アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

122 新しい家族

「あれ、ここは・・・」

 僕は左右をキョロキョロと見渡す。周りは薄明るく、目の前には更に明るい光が差し込む出口のような形をした壁に空いた穴があった。

「いや、それよりさっきのは・・・」

 しかし僕はここがどこかなんていう疑問は一旦頭の隅へと追いやって、先ほどの現象について考察を始める。

『双子・・・まさかバニシング・ツインか!?・・・いやでも彼女は僕よりも成長した姿だったし、そもそも意識の共有なんて・・・』

 バニシング・ツイン。それはまだ母親の胎内にいるころ、双子を妊娠したものの片方の育ちが悪く、もう片方の胎児に吸収されて育った方の胎児のみが生まれてくるというものだ。
 だが自分の知る限り、吸収された方の意識が母体となった誕生した子へと影響するなんて結合双生児じゃあるまいし、聞いたこともない。
 それに彼女は今の僕よりも大人で、それも女性だった。仮に僕の前世の精神年齢からその容姿を算出するならば、もっと歳をとっているはずだし、もし僕の魂がこの体に宿ってしまったせいで生まれてくるはずの女の子が性転換したとして僕の魂が優位となってしまい、その子を排他してしまったという突飛なifを考えてみても、辻褄が合うことはない。

「・・・イデア?」

 ここでふと、僕はイデアの名前を呼ぶ。

「・・・はい。なんでしょうかマスター」

 少し遅れて、彼女からの返事が返ってくる。そしてその声は今まで彼女から聞いたこともない、眠そうな声色だった。

「ここはどこかな・・・」

 僕は彼女に尋ねる。

「おそらく、話に聞いていたリヴァイブの門がある生還の間では? ・・・ほら、後ろをご覧ください」
「そうか・・・これがリヴァイブの門・・・か」

 彼女の案内に後ろを振り返ると、そこには10m以上あるのではないかという、とても大きな柱が2本そびえ立っていた。

「・・・なんか不気味だ」

 寒気がする。
 理由はその柱の間を揺蕩う煙草の煙のような不思議なモヤモヤ。このモヤモヤが、僕の心を揺蕩わせる。
 確かにそこから出てきたはずなのに、何故か吸い込まれてしまいそうな無闇に触れてはならないと本能に警鐘を鳴らす危うさを感じる。

「早く出よう。きっとみんなが待ってる」

 僕はそのモヤモヤが漂う門からすぐに目をそらして体の向きを元に戻す。正面に見える光の差し込む出口。今もう一度そちらに意識を集中してみれば、何やら外が騒がしい。

「・・・・・」

 外に出ると、目を細めなければならないほどの光が僕を襲う。そして──

「「「うぉぉぉぉーッ!」」」

 同時に、先ほどから聞こえていた騒がしさが一際大きくなり、耳を殴るような歓声が僕を襲う。
 端から端まで人人人。生還の間のある建物は階段に続く踊り場で、そこから階段が広い広場へと降りて、その広場はアースへの転送陣がある建物、主要な街道へとアクセスできる本来待ち合わせや人の行き交いが多い環状のスクランブルとなっている・・・のだが──

「やっと来たかリアム! みろこれ! みんな俺たちの凱旋を祝って集まった観衆だぞ!」
「ちょっとこれ! 流石に多すぎない!?」

 先に凱旋してウォルター曰く、ここに集まっている全ての人々の声が僕たちへ向けられた歓声だという。
 
 主役は最後に、俺たちが先に出て場を盛り上げておく・・・と言って先に凱旋したウォルターたちではあったが、これは・・・──

『やりすぎでしょう・・・』

 僕はこの状況に一歩引いてしまう。流石にこれはやりすぎだ。

「お帰りなさいませリアム様。お待ちしておりました」

 すると、見覚えのあるようなないような・・・あ、この人は・・・。

「確か公爵城でたまに見かける護衛さんの・・・」
「はっ! 未熟で若輩な私の顔を覚えていただけていたようで光栄であります! 私は公爵家に仕える近衛隊所属の騎士、ジュリオといいます!」

