アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

114 素揚げの誓い

──トード、つまり蛙。

 この一面ライ麦畑のエリアAでは、まばらに生息するトード達が畑の中を飛び跳ねる風景が風物詩となっている。

「と言うわけで、二人とも家族の方には伝えてきたから・・・」

「ありがとうリアム!」「ありがとうリアム・・・」
 
 エリアAの広場に戻ってきた僕にその時の状況を聞き、先ほどとは打って変わって正反対の反応を見せるエリシアとミリア。
 因みに帰りは流石に危なくて跳躍できなかったため、マクレランドの商会まで歩いてそこからゲートでここまで戻ってきた。

「ただしミリアは後衛で無理をせずに魔法でのサポート、アシストに回ること。これが守れないと参加させられません」

「えぇーッ! そんなの嫌よ!」

「これはマリアさんからの通達です。もしそれが守れないようだったら、楽器室の扉に鍵をかけてしまうそうです」

「えぇ!? そんなの理不尽よ!」

 告げられた己の措置に、不満と行き場のない怒りを叫ぶミリア。だがこれもまた自業自得、あれだけの人員がミリアのために動いていたのを目の当たりにすると、決して重すぎるとは思わないしむしろ軽いくらいだ。

「そろそろ昼メシだな」
「お腹すいたー!」
「私も・・・」
「・・・お弁当」
「アルフレッド様の分のお弁当は作ってきてませんから、このトードの足でも焼いて食べてください」
「んな! そんな馬鹿な!!」

 先に呼び出した二人とは別に、次々とライ麦の茂みの中から姿を現すメンバーたち。既に一人、弁当がないという危機に陥っているがこれからは昼食の時間、午後からついにエリアボスの討伐だ。

「お疲れ様ティナ・・・ヒート、はい・・・ティナのお弁当」

 僕は亜空間から一つの魔法箱を取り出し、その中に入っていた弁当箱を魔法で加熱して手渡す。《ヒート/加熱》は火魔法の派生形、《熱魔法》唯一の魔法で込める魔力によって威力が変化するため、階位も存在しない珍しい魔法だ。

「ありがとうございます。ご主人様」
 
 加熱といっても僕は冷えた弁当をただ常温に戻しただけ、彼女は人前では表情を滅多に崩さないが、ティナはそれを受け取り礼を言うと、嬉しそうにジーッとその弁当箱を見つめていた。なぜ人前で表情を崩さない彼女が嬉しいってわかるかって? ・・・それはティナの目が少し大きく開き、耳を横にピョコピョコさせていたからだ。
 初めは人前にいる時の彼女の喜怒哀楽を読むのに苦労したが、これはこの半年お互いに一緒に過ごす時間も長かったためにようやく発見したコミュニケーションによる賜物だ。その判断材料は尻尾と耳、そして目。彼女は僕と二人でいる時のみ素直な表情を見せてくれるため、その時の彼女の感情と価値観をトレースし、それらをまとめると──

  目   耳  尻尾
喜見開く動く垂れて少し揺れる
怒据わる立つピンと毛が逆立つ驚いた時なども
哀下がる畳む垂れて無意識には動かさない
楽普通 動く垂れて少し揺れる

 といったところか。もちろん時と場合によってそれは臨機応変に変わってくるわけだが、統計すればこんな感じといったところだ。例えば尻尾の”少し揺れる”というのは本当に少しで、哀の時に風で揺られていたら見分けがつかないほどだ。因みに僕と二人で感情を表に出しているときは、特に喜や楽の時はブンブンとまるで犬のようにわかりやすく現れる。そしてたまにみる他の獣人を見ても思ったのだが、どうやら獣人の尻尾や耳による感情表現は、共通して同じようである。

