アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

121 暗闇の中で──

「よっ・・・」

 年長者のウォルターが息を止め、背中を丸めて一杯の力をその体に集約させる。そして──

「シャーーーッ!」
「「「シャーッ!」」」

 皆が、打ち上がる花火に負けないよう大きく勝鬨を上げる。

「やったぞ俺たち! ついにあの呪縛を引きちぎったんだ!」

 無理せず力まずそつなくこなす。勇み足で失敗してしまったあの日から幾半年、ようやく皆で無事に己で課した課題をクリアした。

「やっと・・・!」

 貴族として、ボロボロに打ち砕かれたあの日のプライドを取り戻した者。

「今回は上手く皆さんをサポートできました!」

 弱気な自分を変えるために、切磋琢磨した日々に後悔はなかったと再確認する者。

「いやー・・・本当、今回はリアムはもちろん、エリシアちゃんのおかげでのびのび戦えたよ!」

 仲間の健闘を讃え、達成感に満ち足りた笑顔を浮かべて飛びつく者。

「ふ、ふぇぇぇん! ごめんなさい! ありがとう!」

 そして、前回は足枷どころか意識を失くして暴走してしまったあの日から、ずっと心の何処かに抱えていた罪悪感が、スゥーっ・・・と融解していく感覚とともに、自分に抱きついてくる仲間の温かさに安堵し号泣してしまう者まで。
 
「レイアもロガリエ、そして初のボス戦でよく頑張ったな」

「ありがとう、ウォル兄さん」

 それに、今回初めて戦闘に参加し、功績を挙げた者もまた、等しく皆とその嬉しさを共有する。

『やっぱり転生者じゃなくて転移者かな? だって称号の説明には確か数千年に一度あるかどうかとか書いてあったし、よくラノベとかである勇者召喚的な儀式から・・・』

 しかし一方で一人、表情が優れない者も・・・──

「おいリアム? 大丈夫か?」

 そんな僕を心配して、ウォルターが語りかけてくる。

「ああごめんウォルター。ちょっと考え事をしていて」

 僕は急いで表情を取り繕う。結局こういうことは謎のままか、然るべき手順を踏まねば情報は得られないという物である。そしてそれは今ではない。
 なにせ100年以上も前、しかし割と最近なのに消息不明になっているんだ。だとしたら、僕ごときが今どうにか足掻こうと、得られるものはほぼ0だろう。

 それより──

「ほら! 今回1番活躍したリーダーをみんなで胴上げだ!」
「ちょ、ちょっと!?」

 今は無理矢理に僕の体を引き寄せるとそのまま持ち上げて、宙に投げられるというこそばゆくも慣れない感覚に対応するのに精一杯だった。


「チームロガリエ! 大勝利! 大勝利です!」

「「「うぉーーー!!!」」」

 ナノカのコールで、会場中が熱気と歓声に包まれる。ジジイが来たという噂でいっぱいになった観戦席であったが、さらにキングが出た、初心者冒険者が粘っているという噂が瞬く間に広がり飽和状態を軽く超えたこの会場から上がる歓声は、戦闘が始まった頃と比べると比べ物にならないほどの熱量であった。

「お疲れリッカ。とりあえず誤魔化しはできたんじゃない?」
「『大勝利です!』・・・じゃないわよ! 全くあの子、これからが大変なことわかってるのかしら!」
「儚い束の間の幸せだから、今は触れてやるな」

 火消しは終わったと、舞台裏に戻ってイツカと言葉を交わすリッカ。

「勝ったな・・・」

 俺は、戦場を映す魔道具に映る胴上げされている息子を見て、静かに微笑む。

「こうしてはおれんな。おいマリアパトリック。我々は急いで城に戻り、パーティーの準備をするぞ!」
「ええ、急がないとね」
「はい。わかりました父上」

 すると隣では慌ただしく席を立つジジイが・・・──

「お前たちはどうする? 今一緒に城にくるか?」

 俺たちも一緒に同行するかと誘う。

「ああ。ジジイの誘いに乗るのは癪だが、それが一番良さそうだ」
「そうね。この中に取り残されるのはちょっとね・・・」

 俺はその誘いを受け、アイナや他の皆もそれに賛同する。

「では・・・おいそこの護衛よ! お前はここに残って帰ってきたあの子らを城まで案内しろ! これは命令である!」
「はっ! その重役、我が杖と剣にかけて、最後までしっかりと務めさせていただきます!」
「うむ。それでは行くか・・・」
 
 そしてジジイに続いてそそくさとこの場所から退散を・・・──

「公爵様がお帰りのようだぞ!」
「剣狼もだ! おいお前ら道を開けろ!」
「マリア様が手を振ってくれたぞ! それに目もあった気がする!」
「「「きゃーッ!パトリック様ぁ〜ッ♡」」」

 ジジイが動くと会場中の視線も自然とこっちを向くわけで、主にマリアや若い女性に人気のあるパトリックに黄色い声援が飛ぶ。しかし・・・──

「ああ、久しぶりお目見えできた炎獄お姉様は相も変わらず素敵だったわ」
「これで赤薔薇様が隣にいればもう最高だったんだけど」
「隣が剣狼ってのがねぇ」

 それは昔の俺たちを知る者たちも同じであった。

「何言ってやがる!お前ら昔は赤薔薇が《唯一の癒し》とくっついてヒィーヒィー言ってたくせに!」
「それはそれ、これはこれよ! 剣狼はアブノーマルマッスルとくんずほぐれずしてればいいのよ!」
「・・・オゥ。その時は是非俺も・・・」
「「「えぇ・・・」」」

