アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

93 というわけにはいかないよね?

「リアムちゃん。そろそろアイスクリームの入った魔法箱を出してくれる〜?」

「はい!・・・どうぞ!」

「ありがとう〜!本当に助かるわ〜!」

 城の中、他の商家や貴族家に挨拶に行ったヴィンセント・エリシアと別れ、僕は今、エクレアとテーゼ商会のブースで後の献上品の用意をしていた。そして僕たちの横では他のテーゼ商会の人たちが商品をせっせ仕込み並べている。・・・どうやら今回のパーティーとその献上品。蓋を開けてみれば、その内容は、各商会が商品をアピールする品評会も兼ねていたようだ。
 
「ついでに器とスプーンも出しちゃいますか?」

「そうね〜・・お願〜い」

 おっとりとした声色で僕の提案を聞き入れるエクレアであったが、その手ではバニラ味に付け合わせる上ミントを素早く正確にちぎっていた。

「ミント終わり〜!・・・次はイチゴのカットね・・・」

 そしてミントの準備を終えたエクレアは、次にフルーツのカットに入る。迷いなく次々にそれらをカットするその姿は、まさに職人といった感じだ。

「リアムちゃ〜ん」

「は〜い?」

「添える果物のカットも終わったし、そろそろ身だしなみを整え直しましょうか〜?」

「そうですね。では一先ずお疲れ様でした」

「ええ〜、お手伝いありがとう」

 漸く、一段落ついた。そしてアイスクリームの準備を終えた僕はエクレアに促され、エプロンを脱ぎ、鏡のある控え室へと向かって本番に備える。

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「皆様、本日は我が主人、ブラームス・テラ・ノーフォークが主催の『ノーフォーク・経済交流会』にご参加いただき誠にありがとうございます。私はブラームス様から本日の司会進行役を賜りました、執事長のセバスでございます。よろしくお願い申し上げます」

 それから30分が経った頃、いよいよノーフォークを代表する商家が集まったパーティーが始まる。

「では、早速ではありますが、主催者(ホスト)ブラームス・テラ・ノーフォークより皆様にご挨拶があります。どうぞ皆様拍手でお迎えください」

 セバスの合図により、一旦閉じられていた大広間の扉が開く。そしてその入り口からはブラームスと綺麗な女性が並び入場し、その後ろに続いて次期領主である長男のパトリック、長女であるミリアが会場に入ってきた。

 会場に入場した公爵一家は盛大な拍手で迎えられ、円を描くように並ぶゲストの中央へと向かう。そしてブラームスがその中央に立つと、ブラームス以外の一行が一歩後ろに控える。

「まずは今夜、私の呼びかけに応じ会に参じてくれた皆に感謝しよう。ありがとう」

 ブラームスの言葉とともに再び鳴り出す拍手。それをブラームスは数秒後に手で制し、話を続ける。

「そして突然ではあるのだが、私から二つ、皆に残念な知らせと良い知らせがある。心して聞いてほしい」

 すると突然、良い知らせと悪い知らせがあるというブラームス。

 ブラームスの言葉に会場全体に動揺が走る。僕もこんなめでたい交流会で悪い知らせとはなんだろうかとふと首を傾げる。

「まずは残念な知らせからだ。今回、特別ゲストとして事前に知らせてあったソフィア第一王女が、他国からの要請によりこのパーティーに参加することができなくなった」

『・・・何それ。王族が来るなんて聞いてない・・・』

 ブラームスの言葉に会場が一層どよめく中、僕は一人、違った意味で動揺していた。

「・・・あのピッグさん。僕、第一王女が来るなんて聞いてませんよ?」

 直様、出来るだけ声を抑えて隣にいたピッグに確認をとる。すると── 

「えっ・・・」

「えっ・・・」

 それに小さな驚きを見せたピッグに、僕も思わず驚き返してしまった。

「・・・」「・・・」

 二人の間に漂う微妙な空気と間。

「す・・・すみません若!・・・若は公爵様から直接招待いただいたので、てっきり知っているものとばかり・・・」

「い、いや。今回はあくまでもテーゼ商会の招待枠を増やしてもらって参加していますから、僕はあなたの付き添いです」

「そ、そうでした。・・・私としたことが失念しておりました。申し訳ない」

 周りとは違った驚きに包まれた僕たちは二人、妙に嫌な汗を掻いていた。因みにエクレアには依頼翌日、ピッグからその説明があったようだ。その時の僕はパーティーに参加できるかまだ不透明であったし、ピッグも説明を忘れていたらしい。

