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Blackliszt

95 新しい魔法の形

 僕は今、昔カリナ姉さんと来た桜の木がある湖畔で、この前ルキウスから得た新情報を元にある魔法の実験をしていた。

「よし! 魔力線が固定できる!それに勝手に混ざったりもしない!!・・・あっ、でもこれって魔法を介して作り出した線だから、魔法線?」

 そして成功した嬉しさについ、一人大きな声で叫んでしまう。

「いいや、めんど臭いしひっくるめて魔線で。とりあえず発動してみよう」

 僕はその魔線で描いた魔法陣に魔力を流し込む。

「やった!スチームが出た!」

 そこから出てきたのは複合魔法のスチーム。つまりは水と火属性の合成により作り出した水蒸気である。

 魔法陣は魔法を文字や図形として捉え保存する分野。僕は遂に、この分野で長年難題とされてきた、魔石粉を使わない複合魔法陣の作図にこぎつけた。

 そしてこれから少し、僕が実現させた複合魔法陣について説明しよう。

 そもそもなぜ、魔法陣という技術が魔法が存在する世界で必要とされているのか、それにはまず、恒常魔法と即興魔法について説明しなければならない。恒常魔法とは、簡単にいえば誰にでも使えるように確立した魔法である。また即興魔法、いわゆるオリジナル魔法とも呼ばれるものであるが、これは術者が直接干渉して生み出す魔法のことである。
 恒常魔法には特徴があり、一部ファイアやウォーターのような基礎魔法を除く恒常魔法には、魔力線で描いた魔法陣が伴う。これは個人の使う即興魔法を陣として確立することで成り立っており、例えばファイアボールの使えない火属性所持者が恒常魔法化(魔法陣化)したファイアボールの陣を魔力で描くことができれば、陣が魔法制御を勝手に行ってくれるため、その者でも即興魔法同様、ファイアボールを使うことができるものである。属性の所持、および魔法陣化の条件を満たせば、即興魔法を誰でも使えるというのが恒常魔法の理念だ。だから魔法陣はスキルとしてスキル欄に現れ、魔法陣化という称号じみたスキルまでもそこに存在すると考えられているとかいないとか・・・。

 一方、即興魔法に分類される複合魔法。この複合魔法は魔石粉を使うことでしか陣を形成することができなかった。その理由については後に語るが、それでもやはり、このようにパターン化された恒常魔法は、まさに個別における魔法格差を緩和する技術であり、更に魔力を通すだけで発動できる魔法陣は画期的な代物なのだ。

 では次に、なぜ魔石粉を使用しなければ複合魔法陣を描くことができなかったのかについて。極論、単属性の魔法ならば煤で描いた陣でも魔法の発動に至ることができるのだが、複合の魔法陣を描く際には魔石を砕いた粉を用いて陣を描く必要がある。これは陣という限られた空間で表現することができる現象の複雑性が関係しており、複合魔法ともなればそれが一気に複雑化するため、簡単なスチームの魔法陣でも直径10mほどの大きな陣が必要となり、そのため陣を縮小化するのに用いられた代用策として魔石粉が用いられたという訳だ。
 また、単体属性の魔法陣ならばその属性に変換させた魔力を使い魔力線を描くことで陣を完成させることができるのに対し、複合の魔法陣においては、属性変換した魔力同士を掛け合わせて陣を描こうものなら、異なる属性の魔力同士がどうしても反発してしまい、線が歪んだり霧散してしまう。
 更に、僕たちの生み出す魔力とは即ち、無属性という属性を持つ魔力である。これは魔法陣の授業の折、ケイトが話していたことなのだが、昔研究に勤しむケイトがふと、無属性の魔力線で描いた陣を描いた後に一気に外で属性変換させてみれば複属性の魔法陣が魔石粉なしで発動できるのではないかと実験してみたらしい。しかし、そもそも体外での複属性変換自体が困難を極め、陣の一部しか変換ができなかったそうだ。結果、魔法陣は暴発。くれぐれも試さないようにと当時多額の賠償金を払うこととなった彼女が涙ながらに語っていた姿が今でも鮮明に蘇ってくる。

 そして属性を混ぜ合わせた陣を作る、それにはかなりの計算とパターンの検証が必要だそうで、多くの試行が伴う作業なのだ。
 例えば、魔石粉を使った複合魔法陣ならば、Aという属性とBという属性の混じった複合魔法の陣を作り出そうとすると、Aという属性陣の型をベースに、Bの属性を持つ魔石を粉にしたものを使用して陣を描き上げる。すると、ベースとなったAという属性と、使用したBの魔石の粉の分量の具合によって、合成された複合魔法が飛び出すといった具合だ。
 しかしこれはあくまでも簡単に説明すればの話、実際はAの魔石粉も使用したりBの属性陣の型も織り交ぜたりと複雑だ。それに、魔石粉は一度使用すると気化し消滅してしまう。なんでも魔石粉は、魔力を伝達する媒介としては機能するが、欠片の容量(キャパ)がそれぞれ小さすぎるために、魔力を十分に受容するには至らず、結果魔法が発動する過程で壊れ蒸発してしまうらしい。
 逆にその脆い特性のおかげで、魔力が混ざり合って陣として機能しているらしいのだが、同時に一度きりの仕様であるために粉量と陣の形の決定には慎重な作業が必須、大量の魔石粉を必要とするために莫大な投資が必要という説明を、ケイトが熱く語っていたことも昨日のことのように覚えている。

