アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

109 お店を作ろう Ⅰ

「こんにちはー・・・アオイさーん!」

「・・・リアムか? いらっしゃい!」

 今日は日本・・・いや、倭国などの東の方から商品を仕入れて販売している鈴屋に材料の買い出しだ。
 僕ももう直ぐ4年生になる。そして遂に、2年前森を半壊させた時に手に入れたダンジョンポイントが100万を下回っていた。そろそろ修行から攻略にシフトし、本格的に冒険者見習いを始めようとディメンションホールの貯蓄をしにきたのだ。

「今日は納豆が安いぞ! 一つどうだ?」

「それはいつも安いじゃないですか・・・3束ください」

「ナハハ、こいつは手厳しいね・・・はいよ」

 アオイの勧めで藁で包まれた納豆を3束購入する。相変わらずこれだけは、どうも異国の地で受けが悪いようだ。他に醤油、味噌、干物、梅干しなどのなるべく保存が利くものを購入していく・・・もちろん米もだ。

「最近はようやく買い手が増え始めてな、売り上げも伸びてきてるんだが」

 注文された品を店頭に運びながら、店の近状を語るアオイ。

「だが店としてはまだまだ赤字、本店に比べると雲泥の差だ」

 店の経営は相変わらず厳しいらしい。彼女の両親が営んでいる鈴屋本店は貿易が盛んな港町にあるそうで、活気も儲けも雲泥の差があると嘆くアオイ。

「ここで一つ、何かいい案はないものかね〜」

 すると、明後日の方を見たアオイが態とらしく悩みを溢す。

「今じゃそれを食べるためだけに他の街からも客が訪ね、毎日足しげく通う客で完売しない日がないノーフォーク1の名産お菓子を開発した期待の新星様から、アドバイスが貰えればな〜・・・」

 そして今度は完全に態と、僕の方をチラチラとチラ見しながら遠回しに長ったらしく限定して助けを求める。

「あの・・・もしかして僕に言ってます?」

「うんうん! そう、そうだよ! ・・・ 何かいい案はないかな?」

 ・・・はぁ。念の為確認を取ったが、アオイは僕から何か助言が欲しいらしい。うんうん待ってましたと言わんばかりに首を縦に振り、キラキラとした期待の目を僕に向ける。・・・と言っても僕もその手の話は素人、統計学に始まり需要や供給、効用の求め方など多少の経済系知識はあっても実際に使ったこともないお粗末な知識、未知の領域なのだが・・・。

「お願いします!神様仏様リアム大明神様〜!!」

 両手を合わせて神頼みをする如く拝み、懇願するアオイ。そこまで言われると、わからないの一言で片付けるのも躊躇われる。前世の故郷の味が買えるこの店にはとてもお世話になってるし、万が一にも潰れてしまったりしたらそれは僕に取って絶望を意味する。

「・・・そういえば、アオイさんのご実家って食堂をやってましたよね?」

 うーん・・・と首を捻り何か良いアイデアはないかと考えていた時、ふと前に聞いたアオイの話から、彼女の両親が貿易商、商店の他に食堂を経営していたという情報を思い出す。

「うん・・・確かにしていたし、食べられるものもウチで取り扱ってるもの使ったやつばかりだったけど・・・」

 料理はからっきしで・・・と、バツが悪そうに答えるアオイ。

「飲食物の商品を売る時、一つ有効な手段として ” 試食 ”というものがあります」

「試食? それは小分けにして商品を売るのかい?」

「いいえ。確かに少量でその分割引したものを安く買ってもらい試してもらう・・・という方法もありますが、この場合大抵は無料で提供するものですね」

 この世界にはまだ、試食のシステムは浸透していない。強いて挙げれば魔道具の業界、しかしこれにも効果を知ってもらうために商品を使って実践する実践販売がある程度で、試食も試供品の概念はこれまで見たことがない。