「ず、ずるい! 私のお弁当は!?」
「私の分も!」
「ぼ、僕の分もだ!」

 すると、ずるいと自分の弁当を要求するミリアを皮切りに、エリシア、アルフレッドがそれに続いて弁当をせがむ。

「エリシアの分は実はリンシアさんがお昼に用意していたご飯を包んでいてくれたんだ・・・はい。そしてミリアには昨晩のお詫びに僕の分をあげるよ」

「ママ・・・」「リアム・・・」

 僕からそれぞれ弁当箱を受け取った二人は感無量、大事そうにそれを受け取る。

「で、アルフレッドの分は・・・」

「ああ!」

「ないからトードの足を今から調理しよう」

「そんな馬鹿な!」

 一方、流石に彼の分までの弁当は用意できなかった。その代わり、ウォルターたちが取ってきてくれたトードの足を使って、昼食を作ることにする。

「調味料も調理具も一通りあるし、僕も付き合うから勘弁してね」

「・・・お前がそこまで言うなら」

 僕の説得に渋々応じるアルフレッド。彼もまた他領領主の次男にして辺境伯家の一員、蛙の肉を食うなど経験したこともないだろう。

「そう悲観することはないって。僕はギルド長に連れられてよく酒場でトードの肉をご馳走になってるけど、これが案外いけるんだ」

「・・・本当か?」

 すると、僕の言葉に少し食いついてくるアルフレッド。

「まあ手伝ってよ。あんまり時間がないからね」

「わかった。僕は何をすればいい」

「そうだね・・・この足から皮を剥いだ後、このリカバリークリーンシートで除菌と血抜きして骨を抜いたら、下半分だけこのミンチシートの上に置いてミンチにしてくれる?」

 トードは座っている状態で頭からお尻にかけて1m以上あるモンスターだが、これだったら料理オンチのアルフレッドでもできると、僕は亜空間から2つのシートを出してアルフレッドに任せる。

「鍋にウォーター・・・ヒートで50度くらいまで水を加熱してカットしてそこに冷凍しておいた野菜を入れて塩を適量、・・・あとは加熱シートの上で加熱・・・」

 その間に僕はスープと──

「後は油を注いだフライパンも熱しておいて・・・」

 肉をあげる油の準備をする。

「マヨネーズ、バターをパン表面に塗ったら家から持ってきたカイワレをサッと洗う」

 そして、ミンチができ上がるまでに他にできることをあらかた済ませておく。

「できたぞリアム。血がほとんど抜けていたしミンチもこっちのシートの上に肉を乗せて魔力を流すだけだったから、楽に終わった」

 するとどうやら、アルフレッドの肉の処理も終わったようだ。

「片栗粉に卵に生姜のすりおろしを入れて・・・それじゃあ今度はその調味料とつなぎをしっかり混ぜたミンチをこのくらいの団子状にしていってくれる?」

「そんなの朝飯前だな」

 ミンチが入ったボウルにその他材料を入れ、アルフレッドにもう一度託して次の工程へと移る。

「残った足の肉を骨から引き剥がして一部はスープと一緒に煮、もう一方は一口大にしてそこに生姜醤油と酒を加える」

 大体こんなものだろうか。氷水を用意し、スープに入れた肉に火が通るまで灰汁取りをしてアルフレッドの団子が出来上がるのを待つ。

「おい団子できたぞ? こんなんでいいのか?」

「うん。良くできてるしグットタイミング。じゃあスープの中の肉を僕が取り上げるから、その団子を代わりに入れてくれる?」

「了解だ」

 アルフレッドの団子作成が終わると、僕は鍋から肉を取り上げ、氷水につけて表面の温度を一気に下げる。

「これを裂いたように切って塩胡椒を少々、カイワレと一緒にパンに挟んだらサンドイッチの出来上がり・・・後は──」

 これで一品完成。サラダチキンならぬサラダトードもどきとカイワレを挟んだだけで実にシンプルだが、これで主食は完成だ。

「このつけていた一口大の肉の水分を紙で軽く拭き取ってから温めておいた油の中へ入れて素揚げに・・・・・・できた! 後はこれにも塩胡椒してレモンを添えたら、トードの素揚げ、トードのサンドイッチ、トードのつみれスープの完成!」

 ここまでの所要時間はざっと20分といったところであろうか。肉の解体と火入れに少し時間がかかったが、それでも充分すぎる早さで調理は終わった。

「・・・晩御飯ぶりの食事だ」

 すると、完成した料理をみて生唾を飲むアルフレッド。そうか・・・彼は朝ここに来るまでお腹を壊してたから、朝食もロクに食べていなかったのか。

「それじゃあ食べよっか」

 だがそれは僕も似たようなもの、実は朝食前にピッグが家を訪問し、その後は急いでヴィンセントの元に向かったために僕も今日は朝食を食べ損ねていた。紆余曲折あったが、ようやく食事にありつくことができる。

