アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

102 孤児院のコロネ

「こんにちは〜」

 僕は今、孤児院の入り口まで来ていた。

「はいは〜い、おや、どこかで見たことがあったようななかったような・・・」

「こんにちは、僕はリアムって言います。司祭のアステルさんはいらっしゃいますか?」

「あぁ〜!! そうだリアムだリアムッ!!何年か前に精霊と契約できなくてよく教会の方に出入りしてた!!」

「あの〜、司祭のアストルさんはいらっしゃいますか?」

 呼びかけに応じて扉を開けたのは10代半ばといった女の子。きっとここの子の一人なのであろう。

「アストル様に用? 今ちょっと出かけてるから、よかったら帰ってくるまで応接室で待つ?」

「そうですか。じゃあそうさせてください」

「りょうか〜い。どうぞー」

 彼女の案内で中で待つことになった僕は、そのまま孤児院の中へと入る。

「アメリア!新しい仲間か?」

「違う違う。こちらは司祭様のお客さんだよ」

「なーんだ、違うんか」

 すると途端に僕は複数の子供たちに囲まれた。

「こら!そんな態度だと失礼だろ!」

「キシシッ! やーいアメリアの怒りんぼ〜う!」

「なんだと! こら待てライト!」

「やべッ!てったい〜!!」

「「「てッた〜い!!」」」

 怒ったアメリアから逃げようと、しかし楽しそうに各々がダーッと走って逃げていく。

「ごめんねウチの子達が」

「いいえ。元気であることが一番です。きっと固い絆と愛がそれを育んだんでしょうね」 

「はぁ〜・・・ッ! ウチの悪ガキどもは悪ガキどもだが、こう丁寧な対応をされるとなんか年上として恥ずかしくなってくるよ」

 確かに、僕も齢にしてみれば彼らとそう変わりはない。・・・もう少し可愛げがあったほうがいいだろうか。

「ほら、ここで待ってな。もうすぐアストル様も帰ってくるだろうから、そうしたら知らせるよ」

「はい。ありがとうございます」

 そうして、なんだかんだと応接室に通してもらった僕はソファに腰を下ろし、束の間の休息に身を投じた。

── 30分後。

「スゥー・・・」

「おーいリアム!アストル様が帰って・・・って」

「あ、すいません! ついウトウトとしちゃって」

「いやこっちこそ起こしちゃったようで・・・でも、なんか安心したぞ?」

「そ、そうですか?いや〜ソファに当たる陽の光が心地よくて」

 扉を開き、アストルの帰りを知らせに来てくれたアメリア。しかし僕はその知らせを待つ間、いつの間にか寝てしまっていたようだ。

「アメリア、そろそろ僕も中に入っていいかな?」

「あ! すみませんアストル様!さあどうぞどうぞ・・・」

「ってそれはここの長である僕に対しておかしいんじゃないか?」

「あっ・・・すみません」

「ハッハッハっと、僕もお客さんの前で失礼だったかな」

 少し忙しないアメリアの後ろから、見覚えのある人物が入ってくる。

「やぁリアムくん。久しぶりだね」

「こんにちはアストル様、ご無沙汰しております。突然の訪問をお赦しください・・・僕のこと、覚えておいででしょうか?」

「ああもちろんだとも。あんなイレギュラーは僕も初めてだったし、それに負けず健気ひたむきに頑張っていた君がまた訪ねてきてくれて、僕も嬉しいよ」

 約2年越しの再会となるが、その風貌に変わりなく、前と同じ優しく穏やかな人柄が彼からは感じられた。

「さて、今回はまた精霊契約のことかな?もうすぐ秋の儀式も近いし・・・それとも別件かな?」

「別件です。今日はエクレールの店主からのお願いで、ある子に会いにきました」

「ほう・・・その子とは?」

「はい。その子の名は・・・」

 それから早速、要件をアストルに伝える。

「わかった。アメリア、悪いが彼女を呼んできてもらえるかな?」

「わかりました」

 アストルの命で、その子を呼びに部屋を出るアメリア。

「それで、スクールの生活は順調かな?」

「はい。おかげさまで」

「そうか、それは良かった。精霊契約もしてないのに飛んで特別入学したと聞いていたから少しだけ、心配してたんだ」