 だが、公爵城を初めて訪問したあの日、スクールでルキウスに拘束される前に僕は彼からあるヒントを得ていた。それは「制御下で固定された魔法は一定の塑性を持つ」ということ。昔、ルキウスもその性質を使いダンジョンボスを乱獲していたようだが、実は魔法陣には魔力を流すだけで発動する陣と、魔力を流した後それを一度しっかり留めなければ発動に至らない陣の二つがある。前者はダイレクト型(タイプ)と呼ばれ連続して陣を使うことに長けているのに対し、後者は直ぐに陣を発動できる状態で待機し、自分の好きなタイミングで魔法を発動できるスリープ型と言われている。
 また、スリープ型の魔法陣に魔力が流れスリープ状態にある時、陣の性質の半分は魔法のそれに置き換わる。結果、魔力・魔法干渉のみでしかその陣を破壊することができなくなり、もちろんルキウスの使っていた陣はスリープ型、あくまで単属性の魔法陣に時間まで魔力循環させる陣を構築・組み込むことで制御、一定回数魔力が回ると循環がを止まり、陣が発動するという時限感知式だったそうだ。

 今考えると、魔力が循環するスピードと回数を時間に換算し計算、そんなクロック陣を魔法陣に組み込んだ彼も十分にすごいのだが、それは魔法陣に対する理解のない冒険者への嫌がらせだとしか取れない。だって彼は家名もちの貴族、お金には困っていなかっただろうし、今もノーフォークに彼を誘ったブラームスからそれなりの報酬をもらっているはずだ。だから態々陣を塑性化させ、物理的な干渉を避ける必要があったのかどうかは甚だ疑問である。

 まあそれはさておき、僕がどう魔法の塑性を複属性の魔法陣に応用したかといえば理屈は簡単。それは単属性の魔法陣を作る際に使う魔力線を、魔法として発現させて陣を描いたのだ。
 魔力線はそのまま、または体内で属性変換した魔力を放出して形成する線。これでは先ほども触れたように、魔法陣を描けば別属性同士の魔力線が反発しあい、最悪霧散する。
 しかしその線を、塑性を持つ魔法で作ってしまえば万事解決ではなかろうか。もっとわかりやすくいえば、例えば先ほどのスチームの魔法ならば、魔法により発現した火と水で線を作り陣を描くようなもの。僕の考えた《魔線》はそれらの現象・物質を限りなく無害に近づけコントロールすることで陣を描く技術。

 正直、魔法陣を作り上げてローンチしてしまうカスタマイズがある僕にはメリットが少ないし、他の行使者においても描きたい陣に組み込む属性を持っている必要があるが、それでもこれまで魔石粉なしで描けなかった複合魔法陣を己の魔力のみで描ける可能性が広がった。これは十分に進歩した技術だ。

 しかしこの手法、ケイトにだけは絶対教えられない。だって・・・

「魔力使い果たすまでひたすら研究しては力尽き、回復してはまた研究・・・。やりそう」

 もしケイトにこの手法を教えれば、ご飯を食べることも忘れて研究に熱中、魔力切れで倒れては復活を繰り返し、しまいには寝ることまで忘れて研究に没頭しそうだ。しかし──

「待てよ・・・今考えてみるとあの魔法って光を霧に投影することで姿を消してるんだよな・・・だったら」

 それは二年前、僕が森を半壊させた日にケイトの見せた《水囲い(イシェケ)の姿鏡》のことであった。つい複合魔法陣ということで思い出したが、あれは陣の刻まれた水の魔石に光の属性魔力を流すことで実現していた陣だとケイトが後で教えてくれた。しかしよく考えてみると、あれは細かい水滴を空中に発生させ、光を投影することで姿を隠していたはずだ。つまり──

「ケイト先生は立体板の仕組みに迫ってる?・・・それとももう知ってるんじゃ・・・」

 僕はふと、ケイトの恐ろしさに気づく。だがあの魔法はその場から動けないデメリットがあった。つまり彼女はあくまで変数を入力して固定する命令式までは完成させたが、その変数を常に変化させ、処理する魔法式をまだ完成させることができていないと推測できる。

「まあ、常時数値を変化させる変数式が組み込めていないなら気づいてないか・・・これだったら教えても・・・」

 そして再び、日頃お世話になっている彼女に、魔線の代わりにその処理式なら教えても良いかと一考するが──

「・・・ダメだ。そうしたらもっと実験という名の迷惑行為の歯止めが効かなくなる・・・」

 なぜだろう。彼女に新しい発見を教えようとするたびに、ネガティブな結果しか想像できない。

「とりあえず、魔線のことも含めてお土産の考えを纏めなきゃ・・・ビデオメッセージでも作れれば楽なんだけど、カスタマイズに相談してみよう。あっ、魔力透析の案も忘れずに・・・」

 そうして思案に一段落つけた僕は、カスタマイズのメモ機能に考えを保存しておくべく頭の中を整理する。厳密にいえばメモというより新プロジェクト形式での保存になるのだが、まあそれは置いておこう。また、リンシアを最初診察した時に思いついた魔力の透析。・・・あれも今後研究していて損はないかもしれないため、考えを一緒に保存だ。

「よし、それじゃあ《カスタマイズ》」

 そして僕はカスタマイズを開き──

「・・・へっ?」

 間抜けな声を漏らす。その理由が──

『こんにちは、マスター』

 開いたカスタマイズボードの中心、いつもサポートAIが受け答えしてくれているウィンドウにその文字列があったからだ。

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