「・・・いい匂い」

 すると、素揚げの香りに誘われてすでに弁当を食べ終わったティナが、僕の元へと近づいてきた。

「・・・(ジー」

 それから彼女は僕の横に立つと、素揚げをじっと見て動かなくなる。

「うまい! 口の中に広がった油と肉がうまい具合に混ざり合っていく! それにこっちのスープも一緒に飲むとしっかり味があるのにこの肉の旨味を全て流すことなく調和し、また素揚げを食べてもサンドイッチを食べても何度でも味を楽しむことができる!」

 そして突然向かい側に座るアルフレッドから聞こえてくる絶賛の食リポ。そんなアルフレッドの食リポを聞き、益々ティナの素揚げをみる視線が頑としたものになる。

「僕もお腹が空いてるから・・・一口だけ・・・味見する?」

「・・・(コクコク」

 僕の質問に素揚げを凝視しながら、一生懸命い首を縦にふるティナ。そして──

「あーん」

「はむっ・・・んぐんぐ・・・んーっ!」

 素揚げを食べると、目を輝かせなからかなりオーバーなリアクションをとるティナ。僕の彼女表情統計学とは一体・・・──

「「「あーん」」」

 すると何事か、僕が座る机の端でいつの間にか口を開けてポジションにつくミリア、エリシア、そしてラナ。

「いやあーんってみんなはもう弁当を──」

「「「あーん!」」」

 そのあーん・・・はとても強引なものだった。なにせ彼女らの目はとてもにこやかに笑っていたのだが、同時に僕には「ティナにだけあげて自分たちになしはないよね?」と言っているようにしか聞こえなかったから。
 僕は仕方なく餌を待ち構える雛のごとく口を開ける3人の口に、素揚げを放り込む。

「表面がサクッとしていて中はジュワッと!」
「おいしー!」
「あ、あっついあっついホフホフ!」

 口の中に素揚げを運んでもらった3人の反応は決して悪いものではなかった。ただ放り込むと言っても、ミリアとエリシアの口にはゆっくりとそれを運んであげたのに対し、ちょっとだけ空きっ腹にお預けをくらってイライラしていた僕は文字通り、ラナの口にだけできたての素揚げを放り込んだ。そのため、三人の中で一人だけリアクションの種類が違うのはご愛嬌だ。あとが怖くてミリアとエリシアには絶対できなかった・・・おかげで僕の心の平穏は保たれたよ・・・ありがとう、ラナ。

「はいはい。ウォルターとレイアにフラジールに・・・イチカさんも!?」

「いやー!酒場の素揚げと違った香りが良いというか誘われたというか・・・」

 面目無いと頭を掻きながら苦笑いするイチカ。

「・・・わかりました。じゃあ4人は自分でお皿から一つずつ素揚げを取って食べてください。僕も早く昼食を済ませないと、満腹後の運動はきついですから」

 僕は仕様がないとサンドイッチに手を伸ばしながら、素揚げを四人に提供する。

「「えーっ!」」

 するとなぜか「えーっ!」と不満そうな声を上げるレイアとフラジール。だが僕はそれを一々拾いはしない。お預けをくらった空腹状態で流石にこれ以上一人ずつ食べさせていくのは辛い。それに二人ももうそんな齢では・・・あるのか?

 兎にも角にも素揚げは後回し、僕はサンドイッチとスープを先に食べることにする。・・・でもできれば素揚げも一緒に食べたかった。

 ・
 ・
 ・

「というわけでボス戦は別格、始まればどんなパーティーの中継でも中断され、レベルの高いボス戦優先でコンテスト会場に映像が流れることになります。まあ他にも理由はありますが、だからギルドがボス戦への挑戦を制限しているわけです。またこの魔力ドームは転移門になっていて、入ったらボスのいるところから討伐完了するか死んで、リヴァイヴに行くしか脱出方法がありません。何か質問は?」

「はいはーい! 討伐完了ってどうやって判断するわけ?」

「討伐を完了すると、中心にどこからともなく光が立ち上りそれが魔法文字を形成、その後その光の柱は転移陣になっていて、それはリヴァイヴの門へと繋がってるんだよね。でももちろん装備の消失とかはないから安心してね」
 
