アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

108 閑話 〜 返信 〜

「リアム、カリナから手紙がきてるわよ?」

「・・・あとで見る」

「ダメよ。すぐ見てあげなきゃ・・・大事なお姉ちゃんでしょ?」

 いつもは先生への愚痴や僕がいなくて寂しいなどちょっと行き過ぎた愛に溢れるが、それでも大切なカリナ姉さんからの手紙を読むのはそんなに嫌いじゃない。しかし今回だけは、それを見るのが怖かった。

『過激な内容でビッシリだったらどうしようか』

 自分で言うのもなんだが、カリナ姉さんのブラコンぶりは半端じゃない。そしてこの返信の前に僕が送った手紙には、僕が婚約したことを書いていた。

「あらカリナったら、遂に外壁まで登り切っちゃったみたいよ?」

 更に、母さんが自分宛てに届いたカリナ姉さんの近状報告を読み上げる。カリナ姉さんは特待生として王立学院に入学した。普通は領地からの支援を受けられ、ほとんど無償で学院の入学が許されるお誘いに歓喜するものなのだが、彼女の場合はご存知の通り、スクール側からのを受けてもここを離れたくないと嫌がる姉さんを家族の説得により渋々、やっとのことで行かせたというのが正しい。

 王立学院では、他領生徒は基本全寮制。領地によって寮が振り分けられており、学院のノーフォーク寮を管理するのはこの街のスクールが担当、国一の名門学校に進む生徒たちのケアも万全で、母さんに届いたような手紙が定期的に送られてくる。
 母さんに届いたその手紙によれば、どうやら姉さんは遂に学院を脱走したのちに王都を囲む外壁まで登り切ってしまったらしい。結果、上で見張りをしていた兵士に取り押さえられたらしいが──

『ほら、絶対ヤバイッて』

 それを聞いて、ますますその手紙を開けるのが億劫になる。

 付け加えれば約半年前、王立学院に特待生として、あるいは新入生として旅立つ者たちを激励するために開かれた壮行会では、唯一の特待生であったカリナ姉さんだが、スクールの実質経営者兼公爵であるブラームスからの挨拶に対しては拍手もせず何ら無反応。更に──

「君たちが我がノーフォーク領の代表として将来立派に成長し、たくさんの面白いことをしてくれることを期待しています。代表として恥じぬよう一生懸命勉学に励むように・・・」

 と、学長であるルキウスが壇上で言ったのに対し──

「チッ・・・」

 と舌打ちした上に ──

「・・・姉さん!」

「なぁに? リアム♪」

「・・・カリナ姉さん」

 隣に座っていた僕がそれを注意すると、何事もなかったように甘々と接してきたあの日が懐かしい。

『さっさと開けろ・・・と忠告します。今開けようが後で開けようが、手紙の内容は変わりません』

 すると、優柔不断な僕に痺れを切らしたのか、イデアからの忠告が入る。

「そんなこと言ったって覚悟がいるの!」

 頭の中に話しかけてきた彼女であったが、思わず大声で言い訳をしてしまう僕。

「あら、イデアちゃんと喋ってるの?」

 そしてそれに対し、母さんがイデアと喋っているのか? と質問してくる。

「失礼しましたアイナ様。あまりにもマスターが情けなかったので」

「そうよね〜。私は弟思いのカリナのことだから何にも心配はいらないと思ってるんだけど」

「アイナ様の言う通りです」

 そして意気投合する母さんとイデア。女同士? 気が合うのか、姉さんがいなくなって少し沈んでいた母さんにイデアを紹介してからというもの、何かとこの二人は仲がいい。因みに父さんの呼び方は ” ウィル ” である。本当、家の力関係をよく理解している人間臭いスキルだ。

 そんな二人を見ていると、僕の緊張もどうでもよくなってくる。

「開けます」

 そしてとうとう、僕は手紙を開く決心をする・・・が ──

「・・・ウッ」

 封筒を開けるときには、思わず目を瞑ってしまう。だが同時に、ここで僕は一つの違和感を覚えた。

「あれ? ・・・1枚?」

 手紙の入った封筒を開けると、中からは見慣れた便箋が1枚出てきた。・・・1枚だけ。

「そういえば封筒がいつもより分厚くなかった・・・」

 そう、いつもは4、5枚ほどの紙にビッシリと近状報告が書かれているのに、今回入っていたのはたった1枚のみであった。

「・・・ッ!」

 一体何があったのかと急激に不安になった僕は先ほどとは打って変わり、早々に手紙を開く。すると──

『おめでとう』

 これまで紙一面にビッシリ書かれていた手紙と違い、そこにあったのはただ一つの単語のみ。

「母さん、カリナ姉さんになにかあったのかな?」

 僕はその手紙を恐る恐る母さんに見せて尋ねる。

「いいえ? 別に報告書も私への手紙も普通だったわよ?」

 しかし返ってきたのは、他の手紙はいつもと変わらないという不可解なものだった。

「ほら〜!言ったでしょ?・・・カリナもきっとお祝いしてくれるって」

 そしてそれを見た母さんは ” ほらね ” と何事もなかったかのように微笑む。しかし──

『一体何があったんだ・・・』

 一方で僕は気が気ではなかった。僕は直ぐに自分の部屋に戻ると、急いで姉さんへの手紙を書く。

「か・・・母さん! ・・・カリナ姉さんへの手紙!」

 そして十分ほどで書き上げた手紙を急いで母さんに渡すが──

「もうリアムったら。手紙はみんな一緒に出すんだからそんなに早く書いたって届く日は一緒よ? おっちょこちょいなんだから」

 そうだった。僕たち家族からの手紙はスクールを通して王都の学院まで届けられる。そうすることで郵便代は免除され、負担するのは紙と封筒代だけでよくなるのだ。

 因みに僕が手紙に書いた内容は、お祝いしてくれたことへの感謝から始まり、ビッシリと何か悪い事でもあったのか、どこか具合でも悪いのかと9割方カリナ姉さんの体や心の心配だった。

 そしてこの新しい手紙は1週間後に、内容の変更もなくスクール便に出され、やがて数ヶ月後にはその返信が返ってくることになるのだが・・・そこには──

『別にリアムが気にしてくれて嬉しいなんてことはないんだからね! 勘違いしないでよね!』

 と訳のわからない内容が綴られていた。それを見た僕は ──

『もしかして好きな男子でもできたか? それならそれでいいんだが、やはりちょっと違う気がする』

 益々理解不能な状態に陥る。ただ唯一の救いは、この文面と母さんたちへの手紙から、不健康であったり、悪い方向で何か悩んでいるわけではないということ。
 そしてこの後も、またその後も、全体的に手紙としては淡白な短文、時々変化があって先述したような可笑しな返信が僕の元にだけ届いた。一体カリナ姉さんの身に何が起きたと言うのか。真相は彼女に会ってみないとわからない。

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