アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

138 フライング

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「俺たちの分まで、なんか悪いな」
「いいって。ポンと僕が最初から作ってれば済んだ話だったんだ」
「だが、あまりお前に依存するのも違うだろうに」

 ウォルターの謙虚な態度に、あまり依存しすぎるのもよくないとするアルフレッドが、それぞれの励まし方、僕を慰めてくれる。

「ホントホントー。イチカやニカたちに聞いてた通り、とんでもない魔力量でしたー」

 ついでに、さらっと傷に触れる声も一つ付いてきているのだが。

「なんでミカさんが・・・」
「だってあんな魔力を管轄内でポンポン使われちゃこっちもたまんないし、監視監視〜」
「はぁ・・・そうですか」

 これには僕も溜息を吐いてしまうが、実際、セーフポイント内で使わないような大きすぎる魔力をポンポンと使っていた僕も僕で悪い・・・もう使っちゃったん後なんだけどね。だからここは、彼女の同伴には目を瞑るとしよう。

「それよりほら。その線が境界線ですー」
「うわッ! あぶねッ!」

 ミカの注意から、あと一歩で線をまたぎそうだったウォルターが、橋の木から離れそうになっていた自分の足を慌ててつま先からまた戻す。

「あれ? でも何にもないけど」
「そうだな。なぁ、確かこの橋は渡る人間を選ぶんだったよな」

 しかし、同時になぜウォルターがそんなに慌てたのか、僕とアルフレッドにはわからないでいた。

「そりゃあ見えない壁だからな。ほら、そこの手すりに傷がつけてあるだろ。それが境界線の証だ」

 そんな僕らに、一度ここに来たことのあるウォルターが説明をする。

「よく見るとこっから反対側までの床にもうっすら線が入ってるだろ」

「「本当だ」」

 ウォルターの言う通り、確かに目を凝らせば木の板と板の境目とは別の、うっすらとした線があった。
 しかし変だ。確かにここにあるのはうっすらとした線だけで、とりわけ仕掛けがあるようにも見えない。

「でもさウォルター。どうしてあんなに慌てて足を戻したの?」

 僕は、そのことが不思議になって質問する。

「そ、それは・・・」

 ウォルターが顔を引きつらせながら──

「ミカ、代わりに説明・・・」

 ミカの方を見る。しかし──

「なあミカ・・・そのロープは、なんだ?」

 その視線の先には人一人を縛るにはちょうど良い縄を持ったミカの姿が。

「幽霊の噂は一見にしかず・・・ハッ!」

 そして次の瞬間には──

「いきなり何するんだミカ!それにそれを言うなら精霊の噂は一見にしかずだ! なんだ幽霊の噂は一見にしかずって!」
 
 ミカの投げた縄にぐるぐる巻きにされたす巻きウォルターが一丁出来上がった。

「なぁんだー。自分でもこれから何されるのかわかっているじゃないですかー?」
「お、お前まさか・・・」

 そして、ミカの発言に何か悟ったウォルターが恐る恐る後ずさりすると──

──パァン!

 まるで銃声のような乾いた音が橋の上に響き渡る。

「おわッ!」

 同時に、眼前で鳴った音に踵を躓かせたウォルターが、後ろに倒れる。そして──

「イッ!」

「「「イッ?」」」

「イッテェーーー! 魔力が刺さる!」

 ミカの不意打ち拘束猫騙しコンボを決められて倒れたウォルターが、首を絞められた鶏のような声をあげて地面をのたうちまわり始めた。

「うぉ、ウォルター!?」

 その悲痛の声に、僕は一瞬たじろいでしまうが──

「おいリアム!足を持って一斉に引くぞ!」
「わかった!」

 咄嗟の判断を下したアルフレッドの下、こちら側に出ているウォルターの足を二人で持ってこちら側に──

「「せーの!」」

 引き入れる。

「ダァ・・・ゼェゼェ、助かった」

 こちら側に戻ってきて、息も絶え絶えに相変わらず縛られながらであるが、助かったと安堵するウォルター。

「これは、魔力のまだ育ちきっていないあなた達が無理に一線を越そうとすると、こうなるぞと言う極端な例でーす」

 すると、場面に似合わない素っ頓狂な解説を始めるミカ。

「おい。お前何も俺じゃなくてもいいだろ!」
「と言われましてもー、私はすでにエリアCのボス戦はこなしてますから、対象には入りませんしー」

 ウォルターに自分の行動を責められたミカが、言い訳を始める。そして──

「この子たちはまだ小さいですし、後輩に同じ体験をさせるのは酷でしょー」

 こちらにチラリと目配せしたミカが、後輩という単語を言葉巧みに使い、言い逃れする。

「でも、ウォルターはどうして・・・一体何があったというのだ?」

 すると、未だに何が起きたのか理解できていないアルフレッドが言い合う彼らの間に割って入る。

「それは、ここから先、大気中に含まれる魔力の質が一気に変わるんですよー」
「しつ?」
「そう質です! ここから先に行くと、資格を持たない者の体内にある魔力はジリジリと外部の魔力に吸われていく!」