「静粛に・・・すまないな。どうしても外せない事案が発生したのだ・・・しかし ──」

 動揺する会場・・・もとい僕たちの場合は少し違ったが、ブラームスが全体に鎮静を呼びかける。

「しかし、そんなお忙しいソフィア王女の代わりに、今夜は素晴らしい方が駆けつけてくださった」

 するとブラームスが、そんな前置きとともに自分らが入場してきた扉の方を指すと──

「紹介しよう。現アウストラリア国王、バルド・テラ・アウストラリスが第3夫人、 シータ・テラ・アウストラリスだ」

 再びその扉が開き、一人の美しい女性が入場してきた。そして彼女はブラームスと入れ替わり中央に立つと、面食らうゲスト達を他所に自己紹介を始める。

「今晩わ皆様。今夜はこの国の王、バルド・テラ・アウストラリス並びに、急用で来られなくなってしまったソフィア第一王女に代わりましてご挨拶させていただきます。シータ・テラ・アウストラリスです。本日はブラームス様が治められるノーフォーク、並びにこの国を支えてくださる商家の皆様が集まるこの場に参加できたこと、大変嬉しく思います。今夜はどうぞ、私めもお仲間に入れていただき、魔道具や工芸品、お料理の数々を堪能させて頂きたいと存じます。よろしくお願いしますね」

 十と数秒の自己紹介が終わった後、呼吸や服が擦れる音のみが残る会場。

「あぁー皆の驚きはわかるが、現実に戻ってきて欲しい。・・・本日のゲスト シータ・テラ・アウストラリスだ!!」

 そんな会場の雰囲気に耐えかねてか、シータの横に立っていたブラームスが静寂を突き破るように無理やり進行する。すると── 

「「「わぁ〜ッ!!!」」」

 っと、次の瞬間にはゲスト達の拍手・歓声が会場全体を覆い尽くす。ブラームスの言葉を合図に、一瞬で会場のボルテージが最高潮まで上がった。

「では、かなり短い挨拶となったが、皆も早くシータ殿と交流をとりたいであろう。よって私からの挨拶は以上とし、第7回『ノーフォーク・経済交流会』をここに開催する!!」

 そして力強いブラームスの宣言とともに、会場は喧騒に包まれ、皆が忙しく動き始めた。

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 しかし一人、その一大事に盛り上がりを見せられない者がいた。

『あのおっさん・・・また計ったな・・・』

 それはもちろん、王族が会に参加することを知らなかった僕である。

 ブラームスとの付き合いを持ち始めたのはつい最近、ミリアの家庭教師の件を引き受けた時からであるが、その繋がりは密かに二年前からあった。そんな彼ならそれまでの情報と数回面会した程度の情報から擦り合わせ、ある程度は僕の性格も把握できているはずだ。

『あぁ〜・・・あのしたり顔・・・腹立たしい』

 きっと彼は僕が王族が来ることを知らないことを分かっていたのだろう。でなければ僕は恐らく、今回のパーティーへの出席は見送っていたはずだ。

 目の前を通り過ぎる忙しない雑踏の隙間からふと覗いた彼の顔は、実に満足げに僕の方を見て笑っていた。


▽      ▽      ▽      ▽

「今夜は、我が商会の取り扱う加工肉の数々、そして一般区で今話題のケーキ屋・エクレールに新しいお菓子の開発を依頼し、店主のエクレア殿、そして今回の献上品である新商品を考案されたリアム殿にご同行いただきご用意いたしました。本日はどうぞ、我がテーゼ商会自慢の一品と、未来の商会が開拓するアイスクリームを、存分にご賞味ください」

 僕たちのブースの前にやってきた一行に、店主であるピッグが頭を下げ、献上品の説明を行う。

「テーゼ商会の噂は最近よく耳にする。あえて魔道具の使用を極力排除し、商品を加工・販売。その分生まれた人件費を商品にブランドという形で反映させ、今の魔道具を用いる加工が主流の時代にあえて逆行した興味深い商会であると認知しているが?」

「はい、そこまで公爵閣下にご存知いただけているとは、恐悦至極にございます」

「丁寧に人の目で管理された安全な食品の流通を担い、更には新たな雇用も産むとは実に素晴らしいビジネス形態だ。今後とも是非、我が領地の発展に協力してくれ」

「もったいなきお言葉、深く我が身に刻み精進して参ります」

 そして再び、ブラームスの言葉に畏まり頭を下げるピッグ。

「味は3種類、バニラ、ミント、ストロベリーになりまーす。また本日は味の種類に合わせてシングル、ダブル、トリプルからお楽しみいただけますので、どうぞお好きな味とタイプをお申し付けくださ〜い」

