アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

123 祝勝会

「ねぇ、このびちょびちょ乾かしちゃダメ?」
「ダメよ! それはあんたへの罰! しっかりと反省しなさい?」
「うへぇ・・・ハクチッ」

 僕たちは今アース側、ノーフォークの街へと戻って公爵城へと向かっていた。

「ハックション!り、リアム殿・・・あともう少しの辛抱です。耐えましょう」
「はい・・・ジュリオさん」

 状態異常で表すならば、状態異常《びしょ濡れ》と言ったところだろうか。春先のまだ少し冷たい風が無情にも僕らの体温を攫い、先ほどから震えからくるくしゃみが止まらないでいた。

 えっ? ダンジョン内で蓄積した疲労や状態異常といった健康状態はガイアからこちら側に戻ってくると、全て潜入前の状態へと戻るのではないのかって?

 もちろん、僕たちはあちら側からこちら側に転送陣で戻ってきたときにすっかり元どおり、潜入時同様身も心もリフレッシュした状態で帰ってきたのだが、ミリアが戻ってきて早々元気にはしゃぐ僕たちを見た途端に、再びウォーターボールのスクロールを使って僕たちをびしょ濡れ状態にしたのだ。
 おかげで僕たちは先ほど広場で感じていた視線とはまた違う異色の注目を浴びながら、街中を歩く羽目となった。

「こんにちは・・・」

 そしてなんとか検問所を通り、公爵城についた僕たち。もしミリアとジュリオ、アルフレッドがいなければ僕はそこを通過できたかどうかも怪しい。

「どうしたのリアムくん!? びしょびしょで!?」
「騎士さんもびしょ濡れですね・・・一体何が」
「あらあら、さしずめ小さなお姫様を怒らせて逆鱗に触れてしまったというところかしら」

 すると、出迎えてくれたのはマリアとリンシア、そして母さんの母親三人組だった。

「いえその・・・、ミリア、そろそろ乾かしてもいいかな?」
「ま、いいんじゃない? これで一先ず罰は中断ね」
「一先ず中断!?」

 僕はミリアに許可を得て、彼女の言い草に戸惑いながらも、無詠唱でウォームウィンドを発動させてびしょ濡れの体を服ごと乾かす。

「ミリア、これはどういうことかしら」

 すると、マリアがニコリと朗らかな笑顔を向けながらミリアに事態の真実を求め問いかける。

「・・・というわけで、躾のなっていない家来だからこうしてお仕置きしたの!」

 そして、堂々とこれまでの経緯を話して胸を張るミリアに対し──

「まあそうだったの。本当に成長したのねミリア」
「ふふんそうでしょ? お母様ももっと私を褒めて・・・」

 マリアは表情をピクリとも動かさず、まるで貼りついたような笑顔のまま彼女に近づくと──

「お母様?」

 彼女の腰に右腕を回して、脇に持ちかかえる。

「あなたという子は本当に教育のし直しが必要かもしれませんね」

 そしてスッ・・・ともう片方の左腕を水平に、己の体の横直線上まで流れるように動かして、その後肘を曲げながら角度70度〜80度斜めに手を自分の顔よりも高い位置に掲げると・・・──

「それはまあ! 眷属魔法を自重したのは百歩譲ってよしとしますが! 勝手に城を飛び出して尻拭いをリアムくんに任せた挙句! 今日の1番の立役者であるリアムくんに恥をかかせてここまで凱旋させるとは何事ですか!」

「ご、ごめんなさいお母様! ゆるして!!!」

「それにリアムくんはあなたの家来ではなく家庭教師です! 対等どころか教えを請う先生に対してその態度! 今日という今日はお客様の前だろうが矯正させていただきます!」

