アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

126 後処理

 僕たちがキング討伐を達成してから1週間、ギルドから呼び出しをくらった僕と父さん、そして母さん。

「ごめんなさいリアムくん! 私あなたの個人情報を漏らしちゃって・・・」
「つまり父さんと母さんの息子だってことをポロっと言っちゃったってこと?」

 そして僕は今、見知らぬ同年代の少女から謝罪を受けていた。
 どうやら彼女はコンテストの実況係、ボス戦時の僕たちのパーティーの実況を勤めていたらしく、その時勢い余って僕の個人情報をポロッと漏らしてしまったらしい。

「ならそこまでの問題はないんじゃないですか? 別に僕が父さんと母さんの子供だってことを隠しているわけじゃないし」

 しかし僕はそこに、ギルド長室まで呼び出されて泣きながら謝られるほどの問題があるのかと首を傾げてしまう。
 そりゃああれだけ派手にやらかした手前、家族の情報が漏れたのは少しいただけないが、街の中で今までも父さんと母さんとは一緒に何度も出かけているし、秘密にしているエリシアとの婚約やステータスの情報などのことを考えると、そんなことは今更だろう。
 それに、父さんと母さんはこそこそ僕との繋がりを隠さないといけないようなそれで体裁を悪くする人たちではない。僕にとっては強く、優しい自慢の両親だ。

「それにその剣狼? というのと、炎獄という名前については僕も詳しくはわかりませんが、昔父さんと母さんがレイア達のご両親やリゲスさんとパーティーを組んでいたというのは聞いたことがあります。でもそれも10年以上も前、であれば息子の僕より、どちらかというとより当人である父さんと母さんに謝罪して許してもらう方が適切なのではないでしょうか」

 そこで僕は、漏洩の件にはあえて一歩引いた立場から話を進める。
 先述した通り、二人は僕の自慢の両親であるし、その単語はキング討伐から凱旋した当日に、歓声に混じって聞いた覚えがあった。
 その時の記憶から、それが憎しみなどに満ちたものではなく、黄色い声援だったことから、昔実は二人が悪逆の限りを尽くし素行の悪いヒールな冒険者でした・・・なんてオチもないだろうとも踏んでいた。

「ウィリアムさんいいのか? こいつ事の重大性について全く理解してないぜ」
「しょうがないさ・・・隠していた俺も悪いからな。今はスルーしておこう」

 僕とナノカの出会いの隅でこそこそと、そんなことを話していた父さんとダリウスのことは知らなかったが。

「とにかく、僕にとっては自慢の両親なわけです。であればそうですね・・・もし・・・、もし僕の家族にこれで危害が及ぶようなことがあれば国、・・・いえそこまで広義的には捉えずとも、この街でも相当な権力を持つギルドが、反対勢力から家族含めて全面的に守ってくれるんですよね?」

「全く末恐ろしすぎるぞ、お前・・・」

 最近可愛げがなくなってきたな〜・・・と、圧力をかける僕本人の前で感情を隠すことなく愚痴るダリウス。歯に布着せぬ物言いでこちらの方が安心といえば安心なのだが、僕はそんな感情ダダ漏れの態度をとる彼に、ナノカよりこっちの感情制御を鍛えた方がいいのではないかと心配になる。

「僕の好きな言葉の一つに、『失敗は成功の母』という言葉があります。例え99回失敗しようとも、その失敗はその後に訪れる1回の成功へと繋がっている、失敗してもその原因を追求して次に昇華していけばいいんです」

 少し得意げに、僕は未だしょげているナノカに向けて発明王の言葉を引用してエールを送る。これからは良い意味で、彼女とは二人三脚になるのだ。であれば、このくらいのフォローは──

「あの、流石に99回も失敗するとこちらとしては立つ瀬がなくなってくるんですが・・・」

 すると、僕の発言を聞いたナノカが申し訳なさそうにしながらも、そんなことを言う。

「ナハハ! いやそうですよね!その99回というのは極端な比喩で要は今回の失敗は取り返せる失敗であるということを言いたかったわけで、新人同士頑張りましょうというか、ナノカさんにはこれからもお仕事を頑張っていただきたく・・・」
「こらナノカ! リアムくんが気を使ってくれてるってのにわざわざ揚げ足とるんじゃないよ!」
「だってニカぁ〜」
「嫌だなぁ〜そんなに真正面から取られると照れるというかハハハハ」