 なるほど。ボス討伐すると出てくる転移陣で討伐完了かどうかがわかるというわけか。

「それじゃあ他に質問は・・・ないみたいね!」

 皆が昼食を取り終わり食休めも兼ねてのプチ勉強会、追加の質問もないことを確認したイチカは満足気にそう告げると、最終確認の書類の準備を始める。因みにエリアボス部屋への転送陣があるこの場所は、一定範囲において雑魚のわきもないし、近づきもしないいわゆるセーフポイントと同等の扱いとなっている。この円状にライ麦がないこの広場がまさにそれで、これはギルドの人たちがわかりやすくするために元々あったライ麦を刈った跡に、定期的に魔法をかけることでそれが再生しないようにしているらしい。

「ではこれに最終チェックのサインをしてください!」

「ウォルター、お願い」

 いよいよ戦いの時、僕は年長者であるウォルターにサインを頼むが──

「いや、お前が書け」

 なんとウォルターはサインを辞退、そして僕にそれを一任する。

「・・・わかった」

 僕はここであれこれ言わない。そんなに真っ直ぐな目で言われたら、ここでゴネるのは野暮ってもんだ。

『なんか・・・いい』

 これが男の友情というやつなのだろうか。僕はサインを書き終えると、前世からちょっぴり憧れていたそのシーンを今自分が体験していることに、謎の高揚感を覚える。

「ほらリアム!意気込み意気込み!」

「あっううん・・・えっとそれじゃあ」

 すると、サインを書いて少しボーッとしていた僕に意気込みをと急かすラナ。

「それじゃあ・・・コホン。いよいよレイアとミリアはロガリエに、そしてウォルター以外の全員は初のボス挑戦となるわけだけれども・・・」

「なんか一人だけわりぃな」

「あーっとごめんごめん・・・えーとじゃあ・・・」

 こういう時、パーティーの士気を上げるにはどんなことを言えばいいのか。前世の本で培った知識を今、発揮する時──

「トードなんてサクッと倒して素揚げにしちゃおーう!(素揚げだけに」

 僕はこの時、僅か0コンマ何秒の世界で自分が発した言葉について猛烈に後悔していた。そして完全に浮き足立っていた。どうしてこういう時、ビシッと隊をまとめる決めゼリフを言えないのだろうか。

『流石にこれはなかったか・・・』

 洒落に走ってしまった自分が情けない・・・煩悩って怖い。
 その後凍てつく現実世界で、僕の発した言葉に理解の追いつかないみんながフリーズしてしまったのをみてなおさら、余計にそれが悔やまれる・・・しかし──

「素揚げ・・・」

「素揚げ」「素揚げ「素揚げ」「素揚げ」「素揚げ」「素揚げ・・・」

 突如、ウォルターから始まる素揚げの輪唱。そして──

「「「素揚げーッ!」」」

 輪唱がグルッと一周すると、皆が空に向かって「素揚げーッ!」一斉に吠える。

「よし! 無事終わったら素揚げのパーティーだ!」

「サンドイッチも食べたい・・・」

「どうせならカラアゲやタツタも食べたいな!」

「何よそれアルフレッド! あんたたちばっかりずるい!」

「ミリア様!? お、落ち着いてください!」

「本当、あなたたちって仲いいわね」

「「良くない!!」」

 ウォルターのパーティーの提案に始まり、皆が次々に要望を募らせていく。全く昨晩パーティーした挙句に昼食も食べたばっかりだというのに・・・。僕は助かったけれども、みんな・・・本当にそれで良いのか・・・?

「ねーティナちゃん。ロガリエって素揚げって意味なんだよ? 知ってた?」

「・・・!(フルフル」

「はーいそこ! 語学勉強中の純粋な子に嘘を教えるんじゃないの!」

 ティナの耳元で隙をついてしれっと嘘を吹き込むラナのおでこを、軽くデコピンする。

「アテッ! へへへー・・・なんかこの感じ、久しぶりだ」

 すると、背中を叩かれて何故か嬉しそうなラナ。そう言えばこの感じは・・・──

「リアム! トード一匹丸ごと解体して魔法箱に詰めてカリナに送ってやろうよ! そしたらカリナビックリして・・・」

「そんなことしたら次会った時にカリナ姉さんに殺されるよ? ラナはそれでいいの?」

「おっとそれは勘弁だね!」

 おふざけの冗談を注意され、それは御免蒙ると舌をチョロっと出して逃げていくラナ。僕はそんな彼女の表情に、『もう1年経ったのか・・・』と少し昔を懐かしみ、同時に今もしそんなことをしたら、思春期でちょっとバグり? 気味のカリナ姉さんがどうなってしまうかと悪寒が走り、ちょっとだけゾッとした。