 騒がしい歓声に負けないよう、大声でビシッと敬礼を決めて自己紹介をするジュリオ。

「実は本日、これから公爵城で皆様の祝勝会を催す手筈となりました! 皆様のご家族もご参加の予定です!」

 そして、どうして彼がここにいるのかその説明をしてくれる。

「オッケーです!わかりました!」

 僕は少し大きめの声で、かつジェスチャーを交えて了承の意を示す。ただ・・・──

「どうやってここ、抜ければいいんだろう・・・ハハ」

 これは少し、いや、かなり大事となってしまった。キングを倒してしまったがばっかりに多少騒ぎにはなると思っていたが、所詮僕たちはしがない初心者ばかりのパーティー、ウォルターを除いたメンバーはこれまで一度もコンテストに露出したこともないものばかりだったために、ここまでの反響があるとは想像もしていなかった。どう考えてもこれは、先にウォルターたちが凱旋して煽っただけの歓声の大きさではない。

「・・・ティナ」

 すると、この歓声に一人どうしたものかと戸惑い右往左往していたティナが僕の背後に隠れる。
 他のメンバーの皆は、観衆に向けて楽しそうに手を・・・

「フラジールとレイアにも、これはきつかったか」

 全員が振っているわけではなかった。ティナに続いてフラジールとレイアも僕の裾を掴んで、なんとか三人でその小さな背中に隠れようとする。

「ジュリオさん、申し訳ないですが先導をお願いできますか」

 僕はジュリオに先導を頼む。彼は公爵家に仕える騎士、命令遂行中の彼の動きを妨げるものがあればそれは、公爵家への反逆として捉えられてもおかしくない。であれば彼の動きを妨げ、邪魔をする者もいないであろう。
 
「了解致しました! では!」

 そして彼はその願いに、再びビシッとした敬礼で応えると──

「私は公爵家近衛隊所属の騎士である! これからミリア様とそのご友人方を城まで護衛・お連れするために、広場に集まった皆には道を開けていただきたい! また、この護衛の任は我が主ブラームス・テラ・ノーフォークの名において主がくだされた命である!」
 
 後ろを振り返って、とてつもなく大きな声で観衆に向かって叫ぶ。

──ザン。

 すると途端、ちょうど環状の広場の中央を経由して、転送陣のある建物へと人一人二人が通れるかという細い一筋の道ができる。

「す、すげぇ」
「ふふん、これが公爵家の力よ!」

 その光景を見て年長者であるのに・・・いや、年長者だからこそだろうか、一番の驚きを見せたウォルターになんのことはないと胸を張って威張りながら、先導するジュリオに続くミリア。

「あはは、なんかだんだん恥ずかしくなってきた・・・」

 群衆の中に突如として現れた道をいつもはお調子者のラナが頬を少し赤くして、照れながらも歩く。

「一応、貴族の身内として恥ずかしくないように・・・」

 それに続き、馴れない足取りでカクカクと行進するエリシア。

「ふん!これくらいはスプリングフィールド家の次男として、なんてことはない!」

 そんな二人とは打って変わり、自身満々に堂々と行進するアルフレッド。

「あわ・・・わわ、アルフレッド様!少し歩くの速いです!」

 その後ろに引っ付いて、コソコソと歩くフラジール。

「兄さん! ちゃんと守って!」
「そう言われても、俺もこんなの初めてで緊張するっていうか」

 そして、後ろに引っ付くレイアにまるで舵を取られているように、右へ左へと少しふらつき気味に行進がままならないウォルター。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

 すると、そんな二人の後ろに怪しい黒い人影が・・・──

「ってお前ら二人してなんだその格好は! 不気味すぎんぞ!?」
「いやだって恥ずかしいし目立ちたくないっていうか」
「・・・(コクコク」

 その怪しく黒い二つの人影が後ろを振り返って話しかけてきたウォルターに対し、一人は声を出して、もう一人は二度の首肯をもってもう片方の主張に賛同する。

「少しでもこの後に起きうる二次被害を軽減するために・・・」
「もうおせぇって! さっきあれだけ目立ったんだから、今更だろ!」
「だってぇ・・・わかったよ」

 だが抗議の声も虚しくウォルターに全否定された僕は、全身を覆っていたダークスーツをティナ共々解いて姿を露わにする。しかし次の瞬間──!