「無料でかい!? そんなことしたら店はすっからかんで閑古鳥すら鳴かずに飛んでっちゃうよ!」

 試食の話を聞いたアオイの反応も予想通り、反発と驚きに満ちたものだった。

「いえ・・・実際には損が出ない範囲を推し測り提供するんですが・・・」

 これに関しては、やってみないとわからない。それこそ需要の問題である。僕はこの街において、どんな商品にどれだけの効用があるかなど知る由もない。ましてや異世界異国の、それも全く毛色の違う商品食材となれば尚更だ。

「話を戻しますね。要はお客さんに味を知ってもらい興味を引くことが、リピーターをつけるにしろ、手に取ってもらうにも一番ということです」

「なるほど・・・だから親父とお袋は食堂を・・・」

「かどうかは分かりかねますが、料理に食材が回せる分廃棄も減りますし、現状の鈴屋を考えれば結構いい案ではないかと」

 だからこそ、いっそのこと思い切って食堂をしてみてはどうかと思ったのだ。少し意味は違うが ” 毒をくらわば皿まで ” ”濡れぬ先こそ露をも厭え”・・・である。

「あれば参考にしたいんですが、ご実家の鈴屋がアウストラリアで商売し始めた頃の初期のデータ、および同様の食堂の品目や売り上げに関するデータはありますか?」

「・・・データァー?」

「ああ、情報のことです。この場合、帳簿がそれですかね」

「えっと・・・ごめん。こっちに来てから私がつけた帳簿ならあるけどそれはないな・・・2割はリアムが買ってくれた売り上げでスッカスカの帳簿だけど・・・見る?」

「・・・・・・」

 アオイから告げられたまさかの依存度に声も出ない。参考にできればかなり有効だと思ったためにダメ元で、実家の鈴屋本店の帳簿の写しがないかと尋ねてみたが結果は聞いての通り、どうやら寂しく心許ない事業計画となりそうだ。

「そういえばリアム・・・昨日ピッグさんが王都から帰ってきたって商売仲間から聞いたんだけど・・・」

「本当ですか!?」

 あーでもないこーでもないとその帳簿を見ながら呟いていた僕に、アオイが有用な情報をもたらす。
 ご存知テーゼ商会はこの街で手作り・丁寧ブランドを楯に、近年頭角を現してきたピッグさん筆頭の商会。そして僕の提案したアイスクリームの販売を委任している商会であるのだが、実は夏の城で開かれた交流会の後に、会頭であるピッグはエリシアの父であるヴィンセントとともに王都の方へと出張に出ていた。なんでもヴィンセントが持つ王都の支店で魔法箱の販売計画を立てるため、ついでにアイスクリームの方もテーゼ商会とその支店で共同して売り出すことにしたらしく、ここ半年ほどはノーフォークにはいなかったのだ。

「僕の方でももう少し考えてみますが、ピッグさんたちにも挨拶がてら相談してみます・・・アオイさんもご実家の定食屋を中心に案をまとめてみてください」

「おうともよ!・・・ってありがとな。 それじゃあまた!」

「ではまた!」

 これは幸先が良い。アオイからの相談と同時に舞い込んできた幸運だ。まあ、・・・もしかして狙ってた? なんてアオイのことを疑ってみたりもするが、それならそれで彼女が上手かっただけのこと。鈴屋が潰れて現状一番困るのは僕自身だしね。

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 アオイから情報をもらい、僕はそのままテーゼ商会に直行した・・・のだが。

「ちょっといいですか?」

「アイスクリームなら本日は完売いたしました。またのお越しをお待ちしております」

 レジに立っていたのは見知らぬ女の店員、恐らく新しく入った従業員だろう。パーティーの時に顔見知りになった店員達が見当たらなかったため、とりあえず彼女に話しかけてみたのだが ──

「ハハハ・・・いえ、アイスクリームじゃなくて会頭のピッグさんに取り次いで欲しいんですが・・・」

「坊や、会頭はとてもお忙しい人なの。なにせ、まあ知ってると思うけど? アイスクリームやパンケーキ・・・ああ、謙虚ながらに姿をお隠しなさっている麗しき仮面の君・・・が、私たち乙女のために作られたスウィーツというお菓子を全面的に任されているんだから」

