アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

145 名付けるなら”超 hyper life-threatening crush crisis bad miracle taste deadly a fatal poison stew”

「・・・ここは」

 目が覚めると、あたりは薄暗くいやに静か、呼吸をするだけで澄み切っているとわかる空気が肺に充満する。

「う゛! なんだろうこの口の中の違和感・・・」

 だが同時に、ヒリヒリとした不愉快な違和感を口の中に感じる。

「たしか・・・」

 周りを見渡すと焚き火は煙だけを燻しており、人々は寝静まっている様子。河原の方では何人かの人影が背伸びやら屈んで顔を洗っているようだが、その川の上にかかった霧がまた幻想的で、辺りの森へと所々で繋がっていた。

 ・
 ・
 ・

「よし! 準備はいいなミリア!」
「バッチ来いよ!」

 時間は遡り昨晩。開通した橋の中央で人もはけ始めたタイミング、唯一の希望であるミリアの纏いをチェックして、goサインを──

「・・・あれ」

 出そうとした瞬間。

「ティナ?・・・! 待ってウォル兄!」

 向こう側からやってくる何かにいち早く気づいたティナが、レイアの服を引っ張って指をさし、ティナがなにを見つけたのかに気づいたレイアが急いでウォルターにストップをかける。

「な、なんだレイア?」
「・・・あれ」

 そして、彼女は突然のストップに戸惑うウォルターに、ティナの指した方向を指差して彼の視線を指の先へと誘導する。

「着いた、なんとか、保ったぞ」
「ちょっとあともう少し!踏ん張りなさい!」

 その指の先には──

「ミカ、アルフレッド!」

 フラフラな足取りのアルフレッドに喝を入れながら、隣を歩くミカの姿があった。

「ちょっと待て! ミカの背負っているのは──」

 そして、ミカがその背中に背負っている者にウォルターが──

──ダッ。
──ダッ。

──気づいた瞬間。

「「リアム!」」

 エリシアとミリア、2人の少女がミカの背負う者の元へと、瞬時に魔力を己の体に纏って境界線を越えて駆け寄る。

「大丈夫だ。ただ気絶しているだけらしい。そのうち目が覚めると・・・」

「リアム! なにがあったの!?」
「こいつがこんなになるなんて・・・」

「あらあら随分とモテモテね」
「・・・・・・」

 そんな2人を横目に、アルフレッドがリアムの容体を告げるが全く耳に入っていない。ミカの軽口にちょっぴり、自分の心配もしてほしいと思ってしまったことは秘密である。

「・・・とにかく、3人とも無事でよかった」

 境界線を越えると、他のパーティーメンバーたちもまた、彼らを迎える。

「蹴って悪かったわ・・・ウォルター」

 すると、リアムを背から降ろしたミカが、先刻犯した蛮行についてウォルターに謝る。

「・・・!」

 一瞬、彼女に謝られたことに驚くウォルターであったが──

「いや、こっちこそ悪かった」

 飛び出していってしまう前の彼女との僅かな態度の変化を感じ取り、素直にそれを受け取ることにする。

「すごい・・・どんどん魔力が回復していく」

 場所は変わってキャンプ。横に寝かせたリアムに魔道具を当てて、魔力量を測るレイア。しかし──

「おいどうして離す。まだ回復し続けていたぞ?」
「これ以上はこの魔道具じゃ測定できない。爆発して壊れちゃう・・・」
「爆発・・・」

 アルフレッドの抗議に、突然魔道具を遠ざけたレイアがその理由を説明する。

「ほら素人は黙ってなさい! レイアは小さいけどスペシャリストなんだから!」
「ぐぬぬ・・・」

 ついでに、ミリアからの追随にぐうの音も出なかった彼は今日は散々である。

「ん・・・なにごと?」

 すると──

「「リアム!」」

「起きたか」
「お、はようでいいのかな?」

 起きたばかりでまだ少し意識がぼんやりしているみたいであるが、リアムが目を覚ました。

「「リア──」」

 そして、体を起こした彼にミリアとエリシア、2人の少女が飛びつこうとした瞬間──

「んぷ! てぃ、ティナどうしたのいきなり飛びついてくるなんて」
「んー・・・!」
「よ、よしよし」

 2人の間をサッと抜けたティナが、彼の胸に飛び込んで頬を擦り付ける。

「ちょっとティナ! 抜け駆けするなんてずるい!」

 これには当然、立腹するミリア。しかし──

「おはよう、リアム」
「おはよう、エリシア」

 エリシアはソッとリアムの隣に座ると、ティナを撫でていない方の手をとって、笑顔で目覚めの挨拶を交わす。

「エリシアが今日大人しいのはわかるが・・・ミカもだったが、なんかリアムも雰囲気変わったな」

 すると、その光景を見ていたウォルターが、ポツリと呟く。

「こんなに早く目覚めるなんて・・・」

 その隣で、異常な回復速度に驚くレイア。

「リアムの生命力が凄まじいか、飲ませてもらったポーションがよっぽど凄いのか・・・」
「たぶん両方だと思う、ラナ姉」

 そしてラナも、この光景に内心驚いていた。彼女もまた、薬屋の家系であるから。

「ご無事で何よりでした・・・」
「ああ、心配かけた」
「はい・・・」

 と、リアムを取り巻くグループとは少し壁を作り、2人の世界に入る少年少女が・・・

「ちょっといいかアルフレッド」
「な、なんだ!? 別に嬉しいとか思ってないぞ!?」
「邪魔して悪いな。その、質問なんだがリアムを助けてくれた男と女の詳細を教えてくれないか?」