「きゃーッ! 近くで見るとますますかわいいわ!」
「本当!お姉様の面影がある!」
「剣狼と似てるのは精々髪色だけね!」

 周りで一際黄色い女性の声援が、次々と飛び始める。

『かわいいってことはもしかしてティナか? いやでもお姉様って・・・それに剣狼ってのは?』

 僕はその声援に一瞬ビクッと身を引いてビビると、彼女たちの発言について解明と考察を・・・──

「ほらちょっとだけ・・・チュ」
「あ!ずるい! 私も・・・チュ」

 と思った瞬間、僕の腕がヒョイっと群衆から伸びてきた手に引っ張られて、頬に何やら温かく柔らかな感触を次々に感じる。

「へっ・・・?」

 僕はその頬に突然感じた感触に体を硬直させる。

『いや待て待て待て! 今何が起きた!? そして何が起きている!?・・・ダークスーツを解いた途端に20代前半くらいの女性の集団から声援が飛んだと思ったら、目の前に代わる代わる知らない女の人の顔が・・・!!!』

 そして頭は真っ白に、思考は現在目の前の光景をただ映す視覚を処理するのにいっぱいいっぱいで・・・──

「や、やめてください! 僕は剣狼なんて知らないし!ましてや女でも・・・!」

 ハッと現実を直視できた数秒後、僕は腕を代わる代わるに掴んでいく女性たちの手を振りほどこうと暴れる。

「り、リアム様!」
「こっちの獣人の子もかわいい!耳がポフポフしてる〜!」
「尻尾もふかふか〜! 持って帰りたい可愛さね!」

 すると、どうやら僕のすぐそばを歩いていたティナもこの女性たちの暴動に巻き込まれたようである。

──プツン。

 僕の怒りは途端、ティナのそのSOSを聞いた瞬間にプツンと限界点を通り越して沸騰する。そして──

バーストやめろ!!!」

 勢い余って、スキル《威圧》を発動させてしまう。

「「「・・・(バタン」」」
「「「ヒィッ・・・!」」」

 束の間の時間停止の後、周りを取り囲んでいた女性たちは次々と倒れそれから再び時間が動き出し、倒れなかった一定範囲外の広場の人間全員が尻もちをついたり、立ったままたじろいだりして青ざめた表情を浮かべる。

「あなたたちは仮にも成人した大人の女性でしょう。見ず知らずの子供を捕まえて不祥事を起こすだけじゃ飽き足らず、こんないたいけで震えている女の子を面白半分に弄ぶなんて言語道断、恥を知ってください」

 僕はとても冷ややかに、怒りを押し込めつつ気絶した女性たちを見下して、きっと届いていないであろう説教をたれる。

「リアム!」
「だ、大丈夫かリアム・・・悪りぃ、急に人混みにお前たちが呑まれたから助けにきたんだが、遅れた・・・」
「大丈夫・・・ただ」

 すると、棒立ちする群衆を掻き分けて僕たちを助けにきたレイアとウォルターに僕は静かにそう答えるとすぐ近く、倒れている女性たちの中のある一点をジッと見つめる。

「・・・リカバリー」

 そして僕はその一点から視線を外さずに、近くにいながら気絶してしまった女性たち同様、威圧を受けて気絶してしまったティナの元へと近寄ると、彼女に対してのみ状態異常回復魔法を唱える。

「・・・リアム様?」

 気絶から目を覚ましてどこか虚ろ、まだはっきりしない意識の中僕の名前を呼ぶティナ。

「ごめんね・・・ティナ」

 僕はティナに一言謝罪の言葉を呟くと、左手を頭の裏に、右手を彼女の膝の裏へと廻してそのまま持ち上げる。

「・・・!? り、リアムしゃま!?」
「勝手に舞い上がるのは人それぞれ自由ですが、くれぐれも他の人に迷惑はかけないように」

 そして、ティナの動揺は直視しないようにかつ、周りで気絶する女性たちに視線を向けて捨て台詞を吐く。

「「「・・・!」」」

 同時に、周りでその様子を見ていた群衆が驚愕の表情を浮かべる。しかしこれは・・・──

「僕は見ず知らずのあなたがたよりも、身近で大切な人たちを何よりも優先します。たとえそこにどのような隔たりがあろうとも」

 次に周りを見渡しながら、僕は彼らに告げる。おそらくこの驚きは僕が倒れてしまった女性たちより奴隷、すなわちスレーブの証である首輪をしているティナを優先したことに対するものだろう。
 しかし僕にはそんなこと関係ない。僕にとってこの場にいる誰よりも大切なのはティナである。
 もちろんウォルターや他の仲間たちのことも大切であるが、ティナは僕がこの半年間一番長く一緒に過ごした戦友であり、父さんや母さん以上にスクール以外で一番長く過ごしていたであろう家族だ。
 