「はぁ・・・」

 碌に相手をしてもらえず、まだ見ぬ愛しの君に想いを馳せる女店員。因みに、彼女の言うところの謙虚で麗しい仮面の君とは僕のことだ。パーティーの時、ピッグがアイスクリームを僕が開発したとブラームスの前で公言したが、その後一般公開の折にはエクレール発祥のスイーツの君、性別以外は全て謎で隠された通称 ──仮面の君が作った、女性にオススメのお菓子と銘打って売り出された。
 最近はエクレール唯一の男性?・・・店員であるリゲスに幾つものファンレターが届く始末、それほどまでに僕が前世から引用してきたお菓子たちは、爆発的人気を博していた。

「では店長さんはいらっしゃらないんですか?」

 作戦変更。この調子だと会頭であるピッグはダメだと思った僕は、顔なじみである店長はいないのか尋ねる。

「・・・仕様が無いわね」

 すると好転、仕方なさそうに分かりやすく両の手の平を天井に向け、ヤレヤレと首振りジェスチャーをする無作法な店員。・・・この人、接客業なのにこれでやっていけるのであろうか。

「店長・・・なんかどこぞの平民の子供が会頭を出せってうるさいんですけど」

「ん?・・・平民の子供が?」

 どうやら彼は店の奥にいたようだ。流石に会頭のピッグはダメであったが、この店を仕切る店長であれば面会を求めている客を門前払いすることはないだろう。

「店長さん!こんにち・・・」

 すると、店の奥から出てきた馴染みの顔。僕はいつものように彼に挨拶しようとしたのだが ──

「シーッ!・・・こちらに」

 なぜか店長は急いで僕の元に駆け寄るとその口を塞ぎ、そのまま店の奥へと連れて行く。

「はぁ・・・こんにちはリアム殿、会頭に会いに?」

「・・・はい。先日お帰りになられたと聞いたので」

 一息吐くと、小さめの声で僕と言葉を交わす店長。

「会頭はエクレールに行かれていますよ。なんでも帰還した報告と、白パンの専属販売契約をしたいとかで」

 そして、会頭であるピッグが今どこにいるのかを教えてくれた。だが一つ、気がかりなのが ──

「何かあったんですか?」

 そう、それは最初の店長の対応だ。

「あちら・・・見えますか?」

「はい・・・あの方達がどうかしたんですか?」

「あそこにいるのは、恐らくウォーカーという商会で雇われた方々です・・・」

「?」

 すると、こっそりと店員が出入りする勝手口から、店の中にいる複数の客を指してみせる店長。男3に女2というところだろうか。

「2ヶ月ほど前に、アイスクリームのを求める客足が少し落ちて、相談させていただきましたよね?・・・覚えておいでですか?」

「もちろん。寒さ対策で粉雪パンケーキを作って、アイスクリームと紅茶をセットに売り出した時ですよね?」

「そうです。・・・実はあれからお菓子を扱うウォーカー商会からパンケーキの製法についてしつこく教えろと要求がありまして、これまでは会頭がいないため許可できないと突っぱねていたんですが、昨日どこで嗅ぎつけてきたのか王都から帰ってきた会頭に直接文句を言いにきたのです」