「知ってたんですか? 僕があの後すぐスクールに入学したこと」

「ああ。この孤児院からも何人かはスクールに通っているからね。基本は初等部までで、その後は仕事を探しながら自立していく。その子達から噂程度にね」

「本当にご心配をしていただいたようで・・・」

「いいんだ。きっと君は君で目的に向かって真っ直ぐ頑張っているのだろうと安心もしていた。そういう子だったからね」

 そして部屋に残った僕とアストルは、近状を含めこの2年間の話をしていた。

「それに近所だからか、精霊契約もしていないのに、異常な魔法の才能を持った神童がいるって噂もあったりなかったり・・・」

「そ、そんな噂があったんですか?・・・ちょっと恥ずかしいですね」

「そうかい? まあ僕はその噂に楽しませてもらっていたがね・・・っと」

 すると、話もだんだんと盛り上がりを見せ始めた頃、二人残された部屋にノックの音が響く。

「入りなさい」

「失礼します」

 アストルの返事で開く扉。

「こんにちは。今日はエクレールからお客さんがお見えになっていると・・・」

「・・・・・・」

「り・・・リアムくん!?」

「えっ・・と・・・僕のことをご存知で?」

「ご存知も何も何回か会ってるんだけど・・・」

「・・・? す、すみませんが思い出せなくて・・・」

 扉から入ってきたのはアメリアとはまた別の女の子。そしてその子は、僕を知っているどころか何回も会っているという。

「ほら! あなたよくウチのクラスに出入りしてたじゃない!! お姉さんのカリナがいたから・・・」

「カリナ姉さんの?」

「そうよ・・・そうね・・・。初めて私が君と会ったのはマルコがカリナに礫をけしかけられた時かしら・・・」

「・・・あっ!! グットラックマルコの人と逃げ回っていた内の一人だった!!」

「そーうそれ! ・・・うん多分それよ! 思い出してくれた?」

「そういえば魔法演習の時にも顔は見ていたような・・・」

「演習中は君がいつ魔法暴発させるかわからないからってケイト先生たちに私たちは遠ざけさせられていたから・・・」

「・・・なんかすみません」

 が、なんとアストルの指示で部屋に入ってきた女の子は、僕のことを知っていたのだ。

「なんだ二人とも、面識はあったのかい?」

「いや、顔は知っていたんですが名前を知らなくて・・・」

「私はまあ、リアムくんは有名人だったし、スクールにいた時はよく見ていました」

「なら話は早いかな? ・・・リアムくん、彼女が君の尋ね人のコロネ君だよ」

「ああっ! 今日はエクレアさんの代理できました、よろしくお願いします!」

「こ、こちらこそ! よ、よろしくお願いします!」

「ハハハッ! まあ、コロネもそちらに座りなさい。どうやらリアム君から大切な話があるようだ」

「はい! し、失礼します!」

 それから、アストルの勧めもあって僕の正面に腰をかけるコロネ。しかしどうしてだろうか、なぜか場はいつの間にか企業の面接っぽい雰囲気に移っていた。

「・・・で、エクレアさんはコロネさんをパン職人の後継として育てたいようですが、コロネさんはどうでしょうか?」

「はい! もちろん私はケーキでもパンでも、エクレールのお手伝いをして、行く行くは後継になれれば嬉しいです」

「それはなぜでしょうか? コロネさんがエクレールに弟子入りしたいと思う理由は?」

 そして自然と僕も面接官っぽい質問を彼女にしてしまうわけで ──

「それは・・・わ、私は司祭様のお手伝いで教会のお客様用のお菓子を買いによくエクレールに行くんですが、その時い、いつも笑顔で出迎えてくれるリゲスさんやエクレアさんたちのことが好きで・・・、それによくおまけでくれるお菓子も美味しくて・・・」

 僕の質問に徐々に顔を真っ赤にして答えるコロネ。

「私も・・・! 私も、私に笑顔をくれたエクレールの二人みたいに誰かを笑顔にできる仕事がしたいと思ったからで、それが私にとってはエクレールだったからで!・・・です」

 なぜだろう。小さな僕がこう面接官っぽい話し方をして相手の内面を探っていく。本質からはずれていないはずだが、前世の常識に当てはめれば一種の圧迫面接に等しいレベルで妙なプレッシャーを生み出している気がする。