 結局、良いことを言おうとした僕はその後の体裁を取り繕うのに精一杯だった。格好つかないなぁ〜。

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「そういえばリアム・・・お前、ファンクラブできてるぞ」

 場も落ち着きを取り戻し、ニカとナノカが部屋から退室した後、執務を再開しつつ書類に判を押すダリウスの口から、ポロッとそんなことが告げられる。

「へっ?」

 僕はそんな彼の右腕、副ギルド長の入れてくれたお茶を片手に硬直する。

「そういえばそうだったな。パピスちゃん元気かなぁ」
「ウィル?」
「はいッ! 特に深い意味はありません!」
「よろしい」

 そして隣で一緒にお茶をしていた父さんと母さんも、どうやらそのことを知っているようだった。

「最近そっちの担当から愚痴を聞かされてな。いやなに、お前の預かり知らぬことだと今の反応を見ればわかるし、どうにかしろというつもりはないが・・・」

 次々と、副ギルド長が机の上に積み上げていく書類を片っ端から片付けていくダリウスが、視野を書類に限定しつつ──

「リアム、お前帰りにでも集会課の方に顔を出して担当者たちを労ってやってくれないか? 」
「はぁ・・・それにしてもなんで僕が・・・」
「いけばわかる」

 僕の疑問に対し、いけばわかるというなんとも力強い言葉を返すダリウス。

「わかりました。それじゃあ今日帰りにでも寄ってみます」

 しかし一体何がわかるというのだろうか。その曖昧でもある言葉にとりあえず僕は、その裏に隠れた意味を見当しながらも、了承の意を示す。すると──

「話も弾んでいるところ申し訳ないのですが」
「これが弾んでいるように見えるとかやっぱお前」

──キッ!

「いやぁ〜さすが副ギルド長!よっ!秘書の鏡!」
「ですよね。この仕事は私の天職のようなものですから・・・ね゛!」
「・・・はい。大人しく仕事します」

 ダリウスの隣で、積み上がった一つの書類の山を別の机に運んだ副ギルド長から、僕に声がかかる。

「まずはこれです。Cランク昇格によるシルバープレートの贈呈と、リアムさんの口座の開設が終わったので、その書類の控えです。また、ご用命いただいた通り、アイナ様の口座に金貨3枚分のお金を振り込んでおきました」

 渡された1枚のシルバープレートと口座開設の旨が記載された紙。そしてこのシルバープレートは、冒険者のランクを表す一つの指標だ。
 冒険者にも、モンスター同様にランクがあり、それはギルドカードに表示される。オブジェクトダンジョンが出現するより昔は、ギルドが独自の審査基準に基づいてランクの昇格、降格を審査し、このプレートの色が冒険者の全てを物語っていた時代だったらしいが、今は少し違う。
 今はこの、今まで倒したモンスターランクや依頼の量に合わせてより細かに、ギルドの裁定したランクに合わせて設定されたF〜SSSまでのアルファベットによってそれが算出される。しかしまた、この審査システムには昔の名残も残っており、ランクF〜Dをカッパー、C〜Bをシルバー、Aをゴールド、S以上にミスリルやオリハルコンといった珍しい鉱石で打たれたプレートを配給することで、更に冒険者のそれを大まかかつ簡単に分類する基準となっている。

「ありがとうございます、ハニーさん!」

 ついこの間まで僕はランクF、一番下のランクだったのだが、今回のキング騒動によってランクが一気にCに跳ね上がっていた。

「いえ、これからはギルドカードをご提示をいただければ、窓口から貨幣の預け入れも引き出しもできますので、存分にご活用ください」

 それを受け取った僕からの精一杯の感謝に対し、副ギルド長のハニーが応える。
 
「はぁー・・・本当にそんだけ短期間で稼いじまったんだなリアムのやつ」
「あら、確かリアムの話だとこの半年で白金貨10枚も稼いじゃったみたいよ?」
「ブッ!・・・は? それは聞いてないぞ!?」
「だってウィルったらそういうお金のことは私に任せっきりじゃない。だからあの子に負けないように、あなたも頑張って働いてね?」

