アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

118 火炎

「り、リアム!? トードの腹が・・・!」

「えっ?」

 この時、ウォルターに言われトードの方を振り向いた僕は、改めてボス戦前にイチカから聞いていた話を走馬灯のように思い出した。

「まさかこの後にくる攻撃が回避不可の・・・!」

 そして──

「グバーーーー!」

 次の瞬間、キングトードが吐いた豪炎が辺り一帯を包み込む。

「「「リアムー!」」」

 そして僕は、火の海へと──。

「ミ、ミリア様を咄嗟に庇ったリアムではありましたが・・・」

 映像が炎で埋め尽くされる。

「リアムッ!」
「り、リアムが!」

「「リアムくん・・・」」
「リム坊・・・」

「何故!・・・いや、すまない」
「あなた・・・」
「リアムくん!」

「リアム様!」
「リアム・・・」
「・・・フフ」

 その炎が埋め尽くす前、最後に映っていたのはミリアを助け、一人だけ自らが作ったボックスの外にいた息子だった。

「おいっ!あの坊主お嬢様を助けて一人だけ──!」
「いや、どちらにしろあんな坊主が作った魔力の壁で防げるような熱量じゃねぇだろ!」
「エリアAのレベルに見合ってねぇ・・・」
「俺は一度見たことがある。その時挑戦していた初心者パーティーも、これで全滅したんだ」

 動揺は保護者らだけに留まらず、会場中に伝播する。

「・・・リアムのことだ。あのボックスは相当頑丈に作ってるはずだから他のみんなは無事だろうが・・・」

 そして俺は一人、愕然としていた。

「・・・フフフッ! ハハハハハッ!」

 すると、こんな状況だというのに後ろから轟く一つの高笑い。

「おいルキウスさん・・・一体何がおかしいってんだ・・・」

「不謹慎だぞ・・・ルキウス」

 それにはもちろん俺も、そして隣にいたジジイまでもが眉をひそめて責め立てる。

「ハハハッ!・・・だっておかしいでしょ? 面白いでしょう・・・、この状況は!!」

 しかしルキウスは俺たちの批判に対し、全く態度を改める様子はなかった。

「本当に拍子抜けだ!・・・いや、実に間抜けであると言うべきか!」

「なんだと・・・!」

 ルキウスが狼狽える俺たちを嘲笑う。そして俺は、依然として炎に包まれたリアムを嘲笑する彼に、イライラを募らせる。

「・・・はぁ、フフッ! そもそもあなた方は根本的に一つ、見落としをしている」

 が、そのイライラは更に増幅することとなった。

「おい、何を見落としてるって言うんだ・・・。リアムはミリアちゃんを助けるために一人、犠牲になったんだ。それを笑うなんざ・・・」

 自然と体に力が入る。

「ウィ、ウィル! 魔力が漏れてる!」

 怒りによって魔力が滲み出し始めた俺を、アイナが必死に制止する。

「怖いですねー・・・。それにこの魔力量、流石はハワードの直系・・・いや失敬。今は関係を完全に絶っているんでしたね」

「・・・!」

 そして俺の怒りの許容量が、限界の一歩手前まで一気に沸騰し満たされる。ハワード・・・それは俺が一番思い出したくない、聞きたくない言葉だった。

 後一言、後一言俺の神経を逆撫でするようなことを言ってみろ。俺への最大の侮辱はこれ以上ない。だがもしこれ以上まだリアムのことを馬鹿にするってんなら、俺はその瞬間、あいつの親としてお前に殴りかか──

「そう怖い顔しないでください。勘違いですよ勘違い! 僕が間抜けだと言ったのは息子さんのことではなく、あなた方のことですから」

「・・・は?」

 しかし後一言、身を呈してミリアを守ったリアムのことを馬鹿にしようものなら殴りかかると決めていた俺にルキウスから告げられた言葉は予想外の斜め下、今までの発言が全て俺たちに向けられたという意味のわからないものだった。

「馬鹿にされたのが自分でないと知った時、冷静さを取り戻すところが実にあなたらしい。リアムくんそっくりだ」

 突然の今までの発言はここにいる者たちへ向けられたものだと知り、渦巻いていた魔力を発散させた俺を見てルキウスが呟く。そして──

「・・・! そうか・・・そういうことか」

 同時に、彼が俺たちに何を言いたかったのか、何について間抜けだと言ったのかに気づく。

「これは一本取られたな・・・。そうか、リアムが俺にそっくりか・・・」

 おそらく他のみんなはまだこのことに気づいていない。突然大人しくなって何かを理解した俺に対して、首を傾げて不可解そうな顔をしている。だが今まで、ルキウスに向けて闘争心をむき出しにしていた俺だからこそ、その見落としに気づいた。

「それに本質的に奴らに近いのはリアムの方・・・か。ハハッ・・・なるほどな」

「ええ。言い得て妙でしょう?」

「確かにな・・・だが」

 俺はここで、ルキウスに一つ尋ねる。

「な、なあルキウスさん。それってわざわざ俺を煽らなくても、普通に言えたんじゃないか? あんたならきっと、俺がこういう人間だということはわかっていたんだろ・・・?」

 俺はようやく冷静になって、周りの様子に気づいた。会場中の視線は一転、モニターの炎にではなく、俺に向いていたからだ。俺は一体どれほどの魔力を怒りに任せて練ってしまっていたのか・・・──

「そうですね。ですが強すぎる力を第3者に少しでも受け入れてもらうためには、それなりの過程の明示が必要だ。これはそのために必要なせめてもの布石なのですよ。これもまた、リアムくんのためです」

