アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

100 お店を作ろう Ⅱ

「ではエクレアさんにコロネさん。これからもよろしくお願いします」

「はい。よろしくお願い致します・・・ほらコロネ?」

 緊張して下を向いている娘に、返事をと促す。

「ひゃ、ひゃいッ! よろしくお願いします!」

 この子が来て半年が経ったが、新しい発見は日々絶えない。今日もこうして畏まった場では、我が子が意外とあがり症なことを知った。これからも色んなものを母親として与えてあげられれば・・・

「はっはっは、そう緊張しないで・・・おや?」

── カランコロン。

「こんにちはーッ! こちらにピッグさんがいらっしゃってるって聞いたんですけど・・・」

 すると、話も一段落したタイミングで店にリアムがやって来る。

「あッ! リアムくんいらっしゃい!!」

「おやおや」

 話の途中で、店に入って来た仕事仲間の元へ駆け寄っていってしまう娘。

「すみませんピッグさん。まだまだあの子は経験が足りなくて」

「いえいえこれからですよ・・・それに──」

 娘の無作法を謝るのもまた、初めてだ。ピッグはこれからだ・・・と言ってくれたが、母親として後でしっかり注意しておかねば。

「彼とは十分打ち解けているようですね。ならば安心だ」

「ええ、そうですね」

 優しい目でその光景を見守るピッグに、私の表情も綻ぶ。まだまだ見習い、たった半年というかなり早い発進となったがいよいよデビュー、娘の作ったパンがこうして売り出されることとなったのだ。少し説教した後は、めいいっぱい祝ってあげなくては。
 
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「お久しぶりです。ピッグさん」

「ご無沙汰してます若。挨拶もままならず申し訳ありませんでした」

 話は移り変わりリアムへ、店の中で何やらエクレアたちと話していたらしいピッグと、半年ぶりの再会だ。

「如何せん実は昨日少々商会の方で面倒事がありまして、挨拶に伺おうと思っていたのですができなかった次第、本日はこうしてエクレールさんにお邪魔した後にまた、ご自宅の方まで伺おうと思っていたのです」

「ハハハー・・・それは全然大丈夫なんですが、実は僕の方からも少々謝っておかないといけないことがありまして・・・」

 恐らくピッグの言う面倒事というのは先ほど商会のお店で店長から聞いたことであろう。だがどちらにしろ、店に迷惑をかけたのだ。しっかり謝っておかねば。

「・・・というわけで、お店に迷惑をかけてしまいました・・・申し訳ありません」

 僕は簡潔に、先ほどの出来事をまとめて報告した後、誠心誠意商会の会頭であるピッグに謝る。

「ふむ・・・連中を気絶させたついでに店にいたお客様たちも皆んな腰をぬかしてしまったと?」

「はい」

「で、ピンピンしていたグラバーに後の始末とお客様へのお詫びを言いつけてこちらに来たのですな?」

「はい・・・本当に申し訳ありません」

 ピッグの質問に答えながらももう一度、深く頭を下げて謝罪する。因みにグラバーというのは店長の名前、だが僕にとって店長は店長なのである。

「そ・・・それは」

 すると、目に手を当て難しそうな顔でそう呟くピッグ。

『やっぱりまずかったよな・・・』

 ピッグの様子を見て、更に罪悪感がこみ上げてくる。しかし ──

「ぐわっはっは! それは実に愉快!こんなに笑える話を聞いたのは久しぶりですぞ!」

「えぇ!?」

 やっぱりまずいよな・・・とそれを見て僕が思った瞬間、彼は口を大きく開けて豪快に笑う。普段紳士的なピッグがこんなに大口開けて笑う姿を見るのまずは初めてで、かつその直前の態度とのギャップから、思わず僕は困惑の声を上げる。

「若、若は何ら悪いことはしておりません。初めに絡んで来たのはあちら側、自分の身を守るために防衛することは至極当然であります」

「でもそれは無視することもできたわけで・・・」

「まあ私からすれが店の中で起こったいざこざにお客様である若を巻き込んだわけです。それなのに若は商会のためにしっかり後の対策を立て挽回の機会を作ってくれました。そんな若に感謝こそすれど、責めるなどありえません」

 それはまさに『えぇー・・・』であった。

「テーゼ商会の会頭として、若にはお礼を述べさせていただきます。尻尾さえつかめればあんな奴らこちらから蹴飛ばしてやったのですが、手間が省けました。それに若のおかげで他のお客様に危害が加わる前に追い出すことができたというもの。本当にありがとうございます」