 私、今欲しい服があるの・・・と、吹き出してしまったお茶の後始末をする父さんに微笑みかける母さん。

「それから・・・どうぞ」
「・・・ッ! ありがとうごさいます、ハニーさん!」
「いえ、いつも旦那が迷惑をかけている分の礼だと思ってください・・・それから──」

 そんな二人のマネーと物欲のせめぎ合いは他所に、僕はもう1枚、ハニーに別途で頼んでおいた件が済んだ証明の証である紙を受け取る。

「その・・・名で呼ばれるのは気恥ずかしいので、いつも言っていますが・・・」

 すると、それを受け取って喜ぶ僕に対して少し言いにくそうにハニーが──

「あ、はい。ありがとうございましたドッツさん」
「はい。どういたしまして」

 僕は改めて、彼女のことを名ではなく家名で呼び直す。そう、彼女こそ今目の前で執務に追われているダリウスの奧さんにして、唯一彼を御せるこのギルドになくてはならない貴重な存在なのだ。

『本当にいい人だなぁ〜ハニーさん』

 僕は心の底から彼女の優しさを感じていた。優しくて気配りできて綺麗な人だし、本当、どうしてこんな優秀な人が側にいながら、ダリウスが度々ギルド長室から逃げようとするのか。

『謎だ・・・』

 僕には未だ、彼の執務とその仕事の中心に身内がいる心の重責を理解できないでいた。まぁ──

「母さんこれ!」
「あらよかったわね。これでティナちゃんも寂しくないでしょう」

 そうして、嬉しそうにハニーから受け取った紙を掲げてみせる僕に、笑顔で応えてくれる母さん。

「リアム、そのだな。実は俺も前から商いに興味があってだな・・・」

 その後一瞬、父さんが僕に何かを言おうとするが──

「いや・・・よかったなリアム!・・・トホホ」

 まるで、何か超えてはいけない一線を踏み出そうとしたが、それを堪えるようにゴクンと飲み込み喉を鳴らす父さんが、一瞬目を逸らしたかと思うともう一度視線を僕に戻した後に、その掲げた成果について褒めてくれる。
 その声からは嬉しいような悲しいような、そんな複雑そうな前世でもよく言われていた、お父さんの哀愁的なものが見て取れた。

 ・
 ・
 ・

「次の方ァ〜どうぞ〜」
「はい」
「り、リアム様ぁ!? アテッ!」

 帰り際、僕はダリウスに言われたままに、ギルド1階にあるノーフォークのあらゆる団体の管理を担う集会課の窓口に来ていた。因みに、父さんと母さんは先に帰った。なんでも、途中マレーネのところに寄るのだとか。

「あの、何やら僕のファンクラブが知らぬ間にできているらしく、その会の代表者や団体の確認をしたいのですが・・・大丈夫ですか?」

 僕はそれっぽい用事を申し付けつつ、突然立ち上がって机の淵に膝をぶつけて蹲る、受付の女性の心配をする。

「は、はい大丈夫です・・・ご用命は以上でよろしいでしょうか?」
「はい。お願いします」

 すると、その受付さんは未だぶつけた膝をさすりつつも、用事がそれ以上何かの確認をとる。さすがプロだ。

「・・・ところで受付さん、ギルド長からその、僕のせいで色々と大変だと聞いたんですが」

 そして、手続きを済ませている間に僕は、その受付のお姉さんにそれとなく本命である集会課の仕事の近状について尋ねる。

「ああ、リアム様のせいではありませんよ!・・・ファンクラブの方はまぁ・・・そうなんですが」

 やっぱり。僕はそれを聞いてそう思った。しかし、僕のその思考とは裏腹に、慌てて答えの訂正をしつつ、フォローを入れてくれるお姉さん。ただ勢いが、後半の勢いが急激に失速してしまったことが、非常に気になる。

「はっきり言っていただいて構いません。元々は僕の行動が軽率だったというか、もっと色々と気にしてから行動をとるべきでした」
「いえそんなことは! そもそもこういった急激に規模の拡大する団体を管理し対処するために、私たちがいるわけですし!」