 視線は戻り厨房兼作業場、店長は固い握りこぶしを作ると、忌々しそうにしつこく何度も何度もと繰り返してその時のことを振り返る。

「ですが舌戦は会頭が圧勝、商人の心得えがどうあるべきか、礼儀がなっていないと散々叱られ返り討ちにあったんです」

 あの時はスカッとしました・・・ざまあです。と一転して昨日のことを語る店長は、かなり嬉しそうだった。

「もちろんレシピは全て特許を取られたリアムさんのもの、いくら要求されようが開示はしませんがね」

 そして今度はガッシリ腕組みすると、フンッ! と荒い鼻息で一蹴する。この店長は感情が態度に現れやすく見ていて非常に面白い・・・情緒不安定とも言うが。

 店長の言った通り、僕はアイスクリーム然り、魔法箱然り、新しく作ったパンケーキのレシピについても特許所得していた。同時にパンケーキの特許申請にあたり出願した特許は二つ、パンケーキのレシピ商用特許と重曹と酸による中和反応の論文だ。
 前者は先から述べている通りの内容で発明物の独占販売を許すもの、後者は論文といっても、まずアルカリと酸という性質を石灰、重曹、または酢などの代表的な物質で分類分けした一覧を作り、その中から強い酸性のものと重曹を混ぜ合わせれば中和作用によって発泡するという変化を記しただけのものだ。

「特許を役所に問い合わせてその名前から、どうやら生地に重曹を混ぜこむところまではしたみたいなんですが」

「ヨーグルトを加えてないんでしょうね。論文名には酸としか表記していませんでしたから」

 酸といえば酢、またはレモンなどがそれにあたるが、そこからヨーグルトにたどり着くのは難しいだろう。それらで代用しても生地は膨らむはずだが、香りは酸っぱく、とてもではないが調整が難しすぎて現在売り出しているパンケーキには程遠い出来となるはずだから。
 因みに、一応その特許や論文から僕の名前を知ることはないはずだ。既に一部商会には僕が仮面の君であることがバレ、独占販売権を所有していることも承知であろうが、念には念を入れて、権利者の名を匿名とし、代わりに代理人としてピッグ、あるいはヴィンセントを登録してある。

「ぷくく・・・本当間抜けな奴らです」

 するとまた、嬉しそうに彼らを嘲笑う店長。・・・相当ストレスが溜まっていたのだろう。

「それでは、僕はピッグさんに会いに行きますね」

 テーゼ商会の近状も聞けたことだし、そろそろ僕はエクレールに向かうためにお暇しようとする。しかし──

「ぼく・・・何かあったのかな?」

 僕が店を出ようとした処、話しかけてくる男。

「いや何・・・店長さんと何かお話ししているようだたったからな。おじさんたちは別に怪しいもんじゃないんだ。ただもし何かあったのなら、ちょっとおじさんたちにも教えて欲しいかなって」

 それを皮切りに、店の中にいた数人の男女が群がってくる。あれだ、さっき店長さんが言っていたスパイの人たちだ。

「勘違いだったら申し訳ありませんが・・・別にクレームを言いにきたとかじゃありません」

「クレーム?・・・まあそんな訳のわからないことは置いといてさ、この店で売ってるクズみたいな菓子よりもっと美味しい菓子があるんだ。おじさんたちと一緒にお茶しないか?」

 クレームが通じない男にその一行。いちゃもんと言ったほうがよかっただろうか。だがどちらにしても・・・──

「ナメてかかってると痛い目みますよ? あなた方がしている行為は立派な営業妨害です。衛兵さんに通報すれば即逮捕ですね」

 柄にもなく、その男が言った言葉にプツンときてしまった。この店で売ってるお菓子より美味しい? ・・・冗談じゃない。この店で今売り出しているお菓子はエクレアさんたちが一生懸命作って卸しているものだ。ここは品評会場ではない。仮に本当に美味しかったとしても、わざわざ他の人が汗を流し作って売っている物を引き合いに出して比較するなど、言語道断だ。

「ああん?」

「それに誰が好き好んでおじさんみたいな人とお茶しますか? まあ仮にそれが後ろのお姉さんたちからのお誘いでも、僕はお断りしますが」

 まあもう一つ理由を挙げるとするならば、それらのレシピを提案したのが僕ということだ。・・・なんか僕だけじゃなくて、前世の世界まで否定されたみたいでムカついた。

「生意気なクソガキだね〜」

 今の挑発も結構効いたようだ。後ろに控えていた女の一人が反応をみせる。

 初めはあまり関わり合いになりたくないため一歩引いて客観的に話を聞いていたが、冷静なところに熱湯を注がれ、ふと僕の堪忍袋の緒は切れてしまった。僕の心はガラスのハート・・・なんちゃって。