 それに、彼女が他の人がいる場所で僕を名前で呼んだのだ。普段僕以外の人がいるところでは僕のことを「ご主人様」と呼ぶティナが、僕のことを名前で3回も呼んだ。今とその前の2回はきっと、純粋な驚きからくる意図しない名前呼びであったのだろうが、最初のは明らかに恐怖からくる動揺によって咄嗟に出た彼女なりのSOSだった。おかげで僕はなりふり構わずにこんな大勢の前で威圧を使ってしまって・・・──

「はぁ・・・カルシウム不足かな? いやないか」

 精神を落ち着けるため、わざと間抜けなことを言ってとぼけてみせる。それに、最近の事案に関しては、僕はそう悪いことはしていないはずだ。
 ただやはり、こうして意識を別のことに集中させて精神衛生を図らなければならないほどには、僕の心の中にも少しだけ、罪悪感と後悔があるのもまた事実だった。

「ギルド職員です! 一体何が・・・!」

 すると、転送陣のある建物に常駐しているギルド職員たちが騒ぎを聞きつけてやってくる。

「事情は周りの人たちと気絶している本人たちに聞いてください。今の僕たちの保護者は公爵家の近衛隊騎士です。もし証言の不足があればそちらの方にお問い合わせを。その時は当事者・・・いや、被害者として証言させていただきます」

 そして僕は彼らに要点だけ、ニコリと笑って簡潔に告げると・・・──

「行こう・・・ウォルター、レイア」
「ああ」
「・・・うん」

 僕はその場に駆けつけてきてくれたウォルターとレイアに声をかけながらゆっくりと、確かな足取りで次々と開いていく人混みの中を歩いていく。しかしこの時、限りなく冷ややかな怒りとティナへの申し訳なさだけを胸に抱えていた僕は、この自体がまさかあんなことにつながってしまうとは、予想だにもしていなかった。

 ・
 ・
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「申し訳ありませんでした! 私が浮かれていて後ろまで注意が及ばなかったばっかりに・・・」
「いえ、ジュリオさんのせいではありませんよ。顔を上げてください」

 現在、避難した転送陣のある建物の隅で深々と頭を下げるジュリオに、僕は頭を上げて欲しいと恐縮する。先ほどの騒ぎのおかげで、僕たちに気づいた人達も気まずくて近づいて来ようとはしない。

「いえ! 公爵家の威光をかざし、不束ながらその優越感に浸っていなかったかと問われれば嘘になります!・・・それに私は心のどこかで安心していました。本来公爵家の権力に仇なす者から主人を守らなければならない近衛騎士が、主人の権力にうつつを抜かして注意散漫になるなどもってのほか!・・・これは私の驕りが招いた事態です」

 護衛対象である僕たちを守れず、挙句騒ぎがおきるまで気づかずに行進していたこと、そしてこの事態は自分の慢心が生んだことだと自責するジュリオ。

「そ、そこまで正直に自白しなくても。・・・わかりました。ではこれは貸し一つということでどうでしょうか? 今後僕が今回のようなことに巻き込まれ何かに困った時、ジュリオさんには公爵家近衛隊としてではなく、僕の知人としてご助力いただきたいです」

 ここで当事者の僕から何も罰はなしというのは、些か彼の立場上よろしくないだろう。そもそも僕が騒ぎを大きくしてしまった手前なおさら提案しづらいのだが、このままでは平行線だと思った僕は、彼に一つの提案をする。
 今回、良くも悪くも僕の名前は一般に対し広く広まってしまったことだろう。そんな中、もしかすると公では対処できないような事案が発生する可能性も十分に考えられる。そんな時一人でも味方が、ましてや若くして公爵家の近衛騎士にまでなった彼の力を借りれるというのは、きっとプラスになるはずだ。

