アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

127 4月

──4月。

「ふぁ〜・・・おはよう」

「あら、おはようリアム! ねえ見てみて! このティナちゃんの姿!」

 朝日が昇り空が青く光りを持ち始めた頃、早めに起きた僕よりも先に起きていたティナの向こう側でかがんでいた母さんが挨拶を返すとともに、向こう側を向いていたティナをくるりとこちらに向かせる。

「・・・おはようございます。リアム様」

 母さんに少し強引に向きを変えられたティナは、どこか恥ずかしそうな態度を見せながら、朝の挨拶を交わす。

「わぁ・・・似合ってるよ、ティナ」

 そんな愛らしい彼女と、彼女の纏う服を見て、僕はそれを褒める。

「あ、ありがとうございます・・・」

 すると照れたのか、頬を真っ赤にしながらも、ティナが僕から視線を逸らしてしまう。

「ふふ。朝ごはんできてるわよ、リアム」
「うん。ありがとう母さん」

 そんな朝の一幕をそばで見ていた母さんはクスリと笑ってみせると、温かいうちに食べなさいと、テーブルの上に並べられた朝食の席へと僕を勧めてくれた。

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「おはようリアム。おはようティナちゃん」
「おっはー二人とも!」

 通学路、僕たちは森の木陰のポーション屋に立ち寄り、レイアとラナと待ち合わせる。

「うっはー・・・かわいいぞ、ティナちゃん!」

 いつもの明るい元気な挨拶をしたかと思うと、そのままの勢いのままに、僕の隣にいるティナに思いっきり抱きつくラナ。

「んッ・・・」

 すると、妙に色っぽいというか驚きと戸惑いが混じり合った吐息を漏らすティナ。どうやらラナが抱きつくと同時に、ティナの尻尾を触ったようだ。

「ウヘヘ〜・・・もふもふ〜」
「ちょっとダメでしょ、ラナ姉!」

 そんなティナの反応を見たレイアが、慌ててラナの引き剥がしに取り掛かる。

「イヤダイヤダ嫌だー! リアムは家じゃいつもティナちゃんと一緒だし、それにレイアは今日から同級生でしょ!」

 私は断固拒否する・・・と、頑なにティナから離れようとしないラナ。

「ハハハ・・・別にずっと一緒っていうわけではないんだけど」

 僕は困ったな・・・と、ラナの発言に対して頬を掻く。

「しょうがないでしょ! ラナは中等部なんだから!」

 しかし、それでも引き剥がしを諦めようとしないレイア。結局、このせめぎ合いは数分ほど続き、レイアが折れる形で終わった。

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「はぁ〜・・・もうお別れなんて寂しい〜」

 校門につき、それぞれのクラスに別れるために、ここまでずっとティナにべったりくっついて来たラナが離れたくないと駄駄をこねる。

「ほらラナ! 行くわよ!」
「あーん! またね、ティナちゃ〜ん」

 すると、途中から一緒になった彼女のクラスメイトのコロネが、無理やり彼女を自分たちの教室へと連行していく。

「それじゃあレイア。僕は自分の教室に行くから、ティナのことをよろしくね」
「うんリアム。任せて」

 それから僕たちも、それぞれの教室に向かうべくここで別れるのだが、その前に──

「肩の力を抜いて、何かあったらレイアを頼るんだよティナ」

 これから新しい環境の中で頑張らなかければならないティナに、僕なりの激励を送る。

「・・・はい、ご・・・リアムさ!・・・リアム」

 すると一瞬、僕の呼び方に戸惑ってしまったものの、言い直してそれに応えるティナ。流石にここでご主人様などと呼ばせると、色々といらぬ誤解を生みかねないため、前もってここ2週間ほどのうちに、彼女の僕の呼び方を矯正して来た。うん、この調子なら大丈夫だろう。

「・・・フゥ。それにしても・・・」

 そうして、離れていく小さな背中二つ見送った僕は、フゥ・・・と一息をつくのだが──

「やっぱり、こうなるよね」

 同時に、それはため息でもあった。先ほどまではみんながいてくれたから、気づいてはいたもののあまり気にはならなかった視線。好奇のものをもの見る、あるいは少し怖いものを見るような奇異の視線が。

