アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

111 お店を作ろう Ⅲ

 エクレアの提案で、急遽試食パーティーを開くことになった。ゲートを繋げ父さんや母さんを初め、マレーネ一家の4人にリンシアさん、貴族街に繋いだついでにアルフレッドとフラジールにも声をかけ、みんなでパーティーの準備を進める。

「アオイ殿は店の方向性をどのように考えているのかな?」

「そうだな・・・レシピを考えてくれるリアム次第だが、私の実家の食堂は港町にあったからいつも活気があって明るかった・・・そんな店がいいかな」

「ならちょうどいいですね。実は僕もその方向性で考えてたんです」

「で、できるのか!?」
 
 ヴィンセントに店のコンセプトを尋ねられたアオイの答え、それは今自分が考えている案にぴったりのものだった。

「ええっと、まあ活気があるかどうかは結局繁盛しているかどうかにかかってくるんですが・・・僕はですね、居酒屋なんていいんじゃないかと思ってるんです」

「居酒屋?・・・それは酒場のことですか若?」

「はい。イメージはまさにその通りですね」

 鈴屋で売られている食品は確かに食材もあるにはあるのだが、日持ちする乾燥物や醤油などの調味料などが圧倒的に多く、メインになるTHE 肉!のようなものがない。だが日本食、つまり和食のスタイルは一食一品というよりはいくつかの料理で構成されるものが多いし、またその地域にある食材を利用して作る料理も豊富だ。そして日本料理 inノーフォークともなれば、作られる料理も大体限定されてくる。その上で既存の料理を鈴屋の食材でグレードアップしやすい居酒屋料理がぴったりだと思ったのが・・・真っ先に居酒屋が思いついた僕は、ダリウスに汚染されてしまったのかと嘆きたくもなる今日この頃だ。

「それは?」

 すると作業に移っていきなり、隣で作業を見ていたヴィンセントから質問がでる。

「これは《リカバリークリーン / 状態異常除去》 の魔法シートです。アイスクリームを作った時にイデア・・・えーっと最上級相当の《リカバリー / 状態回復》 をイジって状態異常検出を応用し、除去する魔法を魔法陣化したものなんですけど」

 僕が取り出したのはまず、卵や肉一式を殺菌するための自作シート。話の流れでぽろっとイデアのことを言ってしまいそうになった・・・危ない危ない・・・だが ──

「さ・・・最上級って」

「ええ、最上級は人種の一つの壁、これを超えるとなると導師級の魔導師となるはずですが・・・」

 しまった。そういえばアオイとピッグ、この二人は僕が既に最上級を通り越し階位Ⅴ、既に超級相当の能力があることを知らなかった。

「ああ、といっても最上級魔法は少ししか使えないんですよ? 能力があるってだけで、まだまだ熟練度が足りなくて・・・」

 僕は慌てて補足を入れる。そして嘘はついてない。
 ステータスに現れる属性魔法の項目につけられた階位は、それを扱える実力はあるはずですよっていう指標であり、習熟を表しているわけではない。僕も実際にようやく最上級相当の魔法操作が行えるようになってきたかなっていう段階で、使える同様の魔法は数える程・・・なのだが──

「マスター。この方達に私のことを隠すのは最早、デメリットしかない愚考だと進言します」

 その話を裏で聞いていたであろうイデアが、音声伝達の機能を通じて突然、ここにいる皆に向かって発言する。

「な、なんだ・・・?」
「なんですか、この声は!?」
「ヒィッ!?」
「・・・アチャー」

 その突然、どこからともなく聞こえてきた声に当然、ヴィンセント、ピッグは驚き、アオイに至っては驚きのあまり蹲ってしまった。

『このでしゃばり! 別に今じゃなくてよかっただろ!』

『そんなじれったいことを言っているからマスターは余計なことに振り回され、いつまで立っても成長しないのです。時には先ほどテーゼ商会でしたように、大胆な一手に出ることが大事だと一考します』