 またしても、僕の発言に対し否定をしてフォローをしてみせるお姉さん。

「フゥ・・・それに全てが全て、悪いことばかりではないので、リアム様はお気になさらずに」

 そして「フゥ・・・」一呼吸置くと、僕を安心させるが如く、優しい言葉をかけてくれる。

「そうですか。では今はお言葉に甘えさせていただきますが、何か不都合が発生した場合はお知らせください。出来るだけ、ご協力させていただきますから」

 そうして、僕もニコリとその優しさを素直に受け取るのだが──

「それにしても、さっきから窓口の向こうの職員さんがチラチラと僕の方を見ているみたいなんですが」
「そうですね。彼らもみんなリアム様のファンクラブの一員ですから」

 その後、「まあ私も入会しているんですがね!」と堂々と付け加えたお姉さんが胸を張る。その様はなんとも誇らしそうというか、先ほど膝を打って唸っていた時とは打って変わって、キラキラと輝いていた。

「というわけでリアム様! 勤務中不躾、無礼は承知でありますが、是非握手だけでもしてください!」
「えぇ!? ・・・まあご迷惑おかけしているので握手くらいなら・・・ってえぇ!?」

 僕は遅延気味に二度驚く。そのお姉さんの唐突な握手の要求と、カミングアウトに。

「そう驚くことではないですよ? ここにいる私含めて、前から私たちはリアム様のことを存じ上げていましたし、ここ1週間毎日のようにファンクラブの設立申請や加入申請にくるファンとはまた別の理由から、リアム様を応援させていただいています」

 声を出して驚く僕に反して、お姉さんが冷静に説明する。

「というかおかしくありません!? 本人の知らぬ間に一体どれだけ加入申請きたんですか!? 」

 しかし、僕はそのお姉さんの説明を「あ、そうなんですね」と、素直に受け取ることはできなかった。
 キングを倒したことで多少なりとも印象に残るようなインパクトをあの日、コンテスト観戦者の人々一部に与えたのは事実なのかもしれないが、今でも記憶に新しい、その後の事件である。

「そもそも僕、皆さんから怖がられるようなことをしたり恐れられるようなことをした覚えはありますが、好かれ応援されるような好印象的な行動をとった覚えはこれっぽっちもないんですが・・・」

 そう、僕はあの日、一部加熱したオーディエンスに対して《威圧》を使って強制的な鎮圧を行ったのだ。
 であればこそ、団体や集会を管理する集会課がなぜ、ここ1週間常日頃の業務を逸脱して忙しなくしていたのかがわからない。それこそ、反発を生んだり軋轢から、抗議の一つや二つきてもいいはずなのに・・・一体クラブの設立者はどんな神経をしているのか、甚だ疑問であり、正直怖い。

「それがですね・・・そうですね、リアム様は今、ご自身が巷でなんと呼ばれているかご存知ですか?」
「いいえ。この1週間、諸事情によりほとんど外出していなかったもので」

 僕はお姉さんの質問にNoで答える。そう、ここ1週間は朝から晩まで、自身の装備を作るための裁縫に追われていたのである。故に今日呼び出しを受けるまでほとんど外には出ていなかった。

「トード殺しキラー、執行者に怪物モンスター新星ルーキー凍てつくフィアー・咆哮ロア、その怒りと雄叫びをかけて魔族七魔将の一人を模した《憤怒 / The Cry of Rage》なんてものまでありましたが──」

 どうやら、巷では僕の様々な呼び名が飛び交っているらしい。まだルーキーで呼び名が定まっていないとはいえ、少しバリエーションが厨二・・・酷い方に偏っている気がするのは偶然だと思いたい。

「特に多く見受けられるのはこの二つ、《小さな賢者 / リトルマギ》と《リトルウルフ / 年上殺し》ですね」
「あの、なんか2つ目のそれ、ニュアンスおかしくありません?」
「ああごめんなさい。これは一部の加入申請に来た女性ファンがキャーキャー言っていたのが耳に残っていただけで、本当は《狼の子供 / リトルウルフ》でした」

 すると、僕のツッコミに対してそれほど意味のない修正を行うお姉さん。

「でも、一部では言われてたんですね・・・」

 僕はそのお姉さんの言い直しにガクリと肩を落とす。おそらく後者の呼び名は昔、《剣狼》と呼ばれた父さんの息子であることからついた名であるのだろうが、前者に関しては完全に、不名誉的な意味からくる呼び名であるだろうから。