 更にピッグはそうして礼を述べた後、「見てくださいこのキレのある拳を」と見た目に反して軽快なステップとともにジャブしてみせる。その時僕は『それじゃあ殴り飛ばす・・・では?』と本題を忘れ心の中でツッコミを入れる。しかしまあ・・・とりあえずピッグがよしとしてくれるのであれば、今回はそれに甘えるとしよう。

「よかった・・・それでピッグさん。実はもう一つご相談があるんですが」

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「それは若がレシピを?」

「ええ、今はそれが一番かと考えています。ただ流石に何の下調べもなしに話を進めるわけにもいかず、こうして相談を」

「なるほど・・・そういうことですか」

「はい。どうでしょう?」

 ピッグへの謝罪も済んだところで、僕は改めてアオイの相談を持ち出す。

「・・・そうですな。お話を聞く限りそれはとても素晴らしい案であると思います。しかしこれは・・・」

「なにか問題が?」

 一応賛成はしてもらえたが、やはり問題もあるのか。なにやら言いにくそうにそう呟くと、ピッグは少しの間、黙り込んでしまう。

「・・・少し不躾な発言となりますが、まずはその料理を食べてみねば判断しかねますな」

「・・・確かに」

 ピッグのその言葉に、僕も思わず苦笑いを浮かべる。だってそうだろう、そもそもこの辺の人たちが食べたこともない料理の飲食店を出そうとしていて意見を求めているのに、その店で出る料理を実際に知りもせず助言などできるわけがない。だが ──

「・・・はい、ですな。そうです! 是非検証のために試食をしなければと思うのですがいかがですかな!?」

 どうしたことだろうか、僕の返事を待つ間も無く、試食が必要だと熱く語るピッグ。・・・まさかただ食べてみたかっただけ?

「そうですね、では今日の夜にでもどうでしょうか?」

「それは重畳、この後の私の予定も必要なくなったことでありますし、是非ご相伴にお預かりさせていただきます」

 まあピッグの発言の真相はともかく、思い立ったが吉日、早々に約束を取り付ける。後は ──

「エクレアさん、よろしければ厨房をお貸しいただけませんか? ついでにコロネさんにも手伝ってもらいたいことがあるので」

「いいわよ〜? ただもし大きいお肉や魚なんかを捌くのなら、その時だけは家の厨房でお願いできる? お店の方でそれをすると後始末できないから」

「わかりました! ありがとうございます!」

 調理と試食の場所の確保。それなりの数の料理を今から作らなければならないため、出来るだけ作業も並行してできる厨房が望ましかった。ついでにコロネに手伝ってもらいながら一部料理を教えれられれば・・・

「残りはアオイさんだね」

 必要な場所は確保できた。後はこの話の発端であるアオイを連れてくるだけだ。

「多分お客さんもいないし、ゲートを使ってもいいよね」

 今からアオイのところに行って帰ってくるのはちょっと面倒だ。だったら ──

「ゲート」

 僕は空中に手をかざし、空間最上位魔法 《ゲート》の魔法鍵を唱える。

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 ゲートは大きさ、時間、繋げる距離によってそれぞれ必要な魔力が変わってくる空間魔法の中でもトップクラスに難しい魔法だ。あれは僕が2年生に上がり、亜空間へのアクセスがスムーズにできるようになってきた頃 ──

「今日から皆さんにはゲートの魔法に挑戦していただきます」

 魔法の演習授業は基本、なにが起こるかわからないためにダンジョンの中、それぞれの属性に別れてある程度距離をとったところで行う。その日も別の属性練習組とは少し離れた平原で、空間魔法の担当であるフランが皆に演習内容を説明する。

「ゲートの魔法はまだ深くは解明されていませんが、私の解釈で行くと初級の亜空間(サブスペース)の入り口をこうして・・・ズラすように複製し目的地をイメージします。どこにいてもアクセスできる亜空間の特性を利用し、亜空間側からこちらの世界に繋げてそれを維持するわけです」

 フワフワと杖で操る水魔法で作り出した輪を二つに分裂させ、わかりやすくそのイメージを伝えるフラン。彼女は他にも多彩な魔法が使える優秀な魔導師なのだが・・・そういえばそのせいで、水魔法の派生系である氷属性の担当をケイトから押し付けられた・・・ととある氷属魔法演習授業の日、ぼそっと愚痴っていたことがあった。 