『・・・でも』

 僕の心は直ぐに、安心に包まれる。校庭の隅の木陰で、こちらをチラッチラとみる、また異色の視線に気づいたからだ。

「アルフレ・・・」

 そして、僕はその視線の主に声をかけるべく、近づきながら彼の名前を呼ぼうと・・・したのだが──

「まて貴様!」

 突然の怒声によって、それは遮られた。

『誰か絡まれているのか?』

 僕は辺りをキョロキョロと見渡し、その声が聞こえて来た方を探す。

「何をキョロキョロとしている! こっちだ、こっち!」

 するともう一度、今度はしっかりと限定した方向を特定できる声が僕の後方から聞こえて来た。

「えっと・・・もしかしなくても、僕でしょうか?」 

 僕はその声にイヤイヤ、嫌な予感を感じならがも、無視をするわけにも行かずに振り返る。
 
「チッ・・・平民風情が、僕の手を煩わせやがって」

 すると、そこにいたのは僕と同じくらいの背丈の少年がいた。それにしても、随分と乱暴な物言いである。
 
「何かご用で?」

 これは厄介そうなのに絡まれたな・・・と、僕は内心その状況を嫌悪しながらも、早々に決着をつけるべく、ストレートに用を聞き出す。

「はぁ? 貴様まさか僕のことを知らないのか?」

 しかし、彼は僕の問いがまるで意味がわからないと言わんばかりに首を傾げると、妙ないちゃもんをつけてくる。

「悪いけど、知らない。どちら様?」

 そこで僕も質問を切り替える。こういう手合いは、力を入れず、それとなく聞き手に徹するのが吉だ。反論するのは、相応の状況に陥ってからでも遅くはない。

「貴様・・・! バカにしてるのか!」

 しかし、僕の思惑は外れて突然キレ始める。

「えぇ!?・・・っと本当の本当に知らないんです! どこかでお会いいたしましたでしょうか!?」

 これには僕も、虚をつかれた。思わず敬語になる。すると──

「おい貴様! 僕の友人に随分な物言いじゃないか」

 またもや背中から、いや、この少年のために僕は振り返ったから、先ほどまで僕が見ていた視線の方向からというのが正しいか、聞き覚えのある声が会話に乱入してくる。

「アルフレッド・ヴァン・スプリングフィールドか。チッ・・・厄介な奴が」

 すると、またしても、今度はアルフレッドの顔を見て舌打ちをしてみせる少年。

「ん?・・・貴様は・・・」

 しかし、アルフレッドはその態度にはあえて拾わずに話を進める。ここはスクールの敷地内。ここの中では貴族平民関係なく、自らの権力を振りかざすのはご法度だ。

「確か、ウォーカー家の長男ではなかったか?」

 そしてどうやら、アルフレッドは急に僕に突っかかって来た彼に見覚えがあるらしいかった。

「いかにも、私はウォーカー家の長男ゲイル・ウォーカーです」

 アルフレッドの言葉に対し、自己紹介をしてみせるゲイルと名乗った少年。しかし──

「しかしアルフレッド様には、今は席を外していただきたい。僕が用があるのは、この愚民です」
 
 下げた頭を早々に上げると、会話に乱入して来たアルフレッドに難癖をつける。彼が友人と言った僕の罵り付きで。

「貴様・・・わかった上で今、こやつをその腹ただしい呼び名で呼んだな」

 ギラリとにらめつけるアルフレッドから、静かに煮えたぎった憤りが立ち上る。

「おやおやアルフレッド様。ここはスクールであり、この場で起こる全ての事柄において権力を振りかざすのはご法度ですよ? そちらこそ、ご自身の外での立場を理解した上で、その威圧するような態度をとっているので?」

 それに対し、彼の立場を逆手にとって、挑戦的な態度をとるゲイル。

「しかしアルフレッド様の乱入で興が削がれましたし、時間も迫って来ているので・・・。彼への用はまた、次の機会にいたしましょうか」

 そしてフフッと上から軽く笑ってみせると、ゲイルはくるりと踵を返してこの場をさっていく。勝ち逃げだ。

「クソッ! まさかあんな高慢な態度を僕にとってくるなんて!」

 たち去り際の彼の態度も合間って、悔しがって地団駄まで踏むアルフレッド。こんなに憤る彼を見るのは、いつ以来だろうか。

「すまないリアム。乱入していながら言いたい放題言われてしまった」

 そうして、しばらくの憤慨の後、落ち着きを取り戻したアルフレッドが、僕に謝罪する。

「気にすることはないよアルフレッド。そもそも僕は彼の話を取り合ったわけじゃないし」

 突然の呼びかけと不遜な態度に対して名前を聞いただけで、別に僕は彼の話を取り合ったわけではない。であるからして、僕は彼の言うことは全て、僕にとっては周りを飛び回るハエの羽音と同じ、戯言なのだと、好き放題言われてしまったアルフレッドを励ます。