 シャキーンと決めポーズをとって答えるミカ。・・・なんか、彼女のキャラは掴みづらいのは気のせいではないだろう。

「本当だ・・・魔力の色が違うし、密度もケタ外れだ」

 まあ彼女のキャラ性の迷子はともかく、僕は左目の後魔眼を発動させて、魔力の流れを見る。

「それは、魔眼ですかー?」
「はい。最近ようやく、ちょっとした魔力の流れなら見分けることができるようになってきたんです」

 そう。最近になってようやく、微細な魔力コントロールまで安定してきた僕の左目の魔眼は、遠視や暗闇での暗視などに加え、大まかな魔力の流れをも捉えられるようになってきた。これには肉体の一部として存在する眼と、魔眼としての性質そのものになっている魔力とのシンクロ率を高めることが必須で、集中力もいるために自然と使用中は目が開きっぱなしになるのが玉に瑕だ。ドライアイにならないためにも、早くシンクロの調整に慣れたい。

「リアム。ついでだからアルフレッドとミカ、そして向こうの魔力を並べて比べてみろ」

 すると、まだ縛られたまま地面に寝転がっているウォルターが、下から僕に3つの魔力を比べてみるように言う。
 僕はウォルターに言われた通り、ミカを真ん中に3つの魔力を見比べてみる。すると──

「あ、アルフレッドの中に流れている白い色の魔力と向こうの黒い魔力の二つがミカさんの中にある」

 確かに、アルフレッドの中には人種にある白色の魔力が見えるのだが、ミカの中には2色・・・の魔力があった。

「どちらかというと黒い魔力の中で白い魔力が燃えているような・・・いや、白の中に緑の跳ね火? とにかく、まるで魔力が吹かした煙草の煙みたいに揺れてて・・・」

 しかし何故だろうか。その黒い魔力の深淵さ、まるで炎のように揺れる白の煙に、僕は惹かれていた。思わず、ジーッと二つの魔力とその中に点在する跳ね後に蛍火のように泡沫と漂う緑の鮮やかさにも──。

「ハーイストーップ! そ、それくらいでいいでしょ!」

 ミカに恥じらいを感じさせるほどに。もっと観察しようとしたところ、急に上から頭を押さえられて、視線を床へと逸らされた。

『これは、僕がデリカシーがなかったかも・・・』

 僕は、その時頭上から聞こえてきたミカの声の雰囲気から、なぜ今床とにらめっこしているのかに気づき心内に反省する。

「コホン・・・つまり、僕たちの中にはない魔力の色、つまり向こう側に漂う魔力と同じ性質を持つ魔力が、少なくともミカの中に存在していたと言うわけだ」

 すると、アルフレッドが話を進めるために仕切りなおしてくれる。しかしこの状況で話を切り出してくれたのは僕としては非常にありがたいのだが・・・なぜ顔が赤い、アルフレッド。

「エリアCのボスを倒すと、《中級冒険者》の称号が手に入る♪」 
「なにせエリアCのボス難易度は中級のそれと変わらない。だから、エリアCは中級者入門として中級者エリアに分類されてる」
「むッ! 私の説明に解説を被せてくるとは・・・」
「いや、悪気はなかったんだが」

 すると、今度は自分の明るくポップな説明に解説を被せてきたウォルターに、何故か対抗心を燃やすミカ。

「ふーんだ。ウォルターの脳筋!そんなんだから繊細な乙女心を踏みにじっちゃうし、魔法も下手なんだよ!」
「おい!お、乙女心?・・・てのはわかんねぇけど! 俺が魔法下手なのとそれは関係ないだろ!」
「本当はねー。この向こう側、魔力をコントロールして自分の体に纏うことができれば短期間だけどさっきみたいな激痛を感じることなく滞在はできるんだよねー」
「って聞いてるのか!?」

