アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

98 夏休み明けの一幕

「おはようレイア」

「・・・! おはようリアム! よかった・・・来てくれて」

「・・・ん? 何かあったの?」

 今日は夏休暇明けの初日、またスクールが始まる登校日。

「ううん。でもポーション作りの練習にずっと来なかったから心配で・・・」

「あっ、ゴメンゴメン。マレーネおばさんには一応言ったんだけど、夏休み中は師匠とダンジョンに籠ってばっかで・・・」

「大丈夫。おばあちゃんには聞いていたし・・・ただずっと会えなかったから・・・」

「・・・? ごめん、最後の方ちょっと聞こえなくてもう一回言ってくれる?」

「なんでもないよ。ごめんね変なこと言って」

「気にしないで。ちゃんとレイアに言ってなかった僕が悪かったんだから」

 そんな1ヶ月と長くも短いような休暇を終え、僕は再び日常へと戻る。

「これからはまた前みたいにウチに来るの?」

「う〜ん。出来るだけそうしたいけど、師匠との時間の兼ね合い次第かな」

「・・・そう」

 夏休暇中、集中特訓ということで仕事のほとんどを空けて修行に付き合ってくれたリゲス。しかし僕もスクールが再開した今、彼も簡単に仕事を空ける訳にもいかず、お互いの都合がつく時のみ修行することとなっている。

「でも朝の登校はなるべく一緒に行けると思う・・・レイアが嫌じゃなければ」

「そんな!全然嫌じゃない! ・・・嬉しい」

「本当?・・・なら僕も嬉しいよ。・・・それじゃあ、遅刻しちゃいそうだし、行こうか」

「うん!」

 約1ヶ月ぶりのレイアとの再会に気持ちを引き締め直す僕。今日からまた、学生としての新しい一幕が上がるのだ。

『マスターはやはり馬鹿ですね』

「へっ?」

・・・今日からまた、学生としての新しい一幕が ──

「どうしたのリアム?」

「な、なんでもない!」

「そう? 変なリアム、フフッ」

「ハハハ・・・」

 僕の一連の挙動を可笑しそうに笑うレイア。そんな天使のような笑顔を見せる彼女の隣で、僕は一人、それが同時に前途多難なスクール生活の幕開けであったことを思い出し、愛想笑いでなんとかその場を乗り切るのであった。

 ・
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「リアムさん!? やっと来ましたね!!」

「あっ、はい。おはようございますケイト先生」

 スクールにつき、レイアと別れて直ぐのこと、僕は担任教師であるケイトと遭遇した。

「おはようございますリアムさん。また今日から・・・じゃない!! あなたは私に何か言うことがあるはずです!!」

「・・・・・・」

「その沈黙、どうやら私の言いたい事は理解できているようですね」

「・・・すみません。これ、僕が開発に携わったアイスクリームです」

「・・・そうですよ。コレ、気になって買いに行ったらもう全て売り切れだったんですよね。まだ開店から1時間も経っていなかったのに・・・」

「喜んで頂けて良かったです・・・では僕はこれで」

「って違ーうッ! いや違ってないですけれど違ーうッ!」

 アイスの入った箱を受け取るも、全力でそれを否定するケイト。

「アイスは嬉しいですが私が用があるのはこっちですよこっち!!」

 そう言ってアイスが入った箱を掲げてみせるが──

「?・・・だからアイスでしょ? ・・・お巫山戯も程々にして下さいね。皆と早く会いたいですし、僕はこれで失礼しますよ」

 僕はクルリと背中を向けて、足を踏み出そうとする。・・・事実、ここ何週間かはリゲスとダンジョンに籠ってばっかだったたし、その間みんなとは全く会っていなかった。

「待てーい! だからこっちの箱です! 箱!」

「・・・はぁ」

 すると慌ててアイスの入った箱を掲げながら、今度は”箱”と限定してきたケイトに僕はため息を吐く。

「その溜息! ・・・やはり分かっていて話を反らしてましたね!!」

「・・・すいませんケイト先生。こればっかりは教えられないんですー!」

「ッ! こうなったら・・・ウィンドバインド!」

 痛いところを突かれ、逃げ出そうとした僕を拘束しようと魔法を行使するケイト。流石に校舎内であるため、無闇に魔法は使わないと踏んでいたのだが ──

「・・・ッ!ウォーターウォール!」

 僕は直様、自分の背面に水の壁を発生させる。

── ”ドパーン!”