「ハハ・・・、ご存知の通り我々ギルドは、リアム様が激怒なさった時に倒れた観客達や周りからの反発を考慮して事の収集に当たったのですが・・・」

 落ち込む僕の様子を見て、同情の苦笑いを見せながらも、話を続けるお姉さん。

「しかし、そんな恐ろしい威圧を放っておきながら、助けた獣人の女の子をいたわって慈しむ姿に憧れた女性がとても多くて多くて・・・。結果、予想に反して観客達からのリアム様の印象は好印象で、それにその実力を目の当たりにした男衆共々怪物新星モンスタールーキーの登場に広場はお祭り騒ぎでもう一騒動あったのですが、リアム様の防衛行動に対しては抗議の一つも出ませんでした」

 結局、出たのは精々それを見ていなかった冒険者からの彼らのお祭り騒ぎに対する苦情のみで、僕に対する直接的な抗議は一つもおきなかったらしい。特に女性陣からあの、お姫様抱っこが大好評だったとか。

「本当に、ご迷惑おかけしてばっかりで・・・」
「確かに、そちらの火消しは必要ありませんでしたが、別の火消しはありましたからね」

 しかしそれに同調しながらも、「しかしリアム様の気にする事ではありませんよ」と、またしても優しい言葉をかけてくれるお姉さん。

「また、倒れていた女性達はギルドの方で保護した後に現状注意という事で注意だけして元の生活に戻ってもらおうとしたのですが・・・」

 すると、お姉さんが、何かとてもまずいものを見てしまったような表情を浮かべる。これにはまたしても、嫌な予感がする。

「監査課から彼女らが取り調べを受けているときに、誰が言い始めたか『あの衝撃が・・・運命?』『私、初めて運命を感じましたわ』・・・なーんて頭お花畑なことを加害者ならびに巻き込まれた方々が次々と言い始めて、別の意味で収拾がつかなくなりかけまして・・・」

 やれやれとあきれた様子で、その時のことを語るお姉さん。

「そこで、ならばいっそ輪の中に入れて監視した方が御しやすいという考えに達しまして、集会課、監査課、ダンジョン課の3課合意のもと、加熱し行きすぎた行為には及ばないという誓約を立てさせてクラブに入会させたわけです」

 ほらね、やっぱり・・・と、この時僕は思った。しかし同時に──

「変、人」

 僕の脳内に過ったこの2文字。そしてこの時の僕の目は天井のさらに先、どこか遠いところを見つめていた。

「ああ、勘違いしないでくださいよ!? ・・・私たちギルド職員は、決してそんなやましい感情からリアム様のファンクラブに入ったのではなく、偏にリアム様個人に対して皆、とても感謝しているからでして」
「感謝、ですか?」

 すると、僕の呟きを拾って自分たちまで一括りにされていると焦ったのか、早々に、自分たちギルド職員が僕のファンクラブに入会した理由を語り始めるお姉さん。

「はい。リアム様が来る前は、副ギルド長から逃げてきたギルド長が隠れるのに、無闇矢鱈とどこかの課に匿って欲しいと侵入してきていたのですが・・・」

 侵入。この組織の頭であるダリウスに対してそのきつい表現は一体・・・

「最終的に、職員の申告によって副ギルド長に見つかり連れていかれるわけなのですが、如何せんその間どうしてもギルド長が大人しくないというか、『最近の調子はどうだね』とか職務中に上司だからとそれっぽいこと訪ねてきて、その・・・」