 そんな彼女の暴走が、縛られながらその場でジャンプしてしまうほどに、ウォルターを動揺させる。

「ん? だとすると、ウォルターに先陣を切らせた意味は・・・」
「それは君たちの人生勉強のために、一肌脱いでもらったということで」
「だとしてもだ。流石に縛るのはやりすぎ・・・」
「ああ。それはほら。激痛に悶えるあまり暴れて橋から落ちると危ないからー。それとも溺死したかった?」
「・・・・・・」

 一体僕たちは今、何を話しているのだろうか。会話が全て不毛なものと処理されていくから、妙な感覚に襲われ不思議でたまらない。

「それにさーッ!私君たちとは今日が初対面だから、ウォルターみたいに魔力が少なかったりすると危険でしょ?」

 そして、私が正義ですと言わんばかりにビシッ!とウォルターを指差し、そのままアルフレッド、僕へズラし標的を変えながらどうだと威張る。

『『『あれ、でもさっき』』』

 この時、僕ら3人は同じことを考えていた。そう、ここに来るまでのとある彼女の発言と、今の発言の意味が噛み合わないことに気づいたのだ。

『『『確信犯だ・・・』』』

 彼女は少なくとも、さっきのカイロを作った時の魔力が僕が使っていたものだと確信していたはずだ。僕はこの時、とても疑心暗鬼な白い目で彼女をみていたことだろう。なにせ他の2人が同じ表情をしていたのだから。

「そんなに見つめても、服は透けて見えないよ?」

 すると、ジーッと僕たちの視線の圧力を受けるもなんのその、似合わないセクシーポーズをとってからかう。

「はしたない女だ」

 ──が、その時。

「んなッ!?」

 ここにきて、アルフレッドの歯に衣着せぬ物言い、アルフレッド節を炸裂させる。

「それに自分から傷を抉るとは、貴様さては実はバ・・・」

──が、その時。

「だぁーアルフレッド。ば、ば、バタフライ!」

 今度はウォルターが、とても慌てた様子で、アルフレッドの口を塞いで訳のわからないことを言う。

「モゴォ!・・・ご?」
「アルフレッド?」

 この時僕たちは、このアルフレッドの行動の意味が本気でわからず、首を傾げてしまう。もしかして彼は、さっきの激痛で頭のネジを一本どこかに落としてしまったのだろうかと心配になるレベルで理解不能であった。

「馬鹿! ミカの前で、それは禁句だ・・・!」

 すると、ウォルターはその勢いのままに、自分の発言の意図を──

「ハッ・・・」

 ──って。

「バカじゃない・・・もん」
「いや、ミカ別に今のはお前に言った訳じゃなくて・・・」

 突如、体を震わせそんなことを呟くミカを、腰の引けたウォルターが諌める。

「バカじゃなーい!」
「ゔッ!」

 しかし、彼が弁明しても時すでに遅し。なんとも華麗な回し蹴りをウォルターの腹に決めたミカはそのまま綺麗に両足を橋につけると、境界線を突っ切ってエリアDの方に走り出して行ってしまった。

「「えぇー・・・」」

 これには、僕とアルフレッドもただただ呆然とする。

「あぁー・・・やっちまったぁ」

 そんな僕らの横で、やっちまったと自分の発言を悔やむウォルター。

「ウォルター・・・あれって」

 僕は内心、未だ理解が追いついていないものの、とにかくウォルターに状況の説明を本能的に求める。

「ほら・・・あいつの家、大姉妹だろ?」

 確かに、これまでイチカにニカ、そしてナノカと言うミカ以外の3人の姉妹に僕は会ってきている。もし、彼女たちの名の由来が数からきているのだとすれば、少なくとも彼女らは7人姉妹ということになるだろう。

「あいつは7人姉妹の内の3番目。親は二人ともギルド職員の家系で、一応姉妹で言えば妹の多い姉分類に入る訳だが、その中では一番下、生まれた時は姉二人でそれはもう可愛がられていたらしい」

 まあ、ウォルターの言わんとしていることは分かる。姉妹の中でも姉分類ができるというほどに姉、妹ばかりというのは驚きであるが。

「そしてあいつが生まれて二年後。4番目の姉妹が生まれ、あいつも晴れて姉の一人となった訳だ」

 ふむふむ。それでそれで・・・

「しかし、その4番目がそれはもう優秀だった。4女はスクールに通っていなかったから勉学はからっきしだが、魔法と戦闘の才能(センス)はピカ1で、俺はニカに聞いただけだが、そりゃあもう強えらしい」

