アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

130 ニカ

「トードーズに比べてあいつらの肉は食えないからな〜・・・不味すぎて」
「イマイチ気分がな・・・」

 新学期が始まって週をまたいだ週末、リアム、また元チームロガリエのメンバーは今日、エリアBのある一角を目指して森の行進していた。

「でもさ、その分手に入るDptが多いんだからそれを換金して何か買えばいいじゃない」
「いーやわかってねぇなリアム! 自分たちで狩った獲物だからこそうまいってもんなんだよ」
「そうだな・・・同感だ」

 これから狩るモンスターのことで、互いの言い分をぶつけ合う男三人。

「ほらミリア・・・元気出しなさいよ」
「そうですよミリア様! 私とレイアちゃんと一緒に頑張りましょ!」

 そんな彼らの後ろでは、討伐の前からズーンと落ち込んでいるミリアを励ますエリシアとフラジール。それに、もう一つ後ろにいるティナの横で、フラジールの言葉にコクコクと頭を縦に振って同意するレイア。

「だって! 眷属魔法禁止ってひどいでしょ!? それにスクロールもって・・・」

 しかし両腕を折り曲げて胸の前ほどに掲げられた両手をワナワナとさせるミリア。そして──

「私まだ普通の魔法の練習始めて1ヶ月! それじゃあ後方支援しかできないじゃないの!」

 今回のボス討伐戦についての不満を、思いっきり爆発させる。

「だから駄々をこねるお前にチームの名を決めさせてやっただろうが」
「でも『ミリアとその家来たち』ってパーティー名は却下したじゃない!それでなんでお母様の『アリア』はいいのよ!」
「それはお前も納得していただろうが! というかあの時1番に跳ねて嬉々として賛成したのはお前だろ」
「だってその時はリアムやウォルターたちの両親が組んでいたパーティーの名前だって知らなかったんだもん!」

 そしていつも通り、ギャーギャーと始まってしまうアルフレッドとミリアの口喧嘩。新しいチーム名に変わっても、そこは今まで通り変わらない。

「おやおや、喧嘩かな?」
「ラナ、どうだった?」
「うん、大丈夫。もうすぐ到着だから戻ってきただけ」

 すると、森の中で更に先行して斥候をしていたラナが目的地も近づいたために戻ってくる。

「こんにちは! チーム『アリア』のみんな!」

 そして更に少し、森の中を行進すると──

「いやーリアムくん! ひと月ぶりってところかな?」

 それまで静かだった森の中で一際際立つとても明るい挨拶とともに、チーム名と僕の名前を呼ぶ声が。

「ひと月ぶりです。ニカさん」

 僕はその声の主に対して、頭を下げて挨拶をする。

「あーいやいや、その節は妹が大変なご迷惑をおかけして・・・」
「いやいやこちらこそ、今回はお世話に・・・」
「いやいや・・・」
「いやいや・・・」

 突如として始まるイヤイヤ〜合戦。両者深々と頭を下げて、互いに丁寧すぎる挨拶を行う。彼女に前にあった時、その見た目からも不良っぽい印象を持っていたのだが、意外と礼儀正しくて少し驚く。

「こ〜ら! それじゃあいつまで経っても終わらないぞ?」

 すると、そんな両者の頭を上からグリグリと撫で回すウォルターが──

「き、気安く私の頭に触ってんじゃねぇよウォルター!」
「ゴフッ・・・!」

 先ほどまでかなり腰の低かったニカから、痛烈なドロップキックを食らう。

「暴力・・・反対」
「うっせぇ・・・い、いきなり触ってきたテメェが悪いんだろうが!」

 これにはウォルターも、ひとたまりもない。しかしなんだ、少しニカの顔が赤いような・・・

「ニカさんはウォルターと知り合いだったんですか」
「私とこいつはスクールで同期だったんだよ。まあもう二人とも卒業しちまったから、会うのは久しぶ・・り・・・」

 僕の質問に答えたニカが、更に言葉を濁しながら真っ赤になっていく。

『『『あぁ〜・・・なるほど』』』

 これには僕も、そして他のパーティーメンバーも皆、察してしまう。

「って何言わせようとしてるんだ! てかなんだその顔は!」

 ニヤニヤと、二人の関係についてなんとなく察してしまった僕らに対して、ニカが吠える。

「あっ!倒れたウォルターの上着がはだけてる!」
「な、なんだって・・・!」
「今のうちに逃げよう」
「ってはだけてねぇじゃ・・・こら逃げるな貴様ら!」

 森の中にぽっかりと空いた空き地を走り回るニカとアリアの皆。これから始まる挑戦を前に、それはもういいウォーミングアップだった・・・約1名、ノックされて気絶していた者を除いて。