「とにかく、あなたたちみたいな卑怯愚劣な者のお誘いは鼻っからお断りということです。雇い主の方から情報が得られなかったら弱みを握れ、不評を広げろとでも言われましたか? 本当に愚かだ」

 彼らはきっと店長が僕を隠すように奥に連れて行ったのを見ていたのだろう。
 ここからは憶測、と言っても9割確信を持って言えるが、多分僕が不良品を買ってしまったクレーマー、あるいはその類の弱みを持った客だとでも思ったのだろう。でなければこんな平民の子供に今大躍進中の商会が経営する店の店長が、へこへこはしても隠したりはしない。彼らの行いはそのありもしない妄想による愚行、本当馬鹿馬鹿しい。

「このガキッ!」

 そしてついに、リーダーと思われる最初に話しかけてきた男が動いた。だが ──

「バースト/ 《威圧》」

 瞬間、店の中の空気が一気に冷める。

「ば・・・」

 すると、今にも殴りかかろうと腕を振り上げていた男が急激に勢いをなくして、一歩後ずさる。

「「「「ヒィッ」」」」

 同時に情けない声を上げる取り巻き達。

 スキル《威圧》は半年前、ティナが攫われた時に覚えたスキルだ。これは気合=魔力を利用したもので、名前の通り圧倒的力差のある弱者を威圧することができる。獲得の条件についてはまた次の機会に語るとするが、この圧倒的力差というのが大体魔力数値でいうと対象魔法防御値の約100倍、魔法防御のステータスは当人の保有する魔力量1/10に当たるため、計算すれば対象保有魔力の10倍の魔力を体に纏った時に発動することができる。

「あ・・、あああ・・・あ」

 何かを叫ぼうとしているが、体の震えのせいでそれを言えない男。・・・失礼な、彼は僕が悪魔だとでも言いたいのだろうか。
 しかし恐らく僕の両目には僕の保有する魔眼がそれぞれ発動しているはずで、それを考慮するとそう言いたくなるのも分からなくはない。なにせ左目は青白く、右目は元来魔族が契約に使う印が刻まれ、それが紫色に光っているのだから。

 だが実はこの魔眼の同時発動、これは意図した自発的な発動とは少し違い、《威圧》によって併発されたものだ。体内に保存されている魔力を爆発的に引き出し体に纏う、それがバースト/《威圧》当て字の所以であり、この特性ゆえに目に魔力を流すだけで発動する魔眼が誘発的に発動してしまうのだ。

「これ以上このお店に手出ししたら、本気で拘束しますよ? ・・・言いましたよね、痛い目を見るって」

 僕はとびっきりの笑顔で男達に語りかける。なにせ僕はこれでも商いの世界に片足突っ込んでいる人間だ。望まぬ客でも、笑顔で対応するのが商売の基本、実に模範的な対応だと自分ながらに感心する。ついでに分かりやすく、亜空間から先ほどアオイの店で仕入れた刀を取り出すのは模範的とは言えないがもちろん鞘に納めているため殺す意がないことは伝わって・・・くれると嬉しいな。

「ば、化け物だ! 殺されるーっ!!」

「拘束って言ってるのに殺すって・・・」

 残念、答えは化け物で悪魔じゃなかった。
 それにしても流石はリーダーっぽい男 ──

「「「「・・・・・・」」」」

 後ろの取り巻きたちは皆、泡を吹いて倒れてしまっている。纏った魔力は数値にして1万ほど、人種に当てはめれば大人の平均魔力が千であるから、限りなく例外をなくせば単純に半分の人間は間近でこれを食らえばご覧の通り、気絶して動けなくなるはずだ。