「わかりました。・・・ミリア様、この罰を私が受け入れること、お許しいただけますでしょうか」
「好きになさい。・・・でもね今回の件、きっと私の許しだけじゃ済まないわよ? しっかりとお父様に搾られるところは搾られなさい!」
「もちろんであります! ご容赦をいただき、ありがとうございました!」

 そうして主人代理、公爵家令嬢であるミリアに許可をもらってジュリオは誓う。個人的にとはいってもやはり彼も組織に所属する人間、仮とはいえ雇用主の許可を得ることもまた、重要だ。

「そういえばリアム・・・あの今あそこで蹲って顔を赤くしている子はどうするの? ティナってスレーブよね?」

 すると、ジュリオから視線を切り替えたミリアが角の隅で頭と耳を手で押さえて蹲っているティナを指して、彼女がスレーブであることを確認する。しかし彼女は先ほどからどこか少し機嫌が悪そうだ・・・何故だ。

「うんそうだけど? それがどうかしたの?」
「『どうかしたの?』・・・ じゃないわよ! その子ってこっち側のスレーブ商会に登録された労働奴隷でしょ!? だったらあっち側で開かれる祝勝会に連れて行けないじゃない!」 

 僕のおとぼけを聞いてミリアが更に激昂する。彼女曰く、ティナはガイア側に拠点を構えるマクレランド商会に登録されている労働奴隷であり、申請書が通らなければアース側の世界に所有者同伴でなければ連れ出せないはずだと言う。

『へぇ・・・』

 僕は内心驚き、感心する。まさか彼女が奴隷の身分にあるティナにまで気を配れるとは夢にも思わなかった。
 更にいえば、仮にティナの所有者としてマクレランドにパーティーに同伴してもらったとして、奴隷商人である彼を公爵城に招くというのははっきり言って外聞がよろしくない。両親の立場を十分に理解し、その上で下された素晴らしい判断だ。

 なるほど、彼女の不機嫌さはそれらを心配してのことだったのか・・・と僕は一人納得する。

「それなら大丈夫。ティナはもうマクレランド商会の奴隷じゃないから」

 そこで僕はニコリと笑って、彼女の心配が杞憂であることを告げる。

「は?」「え?」「へ?」

 その発言に意味不明だと反応を示すミリアとアルフレッド、そしてエリシア。

「そっかそっか! 3人は遅れてきたから知らなかったんだね?・・・実は今日からティナは僕が所有する奴隷として、マクレランド商会にお金を払って身請け人になったんだ。身請け人といってもティナは立場的に労働奴隷のままだけど」

 そこで僕はつらつらと得意げに、胸を張りながら説明をする。
 あれはティナをできるだけ早く社会復帰、もとい普通の生活が送れるよう支援しようと決めたあの日の次の日の夜。

「というわけで、僕が彼女を守れるくらい稼げるようになったら引き取って、しばらく側においてあげていたいと思うんだけど・・・」

「リアム・・・それは人一人の命を背負うってことだ。犬猫、ましてや使い魔を飼うってこととはわけが違うんだぞ?」

「もちろんそれは重々承知です。僕が背負おうと、いや、所有しようとしているのは一人の人間です。それがどれだけ重くて大変で、逃げることのできない責任がつきまとうかについては、彼女を雇用し始める前からずっと考えていました」

「でもねリアム。じゃああなたはこれから関わりを持って同情してしまった奴隷全員に対して、同じことをしていくつもりなの?それじゃあきつい言い方をするようだけど、はっきり言ってキリがないわ」