 ・
 ・
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「でだ、エリアBのボスはキングゴブリンとキングコボルト。転送先は森の中の獣道で、そこから約50メートル先にある大集落のボスであり、クリアの要件はその集落にいる50匹以上のゴブリンやゴブリンメイジ、コボルト種と戦闘して殲滅することだ」

「そんなに・・・」

 唯一、メンバーの中で下調べをしていなかったミリアがニカの話を聞いて、ゴクリと生唾を飲み込む。

「滅多にないが、ゴブリンジェネラルやホブゴブリンに属性持ちコボが1体〜数体スポーンすることもある。後は気をつけなきゃいけないのが軍師だな。こいつも滅多に湧かないが、ただでさえ普通より統制のとれたゴブリン共が戦略的な動きをするから注意だ」
「エリアBのボス戦は通称 “ルーレット”って呼ばれてるんだ。出てくるゴブリンとコボルトの種類によって難易度がピンからキリまで変化するからな」
「いや〜懐かしいな。私がエリアナビゲーターの資格をとる試験の時に、パートナーをお前に頼んで二人で挑んだんだよな〜」
「正確には、試験官だったギルド長や副ギルド長のサポートもあったがな」
「そういえばあの時さ、ジェネラルとホブが一緒に出てきて・・・」
「ああ覚えてる覚えてる! ほら、あの時ドロップした魔石は約束どおり、ちゃんと首飾りにしていつも掛けてるぞ」
「そ、そうかそうか! ほら私も、ちゃんと持ってるぞ!」

 これは私にとってのお守りだからな・・・と、大事そうに自分の首飾りについた魔石を、ぎゅっと握るニカ。やはりウォルターとはいい雰囲気だ。

「私、やっぱり今回は後方支援でいいわ」

 一方で先ほどまでの威勢は何処へやら、そりゃあまあ、まだ初級魔法もおぼつかない彼女が前線に出るとなれば、一溜まりもないだろうが──

「だからと言ってあまりイモッてると、取り分がなくなるから注意しろな?」

 急に弱気になったミリアを見て、ウォルターがメンバーに対して忠告を入れる。

「今回は敵の数も多いから出来高制だ。一定量の報酬範囲は設定してあるが、余剰分は完全に自分のものとなる。またドロップし交換所の自分の保管庫に入ったアイテムも然りだ」
「でも後方支援のメンバーに対しては特別報酬を設定するんでしょ?・・・だったら」
「確かに後方支援のメンバーに対し特別報酬を設定して、一部戦利品を分け与えるのはギルドの課したルールだが・・・」
「あくまでも一定の働きをした者のみ、サポートは行えていたか、積極的に戦闘に参加していたのかといった戦績から判断するのが通例だぞ? ボス戦はコンテストにも映るからな、その辺結構シビアだ」

 甘い考えを見せたミリアに迫るウォルターとニカからのダブルパンチ。これには──

「り、リアムは私の家来なんだから、戦利品の半分くらいは私に献上するわよね?」
「い、いやその・・・無理かな?」
「なんでよ!」
「だって今回は前衛が6人の攻撃型陣形だし、多分取り分が・・・」

 助けを求めて僕に縋るミリアだが、彼女の願いを安易にうんと了承することはできない。だって最悪、余剰報酬ゼロの可能性もあるし。

「な、なによ! そんなの私何もできないじゃない! 回復魔法の使えるレイアと身体強化の付与ができるフラジールに比べて、眷属魔法もスクロールも使えない私が一体どうやって貢献しろっていうのよ!」
「今回の上限は一人10体だ。なおキングの素材だけは山分けだから、ミリアにも最低限の報酬は・・・」

──キッ!