 ものすごい勢いで脇に抱えるミリアのお尻めがけてその手を振り下ろす。

「あいつは、二つの謀を持って堂々と凱旋したんだ」

 すると、スッと僕の隣にやってきたアルフレッドがその光景を眺めながら、何やら語り出す。

「一つ目はまず、黙って城を出てきたからには相応の成果を挙げて凱旋して己の罪をはぐらかすこと」

 なるほど・・・相応の成果を持って己の正当性を主張する。うん、実に理にかなっている様でかなっていない謀略だ。
 この作戦、それとこれとは話が別だと相手側が言えばそれまで、目の前の光景を見ればそれが如何に穴だらけの作戦であったかがよく分かる。

「そして2つ目は母と言ってもマリア様は公爵夫人であり領主夫人、そんな立場にあるマリア様が領民かつ身分の低いお前達、あるいは身分は低いもののそれに近い辺境伯家に属する僕がいる手前からくる気まずさを引き出し、怒りを表に出せず尻込みしたマリア様は自分のことを叱りづらいであろうという一縷の望みを持って・・・はぁ」

 2つ目のミリアの心内を推測で述べる途中で、一旦それを中断して大きなため息をつくアルフレッド。

「あいつはマリア様の胆力を見誤り推し量れていなかった。あの方は確かに身分があり、皆に示しがつくよう常に気品ある姿を心がけていなければならない立場にある。だがそれは同時に正義を貫くことであり、常に公が正当性とともにあらねばならないということ。それを貫くための強かさ、胆力を持ち合わせ、我々程度の前であれば悪いことは悪いとはっきり言える方だ」

 僕はそのアルフレッドの解説に、うんうんと相槌を打つ。
 実に深い、上に立つものにしか分からない心構えというものがまた、あるのだろう。同時に、僕は成長している親友の言葉に感心していた。

「それに、普段からより腹黒い貴族を相手に指揮をとって国政の一端を担ってもいる。であればこそあいつの5も6も先の手を読んでいるマリア様に、腹芸であいつが勝てるなど万が一にもありはしないというのに・・・あいつは・・・」

 そしてアルフレッドは、今尚尻を叩き続けられているミリアを見てやれやれと呆れた様に呟くと、見ていられないと視線を逸らして移動する。

「ハハハ・・・」

 僕もそれを聞いて思わず苦笑いだ。前提条件を確認もせずに無視して計画を立てるなど愚の骨頂、そんなものは小突くまでもなく風が土台ごと崩してくれる欠陥砦だ。

「エリシア」
「は、はいお母様!」

 すると、また別の方から罪を犯した者を罰する審判の声が──

「私もあなたを今にでも脇に抱えて、その悪行を叱りたいところですが・・・」
「うぅ・・・」

 リンシアの前置きに恐縮するエリシア。

「でも流石に未来の旦那様の前でお尻を叩くなんてはしたない姿を見せることは憚られるから、あなたのお尻は帰ってから叩くことにします」
「へ・・・?」

 リンシアがエリシアに近づいてコソッと耳元で何やら呟いた後、面食らうエリシアに向かってウィンクする。

「お、お母様!? な、にゃにを言って!!?」
「ふふ。とりあえずはその真っ赤なお顔をもって一先ずの罰としましょう。・・・それともやっぱり今する?」
「ま、待って! わかった!わかったから、もうこれ以上恥ずかしいことを言わないで!」
「はいはい。やっぱりまだまだ子供ね〜」

 顔を真っ赤にして慌てふためくエリシアの頭に置いた手を、優しく動かすリンシア。

「あら、リアムったらそっちの趣味があるのかしら?」

 すると、何を言われたのかは知らないが真っ赤になって慰められるエリシアを見て、微笑ましく口元を緩めていた僕をからかう声が。

「母さん・・・冗談でもやめてよ」
「そうね、これ以上勘違いで変な噂でも流れて有名になるのはマズイものね」
「わかってるならなおさらだよ・・・」

 アルフレッドが去ると、入れ替わる様に僕の横に母さんが立つ。

「だから私たちもお呼ばれしてここにいるのよ」
「えっ・・・公爵様一家も会場まで見に来てたの?・・・本当に?」

 それから、僕は母さんまでがなぜここにいるのかその理由を聞くことになるのだが──

「本当よ。それでみんなでお城でパーティーを開きましょうってマリア様がお誘いしてくださったの」

 だから僕の予想以上に広場にあれだけの観衆が集まっていたのか。
 ジュリオからはただ公爵城でパーティーを開くことになったとしか聞いていなかったから、てっきりミリアも参加することを知ったブラームスが暴走した結果、無理を通してパーティーを催すこととなったのだと思っていた。