「・・・それは」

 僕は父さんと母さんにティナの身請けについての交渉をしていた。ここは言葉を慎重に選んで・・・──

「僕は彼女を友人として・・・いや、奴隷から解放されても生きていける強さを身につけて幸せになって欲しいと心の底から思いました」

 同情という飾りはいらない。これはあくまでも奴隷としてのティナを僕が所有し、家主である父さん、そして母さんに家に置いて欲しいとする交渉の段階である。

「覚悟が足りないわね・・・」

 しかしこの手の話においてやはり切っても切りれないものもまた、同情の2文字である。やはり僕の言葉は軽かったか、いや、それでも僕は精一杯の気持ちをぶつけて・・・──

「どうせ家においてあげるんなら家族として迎え入れてあげるくらいいってあげなくちゃ! 私たちがそのティナちゃんの新しい家族にね!」

「アイナ!?」
「母さん!?」

 父さんと僕は、その突然の軽すぎる母さんの切り返しに驚愕する。

「いいのかアイナ・・・?」
「ええ、リアムの気持ちは十分、いえ、私だからこそ感じる部分もあったから」

 その意思を確認する父さんの質問に、肯定で答える母さん。

「ただ条件もまたあります」

 そして続けざまに、もちろんそれには条件があることを告げる。

「1. ティナちゃんを所有し続けるためのお金を稼ぐ、またはあなたが成人するまで彼女に支払わなければならない分のお金を用意して、家に入れること。毎日のティナちゃんへのお給料は、私があなたの代理人として支払います。これはティナちゃんの所有者になるリアムに課せられた義務の上に重ねられた、私たちが親としてあなたに課せなければならない義務です」

 僕はその条件に首肯して答える。これはつまり、ティナという一人の人間の人生を背負うという責任を再確認させつつ、十分なお金を稼げるようになったからといって、独り立ちしていないうちから無駄金を使い、立場を不安定にするような荒い金使いをするなという念押しだろう。いやもちろん、独り立ちしても無駄金を使うようなことをするつもりはないが。

「そして2つ目、もう一人の家族であるカリナにしっかり手紙なりなんなりでティナちゃんを受け入れる了承を得ること。お金よりもこっちの方がとても複雑で重要な問題よ。この2つが守れる、あるいは守れたと判断した時、私はティナちゃんを家族としてこの家に迎え入れることを許可します」

 そして母さんは2つ目に、忘れてはならない最も根本的かつ大前提だということを強調しつつ、カリナ姉さんの許可を取るように僕に言って聞かせる。
 
「わかりました。その2つの条件、謹んでお受け致します」

 僕はその2つの条件を聞き、畏まってそれを約束することを誓い深々頭を下げる。そしてその心内では、当たり前のことを条件として明示、再確認させてくれた母さんに感謝でいっぱいだった。

「よろしい! いいわね、ウィル?」
「まあいいだろ。それに二人の気持ちは俺が一番わかってるしな!」
「何よそれ・・・もうリアムの前で恥ずかしいわ!」

 母さんの問いかけに、「家族だからな!」と胸をポンと一つ叩いて答える父さん。僕はそんな向かい合って笑顔で仲睦まじい二人を見て、本当にこの家に転生できて良かったと、心の底から思った。

 その後、カリナ姉さんへは次の手紙の返事に1枚びっしりと僕の気持ちを書き記した手紙を送った。もちろんもう一枚、しっかりとカリナ姉さんへの返事も書いて。そして・・・──

「リアムが何をしようと私は気にしないわ! べ、別にその奴隷の女の子がリアムに大切にされてるからって妬いてなんかいないんだからね!」

 という、少し意味不明・・・いや、ありがたいお返事をもらっている。
 気にしない・・・と手紙には書いてある。ならばこれを文面通りにとっても問題はないだろう。
 何故か文後半のの文字線がブレッブレだったのだが、前世から女性との付き合いが乏しかった僕ごときが、その真相を測り知ることはできなかった。

「簡潔に話すとこんな感じかな。というわけでちゃんと家族の了承ももらっているし、午前中ミリアとエリシアの家に討伐参加の件を伝えるついでにちょっと家に寄って母さんに最終確認もとった。そして再確認後に朝受け取れなかった証明書をマクレランド商会にもう一度寄って受け取ってきたんだ〜!」

 本当はもっと冒頭では頭の中でごちゃごちゃと言い訳がましいことを考えていたり、大事な話故に途中ちょっとした駆け引きもあったりしてそう簡単な話ではなかったのだけれども、簡潔にまとめるならばこんなところだろう。

「だから態態申請書を出す必要もないし、マクレランドさんにご足労いただく必要もないから大 丈 夫!!」

 そして「見たか我が手腕を!」と言わんばかりに、某有名ドラマに出てくるとある御付きばりの堂々毅然たる姿で、亜空間から取り出したティナの身請け金受け取り並びに、身請け証明書(仮)の紙2枚を掲げてみせる。今日パーティーに参加できなかったマクレランドには行政から認証してもらった本身請け証明書を受け取りに行くついでに、ティナと二人でお菓子でも作って持って行こう。