「・・・はい、黙っています」

 どう自分がパーティーに貢献できるのかと、駄々をこね始めたミリアを説得しようとしたウォルターであったが、鋭い一瞥によって、無念の撤退を余儀なくされる。

『確かに・・・』

 同時に、僕は少しミリアに同情する。今回、ミリアは前回も参加していただけに仲間はずれはかわいそうだと討伐に誘ったが、マリア様から眷属魔法とスクロールの使用を禁じられ、かつ絶賛現在魔法特訓中のミリアからしてみれば、かなりきつい報酬制度であろう。であれば──

『イデア』
『はい。マスター』
『こんな感じでこう・・・あとミリアだけしか使えないようにして、コピーしただけじゃあ起動しないよう魔力解析の暗号化も加えて──』
『500MPで手を打ちましょう』
『わかったよ・・・はぁ、どんどん借金が嵩むな〜』

 イデアに脳内でイメージを伝えて、ある魔法陣の構築を頼む。ついには自分が自由に使っていいと許された魔力をMPと呼び、通貨のように請求してくるオリジナルスキルには、本当ため息が出る。昔はこんなこともなかったのに・・・。

『できました』
『早いな』
『それはもう、私は優秀ですから。しかし私のマスターは、こんな優秀な相棒を捕まえておいて報酬を出ししぶ』
『はいはい。どうせ僕は強欲で汚いですよ』

 頼んだものが完成したと報告すると同時に、僕の感情を読んで反論してきたイデアは適当にあしらう。もうこのやり取りも、慣れたものだ。

「ミリア」
「何よ・・・」
「その腰につけたポーチ、貸して」

 突然、腰につけたポーチを貸せという僕に首をかしげるミリアから、それを受け取る。

「中身は一回取り出して・・・」
「きゃーッ! ちょっとリアム! なにいきなり乙女のポーチの中身をまさぐってんのよ!」

 唐突に、受け取ったポーチの中身を取り出し始めた僕を、可愛い奇声をあげたミリアが殴る。

「い・・・痛い」
「今のはリアムが悪いわね」

 顔を真っ赤にしてポーチを抱えるミリアと、殴られた頬をさすって痛がる僕の間に入ってエリシアがニコリと笑う。

「あ、あのエリシアさん・・・圧がすごい」

 しかし僕にとってその微笑みは死刑宣告も同然、もちろん彼女からはただならないオーラが立ち上っているように見えるわけで。

「フフフ・・・」

 一歩、また一歩と、恐怖の旋律を漏らしながら近づいてくる。

「ま、待って! 僕はただ、ミリアのポーチに細工を施そうとしただけで!」

 これには僕も一溜まりもなかった。たじろぎながらも、振り絞った精一杯の言い訳を彼女にする。

「細工?」
「うん、そう細工!」

 よかった。なんとか恐怖の行進が止まった。

「ミリア、突然中を触って悪かったよ。でも一回、その中身を出して僕にポーチだけを渡してくれる?」

 そして、僕は後ろで未だ顔を真っ赤にしてポーチを抱えるミリアに再度、ポーチを渡して欲しいと申し出る。今度は言葉を間違えない。

「ふ、ふーん。そんなに私のポーチが欲しいんだ」
「だから違うって・・・今その手の挑発は僕の身が危ないから、本当にやめて」

 しかし一転、どこか嬉しそうに僕を挑発するミリアに、背中に鋭い視線を感じながら、その中身が取り出されたポーチを受け取る。

「ペースト」

 そして、受け取ったポーチの中に手をかざして魔法鍵を唱えると──

「何かポーチの中で光ったわよ?」
「うん、成功だ」

 突如光を放ったポーチに興味を示すミリアを他所に、僕はその中に刻まれた魔法陣を見て一人、満足する。

「ミリア、突然だけどこのポーションをポーチの中に入れてみてよ」
「消えた!?」
「よし、それじゃあ今度はポーチの蓋を開いたまま、『中級ポーション一つ』って唱え──」
「中級ポーション一つ!」

 僕の説明を最後まで聞くこともなく、指示した通りの言葉を口にするミリア。

「リアムこれって!」

 彼女はパァッと雲が晴れたかのような表情で、既にでている答えをあえて僕に尋ねる。

「容量は10Lほどだけど、アイテムボックスだよ。大気中の魔力を一定量吸収して魔法陣は常に待機状態、ミリアの魔力をスキャンして、登録した魔力保有者の呼びかけに音声で反応する陣を織り込んだ優れものだから、最悪盗まれても中身は取られないよ」

 僕は当然、ミリアの待ち望んでいたであろう解答で、答え合わせを行う。しかし──

「でもリアム、どうやって個人の亜空間を新しく創りだしたの? 確か個人ごとに空間属性の魔力に反応することで違う亜空間に繋がるから、決して同じ空間は開かないんでしょ?」