 と衝突し弾け飛ぶ水しぶき。その量は尋常じゃなく、廊下のあちらこちらがもうびしょ濡れである。

「流石やりますね! ですが私は地の果てまでもあなたを追いかけますよ!」

 突如現れた水の壁に自身の魔法が相殺され、ヒートアップするケイト。僕はこの時点でようやく、その対処が火に油をそそぐ行為であったことに気づく。しかし──

「ケイトぉーッ!!」

「ゲッ!この声は!」

 次の瞬間、校舎の外の方から轟く怒声。僕はその怒声に直様立ち止まり、窓から外に顔を出す。

「アラン先生!助けてくださーい」

 ここは校舎2階の廊下。そして怒声が聞こえた中庭のを見てみれば、そこにはずぶ濡れで仁王立ちするアランの姿があった。

「何があった!リアムくん!!」

「それがケイト先生に襲われて」

「・・・なんだと」

 僕の話を聞いて一瞬で雰囲気が変わるアラン。

「んな!?違うのですよアラン! 私はただ純粋に、学術的な情報を彼から得ようとそれを実行していただけで・・・」

 すると咄嗟に顔を廊下の外に出し、弁明を図ろうとするケイト。しかし──

「問答無用だ!この馬鹿者!」

 アランは自らの周りを一気に熱し服を乾かすと、黒い粉のようなものを足元に振りまいてこちらに軽く飛んできた。

「休み明けをリセットさせる大事な1日目だと会議で話しただろうに、早速こんなバカをするとは!」

「だから違うのですアラン!ただ私は彼に情報の提供をお願いしていただけで・・・」

「それが何故魔法の行使に繋がるのだ。この愚か者!」

「痛い!痛いですよアラン!!」

 立ち塞がった彼に為すすべなく、両手でコメカミを掴まれ宙に浮くケイト。痛みにもがく彼女は、なんとかそれを軽減しようと必死にアランの腕に捕まっていた。

「はぁー・・・。すまないがリアムくん。一から説明をお願いできるかな?」

「ちょっと私の話を信じてくださいよ!どれだけ信用ないんですか!?」

「全くだ!」

「・・・私、人が信じられなくなりそうです」

 そして彼女は等々、アランの辛辣な言葉も相まって撃沈した。
 
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「・・・やはり急に魔法を行使したお前が悪いではないか」

「・・・テヘッ」

「この痴れ者めが・・・」

「だって! 専門分野において圧倒的未知かつ秀でた技術の確立が身近な、それも私の生徒の手によって成されたのですよ!!・・・教師として、いえ一研究者として気になるのは当然じゃないですか!!!」

 一連の情報を整理し、その蛮行を指摘するアランに情状を訴えるケイト。 

「・・・リアムくん。できればこいつにそれを教えてやってほしい」

「・・・アラン?」

 するとなんと、それを聞いたアランから意外な言葉が発せられる。

「・・・いいんですか?」

「ああ、でなければ君も落ち落ち学業に励めないだろう」

 しかしその理由はなんとアランらしいことか。

「大丈夫だ。こいつのセーブは私が今まで異常にキツくする・・・最悪魔力契約を交わしても、だ」

「ウッ・・・それは嫌です」

 最悪の場合は魔力契約による戒めでケイトを縛ると言って退けるアラン。そんなアランにケイトは苦虫を噛み潰したような顔で後ずさる。

「・・・じゃあ、循環魔力を絞り調節する魔法式だけ・・・」

「・・・! まさに私が一番知りたかった情報!! ありがとうございますアラン!」

「オイ・・・礼を言うならリアムくんに・・・だろ?」

「ああっ! リアムさんへの感謝は私の扱える言語で言い表せません!! ・・・いくら欲しいですか?」

「・・・いえ、お金をもらうと交渉が完全に成立してしまいますから・・・そうですね、僕はケイト先生の約束が欲しいです」

「・・・約束?」

 突如僕から出された提案に首を傾げるケイト。

「ええ、約束です。約束の内容は ”僕の教えた全ての技術の総合的な行使、または研究はケイト先生が保有する最大魔力量の10%まで。それ以上の行使は許さない”・・・と言ったところでしょうか。それが守れないなら一切の情報提供はなしで」