『マリア様ぱないな』

 といっても、話を聞く限りブラームスが暴走気味で会を催したことには間違い無い様だが、初対面であるはずの僕の両親まで緊急に企画したパーティーに招いてしまうとは度量が違う。身元が割れているとはいえ非公式であるが故のセキュリティの甘さも残るが、まあルキウスもその場に居合わせていたみたいだし、きっとそれ相応の対策もまた彼女なら打っているのだろう。これで一つ、スッキリした。
 
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「それでは、これよりチームロガリエの勝利並びにキングトード討伐記念の開催をここに宣言する」

 それから一刻ほどが経った頃、準備の終わった公爵城庭園で、ブラームスが主催者として代表挨拶を行う。

「ふっ、今日の相手は貴様か・・・」
「貴様? どの口が私に向かって貴様なんて言ってんのよ! フラジールコップ! こいつの鼻からこのストロベリーミルク飲ませてやるわ!」
「ま、待て! こういう対決にはそれ相応の様式美というものがあって・・・おいフラジール! なぜニコニコとなにも言わずそいつにコップを手渡しているのだ!」

 早速、昨晩と同じ過ちを再び犯そうとするアルフレッドに、フラジールの代行として罰執行するミリア。

「こうして眺めると壮観だな・・・ダークなんて切り口がわからないほど綺麗にくっついてるぞ?」
「とりあえずこいつらの肉の捌きは任せていいんだよね?」
「素揚げ・・・」

 僕が亜空間から取り出し並べられたトードーズを眺めてその光景に感心するウォルター、ラナ、レイア。

「キングを中央後方に飾れば完璧だったんだけどね・・・」
「しょうがないじゃないかな? 通常ボス戦でボスを倒せば光の粒子となって消えて本体、または解体された素材を交換所のアイテムボックスから引き出すものだからね」
「学長先生・・・」

 その隣で並べたトードーズを見比べる僕に話しかけてきたルキウスが──

「それよりもリアムくん!キング戦で見せたあの魔法は解析を使って相手の魔力、すなわちそれにほとんど近い性質を持つ油の分析をすることで呪いを即座に構築して発動させたと思うのだけれど、その構築は一体どうやって!? いやそもそもまさか君は同調のプロセスを解明したのかい!!?」
「い、いっぺんに聞かないでください!・・・秘密です」
「前後の文が若干うまく繋がっていないのだけれども・・・まあそんなことは無視してどうやって対キング用の呪いを即座に構築したのかの説明と同調の詳しいプロセスを・・・」
「ブーメラン!?」

 興奮さめやらぬ様子でキングに使った魔法について聴こうと迫ってくる。

「エリシアちゃんは混ざらなくていいのか?」

 ルキウスに迫られて困った顔をする息子の様を遠目に眺めつつご馳走に舌鼓を打ちながら、俺は仲間たちから離れたこの場所にいるエリシアに話しかける。

「私があの輪に加わると、きっとはしゃぎすぎてお淑やかではいられない・・・」

 彼女は淋しそうに呟く。

「まあなんつうか、男の俺に女の子の気持ちってのはよくわからんが・・・」

 こういう時、せめてアイナがいれば良いのだが。妻は今日から一緒に住むことになるティナとともに絆を深めるべく会場を一緒に見て周りに行っている。

「ダハハ! 今日はいい日だ無礼講だ!」
「ヴィンス! もう昨日の今日だって言うのに全く・・・」

 それに、彼女の保護者二人も今手が離せなさそうだ。

「半年前、暴走してみんなに迷惑かけても優しくしてくれたリアムは私に手を差し伸べてくれて、今日まで自分なりに色々と考えた。けど私は自分が最近ちょっとよくわからなくて・・・それに改めて今日・・・」