 そんな中、僕は一人棒読み気味に注文を取る。それはブラームスに対する抗議から生まれたほんの出来心からだった。しかし──

「他に子供も見当たらないし・・・そう!あなたがリアムくんね?」

「・・・はい? ・・・いかにも私がリアムですが・・・」

 それを全く意に介さず、先ほどブラームスの隣で共に会場に入場していた面識のない女性が、僕の名を尋ねる。

「やっぱり・・・! 夫と娘がいつもお世話になっています。私はマリア・テラ・ノーフォークです。よろしくお願いしますね」

 そしてマリアと名乗った女性はそう自己紹介すると、頭を下げて僕に挨拶する。

「い、いえこちらこそ! ブラームス様並びにミリア様には私のような一介の平民にお目をかけていただき、いつも感謝しています!」

 そして僕も、急激にこみ上げてきた焦りに押され早口で自己紹介すると、机に打つける勢いで、マリア以上に深々と頭を下げる。

 ざわざわと動揺が会場内に伝播していく。それもそのはず、貴族の、それも公爵夫人であるマリアが平民のなんの変哲も無い小さな子供に頭を下げているのだから。しかし ──  

『ああ〜・・・最悪だ。また嵌められた』

 僕は更に頭を下げながら、それだけに収まらない厄介な災難の種を生み出してしまったことに気づく。

「「クスクス・・・」」

 それは僕の頭頂の向きから少しだけズレた方向から聞こえてきた。ふとその声に少し顔を上げてみると、そこには二人、してやったりとニヤニヤと笑うブラームスとミリアの顔があった。その顔はまるで「その言葉、しかとこの耳で聞いたからな。忘れるなよ」とでも言っているかのようだった。
 
「あらあら、お顔が真っ赤よ? 大丈夫?」

 すると、そんなブラームスとミリアの態度にプルプルと震えていた僕をマリアが心配する。因みにこの場で一人、静かに頭を抱えてため息を吐く者が目に入った。それはパッキーことパトリック・テラ・ノーフォーク。・・・その様子から彼からは僕と同じ匂いが漂ってきて、どこか他人のように思えない。