 頭の中で抗議する僕に、さらっと煽りを加えて反論するイデア。

『い・・言わせておけば・・・』

『それにシート自体は魔法陣で機能しているのですから、そういうものだと伝えれば全て丸く収まったはずです』

『あ・・・』

 だがイデアの更なる反論に、僕は言い返すことができない。それにいつも何かを隠そうとして裏目にでるというのはかなり心当たりがあったし、確かに今日は滅多にすることのない大胆な行動をとった結果、初めはピッグに迷惑をかけたと後悔していたものの、悪い方に傾くことはなかったから。
 ここにいる皆はこの3人を除き、既にイデアのことを知っているものばかりだ。父さん母さんにポーション作りでお世話になっているマレーネ一家はもちろん、エリシア、アルフレッドにフラジールは友人として話してあるし、リゲスは特訓を始めた頃に、エクレアとコロネは新しいお菓子を作る際に色々と道具を作るにも一々隠していられず、そしてエリシアの母リンシアには容態を見に家にお邪魔した時に既に伝えてある。
 このイデアのことを知らない3人のうち、ヴィンセントは一度隠蔽していないステータスを見せたことがあったが、それはまだイデアの自我が目覚めていない《カスタマイズ》だった頃の話、彼には近いうちに打ち明けようと思っていたのだが ──

「アオイさん、大丈夫ですか?」

「リアムは今の聞こえなかったのか!? ・・・やっぱり幽霊だ!!」

「幽霊とは失礼な・・・ こんにちはヴィンセント、ピッグ、そしてアオイ。私はイデア、マスターの可愛い相棒です」

「ほう?」
「相棒・・・ですか?」
「ま、また聞こえたぞ!?」

 幾分か冷静なピッグとヴィンセントに対し、アオイの怯えようが異常だった。

「・・・紹介します。今どこからともなく皆さんに語りかけたのは僕のオリジナルスキルの《イデア》です」

「いいえマスター。『オリジナルスキルの・・・』ではなく『相棒の』イデアです」

「はいはい。相棒ね、相棒」

 相棒という言葉にこだわるイデアに、僕は頭が痛い。なぜって相棒というのは一蓮托生の関係、このままイデアの性格が変わることもなければ、きっと僕は一生彼女に振り回されることになる。