「そうですか。それは素晴らしい理由ですね・・・。ところで、実はコロネさんにはエクレアさんの後継に加えて、こんなパンを作って欲しくてですね・・・」

 そこで僕は一つ、場の雰囲気を変えるためにディメンションホールからあるパンを取り出す。

「これは先日僕が持ち込んだ天然酵母というものを使って焼き上げた食パンです。この他にもいくつか孤児院への差し入れに持ってきていますので、ぜひ一口ちぎって食べてみてください」

「は、はい!・・・これはッ!?」

 僕の差し出した食パンの端っこをちぎり取り食べたコロネ。そんな彼女の反応はやはり、驚きに満ちたものだった。

「コロネさんには、是非エクレアさんの技術を学び、この天然酵母を使って僕の監修したパンを更に色々作って欲しくて・・・もちろんコロネさん自身での開発も大歓迎ですが・・・」

「わ、私でよければ是非やらせてください!! こんな柔くて香りのいいパンは初めてです!!」

「そうですか、それは良かった」

 彼女の第一印象は決して悪くなかった。言葉遣いも悪くなかったし、何よりカリナ姉さんのクラスメイトであったし。それからの会話中に悪印象を受けることもなかったし、そもそもエクレアさんが見込んだ子に初めからどうこうケチをつけるつもりがなかったというのもあるけど──

「僕からのお話は以上です。エクレアさんたちには良い報告をさせていただきますので、またその時はよろしくお願いします」

「ありがとうございました!よろしくお願いします!!」

 僕からの話は以上だ。きっと素直そうなこの子なら、切磋琢磨してエクレアさんの願いもきっと叶えてくれるだろう。

「・・・というわけで、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。アストル様」

「なんのこちらこそ。ウチの子がこうして好きな職業につけるというのは素晴らしいことだし、新しい家族ができることは喜ばしい。こちらこそお礼を言うよ・・・ところで」

「なんでしょう?」

「是非私もその食パン?とやらを試食させてもらっても良いかな? 先ほどから良い香りが部屋中を満たしていてどうやら愛子らも気になっているようだ」

 すると、そう言って静かに立ち上がり扉の横まで近寄ったアストル。そして──

「「「うわーッ!!!」」」

 アストルが扉を開いた瞬間、廊下から何人もの子供達が倒れ込んできた。

「いってーッ!・・・ゲッ!アメリアの腹がうるさくて見つかっちまった!!」

「んな!それはお前たちのだろ!? だいたい後ろからグイグイ押すからこうなったんだ!」

 そのメンバーはアメリア含め、先ほど玄関を走り回っていた子供達であった。

「こらこら、まずはもっと先に言うことがあるでしょう?」

 すると、ニコニコと優しい笑顔で子供達にプレッシャーを与えるアストル。

「「「ひぃッ!? ご、ごめんなさい!!」」」

 そんなアストルに一瞬で気圧された子供達は皆、直様口を揃えて謝罪する。

「すまないリアム君。・・・しかし盗み聞きをする悪い子には仕置きが必要だが、どうやらその腹は正直らしい。事実、さっきからコソコソとしていたようだが腹の音は隠せていなかった。リアム君、どうかこの子たちの腹の正直さに免じてその悪行を許し、ほどこしをいただけないだろうか」

 すると、今度は僕のお土産をダシに悪ノリするアストル。いや、どちらかと言うとこれは躾だろうか。

「そうですね。盗み聞きは悪いことですが、その分腹は正直なようなので相殺ですね。・・・では、お土産に持ってきた食パンやアイスクリームをみんなで食べましょうか」

 先ほどお土産があると言っていた僕は、直様アストルの意を汲み取って話を合わせる。実際には相殺にも何にもなっていないんだけどね・・・しかし──

「「「やったー!!」」」

 次の瞬間、一斉に飛び跳ね喜び出す子供達。子供達を御すことができたのは一瞬、どうやら大人のプレッシャーはまだ彼らに早かったらしい。その時の光景にアルトルと僕の表情は、仕様がなさ半分、そして微笑ましさ半分の苦笑いだった。

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「こうして半斤にした食パンに四角が九つになるように切れ目を入れて・・・ウィンドカッター」