「これにはかなり高度な空間認識能力と、繊細な空間の変化を感じ取る力が必要となります」

 二つの水の輪を散り、フランが杖を下ろす。

「まず皆さんには、同じ亜空間につながる二つの穴を作ってもらうところから始めてもらいます」

 亜空間に同時に二つの穴を開ける。ゲートの魔法においてこれは、単に片手ずつで二つの亜空間への入り口を作り出すのとは違う。

「初めはこう片手で展開した亜空間にもう片方の手で空間属性の魔力をドンッ!・・・っと放ってやります。すると込めた魔力量に応じて相応の大きさ、相応の距離にもう一つの穴が空くきます」

 片手で作り出した空間の歪みに、空間属性魔力を纏ったもう片方の腕を突くようにして放つフラン。・・・そう、大事なのは亜空間を通してもう一つの穴を開くということ。

 フラン曰く実は片手ずつで二つの亜空間を作り出し、この方法で現実の大気中に存在する魔力を伝い片方のゲート出口を目的地に設置するやり方もあるそうなのだが、それだと大気中魔力の魔力伝達抵抗が大きすぎて燃費が悪い、かつかなりの魔力操作技術がなければ直ぐに出口が閉じられて最悪、閉じ込められかねないらしい。
 その点、亜空間を通してもう一つの穴を開ける方法を知っていれば万が一閉じ込められても安心、亜空間は世界中どこからでもアクセス可能な特殊空間であるため、イメージするだけで目的地に簡単に接続、後は穴の大きさ、開く時間、距離を縮めた分の魔力を消費するだけで済むと言うわけだ。

「ただこの方法で開く穴は固定されている訳ではないので、穴を開けている魔力の放出を止めるともちろん閉じます。まずはそれを使って亜空間を通し、二つの穴を開いているという感覚を掴むところから始めてください」 

「「「はーい」」」

 これまでは現実世界から空間属性の魔力で穴を開けることで亜空間にアクセスしていたが、今回の練習目的は『亜空間側からも現実空間に穴が開けられるようになること』・・・だ。
 また亜空間は魔力の質によって開く先が固定されるため、自分の亜空間と無数に存在する他者の空間とが混ざり合うことはまずないらしい。そのため個人における空間操作の感覚も微妙に違うと言われており、よって数少ない空間属性使いの中でもゲートが使える者はごく僅かだそうだが・・・

「布の表と裏・・・針を突き刺す感覚で・・・」

 ここで僕は、裁縫のなみ縫いのイメージをこれに当てはめる。布の表を現実空間、裏を亜空間とし、空間属性の魔力針を表から裏、裏から表へと一直線に突き刺していく。

「ゲート!」

 亜空間の口を左手で出現させ固定し、そこにめいいっぱい先を尖らせた魔力の銛を右腕の突きとともに打ち込む。

「凄いです!一回で貫通しました!」

 完成したそれを見て絶賛するフラン。・・・うん、10tトラックが通るにはいいくらいの大きさだ・・・だが ──

「大きい・・・それにい、いくつ穴を開けてるんですか!?」

 この時の言い訳をするならば、僕は前世のフィクション知識によって空間に穴を空けて二つの地点をつなげるには相当の力=魔力が必要だと思っていた。・・・フランが目の前で事前に実践してくれたにも関わらず。

「20メートルほど先に一つ目の穴が開いてます。その1メートル程先にまた穴が開いていて20、1と交互に入り口出口がずっと続いていました。一体どんなイメージを・・・」

 確認のため、僕のゲート(仮)を通って出口を確認してきたフラン。彼女の話では20mほどを繋いだゲートの入り口出口が1m間隔でずっと続いているらしい。・・・あれだ、仮にイメージするなら左から入ると一瞬で右に出る20mの不思議な緑色の土管を1m間隔で延々と置いていっているようなもの。

「2つしか潜ってきていないので、どこまでそれが続いているか分かりませんが、ゲートはしっかり繋がっていました。おめでとうございます、あとは20メートルほど先にできている出口の穴を感じ取り、それを魔力波なしで開けて固定できるようになれば立派なゲートに・・・」