「失礼ですが、何かお困りではありませんか?」

 リーダーっぽい男が逃げ出し店を出たのを見計らい、タッタッタと何事もなかったかのように軽い足取りで近づき御用聞きする店長。

「すみませんが店長さん、この人たちの後始末をお願いできますか」

 既に威圧は解いていたが、ピンピンしている彼を見て内心少し驚いていた。威圧は込めた魔力に対して一定以上の魔力を保有しているほどこの通り、その効果が弱まっていく。現に店内に残る他のお客さんや従業員たちは皆一同に腰を抜かしていた・・・流石は店長。

「あと居合わせたお客さんたちのアフターケアも・・・今度出す予定の春のパンケーキストロベリーセットの無料券でも作って渡してあげてください。あと遠方のお客様には何か商会の方で見繕ってお土産に、ただどちらにするかはお客さん次第、代金は僕が払いますから・・・それじゃ」

「了解でありますリアム殿! いってらっしゃいませ」

 用命を受け、とても力強い敬礼で答え店を後にする僕を見送る店長。 

 ・
 ・
 ・

 ── リアムが店を後にして数秒後。

「誠に申し訳ありませんでした。しかしあの方は公爵家にゆかりのある方です。ご安心ください」

 まずは店内で腰を抜かしているお客たちを安心させるためのアナウンス。このことはノーフォークの目星い商会に属しているものならば誰もが知っている情報、言っても今更だと彼もきっと許してくれることだろう。

「よいしょっと・・・」

 その後、店長は店の印象を悪くしないために気絶した荒くれ者共を店の奥へと運ぶ。

「てててて店長!・・・あ、あの子は一体!」

 一方腰を抜かしていた無作法な女店員はなんとか動く足で気絶した荒くれ者を運ぶ店長の元へと歩み寄り、ついさっきまで自分が接客していた子供の正体を確かめる。

「あなたももうこの店で一緒に働く同士、知っていてもいいかもしれませんね」

 気絶している荒くれ者を放り投げ、パンパンと店長は手を叩く。

「彼があなたの恋焦がれる仮面の貴公子でありアイスクリームやパンケーキの発案者、リアム殿ですよ」

「えぇーーーッ!?」

 そしてサラッと告げられる重大事実。それがあまりにも唐突であっさりしていただけに、一度は驚き声を上げてみせるが

『・・・あんな冷たい目を見せたあの子が』

 この街の領主様はあんな化け物のような殺気を放てる子を御しているのか。これまで抱いていた甘く優しい世界にいた偶像の彼と、先ほど見た冷たく強烈な殺気を放つまだ幼い子供・・・。

『そんな・・・ああッ』

 その妄想と現実との間に生まれたギャップが、彼女の思考を狂わせる。・・・しかし、

『り・・・リアム様・・・!』

 乙女は強かった。今にも殺されてしまいそうな殺気に当てられたばかりだと言うのに、心臓は興奮しているとはっきり分かるほどに拍動し、体はポワンと火照ってくる。

「さあ、これからご迷惑をおかけしたお客様の接待です。あなたも惚けてないで手伝ってくださいね」

「は・・・は〜い」

 これが世に言う一目惚れというやつだろうか。否 ──

「ファン・・・そうファン!! 今私に天啓が降りました!! 私はリアム様のファンとして、ファンクラブを設立します!!!」

 ふと、脳裏に浮かんだファンという言葉。この世界でのファンとは主に闘技やダンジョンのコンテストなどにおいて人気のある格闘家や冒険者、パーティー、チームにつくものだ。

「色々言いたいことはあるけど、とりあえず早く手伝いなさい!!・・・後そのファンクラブ第一号はこの私で」

「ダメですよ店長! ファン第一号はこの私です!!」

 本人の知らぬ間に立ち上がったファンクラブ。まあ初めは皆そのようなものかもしれないが、後にこのファンクラブは彼のある偉業をきっかけに領地をまたぐほど大きな勢力へと成長する。だがその話はまた次の機会に、今は目の前の仕事に集中集中!

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