「ゆ・・・幽霊じゃないのか?」

「はい。・・・アオイさんは幽霊苦手なんですね」

「に、苦手じゃない! ただビックリしただけで・・・」

「あ、人魂」

「ぎゃーッ!!・・・ってこの野郎!!!」

「ま、待って! 包丁はダメですって洒落にならない!」

「じゃあくすぐりの刑に変更だ!」

 すると、がっしり僕をホールドして体をくすぐり始めるアオイ。

「あ!ワタシもワタシも!」「じゃ、じゃあ」「私も・・・」「ふん、仕方ないな・・・フラジール」「は、はぃ!」

 それにまず、こういうことが大好きなラナが参戦、それを皮切りにエリシア、レイア、アルフレッドに続きフラジールまでもが、僕の体をくすぐり始める。

「ちょ・・・ワハハハハッ!・・・ ま、待ってみなさん笑ってないで助けハハハ!」

 年長組の人間は、それを面白おかしそうに笑って傍観していた。早速調理は脱線、だがこういうのも悪くはないと止まらない笑いの中、ちょっぴり思う僕であった。

「は、話を戻しますね。卵を生で食べるとダメな理由ってなんでしょうか?」

 束の間の脱線を経て、ようやく調理は再開。まずはリカバリーシートを使用する理由を解説するため、皆に卵を生でそのまま食べるとどうなるか問いかける。

「腹を壊したり熱が出たりすると聞いたことがありますな」

「そうですね・・・では、なぜそのようなことが起きるかは・・・」

「はーい! 卵の殻の表面には細菌っていう小さーい生き物がいて、それが悪さするからでーす!」

「その通りですコロネさん。ちゃんと覚えていましたね」

「ふふ〜ん」

 この世界ではやはり細菌、そしてウイルスなどの概念が存在していなかった。この世界の医療事情はそもそも回復魔法が存在するため、大抵の軽い病気にかかっても医者が魔法で回復、その重軽度に従い一定のクラスが必要となるといった具合で、前世のこの時代と比べると、悪魔の仕業などといった迷信が少ない気がする。
 だがそれはあくまで病気にかかった後の話、予防ができていればいいことに変わりはない。
 そしてこうした細菌やウイルスについては、エクレアとコロネにだけ話をしたことがあった。それは僕がアイスクリームを作った時の話で、アイスクリームには生の卵を使うこととなり、サルモネラ菌は一定の加熱によってのみ死滅、確かアイスクリームを作る低温では増殖はしないが死滅もしなかったはずだからだ。

「あら〜、コロネったら」

「エクレアもコロネちゃんとは順調みたいね」

「ええアイナ。これもリアムちゃんのおかげよ」

 だから僕はこのリカバリークリーンシートを作った。当時はまだ上級相当のリカバリーしか使えず、カスタマイズによってこれを改造してシートを作成、エクレアに細菌について話してあったのだが・・・あれから半年、ダンジョンで修行した成果も相まり回復属性の階位はⅣ、最上級相当を扱えるまでに成長していた。

「ほう・・・それは」

 コロネの話を聞いたヴィンセントの目が、キラリと光る。

「リアムくん、あとで話があるのだが・・・」

 商機! と感じれば即行動、捉えた獲物は一撃で・・・それがヴィンセントの商人としての心得だ。

「わ、わかりました。では後ほど・・・」

「うむ。よろしく頼む」

 彼は魔道具を扱う商会の経営者、その頭の中では現在目まぐるしく、セールスポイント、需要、供給量、費用、利益などを計算・計画していそうだ。

「割った卵は卵黄と白身に分けて卵黄のみを使用、卵黄の入ったボウルに酢、塩、レモン汁、マスタードを適量加えてかき混ぜて・・・」

「こうでいいの?」

「そうそう、そうして混ざったらまた油を少しずつ加えながらまた混ぜていくんだ」

「ムッ! ボウルが回ってうまく混ざらないぞ!」

「あ、アルフレッド様! ちゃんとボウルを握って混ぜないと!」

 卵黄と材料を混ぜるのは料理初心者であるエリシアと主従アルフレッド・フラジール組。僕はエリシアの方についてゆっくり教えていたのだが、あちらの方はアルフレッドが暴走しててんてこ舞い、お付きのフラジールは大変そうだ。

「あとはこのまましばらく置いておくだけ。お疲れ様」

「これで終わりなの?」

 うまく撹拌が済んだのでこれで一先ずマヨネーズの方は完成だ。あとは念には念を入れて、酢での殺菌を待つばかり。だが ──

「ええい!かくなるうえは!!」

「あ、アルフレッド様待って!!」

「スプリングフィールド家秘伝! 身体強化!」

 うまく材料を混ぜることのできなかったアルフレッドがヤケを起こし、身体強化(普通)を使って勢いよくボウルの中身をかき回す。

「な・・・中身が消えてしまった・・・」

「アルフレッド・・・そんなに強く混ぜたら飛び散るに決まってるよ・・・」

 必然。アルフレッドがあまりにも強く速く材料を混ぜてしまったがために、そのほとんどは周りへと飛び散ってしまっていた。

「はいこれ、とりあえずこれで顔を拭いて」

 僕は応急処置にと清潔な布を亜空間から取り出して、アルフレッドに差し出す。

「ありがとうございますリアムさん、お借りします」

 が、それを受け取ったのは横から間に入ってきたフラジール・・・そして──

「ま、待て! それくらい自分でできる!」

「動かないでください!」

「は、はい・・・」

 息をつく暇もなく振り返ると、速攻でアルフレッドの顔についた汚れを拭う。

「 ・・・はい、拭けました。・・・全くアルフレッド様のおかげでエプロンがべちょべちょです。とりあえずシミ抜きして洗わないと・・・」

 さすがはプロ。暴走したアルフレッドとは同い齢とは思えない対応、人見知りしてサポートもままならなかった2、3年前からの急成長だ。

「あ〜らアルフレッドちゃん達ったらたーいへーん! 洗い場はこっちよこっち!」

「は、はい〜・・・あ、ありがとうございますぅ・・・」

 修正。まだやはり初対面の人間に対しては人見知りしてしまうようだ。顔は拭いたがまだ全身汚れてしまっている二人を見て、洗い場へと案内するリゲスにたじたじ・・・だがこの場合、その気持ちは理解できなくもない。