 戻ってきて、自分の推測とともにゲート成功の報告をするフラン・・・しかし──

 ・・・ドドドドドド。

「ん? 何か変な音が・・・」

 彼女の言葉を遮る、何処か遠くから聞こえてくる謎の音。だが僕の目の前に映るのは成功したゲートのために見えるのは、少しずつずれていく収束していく円、海賊がよく持っている望遠鏡を逆から覗いたように、小さくなりながら続く1m感覚で開いているらしい穴々とその間の光の縞々だ。

「ちょっと見てきますね」

 そう言って、再び僕の作ったゲートの中へと行くフラン。音は僕がゲートを開いた方向から響いてきているらしい。

 次々と輪をくぐるフランは、ゲート内に映る画の穴に入ってくに従い、どんどんと小さくなっていく。

 ・・・ドッ・・ドッ・・ドンッ! 

 だが一方で、その音はどんどん大きくなり、どうやらこちらに近づいているようだった。

「 ん  れ ーぇ・・・、 アム んは 力を めてー・・・」

「・・・? 気のせいかな・・・?」

 ふと、ゲートの中から微かに聞こえてくるフランの声。
 しかしこの時、僕はそれが余りにも小さすぎて空耳か何かだと思った。それほどまでにその声は小さく、またこの時点でゲート群の奥へと行ったフランの姿も、小さすぎて確認できなかったから。

「みん 離 てーぇ!・・・リアムさ は魔力をと てーッ!」

 すると数秒後、微かに聞こえたかなと思っていたフランの声が徐々に大きくなり、はっきりしたものとなってくる。同時に小さすぎて見えなくなっていた彼女の姿も、確認できるようになってきた。

「みんな離れてーぇ! ・・・リアムさんは魔力を止めてーッ!」

 更に数秒後、今度は全てがはっきりと聞こえてきた。そして見えたのは、こちらに全力疾走してくる彼女と何やらその後ろから迫ってくる黒い影・・・──

「みんな離れッ・・・」
「や・・・ヤバイッ!」

 気付いた時には一瞬だった。フランに言われてすぐに穴をこじ開けていた魔力を止め、空間の穴を閉じようとするが ──

 ドパァー・・ドパァーン!

 ゲートが完全に閉じ切るまでの僅か数秒の間に、向こう側から襲来した鉄砲水のような洪水はフランを飲み込んだあと、一気にこちらへと流れ込んできた。

「ブクブク」
「遅かッ・・ブクブク」
「「「ぎゃ・・ブクブク」」」

 そう、黒い影の正体は、ありえないくらい大量の水だったのだ。

「ゴホゴホッ!・・・一体・・ゼェ、どこからこんな水が・・・」

 奇しくも咄嗟に魔力を切って出口が萎んだおかげで、威力は大したことなかったが・・・

「この方向に・・ゼェ数キロ先・・・ゼェ、ちょっとした高台を登ったところに湖があるんですが・・・ゴホッ」

 息を整えながらも、なんとか無事だったフランが推測を述べる。どうやら等間隔で置かれた次元土管の列は、かなり遠くまで続きとある湖の中まで繋がってしまったようだ。

 ・・・この日、とある湖のほとりで釣りをしていた冒険者は語る。

「まるで世界の終焉が訪れたかのように、轟音とともに湖の表面に無数の渦が現れると、みるみるうちに湖の水がなくなっていった。そしてそのことを知らせようと街に戻るため支度し、下り坂の手前までやって来るとそこから見えたのは一直線になぎ倒された木々・・・。急いで坂を下るとぽっかり丸いトンネルが湖の方に開いていた。一方辺り一面中は水浸しで大量の魚がピチピチ跳ねていたんだ。おかげでオイラは小金持ちに・・・」
 
 怪異! 突如開いた湖底の大穴! 未知巨大生物現る!?・・・などなど、後日冒険者界隈でちょっとした騒ぎになったが、次の日にはそれらは全てダンジョンの復元力によって元通り、湖の水もしっかりと張られていた。その後数日間、話を聞き漁夫の利を得ようとした冒険者たちがその湖の近くで目撃されていたが、当然何日待ってもそれは起きず、意外と騒ぎは早く収まった。

「この方法だと魔力を放った時の方向に出口の穴が固定されて、その方向にしか穴が向かないんです。・・・リアムさんはもう少し慎重に練習してみましょう。ですがこの距離は私でも繋げられて人一人分の大きさ一つ1分程度です。・・・ちょっとショックですね」