 すると、再び口を開くエリシア。

「ビビったか?」
「・・・!」

 俺の質問に、首をブンブンと横に振ってそれを否定するエリシア。

「私はリアムのお嫁さんにふさわしい淑女にならなきゃ。じゃないとリアムはそのうち私の届かない遠くに行っちゃいそうで・・・」
「そうか・・・」

 そして再び、俺の相槌を聞いた後、その顔に深い影を落とす。

「まったく、これは俺の責任だな」
「えっ?」
「だから、これは俺の責任だって言ってるんだよエリシアちゃん。あいつは放っておいても一人で色々できてしまうから、特に最近は放任が過ぎていた・・・そして一番大事なことも」

 俺は俯くエリシアに、自分にも言って聞かせるように語る。これは耳が痛い話だ・・・まったく。

「しかしどうやら我が息子も人の子、全てが完璧じゃなかったみたいだな」

 そして彼女の頭に手を乗せると、ワシワシと撫でる。手を離すと、いつも綺麗に整えられているエリシアの髪が所々跳ねている。少し荒っぽかっただろうか。

「エリシアちゃんにそんなだらしない親父から一つお願いだ。これからは俺の代わりにリアムに足りないこと、間違っていることを見定めてあいつに教え、支えてやってほしい」
「でも、いつも助けてもらってばっかりの私じゃ・・・」
「『おーい! 色々見えているようだけどすぐ近くの大切なものはちゃんと見えているのかい?』 ってね」

 お茶目にウィンク。俺のウィンクは爽やか、リゲスほど気持ち悪くないはずだ・・・きっと。

「そんなに自分を卑下するもんじゃないぞエリシアちゃん。この話の本質は才能やそんな特別なことじゃない、どれだけあいつのことを思う気持ちを持っているか、その大きさだ」

「・・・!」

「それにエリシアちゃんの好きになったリアムはそんなことを気にしてエリシアちゃんを蔑ろにするような男だったか?」

 そして再び俺は遠目に・・・

「ちょっとリアム? なんで私の倒したトードを中央に置かないのよ!」
「いやだって両方丸焦げだし・・・」

 アルフレッドを始末・イチゴ牛乳攻めして伸びさせた後、並べられたトードーズの順番に対して不服を申し立てるミリアと、好奇心で迫るルキウスに困った顔で対応しているリアム。

「ブフッ!・・・ほらエリシアちゃん! どうやらウチの不肖の息子が困っているようだ。だから・・・」

 俺はその光景を見て思わず笑ってしまう。そして──

「ミリア! あんまりリアムを困らせないでよ!」

「あちゃあ・・・そうなったか」

 いつの間にか、彼女は仲間たちの元へと駆けて行ってしまっていた。

「ちょっと・・・なんであんたが私とこいつとの関係に口を挟むわけ?」
「リアムは・・・、いえ私とリアムは! 将来結婚するんだからね!」
「エリシア!?」

 突如輪の中に入ってきて結婚宣言するミリアに僕は狼狽する・・・いや、確かに僕と彼女は既に婚約をしているわけなのだけれども!

「んな!? 突然何を言ってるのよ!??」

 そして、その唐突な結婚宣言にミリアも驚くわけだが──

「ふん! あんたなんかじゃ無理よ! こいつは一生私の下僕なんだから!」

 それを真正面から受け取ったミリアは、一生下僕宣言とともにエリシアの直球を打ち返す。

『あっ・・・これ真に受けてないやつだ』

 しかし僕は同時に、ミリアの打ち返した球は軌道を外れてあさっての方向へ飛んでいってしまっていることに気づく。それに・・・──

「・・・いつものエリシアだ」

 今日の彼女は少し控えめというか、いやそれでも十分に僕からしたら積極的なのだが、少し消沈しているようにも見えた。
 その例としてまず、絶対混ぜたら危険だと思っていたミリアとの邂逅もすんなりと僕の知らぬところで何事もなく済んでいた。そりゃあミリアは公爵家令嬢だし、エリシアは正確には貴族ではなく貴族の血縁者という平民と貴族の狭間に身を置く存在。故に一歩身を引いて彼女と接していたのだろうと思っていたのだが・・・──