「邪魔だったわけですか・・・」
「はい!うざかったのです!」

 再び、勢いよく席から立ち上がって拳を握るお姉さん。今度は膝はぶつけなかったようだ。そしてそこはしっかり返事するんですね、お姉さん。

「しかしリアム様が来てからというもの、その回数も劇的に減り、終業後に居酒屋で愚痴を聞かされることもなく私たちもまた、より仕事に打ち込めるようになりましたので」

 そして、スッと右手を差し出してくるお姉さん。

「僭越ながら、僕なんかの手でよろしければ・・・」

 僕も、差し出されたその手に応えるべく己の右手を差し出して彼女の手を握る。

『ああなるほど。だから僕の名前をあらかじめ知っていたわけか』

 そして同時に僕は、彼女がなぜ自己紹介もしていないのに初めから僕の名を知っていたのか、その理由ワケを知ったのだが──

「はぁ・・・まだ小さいお手手なのですね。可愛い・・・」

 お互い片手で握っていた手に、もう片方の手が僕の手を優しく包み込むように添えられる。

「くそぅ、羨ましい!」
「職務中でなければ・・・その手洗うなよ!後で間接握手するんだからな!」

 そしてその後ろでは、職務を全うするする職員の面々が、まるで血の涙を流すように悔しがる姿が──

『間接握手ってなんだ間接握手って・・・おいそこ、なぜにハンカチを噛む』

 僕はそんな彼らのオーバーリアクションに、思わず苦笑いだ。一体、ふらりとやってきていたダリウスがどれほどの迷惑をかけていたというのか、一応彼はこの人たちの上司でリーダーのはず・・・だ。

「はい。これがリアムファンクラブの管理書の写しですね」
「確かに、ありがとうございました」

 その後、僕は無事に登録してあるファンクラブの概要、設立者や設立目的の基本情報の書かれた紙の写しを手に入れた。これらは全て必要事項だけを抜き出した手書きによるコピーだが、お姉さんと話をしていたせいか、思いの外早かった。

『まじか・・・』

 そして僕はその用紙にサッとだけ目を通し、その設立者名の欄に書かれていた聞き覚えない人物の名前、その横に書かれていた働き先の欄を見て絶句する。

「ではこれ、よかったら皆さんで召し上がってください」
「これは?」
「チョコレートです」

 しかし僕は一旦冷静さを取り戻すと、その用紙を亜空間にしまい、同時に普段から苦労している集会課職員のストレスを少しでも軽減したいと、僕は先日ダンジョンの交換所で手に入れた20個ほどのチョコが入った箱を2、3箱取り出す。

「ちょちょちょチョコレート!? そんな高級品をしがない事務員である私共に!?」
「そんなしがないなんて・・・実は先日、これをとても安く入手する機会がありまして、大量に購入したのですが一人では食べきれなくて」

 突然の、普段目にしない高級嗜好品を積まれて取り乱すお姉さんを前に、余りものですが、と、あくまでも誤算があったためにその処理を手伝って欲しいという体を装って、僕はチョコレートが入った箱を差し出す。

「こんなにたくさん・・・グス」
「お姉さん?」

 すると、それを目の当たりにしたお姉さんが感嘆とした表情を見せ、グスっと鼻をすする。そして同時に──

 ・・・ゴーン・・・ゴーン。

 外から、町中に響き渡る教会の知らせるお昼の鐘の音が、ギルド建物内にも届く。

「ちょうどいいタイミング! よし、みんなリアム様からの差し入れよ! リア充じゃない人間から取っていきなさい!」
「あ、ずるいですよ先輩! 最近忙しすぎて彼氏に見限られたからって自分だけ!」
「いいんですぅー! 私はリアム様の応援と仕事に生きるって決めたの!」
「いつですか!!」
「今!」
「子供か!」

 そして次の瞬間、気付いた時には受付の窓の向こうでチョコレート争奪戦が始まっていた。どうやらこれから昼休みのようで・・・あれ? 心なしか人が多いような──

「あなた庶務課でしょ! これはリアム様が私たち集会課にくださった差し入れ・・・こら住民課!」
「ギルドの働き方の基本は助け合い! 今週忙しそうだったあなたたちのサポートに回った他部署もこの差し入れを受け取る権利がある!」
「そうだそうだ!」

 どうやら、昼休みに入った他の部署からも、チョコレートの存在を嗅ぎつけた職員たちがやってきたようである。仕切られているのは窓口だけ・・・だからなぁ。

「そんなの屁理屈よ!」
「いいえ事実よ!」

 そうして、あっという間に次々と箱に入っていたチョコレートが消えていく。思った以上にこの件に関する闇は深かったようだ。

「・・・はっ!みなさん待って! 全員に一つずつ行き渡るようにチョコを追加しますから!」

 僕は、しばらくその光景に圧倒されていた。しかし、ほとんど空になってしまった空き箱をなお奪い合い、それに加われずに外から悲しそうな目で見つめる職員さんたちにハッと意識を取り戻すと、慌てて追加分のチョコレートを亜空間から取り出す。

「あらリアム様・・・もぐもぐ、弱者に対するお気遣いは無用ですわよ・・・それより私とも握手を・・・」
「ずるい!リアム様、私住民課独身のスミカと申します。以後お見知り置きを・・・」
「何自分の交際関係まで自己紹介までしてるのよあんた! あ、リアム様、私は監査課の・・・」
「じゅ、順番に!」