 僕は取り出した一斤の食パンを半分に、更にその内相を九つに切り分ける。

「なあ兄ちゃん・・・机まで切れちまってるぞ・・・」

「ああ・・・これはちょっとしたパフォーマンスだよ?」

「そうなのか? すげぇな兄ちゃん!!」

 隣でそれを見ていた少年からちょっとしたツッコミがあったが、シレッと訳のわからない嘘をついて何とか場を乗り切る。この少年はライトと言っただろうか? 僕より小さくて元気が有り余っているようだが、僕のことを兄ちゃんと呼んでくれる可愛いやつだ。

「焦がさないよう焼き色をつけるように優しい火で ── ファイア」

 そしてそれをトーストするべく、火の基本魔法であるファイアを唱えるが──

「「「あーッ!!!」」」

 次の瞬間、轟々と燃え盛る炎に子供達が揃って叫び ──

「何で真っ黒にしちゃうんだよ兄ちゃん!!」

 残ったそれを見た子供達から必至のブーイングを受ける。

『半斤丸焦げにしてしまった・・・そう、丸焦げに──』

『これは焦げとはいいません。炭です』

『・・・察してくれ』

『私はとても高度な知能を有しており、空気を読む能力も絶妙です。ただマスターをイジる能力がそれを凌駕しているだけで・・・』

『それって結局あっても意味ないじゃん』

『マスター限定ですが』

 バッググラウンドにてイデアからもダメ出しをされてしまう始末。

「アーッ! 最近また魔力コントロールが上手くなったと思ってたのに!!」

── 苦悩。まさにその残骸は僕の苦悩を見事に表すトーストになりたかったなにかであった。

「あのー。良かったら私がやってみてもいいですか?」

「へっ? も、もちろんまだパンはいっぱい焼いてもらったし、僕の残りぐらいだったら・・・」

「ありがとうリアム君!」

 すると、それを見ていたコロネが僕の代わりを買って出る。

「大丈夫・・・落ち着いて〜・・・」

 そびえ立つ半斤の食パンの前で深呼吸をするコロネ。

「ウィンドカッター」

 まずは食パンの内相を九つの正方形に切り分ける。この役割を買って出たと言うことは彼女は少なくとも火と風の属性を扱えるのか。釜がないついでに今は直接魔法を当てているが、パン職人になろうものならその2属性はとても頼もしい追い風となる。その辺も見込んでエクレアはきっと彼女をスカウトすることに決めたのであろう。

「凍ったクラスメイトを解凍するイメージ・・・焦がさないようにじっくりと・・・」

『おいおい・・・』

 僕はその呟きに思わず心の中でツッコミを入れる・・・咄嗟にその呟きの意味をイメージしてしまったからだ。

「ファイア」

 零れたように唱えられた魔法鍵。すると ──”ボッ”っと、その食パンの周りを一回り大きく優しい火が包み込んだ。やがて、その火が10秒もしないうちに消えると──

「う・・・うまそう」

 そこに残ったパンからは香ばしい匂いが立ち上り、周りでは腹の虫の大合唱が始まる。

「・・・じゃあこれにバター塗ってバニラのアイスを乗せて・・・はちみつをかけて──」

── ”ゴクッ”。

「ハニートーストの出来上がりでーす」

 焼き上げたコロネに代わり、残りの材料を使って僕がそれを完成させる。完成のコールが棒読み気味だったのはまあ察して欲しいのだが、この時、僕はコロネはきっといい職人になるだろうという確信を得ていた。

「俺がいちばーん!!」

「こら! 一人一個ずつ小さい子から順番って最初に言ってただろ!!」

「だって我慢できねーよッ!!!」

 しかしそんな僕の心も知らずか、完成したそれ目掛けて大乱戦が始まってしまう。

「コ、コロネさん!! トッピングは僕がするのでどんどん焼き上げてもらってもッ!?」

「もちろん!! ──フフッ・・・パン職人見習いコロネの物語第0話ってところね。頑張らなくちゃ!!」

 押し寄せる子供達に押しつぶされ悲鳴のような頼みを叫ぶ僕。それを聞いた彼女は綺麗な薄紫色のバンダナをキュッと結び、もう一つの家族たちのために腕を奮う。

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「ということがあってハニートーストは大盛況でした。僕はコロネさんについては何も言うことはありません」

「そう。ありがとうねリアムちゃん」

 僕からの報告を聞いたエクレアがにこやかに微笑む。数日後、ケーキ屋エクレールのお客さんを迎える声に、新しい声が一つ増えたことは言うまでもない。

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