アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

147 エリアCボス戦開幕直前

「それでー、こういう時はー」

「うぉー・・・」
「くー・・・」

 得意げに話をする女子の背後から襲いかかる、2つの黒い影。

「こう敵が振りかぶったところを懐に飛び込んでー・・・」

 しかし、女の子は影に怯むことなくクルリと振り返って一歩踏み出すと──

「腹パン!」
「うわッ!」
「または回し蹴り!」
「うおッ!危ねえじゃねえかミカ!」

 時間は数時間経って9時ごろ。メンバー全員が起きて朝食をとり準備も終わると、いよいよボス戦に臨むためにミカから最終の事前説明の時間である。

「うーん。複雑な気分だ」
「右に同意」

 場所は変わって橋の上。ミカに朝から散々な目に合わされたウォルターとアルフレッドが、どんよりと沈む。

「まあ、僕も複雑っちゃ複雑だけど・・・」

 しかし、それはミカにひどい目に合わされていないリアムも同様だった。場所が場所である。

「みんな、通行証は持った?」

「ああ」「持ったぞ」「持った持ったー」「はい」「うん」”コクリ” 「「ええ」」

 エリアCの転送陣の形は特殊。ギルドカードを右手に持ち、あの境界線を越えるという今までにないパターンの転送方法だった。

「じゃあ行こうか・・・」

 そして、リアムが一歩を踏み出す。すると──

「「「・・・!」」」

 目の前を歩いていた、彼の姿が突如として消える。

・・・タッタ。ギーギー。

 しかし、みんなその動揺とは裏腹に歩みを止めない。

「いってらっしゃーい」

 次々と、アリアのメンバーが橋の境界線に消えていく中、川のせせらぎのって届けられたミカのそんな激励が、彼らの耳に残ったボス戦直前最後の音だった。

「今日もまた、顔を合わせましたな」
「ああ。3度目ともなると、もう恒例だな」
「左様ですな」

 観客の入りようは上々、今話題の新生たちの闘いぶりを一目見ようと賑やかである。

「本日も、お隣失礼しますね」
「ええ。是非」

 ウィルとアイナは、コンテスト会場で合流したヴィンセントとリンシアの席の隣に座る。すると──

「久しぶりだなアイナ」

 更に後から、隣にやってきたのは──

「あー! 久しぶりカミラー!」
「やあ、アイナ」
「エドもお久しぶりね。今日来るとはマレーネから聞いてたけど、元気にしてた?」
「うん。おかげさまで」

 アイナとウィルにとっては、昔から知った大切な面々。しかし──

「ケッ! 嫌な顔が来たぜ」
「それはこっちのセリフだぞ? 相変わらず地味で辛気臭い面だな」
「あんだと!」
「あーん?やんのかこら!」

 それはそれ、これはこれと、因縁深いカミラとウィル二人が口喧嘩を始めてしまった。

「ハバネロ!」
「根暗!」
「ちょっとウィル落ち着いて? ね?」
「カミラもさ、こうして集まることも少ないんだから頼むよ」

 それぞれのパートナーが、己のパートナーを抑えようと宥めるが──

「止めるなエド! 今日こそ奴の息の根を止めてやるんだ!」
「止めるなアイナ! 今日こそあの高慢ちきな奴の鼻っ柱を折ってやる!」

 全くもって、聞く耳を持たない。そこで──
 
「はぁー」「全く・・・」

──ゲンコツ!
──チョップ!

「「喧嘩両成敗!」」

「イデ!アイナ!グーはないぜグーは!」
「チョップなんてひどいよエド!」

 実はパートナーに頭の上がらない二人は、飛んできた制裁にブーブーと抗議することしかできない。

「おいエド!こっちはゲンコツだってのにチョップとかお前は相変わらず甘すぎだ!」
「ははは・・・まあ勘弁してやってよウィル」
「そうだ! エドは紳士なんだよ! どっかの野蛮人と違ってな!」
「あん? お前だって野蛮女じゃないか! うちのアイナとは雲泥の」
「ウィル!」
「クッ・・・わかったよアイナ」
「わかればいいのよわかれば♪」
「ベー!」
「カミラ」
「ング! し、舌が〜!」

 まあ、なんだかんだで二発目のチョップがカミラに直撃したところで──

「相変わらず二人とも顔をあわせると子供見たいよね〜」
「案外リアムちゃんたちの方が大人かもね」
「「リゲス、エクレア!」」
「お久しぶり、お二人さん❤︎」

 もう2つ、昔から知った顔ぶれが揃い一堂に会すこととなる。

「久しぶりカミラ、エド。たまにはうちの店にも顔を出してね」
「ああ、久しぶりにエクレアのお手製のフルーツパイも食べたいしな!」
「そうだね」
「久しぶりの集結ね♪」
「あんたも相変わらずカミラとは因縁深いのね」
「ほっとけ」
「知ってる? リアムちゃんから聞いたいい言葉があるんだけど、『喧嘩するほど仲がいい』。いい言葉よね〜❤︎」
「「どこが!!」」