『でも今はこうして突っかかってるんだよな? それじゃあエリシアは一体どうして』

 だとすると新たな謎が僕の中に生じる。一体なぜ彼女は今とさっきとでミリアに対する態度が変わったんだ?・・・ん? でもそう考えるとアルフレッドって一体・・・ 

「それでだねリアムくん! 同調というのは単体でもとてもレアなスキルなわけだよ! しかしそれにはとても高い魔力波長の親和性が必要で・・・」

『まだこの人がいたんだった・・・』

 しかし僕がアルフレッドという階級における特異点について考察していると、隣ではあいも変わらず先ほどからずっと僕の魔法についての推察から転じた考察を語るルキウスがいた。

「おいルキウス! 子供達の団欒に横槍を入れるでない!」
「ブラームス様・・・しかしこれは、未来の教育、いや魔法研究業界を左右する質問なのです! 

 すると、なんと僕に助け舟を出してきたのはブラームスであった。

「ふむ。であればルキウスにはミリアの魔法教官を引き受けてもらおう。お前は頭だけでなく、魔法の実力も十分すぎるほどあるからな。これもの未来のために重要な依頼だ」
「どうしてそうなるのですか!? 私は今、魔法の未来の話をしているのです! これを究明すればまた一歩世界の真理に・・・」
「ところでルキウス。先ほどコンテストの会場で、貴様はその場にいたもの全員が間抜けだと言ったが・・・?」
「ああー・・・そういえば、はい。言いましたね」

 その場にいなかった僕にはなんのことだかよくわからないが、後から聞いた話どうやらルキウスは僕がキングの炎の範囲攻撃に巻き込まれた時、それを見て消沈するその場にいた自分以外の全員に向けて、間抜けという表現を使って煽ったらしい。つまり本人でありながら、最初火に巻き込まれて死んだと思っていた僕とは・・・──

「つまりお前は公爵であるこの私、そして妻のマリアに息子のパトリックまでも間抜けだと言ったわけだ」

「・・・グッ!」

 当人に指摘され、自分の失言に気づいたルキウス。

「貴様には罰として!  週2のミリアの家庭教師に加え、そろそろ始める予定だった週2の魔法訓練の教官も、引き受けてもらおう」
「そ、そんな! ただでさえそれで自分の実験の時間が減っているというのに! これ以上は・・・!」
「お前は家柄、金だけは持っているからな。減給ではちっとも応えんだろうし、であれば金で買えぬ時間を代わりとして罰としよう」

 追い詰められたネズミ(ルキウス)を全力で狩にいくブラームス。罰の選択にしても、実に見事な審判だ。

『ふむ。これで子供達の口喧嘩に口を挟みそうなものの排除は終わった。後はミリアが言い負かされて此奴を諦めるのを待つのみ。公爵家の一員として何事かに負けるというのは少々気がひけるが・・・頑張れ、ブラッドフォード家の娘よ』

 そして口喧嘩を続ける自分の娘とエリシアを咎め仲裁もせずに去っていこうとする彼が、まさか脳内でそんなゲスい感情によってその行動に出たということは、内心でほくそ笑む彼しか知り得ない策略・・・