 ある女性観客陣と男性観客陣の衝突、それによって生じた火花は、俺の心にも大きく飛び火する。

『悪かったなアイナの隣にいるのが俺で! そして今そういうネタでいじるのはやめろ! 立ち直れなくなる!』

 その耳に勝手に飛び込んできた口喧嘩を聞いて、俺は心の中で絶叫する。これから大事な息子の祝勝会準備でワクワクしてるっていうのに、同時にとても複雑な気分だった。


「それじゃあ、俺たちは先に行ってるからな!」

 しばらく僕を胴上げしていたウォルターたちが、先に出現した転送陣へと向かう。

「それじゃあ後で」

 僕は一人、焼けた草原に残る。

『跡形もない・・・か』

 そして、先ほどまでキングが凍って固まっていた場所を散策する。キングは花火の開花とともに、光の粒子となって消えてしまっていた。

『やっぱりボス戦は特別、本当にこのシステムもまた、ゲームっぽいというか中途半端というか』

 そこで、僕は一つ大きなため息を・・・──

「あれ? でもなんで僕は酸欠にならなかったんだ? ここが常識とはかけ離れた場所だからか?」

 ふと、先ほどの戦闘を振り返り周辺があんなに燃えてしまっていたのに、自分が酸欠に陥らなかったのかという推察に突入する。

『おそらくですが、あの草原で燃焼した物は精々そこに生えていた草程度、魔法の炎はそもそも魔力そのものが変化した状態であり、マスターのいう酸素を必要とする炎とはまた別物かと。あれのほとんどは魔力と同等のあのカエルの油を燃料としていましたし、意図して属性魔力密度を減らし調整してみたり、何かに引火しない限りは火の魔法単体で酸素を消費する燃焼はおこらないのだと推察します。凱旋が終わって一段落したら、研究してみては?』

「頭の片隅にとどめておくよ」

 僕はイデアの解説に苦笑いで答える。もうほとんど答えは言ってくれたようなものだ。
 
 魔法とは、世界の理そのものに魔力を仲介者として干渉して現象を発現させる。一方で魔術とは、無から全ての有を作らず、魔力で発現させた不完全な現象に対して、不完全なものを自然界や人工的に用意したものと掛け合わせて補完する形態を指す。つまりは、酸素燃焼を起こす火を作りたければその構成要素全てを魔力とせず、酸素を介する魔術として落とし込めばいいというわけだ。
 これまではてっきり、魔術は魔法のただ不完全な形態だと思っていたが、今回の経験から、どうやらこちらの方が自然の摂理としては近しい結果を再現できるらしいことがわかった。

『それに、そろそろお仲間方に言われた時間では?』

 そんな考察の総括をしていると、イデアが散策のタイムリミットが近いことを僕に告げる。

「そうだね、それじゃあそろそろ・・・」

 僕は彼女の通知を肯定しながら、転送陣の出現しているポイントへと歩く。

「鑑定・・・解析・・・」

 一応、ダメ元だとわかりながらも転送陣の情報分析をするが・・・──

「やっぱり、ダメか」

 やはり結果は鑑定・解析不能に終わった。鑑定だけは単純にレベル不足なのかどうかはまだ試す余地が残っているとは思うが。

「行こう・・・」

 そして、僕がそう一人呟きながら光の柱の中に足を一歩踏み出すと・・・──

「・・・か」

 一瞬で、目の前が真っ暗になった。

「寂しい・・・寂しい・・・」

 後ろから聞こえてくる悲しげな女性の声。

「誰・・・!」

 僕は直ぐに後ろを振り返る。

「もう十分反省した。俺の負けだ!だからここから俺を出してくれ・・・!」

 しかし僕の声は届かない。その女性は暗い暗い闇の中にへたり込み、ずっと下を向いているだけだった。

「あの・・・あなたは・・・」

 そして僕は彼女に再び問いかけるが・・・──

「なんだ!」

 途端、途轍もない勢いの風が前から後ろへと吹き抜け、僕を後方へと吹き飛ばそうとする。

「待って! 僕はあなたを・・・! あなたのことを知らなければいけない気がする!」

 この時、どうして自分がそんなことを言ったのかわからない。だが──

「ああ、同族の血が。そして私の名を呼んでくれれば」

 すると、その女性がまるで神に祈るように、その黒く美しい長髪に隠れた顔を上げる。

「あなたの・・・君の名前は___!」

 僕は墜ちていく。この暗い空間の中に突如として現れた光の穴へと。

「私は・・・」

 女性の顔にかかっていた黒くて長い髪が徐々に垂れて、僕から見て左半分のその白く透き通った顔が顕となる。
 同時に、僕の周りを包み始めた光。その束の間に見えた彼女の横顔は・・・──

「・・・僕だ」

 人肌のように全身を温かく包み込む光の中へと墜ちていく最中、僕は穏やかな気分で目をゆっくりと閉じながらそう呟く。
 そして光の隙間から差し込んで見えた闇に映る女性の横顔は、どういうわけか僕そのものだった。いや、正確に言えば、もう少し成長した中学生か高校生くらいのこの世界の僕だった。
 今の自分の顔立ちが中性的なものかと問われると、情けないことにはっきりと否定できない。そして視界が閉じていく中で何回も彼女の顔を思い出して反復しても、やはりそうとしか思えない顔立ちをしていた。
 ただ一つ、そんな既視感の中で明らかに僕と違う点を挙げるとすれば・・・──

「綺麗な、緋色だっ・・た・・・」

 彼女の左目は、血をガラスのように透き通らせたような綺麗な緋色をしていた。

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