 その幸せも束の間、今は状況を整理するための事情聴取が第一である。

「ああ。男の方は白髪で優しそうで、大杖を持っていた」

「白髪」
「優しそう」
「大杖・・・」

 ウォルターの質問に答えたアルフレッドの男の特徴に、ラナ、ウォルター、レイアが順に反応を示していく。

「薬はその男がくれて、で、女の方は帯剣していて対面しただけでも強いとわかったな。だが口が悪く・・・あれは男の方は苦労するな、うん」

「素行不良」
「強そう」
「苦労する・・・」

 が、一方で男に比べ女の方の散々な言われように、3人の顔はどんどん苦く歪んでいく。しかし──

「それに赤い髪で・・・そういえば、ミカが女の方を”赤薔薇” とかって言ってたな?」

 アルフレッドが、そんなプチ話を披露すると──

「「「赤薔薇!」」」

 3人は揃って、勢いよくその名に食いつく。

「ウォル兄! ラナ姉!」
「ああ、間違いない」
「そっか、それじゃあ」

 そしてレイアの確認にウォルターとラナが大きく頷くと──

「明日のボス戦。ますます負けられなくなったな!」
「まぁね〜」
「うん!」

「突然どうしたというのだ・・・?」

 兄妹たちは3人顔を合わせると、明日のボス戦に向けてパワフルな熱意をみなぎらせる。・・・アルフレッドは置いてけぼりであったが。

「ちょっとちょっと! なに私を差し置いて大団円してるのよ!」

 それぞれがそれぞれでまとまり団欒していると、ティナとエリシアにリアムの隣をとられて文句を言い続けていたミリアが、皆にいちゃもんをつける。・・・アルフレッドは置いてけぼりであったが。

「はっ! そうだちょっと待っててリアム!」

 すると、そうだ!となにかを思い出したように、ミリアが輪から外れて何処かへ行く。

「・・・嫌な予感がする」
「・・・私も」
「・・・!」
「ら、ラナさんお気を確かに!」

 輪から外れたミリアの背中を追って、ウォルター、レイア、ラナ、フラジールがそれぞれの反応を見せる。特にラナに至っては、笑顔で気をつけをしたまま動かない。まるで、あらゆる体の箇所が引きつってしまい動かなくなったように。

「なんの話だ?」
「・・・?」

 一方、アルフレッドとエリシアはリアム同様なんのことだかさっぱりという反応をしていた。

「フシュー・・・!」
「ティナ?」

 すると、今の今までスリスリと胸元に頬を押し付けていたティナが、突然耳と尻尾の毛を逆立てたと思ったら、一目散にこの場でないどこかへと駆けていく。

「はい。リアム病み上がりでしょ?栄養つけなきゃね」

 それから間髪入れずに、ナニカの入った皿を手に持つミリアが戻ってきた。

「に、逃げろリアム! 今すぐこの世の彼方まで!」

 すると、リアムとミリアの間にウォルターが入り、立ち塞がるが──

「熱いから、私が冷ましてあげるわ。ふー」
「ゔッ! 刺激臭!!!」

 皿の中身をスプーンですくい、ふーふーして流れてきた風に、ウォルターが突如苦しみながらガクンと膝を落とした。

「えっ! なにウォルター!? どうしてそんなに慌てている──」

 そして、急に膝をついて苦しむウォルターにリアムが戸惑っている隙に──

「はい♡ 私特製の手作りシチュー!」

 今だ! とかタイミングを伺うわけでもなく、ただの作業としてスプーンをリアムの開いた口の中に突っ込むミリア。

「の・・・ん゛ゔ!!?」

・・・チーン。

「リアムー!」

 重力に負けた首の筋肉、剥かれた白目。

「なんてものを食わせるんだお前は! こいつはまだ病み上がりなんだぞ!」
「なんですって!? 香辛料は時に薬としても使われるって ”親戚の友人の兄のそのまた友人の隣人の同級生が住んでる街の隣街の港で働く運商が言ってった”ってルキウスが言ってたわよ!」
「誰だよそれ!!?限りなく出処不明だろ!」

 そのスプーンにあった液体を口に入れた瞬間、リアムは呆気なく取り戻した意識を再び手放してしまう。

「たしかに、香辛料には薬に分類されるものもあるけど・・・」

 薬はお医者さんに処方されたものを適切な時間、適切な量で服用しましょう by レイア。
 
 

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