「つまり、今日からこの子はリアムの奴隷になったってこと?」
「まあ建前上はね」

 すると、それを聞いたミリアから質問が・・・──

「で、今日から同じ屋根の下で暮らすと・・・」
「部屋はカリナ姉さんの部屋が空いてるからとりあえずそっちで、カリナ姉さんが帰郷したりで帰ってくることがあればまた、その時考えることにはなるけど・・・」

「でも、やっぱりおんなじ屋根の下で暮らすわけね・・・」
「そ、そうですけど・・・あ、あのミリアさん? 先ほどからあなた様からとてつもない気迫を感じるというか・・・いえ、お言葉と声色からもそれが十分に感じられるというか・・・」

 僕は、鬼気迫るような恐ろしい腹の底から冷えしてしまいそうなミリアの詰問に、ジリジリと後退する。

「この破廉恥狼!色魔!アホ!クズ! 女の敵!!!」
「ちょっと待って! そんな不名誉な称号をつけられるようないわれはこれっぽちもなく・・・!」
「うるさい! あんたはとりあえず黙ってこの私の鉄拳を受けなさい!」

 するとミリアがまくし立てるように僕に対して不名誉な称号を次々とつけて叫ぶと、彼女はその華奢な細腕に立派な鉄のように硬いあの籠手一つを出現させる。

「ジュリオさん! 早速借りを返す時です! この鬼のように怒り狂う公爵令嬢から僕を守って、どうか怒りをお諌めください!!!」
「えぇッ!? それは無理ですよリアム殿! ミリア様は私の主人のご令嬢で・・・」
「あんたも邪魔するのねジュリオ! こうなったら二人まとめて・・・!」
「ゲート! ではお先に転送の間から転移して城に行ってます!」
「そんなリアム殿! 私も連れて行ってください!」
「ちょ!離してくださいジュリオさん! 僕はこんなところで死ぬわけには・・・!」

 ゲートを開き逃げようとする僕の腰にすがりつくジュリオ。

「死ぬわけにはいかないんだー!」
「私もでありますーーー!」
「眷属魔法!雷砲!」

 そして無情にも、彼女は眷属魔法で発現させた籠手を振りかぶって凄まじい雷砲を・・・──!

「ヘックシュン! あれ? 雷じゃない?」
「こ、これはみゼックシュン!」

 しかし次の瞬間、僕たちに襲い掛かったのは全身を焦がすような熱さと痺れではなく──

「当たり前でしょ。こんなところで雷砲使ったら建物や他の人にまで影響がでるじゃない」

 んべっと左手で左下瞼を押さえあっかんべーしながら、右手に掲げる一枚のスクロールを掲げて僕たちに見せるミリア。

「な、何故かミリア様の成長を感じました・・・」
「そうですね・・・まさかそこまで周りに気を使えるようになっているなんて・・・」

 僕たちは互いにびしょ濡れとなった姿を確認しながら、雷砲を使わなかったミリアに感心して同調する。

「へぇ・・・あんたたち。そんなにもっときついお仕置きをして欲しいなら、別に今から追加でしても構わないのよ・・・?」

 すると、それを聞いたミリアが再び雷神の籠手を持つ腕を掲げて構える。

「「いえ! 私たちは深く反省しています! ミリア様万歳!」」
「そう? ならいいのよ・・・なら」

 僕たちは直に二人、息のあった言葉で彼女の気遣いを遠慮しつつ、敬礼を見せて崇め奉る。

「これで一件落着といっていいのか?」
「まあいいんじゃな〜い? ただ約2名、まだ不満が残ってそうな感じだけど」

 その寸劇を近くで見ていたウォルターの呟きに、ラナが応える。

「・・・バカ」
「・・・何、これ」

 そんな彼女が視線をチラッと移した先にいたのは、やきもちを焼いたように頬を膨らませながら目をウルウルさせているエリシアと、少し苦しそうに自らの服の胸のあたりをギュッと握り、寂しげな表情を浮かべるレイアだった。

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