 一体その亜空間はどこに繋がっているのかしら・・・と僕に詰め寄ってくるエリシア。その口ぶりは、なんだか重い。

「心配しないでエリシア。それは刻んだ空間属性魔力の変換プログラムを基礎に、ミリアの持つ魔力と掛け合わせて、本来空間属性の魔力を使えば繋がるであろう彼女の亜空間を無理やりこじ開けて放り込んでるんだ。だから決して僕の亜空間を割り当てたわけじゃない!」

 それから、身の危険を感じた僕は必死になって違うと冤罪を主張するわけなのだが──

「おい今こいつ、またさらっと恐ろしいことを言ったぞ」

 詰め寄ってくる彼女の背後から、またかと言った様子であきれたアルフレッドの漏らすため息が後ろから聞こえてくる。しかし今更、このメンバーに力を隠す必要性なんて・・・

「魔力属性変換の過程を解いてそれを更に陣化した・・・そんなことあり得るのか!?」

 突如、気が動転してしまい平静さを失くしてしまったニカの叫びが・・・あったわ、必要性。

「それに魔法陣をミリア以外の人がそのままコピーしても使えないのがその証拠! そもそもコピーして仮に使えたとしても、登録してある本人以外にはほぼ絶対に同じ空間を開くことはできないから、最悪魔法陣の写しをとっておいてそこからアクセスをすることも・・・」

 しかし僕が解説のために動かしている口を止めることはなかった。理由は──

「ちょっとどうなってるんだウォルター!」
「い、いや待て、確かにすごいってことはわかったんだが、俺にはスクロールや魔法陣とこれの違いがよくわからん・・・」
「馬鹿なのかお前は!? いや馬鹿だったか!!!」

 単純に、動揺しすぎて胸ぐらを掴みウォルターに迫るニカの矛先がこちらに向くことを避けたかったからだ。
 
「魔力と属性の因果関係は、王都でも各機関が魔法分野における最大の謎として研究されているテーマの一つだ! 確かギルドも数十年以上は研究しているってハニーさんから聞いたことがあるくらい凄いことだぞ!」

 興奮気味に、胸ぐらを掴んで腕を動かすニカによって、ウォルターの首から上がグラグラと前後に揺れる。

「ええーっとつまりだ! 馬鹿なお前にもわかるように説明すれば、魔法陣やスクロールが図形や文字の型に押し込めて強制的に魔力を変質させているのに対して、リアムがやったのは私たちが普段から使う魔法のようにイメージだけで変質させることのできる自由な魔法属性へと変換を行う技術で・・・」
「落ち着けってニカ!・・・どちらにしてもわからん!」
「もちろん最適化させたフィルター、ソート、機能を搭載させて軽量かつ高速の検索も可能、並び替えを応用して放り込むだけで亜空間の中を自動整理してくれる高機能付き・・・」

 恫喝にも近い状態で胸ぐらを掴まれながら乱心するニカをなだめようとするウォルターに、それに巻き込まれないよう御託を並べまくるぼく・・・その場はまさに、カオスだった。

『そうだ!』

 しかしここで僕は一つのアイデアを思いつく。この状況を丸く収める唯一の活路を。

「という魔法陣を格納したレガシーがたまたま手元にあったので、ポーチに使っただけなんですけどね」
「「「・・・は?」」」

 その場にいた誰もが、僕の発言に疑問を呈して苦悩する。

「みてください、これがその魔法陣レガシーが封じ込められていた魔石です。もう使用済みなのでただの空っぽの空間属性の魔石ですが・・・」

 だが僕は再び、場の雰囲気ガン無視でペラペラと口を止めずに嘘八百を述べる。同時に、右手に魔力を集中させて今作った空間属性の魔石付きで。

「いやちょっと待て・・・そもそも空間属性の魔石は希少なんだ! これだけの大きさでも、大銀貨2枚はす・・・」

 しかし、僕の予想に反してまさかの魔石の方に飛びついてしまうニカ。そして──

「混じりっ気がなさすぎる! これだけの純度なら5枚は確実にするぞ!」
「マジかよ!」

 素人目ながらも、魔石を鑑定した結果を興奮気味に口にするニカ。鑑定方法は空に魔石をかざして透明度を見るといういたってシンプルな方法だったが、彼女、相場を直ぐに言えるあたり見た目と言動に反して多才だ。やはり努力家なのだろう。

『これ・・・どう転んでももう修正できないかも』

 この時、心の中で『あ・・・これダメなやつだ』と何を言っても墓穴を掘ることを僕は悟った。そしてもうこれ以上、この件について話すのは止めようと遅すぎる方針転換を行うのであった。

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