「アルフレッド様、いきましょう」

 案内するリゲスについていくため、アルフレッドを牽引するフラジール。だが ──

「あ、ああ・・・」
 
 その呼びかけに生返事を返すアルフレッド。何やら先ほどフラジールに顔を拭いてもらってからというもの、顔が赤い。
 
「全く・・・いつものあれはどうしたのかしらね」

「だね」

 それを見ていたエリシアが、僕にボソッと呟く・・・つまりはそういうことだ。

「私とリアムみたいにさっさと・・・」

「シーッ!エリシア! それはまだ内緒でしょ?」

 恐らく彼女の言葉の続きは『くっつけばいいのに』。だが僕とエリシアが婚約していることはお互いの身を守るために、家族以外にはまだ内緒だ。
 いつもと立場逆転、黙ってフラジールに手を引かれ連れて行かれるアルフレッド。・・・フラジールの若干のお母さん感が否めないのはあれだが、頑張れ、アルフレッド。

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「おーいリアム! 肉さばいてきたぞ!」

「はいどうぞ」

「ありがとう。ウォルター、ラナ、レイア」

「へへーん!感謝したまえ?」

「次は野菜をお願いします」

「えぇーッ!まだあるの!?」

「がんばろうね、ラナ姉」

「労働の後の飯は最高だぞラナ」

「うへへぇ・・・」

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「今度はゆーっくり落ち着いてしましょうね」

「わ、わかっている!」

「そうね。料理は真心、私がじっくりその心を教えてあ・げ・る・わ〜」

「い、いいやそんな気を使ってもらわずとも結構だ・・・な、フラジール」

「ぜひお願いしますリゲスさん」

「まっかせなさ〜い!」

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 ── パチッ!