「それじゃあみんな。いってらっしゃい!」

「「「いってきま〜す!」」」

 とまあそんな感じで、僕たちの初のエリアボス戦はイチカに見送られ幕をあける。ちょっぴりセンチメンタルにもなってしまったが、ここからは集中しなければ。

「こちらイチカ! 準備できました!」

 リアムたち一行がドームの中へと消えると、イチカが綺麗な楕円に成形された魔道具に話しかける。

「あーあー、私もそのパーティーに参加したかったなぁ」

 そして一人残った寂しさからか、ふとそんなことを ──

 ・
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「こちらイチカ! 準備できました!」

「はいはーい・・・ナノカー、それじゃあよろしく〜」

「わかったイツカ・・・は〜・・・新人のAボスデビュー進行実況、盛り上がらないんだろうなぁ・・・ねぇ〜、リッカぁ〜」

「あんたも今日がデビューの新人でしょ! とにかくこのチームの担当はあんたになったんだからしっかりやりなさい!」

 ここはアース側のテールダンジョン入り口建物、コンテスト会場の舞台裏。

「あーあー、私もそのパーティー参加したかったなぁ」

「何か言ったイチカ?」

「んーん、なんでもないイツカ。それよりもナノカいる?」

「今グチグチ不満タラタラ」

「あーなるほど。ちょっと変わってくれない?」

 デビュー。それは華々しいお披露目であり人生の一つの門出。

「チームロガリエのロガリエって新人冒険者のデビューのあれでしょ? よりによってこんなパーティー・・・」

「ナノカ? もしもーし」

「ああイチカ? 聞いてよリッカがさ、もっと大きな舞台でデビューしたいから代わってって言っても代わってくれないの」

 そりゃあもう愚痴りたい気分でした。2対遠話できるギルド支給のこの貴重なレガシーを使って、エリアAにいる姉に愚痴るほどに。

「あんたしっかりしてないと足元すくわれるわよ」

 すると、魔道具の向こう側から飛んでくるお説教。ああもう嫌だいや ──

「これは内緒なんだけど、なにせ今回のパーティーリーダーの子・・・あの剣狼と炎獄の息子よ」

「うそ! あの灰靇と雷雹の!?」
「剣狼? 炎獄?」
「灰靇?雷雹?」

 すると、遠話の向こう側にいるイチカが剣狼と炎獄という聞きなれない単語を使う。七女の私と六女のリッカは、その単語にちんぷんかんぷんだが、五女のイツカはそれが何かを知っているらしい。

「私も話でしか知らないけど、確かまだ幼いイチカが当時追っかけしてたっていうパーティーのものすごく強い冒険者で、エリアGの2大Sランクモンスターの灰靇と雷雹を倒したっていう・・・ま、10年以上も昔の話だけどね」

「イツカ!その話は・・・コホン。とにかく話を元に戻すけれど、更にこのパーティーメンバーにはなんと領主様のお嬢さんまでいるわ。守秘義務があるからこれ以上は言えないけど、あんたは司会進行だから特別に規則破ってまで教えたのよ!だからその辺気をつけてやりなさいよナノカ!!」

「「「・・・!」」」

 魔道具の向こうから、規約違反をしてまで教えたのだとイチカが私に釘をさす。まさかそんな ──

「ちょっとそんなパーティー・・・ナノカ! 今回は私に任せてあんたは引いてなさい!」

「べーッ! 嫌だもんねー! ・・・それじゃあ行ってきまーす!」

 まさかこんな幸運なことがあるだろうか。話の初めに出てきた冒険者がどんなに凄く、その子供だろうが知ったことではないが、その中に領主様の子供がいるともなれば話は別だ。私は先ほどと打って変わり軽い足取りで舞台へとスキップしながら、リッカの申し出を足蹴にお断りする。

「こ、この・・・姉の優しさをこの愚妹が・・・!」

「まあまあ、今回はあの子の掴んだチャンス。黙って見守っててやろうよリッカ」

「・・・はぁ、なんか私まで緊張してきたわ」

「同じく」

 良くも悪くも今日があの子の司会デビュー。成功するかどうかは神のみぞ知る未来のお話。しかし舞台裏に待機するこの姉二人は、末っ子で自由奔放な我が妹が、この大舞台でドジを踏まないかどうかを心配せずにはいられなかった。

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