 水も滴るいい女。まだまだ世界は広いと知る若く優秀な教師、フランであったが・・・

「水が来るのにタイムラグがあったのは初めに高台と湖底の間にあった土砂がゆっくりとゲートを通って排出されていたためだと思われます。ゲートが出現した際何かそこにあった場合、その空間において存在の優位性は必ずゲートの輪に傾きます。そのためそこにあった物質は何があろうと弾かれ」
 ──ボスッ。
「テブしッ!・・・や・・・やりましたね〜・・・!」

 あたり一面泥まみれ、誰が始めたか泥合戦、皆で投げ合いサバイバル。
 教師のフランも交え白熱した試合が繰り広げられたのだが・・・、いつまでたっても戻ってこない僕たちを迎えにきたケイトに丸ごと渦潮洗濯機されたとある青春の1ページ。





 あれから1年と半月、ようやくもう一つの穴の感知と生成・維持に成功して自由自在にゲートを繋げられるようになった。あとは鈴屋と開く穴の大きさを正確にイメージすればゲートは開く。

「ゲート」

 僕はつい1時間ほど前までいた鈴屋のをイメージし、ゲートの魔法鍵を唱えた。

 すると途端、目の前に現れた直径2、3メートル程の輪。

「アデッ!・・・イッテー・・・」

 だが同時にその中から、見覚えのある頭と背中が輪っかからバターンと倒れ込んできた。・・・まるでシャチホコだ。

「・・・じゃなくて! だ、大丈夫ですかアオイさん!?」

 僕はゲートを閉じ、急いで彼女の元へと駆け寄る。どうやら商品整理のため店の中を歩いていたらしいアオイ。そして偶然にも、僕が開けたゲートはそんな彼女の前に出現したらしく──

「うぅ・・・うぇ!? リアム!!?・・・それにここはどこだい!?」

 不幸中の幸い。どうやら怪我はなさそうだった。

「アオイさん・・・実はかくかくしかじかでして・・・」

 それから僕は、アオイを落ち着かせるために事情を説明する。

「なるほどな。今から店に出す料理を作るから私を呼ぼうと・・・」

「はい」

「なあリアム。そのゲートってもう一回鈴屋まで出せるか?」

「・・・大丈夫ですけど?」

「よし。じゃあもう一度開いてくれ!」

 すると、もう一度鈴屋にゲートを繋げて欲しいというアオイ。

「ちょっとそのまま待ってろ!・・・」

 僕がゲートを繋げると、そのまま維持しているようにと言い残して、早々に向こう側に行ってしまう。そして──

「よしッ! 目星い材料ありったけ持ってきてついでに店の鍵閉めて札かけてきた! と言うことで早く始めようぜ!」
 
 1分もかからないうちにエクレールに戻ってきたかと思うと、その両腕には大量の食材を抱えていた。すると──

──カランコロン。

 アオイが戻ってきたタイミングで、店の入り口に下がっているドアベルが鳴る。

「ムッ? これは見知った顔が揃いぶみだ」

「リアム!!」

「エリシア?・・・それにヴィンセントさん?」

 店の扉を開けたのはヴィンセント、そして僕の名を呼びながら駆け寄ってきたエリシアだった。

「ふむ。新しい商品ができたと聞いたのでこちらに赴いたのだが、どうやら良いタイミングだったようだな」

 それは本当に良いタイミングだった。僕はすかさずヴィンセントにも飲食店の話をし、これからしようとしている試食会に参加して欲しいとお願いする。

「はい。是非ヴィンセントさんにも評価して欲しく・・・エクレアさん。お客さんが増えますがよろしいですか?」

「ええ。どうせならウィルやアイナたちも呼んじゃったら? あ!あとマレーネさんやカミラたちの子も〜」

「ナハハ・・・これはちょっとしたパーティーになりそうですね・・・というわけで、どうでしょう?」

「わかった。ならば今日はこちらでご馳走になるとしよう。妻も呼んでも?」

「もちろんです。是非」

 ヴィンセント達の訪問から、夕食も兼ねた試食会の話がどんどんと膨れ上がってしまうが ──

「よかったらエリシアも一緒に作らない?」

「いいの!? ・・・その、私料理はじめてなんだけど・・・下手でも笑わないでね?」

「笑ったりしないよ。ちゃんと教えるから安心して」

 ここまできたら、楽しんだもの勝ちだ。どうせなら料理もみんなでした方が楽しいというもの、さて、これから忙しくなりそうだ。

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