 へぇ・・・

「そしてあいつら姉妹は親の背中を追うべく、みんなギルド職員になっている。ギルド職員、特に出張所に派遣される職員には、その才能はもってこいだった」

 なるほど。こうしたセーフポイントにあるギルド出張所まで来るにも、モンスターとはエンカウントする。ある程度の実力派必要であろう。

「そんな中、どんどん上級エリアへと昇格していく妹の存在は、直近の姉としてはかなりのプレッシャーがあったらしい。そしてある日、とうとう姉であるあいつが抜かれる日が来る」

 !?・・・と、僕とアルフレッドは驚愕する。

「姉はスクールにも通っているというのに、妹より劣り、抜かれた。その時ミカはかなり落ち込んでいたらしい」

 それは悔しいし、落ち込むだろうな。僕でもきっと、落ち込む。

「そしてそれは、周りの評価も同じだった。とあるダンジョンでの演習中、同じクラスの生徒が陰口言っていたのをタイミング悪く聞いてしまったんだ」

 気の毒だ。だが、判断基準が違うであろう。スクールはどちらかというと学力を磨く場所。そこに通わず実戦を続けていた妹と差が開くのは必然といえば必然だ。

「『あの子って勉強だけじゃなくて仕事もできないんだねー。バカの子じゃん』・・・と」
「・・・」
「・・・」

 ・・・?

「それを聞いてしまったミカは激情にかられ、所構わずあたり暴れまくって十数本の木々を蹴りでなぎ倒したとか」

 ・・・!??

「ちょ、ちょっと待って。ミカってそんなに成績悪かったの?」

 ・・・軽くない? 僕はあまりの混乱に思わず、ウォルターの話を遮って質問してしまう。

「ニカの話では、一応ミカの方がその四女より頭はいい・・・らしい」
『待ってなにその間!気になる!』

 これはまさかの斜め上だ。まさか学校教育を受けていないという妹とほぼ同レベルとなるとは。

「キレながら泣き、暴れまくる。流石に馬鹿の一言であそこまでキレることのできるミカもミカだが、相当にプレッシャーだったんだろうなー・・・」

「・・・」
「・・・」

「まあとにかく、その時の経験がトラウマになってるから、馬鹿はミカの前では禁句だ」

 ふぅ・・・と一息、ミカのバックグラウンドを話し終えたウォルターが息をつく。

「・・・」
「・・・」
「・・・」

 そして訪れる沈黙。

「まあ俺は元々魔力に先天性の異常があって魔法がうまく使えない。極端に魔力が少ない体質だからな」

 だが、やはり年長者は偉かった。少々自虐に走りつつも、会話を途切れさせまいという努力が涙ぐましい。そこで──

「あのさウォルター。僕もちょっとこの境界線を越えてみたいんだけど」

 僕も、気持ちを切り替えるとしよう。

「急にどうしたんだリアム? さっきの俺の悶えよう・・・は見てただろう?」

 気分転換がてらに話を戻したはいいものの、まさかの僕の発言に、ウォルターが意外そうな目で僕を見る。

「ミカはああ言ってたしお前の魔力と魔法のセンスも十分に知ってるが、ちょっとでも纏にミスの穴を開けば途端に激痛が襲ってきてそれどころじゃなくなるぞ?」

「・・・それでも」

 ミカが走って行ってしまった今でも、ずっと僕の欲求を刺激する黒。それともこの底知れぬ危さに惹かれているのだろうか。

「はぁ・・・僕もだ」

 すると──

「おいアルフレッドまでどうしたってんだ?」
「いや、あのバ・・カバ女が走って行ってしまったそもそもの原因は僕だしな」

 生き返るとはいえ、自分が原因で死なれでもしたら目覚めは悪い。いくらギルドから派遣された駐在員とはいえ、一人で夜の森にいれば危険だ。

「行こう」
「ああ」

 だからなんと、アルフレッドまでもがミカを連れ戻すために夜を迎えようとしている森に行くという。そして次の瞬間──

「おい!・・・!」

 ウォルターが強引に手を伸ばして止めようとした時にはもう、己の魔力を引き出し体に纏った僕たちは、境界線を越えていた。が──

『・・・今の痛みは』

 一瞬、リアムは右足、踏み込んだ左足とは反対側の足の首あたりに違和感を覚える。

『まあいっか』

 しかしそれは本当に一瞬だった。次の瞬間には何も感じないし、異常も見当たらなかった。

「あいつら・・・行っちまいやがった」

 逢魔が時、二人の少年は境界線を越える。資格を持たない一人は予期しなかった失態を取り戻すため。もう一人は──・・・。

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