「こらあなたたち! せっかくの祝勝会なんだから仲良くなさい!」
「マリア!?」

 でもなかった。彼の妻マリアには、そんなゲスい夫の策略などお見通しだったようだ。

「でもこの無礼者(エリシア)が!」
「独裁者(ミリア)が!」

 マリアの咎めに反抗しようとするミリアとエリシア。

「それじゃあそうね・・・いっそ、二人ともリアムくんのお嫁さんにしてもらったら?」

「「「「えっ?」」」」

 そしてマリアが唐突に、とんでもない提案を口走る。

「でもミリアは貴族だから平民との結婚はそもそも難しいし、ましてや公爵家だから彼を仮に一代貴族に叙爵しても精々子爵位、身分が釣り合わないし・・・」
 
 それからブツブツと、かなり無謀な未来予想図を描くために何やら呟き始めたマリア。

「け、けけけけけけけ・・・結婚!?」
「そんな・・・リアムが私以外の人とも・・・!?」
「馬鹿な・・・馬鹿な馬鹿な馬鹿な・・・!!!」

 各々の反応を見せるミリア、エリシア、ブラームスの三人。

「そうですよマリア様! エリシアならまだしも、平民である僕にミリアとの結婚なんてできません!」
「そうね・・・だったらリアムくんには侯爵位の爵位を取ってもらえるほどの活躍をしてもらわないとね〜」

 慌てふためく僕の反論に動じず呑気なマリア。

「それにあなたは既に、このノーフォークに多大な貢献をしているのよ?」
「へっ?」
「まず新たな魔道具の開発ね。これによってここ半年だけでも徐々に国の流通のあり方が変わっていているわ」

 いや確かに流通に革命が起き始めたとはいえ、流石にそれだけで叙爵というのはおかしい。

「それから領地の新しい特産品の開発ね。これにはパンケーキやその他これからあなたが展開する商品も含まれている」
「でもそれだけじゃあ足りないのでは?」

 僕はすかさず反論する。

「それがあるのよね〜・・・もう一つ。ほら、今日のことをよ〜く思い出してみて?」

 しかしその言葉は彼女によってすぐに覆された。

「あなたは我が娘ミリア・テラ・ノーフォークを身を呈して炎の波から守り、脅威をも取り払った。試練、いえ訓練だったとしてもキングが出てきたのは想定外、それにあのままあっさりこの子だけがやられていたのでは、公爵家の株もまた相応に落ちていたかもしれません」
「でもそれはオブジェクトダンジョンの中だったからで・・・」
「いいえ。それでもあなたがミリアのために人道的な選択を取って助けたことに変わりわないわ」

 あなたは騎士でもないしね!・・・と後付けして、僕の行いを人道的かつミリアを守った立派な功績だと語るマリア。

「でもやっぱりあなたを一代貴族にすることはできないのよね・・・」

 しかし一転、彼女はそれまでの理屈を覆す。やはりその程度で僕を貴族に推薦するなど、唐突すぎるし何より現実味を説得力もない。

「で、ですよね!?・・・いやぁマリア様ったらお戯れが過ぎますよ・・・心臓に悪い」

 それに仮にもしダンジョンの中で僕がミリアを身を呈して守ったからです・・・なんて口上で叙爵した暁には、それこそ公爵家の名に傷がつきそうなものだ。この場合、もっと別の何かで代替するのが正しいだろう。

「ブエックシュン!・・・風邪か?」
「やだちょっとウィルったら! くしゃみをする時は口を塞ぐのが礼儀でしょ! そんなマナー知らずには・・・」
「わ、悪りぃ! だから俺に近づいてくんな!!」
「ちょウィリアムさん! だからって俺を盾に・・・!」
「ンンーーーーッパ! あらやだ、この子気絶しちゃってるわ・・・失礼ね」
「安らかに眠れ・・・ダリウス」
「・・・(ガクッ」

 しかし一瞬、その呟きの束の間、笑顔と笑顔の合間にチラッと隅でリゲスやダリウスたちと食事を楽しんでいる父さんの方をマリアが睨んだ気がした。

「心臓に悪いってなによ心臓に悪いって・・・!」
「いやそれは言葉のあやというか色々な重責が急にのしかかりそうになったのを回避できた安堵からきた本音というか・・・あ」
「結局本音なんじゃないの!・・・このバカぁ!!」

 そしてこの後、僕がミリアにコテンパンにシバかれたのは言うまでもない。

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