「それはいい約束だな」

「・・・そんな無体な!!」

 そしてその内容を聞き、手と膝を床について絶望するケイト。

「でも魔力契約で縛るわけではありません。僕も譲歩して口約束でいいです・・・じゃないと心配でオチオチ勉強もしてられません」

「そんなぁ・・・」

 6歳の少年の前で力なくこうべを垂れる女性。

『あーれー・・・およしになって』

『ちょっと黙ってて』

『つまらないですね』

 構図はあれだが、自分がそんな悪計を巡らせた覚えはない。バックグラウンドから話しかけてきたイデアを僕はさっと遇らう。

「それでは・・・」

 そして僕はざっと原理を彼女に説明すると ──

「うむ、ではケイト。約束はしっかり守るのだぞ」

「わかってますよアラン・・・シッシッ!」

「全く・・・それではリアムくん、またな」

「はい、ありがとうございましたアラン先生」

 無事、それを見届けたアランが去る。

「・・・それじゃあ僕もそろそろ」

 そして僕もそれに続き、その場を離れようとするが ──

「リアムさん、あなたまだ何か隠してるでしょ?」

「え? 確かに先ほども言った通り、他にもいろんな式が組み込まれてこの陣は完成してますが・・・」

「違います。この魔法陣以外にも私に隠さないといけないような素晴らしい情報(こと)を隠しているのでは無いか・・・ということです」

 突如、突拍子もないことを言い始めるケイト。

「な、なにも隠してませんよ? い、イヤダナー・・・ケイト先生は全くジョークが過ぎるんですから」

 僕は突然、図星をついてくるケイトに狼狽えてしまう。

『どうしてわかったんだ!・・・ヘマは踏んでいなかったはず・・・!』

 なんとか、平静を装ってはみたが心の中では動揺が止まらない。

「やはり鎌はかけてみるものですね・・・リアムさん」

「・・・ッ!まさか!」

 ケイトが告げる驚きの一言。

「久しぶりに出会って自信が増しているというか、どこか成長したなぁーと思っていましたが、その嘘が下手なところは相変わらずのようですね・・・」

「・・・ダッシュ!」

 僕は束の間、後ろを振り向くと全力でダッシュする。

「逃がしません!」

 そんな僕を逃さないよう、今度はこちらも全力ダッシュで追いかけてくるケイト。

『魔線の・・・魔線のことだけは・・・ッ!』

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「・・・と言う事です」

「・・・・・・」

 口を開けたまま、ポカーンと動かなくなってしまったケイト。・・・結局、大人であるケイトから追いかけっこで逃げること叶わず捕まった僕は、魔線のことを仕方なく打ち明けた。すると──

「タラー・・・ン」

「わぁ!? ケイト先生鼻血鼻血!!」

「・・・はっ! 今私の目の前に果てしなく続く長い階段が・・・」

「昇天しかけてたぁ!?」

 なんと彼女は嬉しさのあまり、天国への階段に踏み出しかけていたようである。・・・やはりこの情報は彼女に毒だった。

「ハァ・・・ハァ・・・リアムさん。私興奮しすぎて過呼吸気味です・・・」

「落ち着いてくださいケイト先生! 深呼吸です!深呼吸!!」

「スゥー・・ハァー・・・すみませんがリアムさん、私はホームルームまで少し休ませてもらいます」

「はぁ・・・ではまた」

 少しフラつきながら歩き始めたケイトに、どこか不安を抱えながら見送る僕。そして再び踵を返すと、朝の教室へと歩み始める。

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 その日のホームルーム。

「おい、先生はまだ来ないのか?」

「お、おかしいですね。とっくにベルはなっているのに」

「このままじゃ一限目始まっちゃうわよ?」

「・・・まさか」

 皆と数週間ぶりの再会を果たした僕であったが、その嬉しさとは違う感情に支配され、一人席でそわそわしていた。

「どうしたリアム? 何か知ってるのか?」

「・・・ちょっとトイレ行ってくる」

「あ、ああ。もし先生が来たら言っといてやるよ」

「頼むよ」

 僕は一人教室を出ると、早足である一室へと急ぎ向かう。そして部屋にたどり着き、扉を開けた僕が見つけたのは ──

「・・・ケイト先生ッ!」

「うぅ・・・気持ち悪い・・・」

「やっぱり!」

 床に倒れ、気分の悪そうなケイトの姿だった。

「ポーション・・・魔力回復のポーションを・・・」

「ああもうッ!・・・はいこれ、飲んでください!」

「ありがとうございます・・・」

 要求通り、僕から手渡されたポーションを飲み干すケイト。

「ちょっとだけ・・・ほんのちょっとだけ試してみようと魔線を作ってみたのですが、上手くいきすぎてしまって・・・。調子に乗ってあらゆるパターンの陣を試していたらいつの間にか魔力が切れかかっていました」

 それから数分、ようやく容体が落ち着いてきたケイトが僕の想像通りの原因を供述する。

『やっぱり僕が馬鹿だった』

『私の観察は完璧だと自画自賛します』

『・・・・・・』

 僕の心に干渉し、イラつくほど自慢げな声で自画自賛するイデアにも、何も言い返すことができない。

「とりあえず、先生はここで休んでいていください。僕はビッド先生でも呼んできます」

 そして僕は、その後悔とイラつきを胸に抱えながら、保健医も兼ねているビッドを呼びに行くため、ケイトの研究室を後にした。因みにその後、専門科目を取っているクラスメイトによってケイトがホームルームにこなかったことがアランにも必然的にバレた。結果アランは宣言通りケイトに魔力契約を強制し、僕が言った条件そのままを記し調印させた。こうして僕は漸く、ケイトのマウントを取り手綱を握れたわけなのだが、最近では後輩であるフランを召喚しては実験に付き合わせているようだ。フランから ──

「もう私の体が持ちません・・・契約解消してください!」

 と涙ながらの申し出があったが、僕も簡単にそれを解消するわけにはいかない。

「アラン先生から許可が出たら解消します。・・・それまでは、ごめんなさい」

「そんなぁ〜!」

 僕は責任転嫁し、上手くフランの申し出を回避する。しかし結局、アランにもそれを却下されたフランは毎日のように、僕から差し入られた魔力回復のポーションを飲み干しているようである・・・ごめんなさい、フラン先生。

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