「ヒッ!・・・け、怪我してないリアム!?」

「大丈夫だよエリシア・・・とまあこうやって衣を落として油の表面で散るくらいが天ぷらやフライには良くて・・・」

「ふむふむ・・・ああーッ! 思い出しただけで涎が止まらないねーッ!」

「海老とかあれば最高なんですけどね」

「・・・なに!・・・ピッグ」

「ええ確かお土産の中に・・・」

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「こうして乾燥させておいたパンを粗めに砕いて・・・」

「へぇー・・・パン粉ってこういうのもあるんだ」

「私も初めて見るわ〜・・・」

「え・・・お母さんも?」

「ええ、もっと細かいのなら王都で見たことがあるんだけど・・・」

「これを衣に加えて揚げるんだ」

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「ウィル!野菜!」

「はい!」

「ベーコン!」

「はいはい!」

「・・・騒がしいね〜、相変わらず尻に敷かれてるのかい」

「そう思うんなら手伝ってくれよマレーネ!」

「私は今商売中だから無理さね・・・それにしても本当にいいハーブだよ」

「これらはウチの執事に手伝ってもらいながら育てているんです・・・ね、バット」

「はい、リンシア様」

「マレーネ〜、バットさんリンシアさん〜」

「ウィル塩!」

「はいぃ!」

 それからはもう終始、ずっと賑やかだった。

「それじゃあ鈴屋食堂ノーフォーク支店のメニュー選抜試食会に加え、コロネさんのパン職人デビューを祝って・・・カンパーイ!」

「「「かんぱーいッ!」」」
 
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「ぷはぁーッ! 冷えたビールはうまいな!」

「これも若が魔法箱を発明した恩恵の一つですな」

「魔法箱のお求めは是非ブラド商会に・・・ヒック」

「ぷはぁーッ!冷えたストロベリーミルクはうまい!」

「大人の真似したってあんたはまだまだ子供よ・・・ね、フラジール」

「ふぇ!? た、確かにそうですね・・・」

「リゲス、そっちのお皿をコロネに取ってあげてくれる?」

「お安い御用よ♪ はい、コロネちゃん」

「ありがとうお、お父さん」

「ウィル? リアムが作ったものばっかりじゃなくてこっちのスープも食べてね♡」

「んあ? ングング・・・はぁー・・・両方うまい!」
 
「こらラナ! それは俺が狙ってた天エビだぞ!」

「早い者勝ちだよウォル兄! あぁーッ!レイアが私の狙ってたお肉食べた!」

「へへっ、早い者勝ちでしょ? ウォル兄さんの仇はとらせてもらったよラナ姉」

「こら!たくさんあるんだから仲良く食べな3人とも!」

「あら・・・あのハーブを衣に混ぜて揚げてあるのね。熱と一緒にいい香りが・・・」

「こちらはどうやら下味に生姜とニンニクが・・・実に美味です」

 各々が各々で好きな料理を取り、食事を楽しむ。

「この唐揚げというのはおにぎりといったか・・・これと食べるのはクセになりそうヒック!」

「私はサラダにかかったこのマヨネーズというものが気に入りました・・・ホッ!こっちのチキン南蛮なるもののマヨネーズも格別ですな!」

「ピッグさん、それはタルタルって言ってキュウリの酢漬けや玉ねぎを刻んで混ぜているんです」

「この冷や汁ってのは私も食べたことないぞリアム! そしてうまい! この揚げだしも!」

「それはどっちもアオイさんが作ってる豆腐がないとできない料理ですからね。冷や汁は紫蘇の葉なんかがあればもっと幅が、揚げだしはモチなんかで作ってもいいんですが・・・」

「ん? 紫蘇の葉ならうちにあるぞ?」

「え?」

「だってお前、うちで紫蘇漬けの梅干買っていくじゃねぇか。あれは実家から仕入れているもんだが、紫蘇は趣味で育ててるんだ。それに餅米も確か取り扱ってたはずだ。言ってくれれば実家への注文票に書いておくぞ?」

「是非お願いします!」

 とりあえず僕は、商人集団に混じり食事をしながら解説、感想を聞き改善点を洗い出していた。今日はこれがメインだしね。

「そうだリアムくん!あのリカバリーシートクリーンについてなんだがね!」

「は、はい・・・リカバリークリーンシートですね」

「そうそう、そのシートリカバリークリーンを是非我がブラド商会で販売させてくれ! もちろん面倒な手続きは全て引き受ける!」

 そういえば、ヴィンセントが後で話があると言っていたこと、すっかり忘れていた。それにしても ──

「ヴィンセントさん。それは先ほどお話を伺うと言った時点で大体予想していたので別に構わないんですが・・・」

「本当か!!」

「あの、大丈夫でしょうか? お見受けしたところ相当酔ってらっしゃると・・・」

「酔ってない! 私は酔ってなどいないぞヒッキ!」

 いや、酔ってる、完全に酔ってるよ!だってさっきからヒックとかヒッキとか言ってるもん!

「ピッグさん、もしかしてヴィンセントさんかなりお酒に・・・」

「・・・ええ、弱いです」

「それを早く言ってくださいよ!」

「すみません若・・・ただどうにも楽しそうでいらっしゃったので、お止めするのも悪いかと・・・」

 マジか・・・と僕が唖然としてしまうほど、ヴィンセントの酒弱体質は意外だった。

「だっはっは!愉快愉快!」

「あらもうしょうがない人ね・・・ほらヴィンス、あっちで一緒に食事しましょ?」

「ん?リンシアか!? よし一緒に食べよう!」

「ごめんなさいねリアムくん。この人は私が見てるからどうぞお話を続けてね」

 やがて、大声で笑い始めたヴィンスを見兼ね、妻であるリンシアが後を引き受けるべく自分の席の方へと彼を連れて行くのであった。

「どうやら魔族の方は皆、酒に弱いそうです・・・一説によれば、百年以上前に勇者が閉戦に導いた人魔大戦は、ある日うっかり酒を飲んでしまった魔王が、酔った勢いで我が国や神帝国で暴れて宣戦布告したことが始まりだったとか・・・」