「恩に着る」
「いいや、こちらこそ」

 そうして僕は、励ましに対して感謝するアルフレッドに対し、感謝で返す。実際、あの唐突で不躾な態度をとった彼に、あのまま絡まれていたらと思うとかなり面倒くさい。そう考えると、アルフレッドが僕の代替わりをしてくれたおかげで、突然の衝突が避けられたと言ってもいい。

「それで、アルフレッド。彼は何者なのかな?」

 それに、彼の情報を僕よりも握っていそうな彼にこうやって話を聞けることは、次の邂逅の時のビハインドにもなる。もちろん、出来るだけ避けるに越したことはないのだが。

「奴は僕らと同じ学年で、確かAクラスだったはずだ」

 僕の質問にアルフレッドが知っている情報を答える。

『年上・・・か』

 僕はその情報に、ゲンナリとする。確かにここ、スクールでは権力に対する上下関係は撤廃されているものの、学年、つまり年齢に関する上下関係は、前世の学校のように存在している。
 クラスも違うし、同学年にはエリシアやアルフレッド、フラジールもいる。それにすでに初等部の範囲の勉強を終えてしまい、日中ブラブラとすることも多くなってしまった僕からすれば、そりゃあ他の学生と比べて大した問題ではないかもしれないが、それでも、僕のタメ口を許してくれる学友やクラスメイトに比べて他の同学年の生徒というのは、この上なく気を使う存在で、その境界線の見極めが非常に面倒くさい。

「それにあの態度だしなぁ〜」

 僕は心の中で、彼の先ほどの高慢な態度を思い出して憂鬱になる。

「全くだ。こういう言い方は好きではないが、平民の身分でこの僕に楯突くなんて」

 訂正。アルフレッドが僕の心の声に応えた。どうやら考えを声に出してしまっていたらし──

「へっ? いまアルフレッド、なんて言ったの?」

 ──い? 僕はその耳を疑うようなアルフレッドの漏らした情報について、情報を漏らした本人に質問する。

「ああ。『平民の身分でこの僕に楯突くなんて』・・・と言ったんだ。あいつは家名持ちだが、リアム、お前と同じ平民だ」

 今、僕は錯乱系の魔法をかけられて状態異常にでも陥っているのだろうか。いいや、それは紛れもなく異常な僕の魔法防御の高さが違うと、脳内に警鐘を鳴らす。

『まさかそれで、アルフレッドにここまで言っちゃうなんて』

 そしてまさかの衝撃が、僕を襲う。ただの平民が他領とはいえ、いや、だからこそ。辺境伯であるスプリングフィールド家の次男であるアルフレッドにあそこまでの態度をとるとはなんとも豪鬼、いや愚か ・・・とにかく、未だ僕の混乱が解けないほどの驚きであった。
 確かに、スクール内では権力を振りかざすことが禁止されているが、それはあくまでも、内、の話である。であれば地位が上、ましてや地位も身分も上である貴族に目をつけられようものならたまったものではない。そんな自分、そして己に留まらず家族やその友人にまでも影響力を持ち、人の人生を軽く変えてしまえる力を持った彼らには噛み付くべからず・・・そういう暗黙のルールが存在しているのもまた、事実である。

「制裁して欲しければ、いつでも僕に言え」

 だからこそゲイルが、いつもよりかなり強い口調で、「頼れ」と、アルフレッドにここまで言わせたこともまた、驚きであった。

「らしくないよ、アルフレッド? ・・・でも本当に困った時は、頼りにさせてもらうよ」

 しかし僕はそんな彼を、「らしくない・・・」と、諌める。流石にこれっぽっちの出来事でここまでキレるとは、彼らしくない。

「ああ、そうだな・・・そうだった」

 アルフレッドが、視線をうつ伏せ気味に呟く。どうやら、気分も落ち着いてきたようだ。

 それにしてもウォーカー・・・。何処かで聞いたような聴かなかったような、家名なまえだなぁ。

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