「・・・大丈夫です。マリア様のようなお綺麗な女性にお声がけいただき、少し緊張していただけですから」

 どうやらマリアは、今の裏状況をちゃんと把握していないらしい。僕はなんとか、パトリックからもらった不思議なテンションで平静を保った。
 
「まあ、リアムくんったら・・・」

 すると今度は、僕の言葉にマリアが頬を赤く染めて照れ始めた。きっと彼女は天然さんだ。

「あら、この子は将来大変な女泣かせになりそうですわね」

 するともう一人、今日まで面識のなかった女性から会話のお声掛けがかかる。

「・・・シータ様、でよろしいでしょうか?」

「ええ、シータ・テラ・アウストラリスです。よろしくね、リアムさん」

「名前を覚えていただき光栄です。よろしくお願いします」

「・・・本当にまだ可愛らしいのにしっかりしてる。ねえブラームス様、この子、王都まで連れ帰っちゃダメかしら?」

 突然、さらっと恐ろしいことを口にするシータ。しかし──

「叔母さま! リアムは私のだからダメ!!」

 突如、ミリアから上がる抗議の声。そして周りのざわつきはそれにより更に大きくなる。

「あの・・・別にミリア様のものになった覚えは・・・」

「リアムは私に感謝してるんでしょ? だからダメ!」

「あらあら・・・まさかこんなに反対されるなんてね、シータ?」

「ごめんねミリアちゃん。私のはただのちょっとした悪戯心からだから、心配しなくて大丈夫よ?」

「はっはっは・・・義姉上、彼はシエスタと同い年。きっといい友人になりましょう」

 こっちが喋ればあっちで角が立つ。その状況は正にカオスだった。

「おい、娘に手を出したら許さんからな・・・」

「ご心配なく。万が一にも平民の僕にはあり得ないことですよ」

「ん? 今日はやけに辛辣だな?」

 そしてそれから話しこみ始めてしまった女性陣の隙を見計らい、早くも僕をミリアから遠ざけたいブラームスから要らぬダメ出しが入る。

「いえ、王族の方がいらっしゃるとは先ほどまで存じ上げていなかったもので」

「ふむ、厳密に言えば私も王族の家系。現国王の弟に当たるのだがね?」

「・・・」「・・・」

 本日2回目の沈黙。きっと僕の顔には今、これまでに無いほど矛盾した笑顔がピシッと張り付いていたことだろう。

『そうだったぁぁぁ! ああなんで忘れてたんだ!!』

 そして僕はその内心で、救いようのない後悔を叫ぶのだった。

「二人して何をコソコソ話してるの?」

「「いやなんでも」」

 すると、どうやらこちらの様子に気づいたマリアから、話に入れて欲しいと申し立てが入る。

「あらあら、二人して秘密のお話ですか?」

 そしてそれに続くようにシータからも申し立てが入るが ──

「もうパパったら・・・」

「こらこらミリア、素が出ているぞ?」

「あっ・・・コホン、もうお父様ったら・・・」

 ふと溢れてしまったミリアの言葉を咎めるブラームス。だがその顔からは、咎めるとは明らかにかけ離れた、如何しようも無い笑みが漏れていた。しかし──

「リアムはどうしても私のものなんだから、突き放すようなことを言うのは止めてね!」

「だ・・・だがミリア、私はただお前が心配で・・・」

 それも束の間、ミリアの低い位置からの強烈なセンテンスアッパーに狼狽える情けないブラームス。そして今度は『いいぞミリア!!』と内心で彼女を応援する僕であったが ──

「あのミリア様、僕そこまで出世する気はありませんから」

 こういう公の場で要らぬ誤解を産まぬため、ここはきちんと自分の意思を伝えておいた方がいいだろう。まあ、こういう会話が繰り広げられている時点でアウトなのだが、こればっかりは回避の仕様がなかった。

「えっ・・・?」

 すると、それを聞いたミリアから素っ頓狂な声が上がったかと思うと──

「ううっ・・・グスッ・・・」

 そのまま紛らわしい声を漏らしながら俯いてしまった。

「なっ! 我が愛しの娘、ミリアからのデートの誘いを貴様から断るとは何事か! ええい貴様そこに直れ!」

 そしてまた、的外れな妄言を吐く大人が一人。
 一体いつそこまで話が飛躍したと言うのか。もうどないせいっちゅうねん・・・である。しかし──

「父上、そろそろ試食しないと次に行く時間が・・・」

「むッ? そうか?・・・うーむ」

 それを見かねてか、次期領主候補であるパトリックからブラームスに忠告が入る。それは僕にとっては助け舟・・・この時僕は、未来のノーフォークの安泰を悟った。
 
「今回は、将来期待のテーゼ商会と息子の面目を立てて許すとしよう。良かったなリアム」

 パトリックからの進言と、今回はテーゼ商会との交流が第一であることを盾に、話を有耶無耶にし始めたブラームス。因みにミリアは既にもうケロッとしていた。

「と言うことで、私はアイスクリーム全種類を貰おう」

「あっ、だったら私も全部・・・」

「ミリアにミントはまだ早いだろうから、バニラとストロベリーにしときなさい?・・・私は夫と同じものを」

「私もマリアと同じで」

「以下同文だ」

 王族とは皆、こういうものなのだろうか。先ほどまで掻き回すだけかき回してカオスな状況を作っていたのに、損をしようものなら直様切り替えて利益を優先する。肝が座っているというかなんというか、迷惑千万極まりない。

「あの・・・、他の商会からの献上品と試食もあるのでは?・・・そんなに食べると後が・・・」

 僕はとりあえず、3、2種類をトリプルでくれと言う4人のお腹の具合を心配する。すると──

「貴様にアイスクリームのことを聞いてから、わ、私は違うが、他の皆は気になって仕方なかったようだ・・・」

 それを聞いたブラームスが、申し開きをする。・・・おっさんのツンデレほど見ていて、見苦しいものはない。

「だから──」

 そして──

「「「「別腹 ”だ、よ”」」」」

 最後は皆、息のあったセリフで注文を締める。

「・・・トリプル四つ内三つは全種類、一つはストロベリー2、バニラ1でお願いします」

「「「・・・・・・」」」

「あの、皆さん?」

 因みにこの後、僕の後ろに控えていたエクレアを始めとするテーゼ商会のメンバー達を再起動するのに、十秒近くかかったことは言うまでもない。

 フィクションで現実を意識しすぎるのもどうかとは思いましたが、個人的に一夫多妻が許されている国設定にしたかったので、間をとって2位以下の王の妻を夫人と表記することにしました。第一位は王妃・正妃等の呼称を使用したいと思います。今後側室や妾などの言葉を使用するかもしれませんが、今回は避けたいと思います。ご理解のほどよろしくお願いします。

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