 と、息ぴったりでリゲスにツッコミを入れる2人は、犬猿の仲というわけではなさそうである。

「ウィリアムさん。もしかするとこの方たちが──」
「ああ、ヴィンセントさん。俺たちの昔のチームメイトの・・・」
「ん?知ってるような見知らぬようなどこかで見たことがあるような顔だが・・・」
「これは失礼。私はブラッドフォード家当主代理、そしてブラド商会の会頭をしておりますヴィンセント・ブラッドフォードと申します。そして──」
「ヴィンセントの妻、リンシアと言います。娘のエリシアが、いつもお宅のお子様方にお世話になっていて・・・」
「あ、ああ、これはどうもご丁寧に。私はカミラ・ホワイト、そしてこっちが──」
「旦那のエドガー・ホワイトです。こちらこそ、いつも子供達がお世話になっています」

「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」

 ・
 ・
 ・

「「あーッ!!!」」
「「あなた方は!!」」

 突然、大声で驚くエドとカミラにブラッドフォード夫妻。

「なんだなんだ?」
「なになに?」

 両夫妻を知る者として仲介していたウィルとアイナも、突然の出来事に驚きを隠せない。

「その節はどうもお世話になり・・・」
「いえいえ、とんでもない。こちらこそ、危ないところを助けてもらったのですから」
「あんた元気にしてたか? いやー懐かしいな」
「おかげさまで、この通りです。本当にお懐かしいですね」

「なんだ面識あったのか」

「ちょっと昔ね。お世話になったことがあるんだ」
「こっちこそ助けてもらった恩がありますわ。まさかあなた方のお子さんとウチの子が同じチームパーティーにいるなんて不思議なご縁ですね」
「だな」

 実はエリシアが産まれる以前、この4人はひょんな出会いから少しだけ行動を共に冒険をしたことがあるのだが、それはまた、次の機会に。

「それでは、やはりあなた方が噂に聞く──」

 それから、話は戻りヴィンセントが改めて彼らに尋ねる。

「そうよ!」
「そうね〜❤︎」
「ええ、そうですね」
「そうだな。アイナ、リゲス、根暗、そして私たち2人合わせて──」

 口上は、アイナ、リゲス、エド、カミラときて、そして──

「ちー・・・」

 ウィリアム!が──

「チームアリアさね!」
「母さん!」
「「「マレーネ!?」」
「ヘッヘッヘ。遅くなったね」

 ここぞという決め台詞を、今到着したマレーネが横から掻っ攫っていく。そして──

「こんにちは、皆さんお揃いのようで」
「旦那がごねるものだから、到着が遅れてしまいました」
「これはマリア様。ご無沙汰しております」
「久しぶりねエド、カミラ。元気にしていたかしら」
「おーおー、てことはこの立派なのがパトリックか? 随分でかくなったなぁ」
「ど、どうも」
「おいおいでっけぇのは図体だけか? もっとシャキッとしろシャキッと!」
「は、はぁ」

 マレーネに続き、ミリアの母であるマリアと兄パトリックも到着する。相変わらずバックに警護の兵をたくさんつけているが、珍しくパトリックはカミラのテンションに押されっぱなしである。

「いかんいかん。久しぶりに気分が上がってしまったよ」
「おいマレーネ〜、俺のセリフ取るなよ〜・・・ってカミラおい!リーダーの紹介ぐらいちゃんとしろ!」
「根暗はどこまでいっても根暗だろ〜」
「まあ、今じゃ旧アリアだけどね」
「そうだね。でも新しい時代が活躍することも、喜ばしいことだよ」
「けど、マリア様に加えてマレーネまでいるとなると現役だった頃の血が騒ぐわ〜」

「ははは。面白いみなさんだ」
「そうね、ふふふ」

「パトリック、お茶の用意を」
「はい母上」
「私は今日はラベンダーの気分だ。頼んだぞパトリック」
「父上!?」「あなた!?」
「はっはっは! そう驚くな! あれくらいの監視をくぐり抜けることなど造作もない!」
「はぁ、威張ることではありませんよ!」
「そうですよ父上。最近仕事が立て込んでいるんですから」
「はっはっは!」
「「「あ、公爵様((ジジイ))じゃん」」」
「なあ皆の者反応薄くないか!?そしてカミラとウィリアムは相変わらず無礼!」

 中々大きな集まりとなってしまった保護者参観。

「罰として今日お前ら二人は私の警護な」

「「誰がやるかよクソジジイ!」」

 そんな賑やかな彼らの喧騒とともに、今、誰も予想しなかった波乱のエリアCボス戦が開戦する。

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