 しかしルキウスの表情は相変わらず笑顔だ。本当に憎らしいほど頭が回る、が、こればっかりは俺にも何を考えているのか理解するには及ばなかった。

「結末を見届ければ、僕の言った言葉の意味がわかりますよ・・・」

 ルキウスはそう呟くと目はそのまま、口を閉じてジッとモニターの方を見る。すると──

「・・・ブラックポケット」

 会場を支配していた炎の燃える豪音の中、突如響き渡る異音。

「・・・今のは」

 その異音に、先ほどまで浮き足立っていた観客が皆、一斉にモニターに注目する。それは俺も例外ではなかった。

「ほらね・・・」

 そして一人だけ、唯一この会場の中で一人だけ、これから始まる一人の少年の物語の幕開けにルキウスは己の正当性を呟いて、・・・笑う。

 ・
 ・
 ・

──そして僕は、火の海へと呑まれた。

「「「リアムー!」」」

 仲間が、みんなが、僕を呼ぶ声が聞こえる。

『・・・みんなが無事ならそれで』

 炎に包まれる寸前に聞こえたみんなの声。あの一瞬では、自分を守る魔法をかける暇もなかった。

『あーあ・・・これで死ぬのは二度目か・・・。でも、果たして僕はちゃんとリヴァイブで生き返れるんだろうか・・・。異世界の記憶を持つ、この僕が──』

 目を瞑ると、この世界での日々が、思い出が次々にまぶたの裏に浮かぶ。新しい父さんと母さん、カリナ姉さんにこの世界で初めての友達になったレイア、そしてアルフレッドにフラジール、エリシア、ウォルター、ラナ、ミリアと、他にもたくさんの人たちと出会っては大切な思い出が増えていった。時には辛かったりぶつかったことも少しあったけど、生き返るにしても死んでしまうにしても、きっとこれが一つの節目となることは間違いない。

『あったかい・・・これが焼かれて死ぬ感か・・・く?』

 だがここで、僕はある違和感に気づく。

「あれ?・・・熱くない?」

 そう。僕は確かに燃え盛る炎の中にいたのに、体が焼けてしまうこともなく、ましてや熱さすらも異常に感じることなく・・・──

「いや、確かに熱いという感覚自体はあるけど、精々ぬるま湯に浸かっているくらいに温度が低い。これは・・・」

 火傷もない、綺麗に炎の中で存在している自分の手や足、身体中あちらこちらを確かめる。

「って裸じゃないか! なんで服だけ燃えて体が燃えてないの!!!」

 そして僕は裸だった。

『マスター。マスターは馬鹿ではないですか?』

 すると、脳内に響くイデアの呆れた声。

「・・・なんで」

 僕はなぜと直ぐに聞き返す。

『何故ってマスターの魔法防御は既に4万を超えているんですよ? たかだか保有魔力5千程度のイボガエルの炎が、マスターの体にダメージを負わせられるわけないじゃないですか』

「・・・あっ」

 は、恥ずかしい。イデアに指摘され、根本的な見落としに気づいた僕。僕の人生は、これからもこうして大事な局面で誰かに指摘されて気付かされるような、間抜けな人生になるのであろうか。・・・緊張感が足りないのかもしれない。・・・いや、そういう問題ではないか。

『魔法防御力の高くない服を着ていたので、服は燃えてしまいました。この戦いが終わったら、装備の一新を考えた方がいいのでは? 魔糸を使ったより強力な防御力を付与できる陣の提案が私にあります』

 すると、燃えてしまった服を引き合いに、装備の一新を勧めてくるイデア。

「・・・イデアのエッチ」

 ヤラレっぱなしは性に合わない性格で・・・訂正、ただ自分の羞恥を紛らわせるために態と巫山戯てみせるが ──

『んなッ!・・・変なこと言ってると無駄に魔力放出して空にしますよ』

「あー待って待って待って! 悪かったよ! だからこの状況で魔力スッカラカンは止めて!」

 結果として、想定外のとんでもない報復予告がイデアから返ってきてしまう。僕はそれはまずいと必死で彼女に止めるよう懇願するが・・・でも、『んなッ!』だって。こんな驚いたイデアの声を聞いたのは、なんか初めてな気がする。学習によって、成長がまた進んだ証拠だろうか。

『魔力放出まで5秒前・・・4、3、2・・・』

「だぁーッ!本当に悪かったから!」

『仕方ありませんね。では戦闘後の装備再考において、デザインから付与能力まで全てのカスタムを私にさせてください』

「そんなこと? こっちとしては願ったり叶ったりだし、前みたいに、強制的に設定が変えられなくなるようなことがなければ別にいいよ」

『取引成立です』

 あ、危なかった。イデアは僕の頭の中を読み、また語りかけることもできる。彼女がどんな存在であるかは明確に定義することができないが、僕の妄想の二重人格・・・なんてことはないだろう。しっかりとスキル欄には彼女の名前を冠したオリジナルスキルがあるわけだし、言うなれば、体を同じくする二心同体という表現がしっくりくる気がする。

「服はダークスーツで代用するか・・・」

 僕は燃えてなくなってしまった服のかわりに、首から上だけ露出させたダークスーツを体に纏う。亜空間の中にもちろん替えの着替えはあるのだが、この炎の中で取り出してもただ無駄に消費してしまうだけだろう。それゆえの緊急措置だ。そして・・・──

「ブラックポケット」

 僕は最上級闇魔法、ブラックポケットを唱える。

──シュッ・・・ヒュンッ! ジュジュッ!

 空を切る風の音とともに、まるで空間の穴、空中に浮いたその黒い穴が、周りの炎を急速に次々と収束させていく。
 そして──

「・・・ゲゴ?」

 周りの炎もすっかりと吸い込まれ、残るは広大な草原の中にぽっかりとできた黒焦げの大地、僕たちは再び対峙する。
 

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