いていた。

「おーい!」

 すると──

「3人とも! どうしたの固まって?」

 川を走り、戻ってきたメンバーたちが、固まる3人を見て首をかしげる。

「え、えっと・・・」

 質問されて、どう答えたらいいものかとリアムとレイアの横顔を交代に繰り返しにみて戸惑うフラジール。

「リアム? なにかあったの?」

 すると、その違和感に逸早く気づいたエリシアがリアムに尋ねる。今日、彼女のパートナーは本当は彼のはずであった。しかし彼は実際には戦闘に加わることはなく、代わりにティナが自分のサポートをしてくれた。

「な、なんでもないんだ! ごめんね。急にロールを変更して」

 すると、リアムはそれを否定して加え、戦闘に参加できなかったことを謝罪する。そしてこの時の彼は、笑っていた。

「リアムさん?」
「リアム・・・」

 彼と戦闘中ずっといた2人、フラジールとレイアはこの時のリアムの異変に気付く。

「いいんだフラジール、レイア」

 リアムはフッと振り向いて、2人に聞こえるくらい小さな声で、彼女たちの不安を拭おうとした。しかし──
 
「ごめんね。本当になんでもないんだ」

 再び振り返り、戦ってきたメンバー達に対峙する彼の背中がほんのすこし震えていた。この発言と本心との齟齬に気づいたフラジールとレイアはなにも言うことも、言葉をかけることもできなかった。

「・・・」
「・・・」

 だから彼女達は沈黙を選び、一先ずの結末の行方を見守ることにする。

「それにしても、僕たちはここまで強くなっていたんだな」

 アルフレッドが、未だ信じられないといった様子で余韻を噛み締める。

「ああ。冷静さを失わなければ勝てる相手だったんだ」

 1年前、初めてのロガリエでは歯もたたずに太刀打ちできなかった大きな敵。
 
「あー、でも私その1年前いなかったんだけど?」 
「コクコク」

 しかしそれを経験していないものもまた、少なからず3人、このパーティーの中にいる。

「でもミリアもさ。初めてのボス戦の時と比べると魔法の腕も判断力も雲泥の差だよ?」
「ティナは相変わらず強かったしね」

 だが、そんなことは関係ない。皆、自分たちの成長を実感できたいい戦いができたのだ。

「フラジールもありがとね。あの支援があったおかげで楽に戦えたよ」
「い、いえ」

 そして、後ろで戦っていたものもまた、同様に。

「いや本当に助かったぞ? 3人同時に強化して持続できるなんて凄いことだ」
「あ、ありがとうございます」

 戸惑いながらも、褒められて頭を下げるフラジール。

「「・・・」」

 が、その輪に入り損ねた。いや、入れなかった2人もいた。

『魔法が使えないだけで・・・』

 この時、リアムは心の中で自分の傲慢さを呪った。自分は戦闘においてなにか役に立てていたであろうか。否、なにもしてない上に、レイアの手まで煩わせた、役立たず以下の存在だった。なにより──

『驕りだ・・・』

 刀を潜入前から帯刀していなかったことが、何よりの驕りであった。責めて刀だけでも先に出しておけば、もっと早くに自分の事態に気づく、あるいは少しでも役に立つことができたはずだった。今回のボス戦は少なくとも、そんな些細な心構えの甘さを呪うほどに重要な戦いだった。

『苦しいな・・・』

 役に立てなかった。足を引っ張った。

「そしたらティナちゃんがこう!」
「それは凄いな」

 ふと、笑顔で遠い輪の中に、戦闘を振り返ってティナの真似をするエリシアの姿が目に入る。ロガリエのあの日、彼女が感じていたものもこの苦しみだったのだろうか。

『なにも、わかっていなかったのか』

 リアムはこの時、自分の中に感じる感情の正体を必死に暴こうとしていた。そして──

『いや、忘れていただけか・・・』

 それは、自分の奥底。深い深い埋もれた記憶の中にあった。机、またはベッドの上に読み散らかした本を放り投げては、確かに呪った自分の無力さ。しかし人は、それを達成できる力を得た時からその苦しみを少しずつ、少しずつ忘れていく。否、新しい思い出ができるたびにそれで苦痛を覆い隠していくのか。それが良いことなのか、悪いことなのかも気づかぬうちに。

『『繰り返す──人間とは、誠に愚かしい生き物だ』』
 
 ・
 ・
 ・

「リアムさん・・・リアムさん!」

「・・・は!」

 途端、暗い闇に吸い込まれそうになっていた意識の中で気が付いた。どうやらフラジールが現実で僕を呼んでいたようだ。

『いま僕は・・・』

 瞬間、その束の間に自分の考えていたことが脳内にフラッシュバックする。しかしなんだ。先ほどまで感じていたものは、考えていることとは裏腹にとても心地良かった。

「どうしたのフラジール」

 リアムはとりあえず、フラジールに問い返す。すると──
 
「リアムさん・・・あれ」

 フラジールが指を差した先にあったものは──

『Continue…』

「コンテニュー?」

 “Continue”、続くの文字だった。

「アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く