「う・・・嘘ですよね?」

「さあ、真実は当事者たちにしかわかりません。魔族が酒に弱いというのは有名な話ですが、当時の和解条約により魔国・我が国両国の意向で、真相は闇に葬られましたから・・・ただヴィンセントさんの変わりようを見て、私は完全に否定する気にはなれません」

「ビールお代わり!」
「ビールはもうダメ!」

 ピッグの話した魔族酒乱開戦説はあまりにも馬鹿げた話だが、今のヴィンセントの様子を見るとあながち真実に聞こえてくるから不思議だ。

「はぁ・・・」

 だがやはり、流石に酒に酔った勢いで戦争開始はないだろう。そんなの指導者として云々以前に、人として失格だ。

「『はぁ・・・』って他人事じゃありませんぞ若!・・・若も将来あの方の血を引いたお方とご結婚なさるのです!」
「・・・!」
「用心に越したことはありませんぞ」
「確かに・・・肝に命じておきます」

 他の人に聞こえないよう、机の下に隠れて忠告をするピッグ。確かに、ヴィンセントは人と魔族のハーフ、そしてエリシアはよりその血が薄まったクォーターであるが、ロガリエの時魔族の血のせいで暴走した前例がある。・・・あれか? もしかすると魔族が酒に弱いのってヴィンセントの言っていた『七つの罪源』とやらが関係しているのか・・・。

「とまあ忠告はこのくらいにしておいて、若、私にも商売の話をさせてください」

「・・・それは、マヨネーズのことですか?」

「はい。・・・よくお分かりになられましたね」

 そりゃああれだけ絶賛していたのだ。きっとピッグからもこの話が出るとは思っていた。

「いいですよ? ただ流石にマヨネーズはエクレールで作れないと思いますが・・・」

「若、お忘れですか? 我が商会は食品加工の店ですよ?」

「・・・そうでした!」

 これはうっかりしていた。テーゼ商会は畜産から精肉、酪農、また魚から野菜、それら加工品までを広く取り扱う商会だった。

「よろしければアオイさん。お店を出店なられるのであれば、肉や魚の材料は特別価格で我が商会から卸しますよ?」

「いいのかい!?」

「ええ、ただその折には是非、我が商会の宣伝をそれとな〜くして欲しく・・・」

「アオイさん、どうしますか?」

「うーんそれはとても嬉しい提案なんだけどね・・・」

「何か問題がありましたかな?」

「いや、宣伝ってどうすればいいかわかんなくて」

 自分の店で提携する他店の宣伝などしたこともないアオイは、その方法を絞り出すために頭をひねる。

「それなら、店の中にテーゼ商会のポスターでも作って貼ったらどうです?」

「「ポスター?」」

「えっと簡単に言えば、大きめの広告紙です」

「それは素晴らしい!どうでしょうか、アオイ殿?」

「逆にそんなんでいいってんなら私は全然いいよ。じゃあ・・・」

「「交渉成立 ”だ” ”ですね”!」」

「ムッ! であれば私も名乗りを上げさせてもらおう。中心街の近くにちょうど空いてしまっている物件があるから、そこを店のとして提供しよう。どうだ?」

「ヴィンセントさん! あれ?酔ってない・・・?」

「ふむ。不甲斐ないところを見せた。今日は大丈夫だと思ったのだが・・・マレーネ殿に酔いに効くきつめのポーションをいただいてな。復活というわけだ。ただ──」

「わかりました。魔道具と場所の提供ということで、ブラド商会の名前を載せたポスターを貼りましょう。それでよろしいですか?」

「私は良いよ」

「うむ。成立だ」

「まさに、ウィンウィンの関係というやつですな」

「ああ、ウィンウィンだ」

「そ、そうですね」

 こうして、アオイの経営する鈴屋食堂ノーフォーク支店、居酒屋”?”の開店は現実味を帯びていく。まだまだメニューの厳選、価格の設定に店員の雇用や料理人の確保などいろいろ課題は残るのだが ──

