アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

152 虚無

「クリアー! 見事最後のオークをバトルメイジのエリシアが仕留め、勝利です!」

「「「ウォォォォー!!!」」

 ナノカの実況と共に、歓声に沸く会場。

「お、終わったぁ!? 嘘だろ?」

 これには、終始ずっと説討論をしていた大人たちも面食らう。 

「り、リアムは!」
 
 そしてウィルは、息子の姿を映像の中に探す。一体あの後、彼は果たして戦闘に復帰できたのか・・・と。

「見なさいあのあっけない姿を。今回彼はなにもしていない。いや、できなかった」
「挙句、入場するまで異変に気付かずに戦闘中にヒーラーの手も煩わせた。全く滑稽ですね」

 映像を観て、暗躍がうまくいったことを喜ぶ2人。

「しかしどうせならもっと、ひどい目にあわせてやりたかった」
「ゲイルくん。欲張りはよくありませんよ?」

 しかしどうせならと欲張る小さい方に、欲張りはよくないと諭す大きい方のフードマント。

「例えば、あのシチューに盛った毒。あれは希少なモンスターから取れた断魔剤そのものであるのですが、あれを我々が飲んだような致死性の毒に代えて毒殺を試みることもできなくはなかった。しかしあえてそれはしなかったのです」
「なぜ・・・」
「人1人が死んでしまうというのは大事です。仮に毒殺を試みたとして、昨晩のシチュエーションであれば対象があれを飲まない可能性がより高くなっていた」

── 殺すのは悪手。

「さらに言えば、原因不明の突然死があったとすればギルドもすぐに動きます。ダンジョンの出入り口は彼らが監視していますから、すぐに気付かれる事態は絶対にあってはならない」

 気づかれるのはナンセンス。

「遅効性の毒を使うという手も無きにしも非ずですが、それだと彼らのパーティーはヒーラー持ちですし彼自身に解毒される可能性があった。遅効性の毒は大抵、表立って発症してから死に至るまでの時間もまた、長いものが多いですから」

 遅すぎてもダメ。

「それに、今回の私たちの目的は少しでも彼の支持を落とすこと。みなさいあちらの一角を。勝利、しかし困惑。おそらく彼らはこの間できたというファンクラブの方達でしょう」

 大きいフードマントが、会場の一角を指差して嗤う。今回の暗躍の目的は2つ。1つは今徐々に勢力を拡大しつつある彼の支持に歯止めをかけること。政治力以上に、こういうエンタメ的な人気の方が時として民衆の心を動かしやすく厄介だ。

「戦闘が敗戦し終わらなかったことは残念ですが、まあ今日は良しとしましょう」

 所詮はこの程度の穴だらけの策にハマる子供。そしてもう一つの狙いは──

「才能豊かと言えど所詮は一介の平民の子供。私が今日彼に味合わせたかった虚無感、無力の落印の捺印はなされました」

 たかが子供だと思っていたリアムに無力という実感の屈辱を与えることだった。

「僕の要望までしっかりと計画に組み込んでくださるなんて・・・さすが先生だ」
「ククク。彼には圧力がかけられるまでしっかりと没落してもらわねば困るのですよ」

 平凡、またはそれ以下。彼らが望むリアムの姿とは、まさしくそれであった。

「さて、顛末も見届けたことですし、帰って次の計画を練るとしましょう・・・」

 フードマントがバッとマントを払って反転する。次の計画を練る為、あるいは既に注がれた勝利の美酒を掲げるために。

「なんだ? あの文字は?」

 が、その時──

「見たことあるか?」
「ないけど・・・ほら、勝った時に出てくる文字に似てないか?」

 誰かは知らない。しかし続いて会場にいた観客たちからも、同様の声が上がる。

「先生・・・あれ!」
「なんですかゲイルくん。言っておきますが我々はあまりここにいない方が良い人ぶ・・・つ」

 会場全体に伝播していく声に気づいた小さいフードマントが、完全に を引き止める。

「なんでしょうか。あれは・・・」

 そして、大きいフードマントの目に飛び込んできた文字は──

『Continue…』

 スクリーン全体を支配する、これまでに見たこともない文字の出現であった。



「仲間が傷を負った時にしか役に立てないなんて・・・」
「魔力が使えなくなっただけであんなに・・・」

「僕は──
「私は──

「なんて、無力なんだ」

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