 結局、チョコレート配布会&握手会は次の昼休憩終わりの鐘が鳴り響くまで続いた。あの目的を達するための直向きさ、そして次の目的に向かって突き進む彼女らの姿勢は、あまりにも積極的というか情熱的というか、少しトラウマになりそうなレベルでとにかく凄いものであった。

「また・・・交換所行かなきゃ」

 そうして、嵐のような昼休みを過ごした僕は一人、次の目的地に向けて足を動かしながらも、亜空間の中に手を突っ込んで、貯蓄分のチョコレートが確かに空っぽになってしまったことを確かめてガクリと肩を落とす。
 そりゃあチョコレートは高級嗜好品で庶民では手の届かないような品であるからして、争奪戦を起こす気持ちもわからなくはないし、別にチョコレートを全て消費してしまったからって自分から差し出したものであるからそこにグチグチケチをつけるつもりはない。
 しかしそれは別として、僕みたいな子供と握手したいとできたあの長蛇の列とその異常さから、今回彼女らの仕事を増やしてしまった張本人である僕が言うのもなんなのだけれど、・・・大丈夫なのであろうか・・・あの職場。

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「あ、いらっしゃいリアム君」
「こんにちは店長。ところで突然ですが、自称リアムファンクラブ会長の方はいらっしゃいますか?」

 ギルドの職場環境に対する疑問を抱えるも一刻、ギルドのある中心区から直ぐの商業区に居を構えるテーゼ商会本店に顔を出した僕は、出迎えてくれた店長に用を言いつける。

「ああ彼女だね。今裏で休んでるよ・・・おーいパピス君! お客さんだよ〜!」

 しかしなんだ。自分から言ったことであるとはいえ、自称リアムファンクラブ会長で話が通ってしまったことに疑念が募る。

「なんですか店長、せっかくの休憩を。私は今、リアム様ファンクラブのグッズ製作でいそがし・・・」

 すると、奥の休憩所から店に顔を出した一人の少女が──

「ぎゃ──ッ! リアムさ・・・」

 表に出てきて僕の顔を見た瞬間、鼻血を出しながら幸せそうな表情を浮かべてその場でパタリと倒れる。突如として倒れた彼女の表情は、それはもう幸せというか、とにかくニヤケながら鼻から鼻血をタラタラと流していた。チョコレートはまだ、渡していない。

『お前か──ッ!』

 一方で、対面した瞬間に僕は、その見覚えのある人物に対して心の中で叫びつつ、突如襲ってきた頭痛に頭を抱えてうずくまる。

「リアムくん? そんなところでかがんで見てもパピスくんの下着は覗けないのでは? もっとこう直接布をめくらなければ・・・」
「何言ってるんですか店長!! そうじゃないでしょう!?」
「フフフフッ、冗談だよ! 僕も君のファンクラブ会員番号第2号だから、多少のお茶目には目をつぶってね☆」

 そして、キラン☆としたキメ顔とともに、僕にウィンクを送る店長。

「あんたもか──ッ!!!」
「それはリアム君は我が商会の秘密兵器だからね。テーゼ商会ノーフォーク本店をあげて君の応援をさせてもらうよ」
「ニヘヘ・・・リアム様ぁ〜」

 僕の叫びに対して、ヘラヘラと笑いながらそんなことを言う店長と、失神しているはずなのに僕の名前を様付けで呼ぶパピス。

「ハァ・・・森に帰りたい」

 そして思わず漏れたその言葉、というかなんかふと言いたくなった言葉であった。

「何言ってるんだい? 君のお家は居住区2ーAー1だろう?」

 すると、店長が僕の呟きに対しておいおいとツッコミを入れる。なんと言うことだろうか、そういえばファンクラブのトップである彼らは付き合い上、僕の住所を知っていた。そしてもちろん、僕は正真正銘この街生まれのこの街育ち、帰る森などどこにもないのだが──

「もう頭痛い・・・彼女には後日、また尋ねるとお伝えください」
「はいはぁーい。またね、リアム君」

 なんとか絞り出した約束の取り付けを店長に頼み、僕は重い足取りで家へと帰るのであった。

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