「こうなったらどっちが大人か、ストロベリーミルク耐久で勝負だ!」
「いいわよ! 今日こそ白黒はっきり決着つけてやるわ!」
「り、リアムさ〜ん! お二人をお止めしてくださいぃ!」
「わかったよフラジール・・・はいはい二人とも! あんまりミルク飲みすぎるとお腹壊すから止めようね!」

 今日の試食会は大成功と言ってもいいだろう。この賑やかさが、その証拠だ。

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「ふむ。また腕を上げたねアイナ・・・」

「ありがとうマレーネ・・・でもリアムが教えてくれたコンソメを使ってるから美味しいだけよ」

「ふむ、エディーとカミラもいればよかったんだが・・・是非食べさせてやりたかった」

「ふん!エドはともかくカミラはゴメンだ!」

「そうかい? あれはあれで情が深くて私は義娘として信頼しているんだがね・・・それにしても、リアムは本当に面白くて不思議な子だ」

「ええ、自慢の息子よ」

 賑やかな店の片隅で、酒を飲みながら机の上に並べられた料理に舌鼓を打つ。妻の料理も絶品だが、息子の考案した料理たちもまた、驚くほどにうまい。

「ウィル、なんかこうしてリアムたちを見ていると、昔を思い出さない?」

「・・・ああ、だがあの頃は色々あった」

「そうね・・・楽しくて、嬉しくて悲しくて、必死で・・・それを乗り越えた先に新しい出会いがあって・・・この街に来て、本当に良かったと思ってる」

 皆の真ん中に立って、友人に囲まれ笑う我が息子。そんな息子たちを見て昔を懐かしむ妻の浮かべる表情は、大人になって子供を持った今と昔で比べても、ちっとも変わってなんかいやしない。

「でもねウィル・・・リアムもどんどん大きくなって後二年もすれば、あの子は必ず王都の学院に行くわよ」

「もうそんなに・・・経っちまったのか・・・」

 最近は、時間が流れるのが妙に早い。
 長女のカリナは王立学院にも推薦されるほど優秀で弟想いの強い子なのだが、一年前に学院に入学するため王都に行ってしまった。父さんに会いたいと泣いていないだろうか・・・パパは寂しいぞカリナ。ちゃんと然るべき時が来たら、子離れできるか俺の方が心配だ。
 そして我が息子にして長男であるリアム。こいつがまた優秀も優秀、精霊と契約できなかったことで一時落ち込む時期があったが、その後ステータスが分かると魔力は異常に高く、スキルも豊富で称号すら持っていた。精霊契約ができなかった原因も分かり、元気を取り戻した息子はそれから大躍進!・・・スクールに飛び級で入学し、初めての魔法で森を半分吹っ飛ばす。公爵のジジイにも認められる才能を開花させたかと思ったら、今はこうして隣人を助けるために皆をまとめている。
 俺はこんなにたくさんのことをリアムくらいの齢でできただろうか・・・否、だがここは流石は俺の息子だと親バカであろう。俺はそんな大切な家族のために働き、この幸せを守るだけだ。過去を引きずっていないと言えば嘘になる、しかし今のこれこそが、俺にとっての最大の幸せなのだから。

「あいつがこの街を出るまでには話すさ・・・リアムはそれだけの力と才能を持っている・・・」

 話すべき時は近い・・・あまりあの時のことは思い出したくない、だがそれは大切な家族であるあいつを守るために、俺が果たさなければならない義務だ。

「ありがとうウィル、愛してるわ」

「ああ、俺も愛してるぞ・・・アイナ」

 ああ、今の俺はこれほどの幸せを手に入れた。それだけで、充分だ・・・。

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