アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

92 万事解決

 ── 週末。

「というわけで、基本はメロディーを奏でながら伴奏をつけること。その伴奏には1音から3和音や4和音みたいな和音を使ったり、調によっても基本の和音があるからそれを覚えたり、まずは指をスムーズに動かせるように慣らしていくことが大事・・・」

「やっぱり奏法はオルガンに似てるのね・・・」

「まあ同じ鍵楽器だし・・・ただそれ以外が全くの別物だから、先生達もみんな断っちゃったんだろうね」

「オルガンの安定した音に対してこっちは音の強弱も繊細。下手に弾いたら違和感さえ覚えるもの・・・」

「そうだね・・・じゃあ今日はこれで・・・」

「エェッ!? どうせなら今言った事も教えていきなさいよ!」

 今日はお終いとそそくさとピアノの蓋を閉めて出て行こうとする僕の後襟を、駄々をこねるミリアがグッと引っ張る。

「うっ・・・ごめんごめん。でも夜にあるパーティーに僕も出席しないといけないし、指の運びならまだしも、和音は譜面に起こして書いてきた方がきちんと自習できると思うから・・・今度ね!」

 一刻も早く逃れようとそれらしい言い訳・・・いや事実を述べ、ミリアの襟を掴む手の力が緩んだ隙をつき素早く抜け出す。

「ああッ! ・・・こうなったら今夜覚えてなさいよ!」

 そんな部屋を後にしようとする僕の背後から叫ぶミリアの声が耳を突き抜けるが、優先すべきことを念頭に思考をリセットして、今夜のパーティー準備のため、公爵城を後にする。

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「まさかピッグさんとヴィンセントさんがお知り合いだったとは・・・」

「ヴィンセント殿には、獣人である私にも分け隔てなく接していただいて・・・。起業の折にも支援していただいた上に、様々なアドバイスや口利きをしていただいたのです」

「彼は近年稀に見る才幹を持っていたからな。それに魔道具を取り扱っている我が家に対し、魔道を軸としない雑貨や食品を取り扱う彼の店に出資しない理由はどこにもなかった」

 僕は今、揺れる馬車の中、ヴィンセントとエリシア、そしてテーゼ商会のピッグと共に会場である公爵城へと向かっていた。因みにエクレアは、他のテーゼ商会の人たちと共にもう一つの馬車に乗っている。

「それにしても、まさかエリシア嬢と若が婚約を結ばれるとは、ご祝福申し上げます」

「「ありがとうございます」」

 ピッグの祝福に隣に座るエリシアとともに礼を言う。

「未来のブラッドフォードを支えるエリシア嬢と、すでにその才能の一角を開花された新進気鋭の発明家である若が結ばれればブラッドフォード家も安泰ですな」

「いや、その件で彼を縛るつもりはない。・・・彼には婚約者、いや、家族の枠を既に超えた多大な恩がある。妻も彼のおかげで回復に向かっているし、リアム君の家業への参加は保留だ。彼にも彼の道があるだろう・・・もちろん、継ぎたくなった時はいつでも言ってくれて構わないぞ?」

「ははは・・・考えときます」

 ヴィンセントの割と本気の冗談を、愛想笑いでやり過ごす。

「ところでリアム君。アイスクリームの商品化に付随して冷凍魔法陣と魔法箱の特許であるが、申請を出しておいたぞ」

「お手数おかけしました」

「いや、気にすることはない。あの魔法箱と魔法陣は素晴らしいものだ・・・というかあれはこれからの国の流通や魔道商界を大きく変える一品だぞ? 君の名義とはいえ、本当にウチから提出しても良かったのか?」

「そうですね・・・。若、 ブラド商会にならまだしもアイスクリームの出張販売をウチに任せていただいて本当によろしかったのですか?」

「構いませんよ。・・・どうせ僕がアイデアを持っていても、それを生産して販売するルートも労力も資金もありませんから。・・・それに」

「特許料として一部僕に利益を還元してもらえるんでしょ? それこそ願ったり叶ったりですよ」

「正にお互いに利益があるという訳ですな」

「ええ、Win-Winの関係というやつです」

「ウィンウィン? ・・・それは一体どういう意味かね?」

「ああ、それは・・・」

 前世から引用してきた言葉に突っ込まれる。この感覚も久しぶりな気がする。

「ふむ、それは良い言葉だ。是非積極的に使わせてもらおう」

 僕からその言葉の成り立ちと意味を聞いたヴィンセントがやたら嬉しそうに呟く。・・・そして僕はまさか一年後、この言葉がビジネス用語として、または冗談めかしく商業界で使われる用語として浸透してしまうとは夢にも思ってもいなかった。

「おや、着いた様ですな・・・ではお先にどうぞ」

 どうやら城に馬車が到着した様だ。それに気づいたピッグが、この中で一番身分の高いヴィンセントに出口を譲る。

「うむ、それでは先に行こう・・・リアム君は私の後に出たまえ」

 そうしてピッグに促されたヴィンセントは扉の前に立つと、そう言い残して外に出て行った。

「よいしょ・・・じゃあ先に失礼しますね」

 僕はヴィンセントの言葉に首を傾げながらも、外に出るべく出口の前に立つ。きっとこの後に続くのは次に年長のピッグか、娘のエリシアであろうから。だが ──

「リアム君、外に出たら直ぐに扉の横で待っているといいですよ」

 今度はピッグからの謎のアドバイス。

「・・・はい?」

 僕は再び、そんな礼儀作法があるのかと突っ込みたくなる気持ちを抑えながら馬車を降りる。

「ここまで変わるのか ──」

 思わず感嘆の声が漏れる。馬車から降りると目の前に広がっていたのは夜の公爵城。確認できる限り全ての部屋に光が灯っており、その外観はまた光の魔道具によって幻想的に照らし出されていた。いつも知る城とは違った雰囲気を醸し出している。

「おっと・・・そういえば」

 いつもと違った荘厳な城に見とれながらも、僕は先ほどのピッグのアドバイスを思い出して馬車の扉左横に立つ。

「リアム ──」

 すると、馬車に背を向けポツンと出口横に立つ僕の名を呼ぶ声が聞こえた。そして、僕がその声に振り向くと──

「エリシア・・・?」

 そこには、紅いドレスを身に纏ったエリシアがいた。

「・・・・・・」

 僕は一瞬、言葉を失い固まってしまう。

 その金色の髪は城からの光に上品に照らされ、こちらを見つめる真紅の瞳はより一層深く僕を引き込む。

 スクールや友人の前では明るく、少しおっちょこちょいであるがムードメーカー。しかし実は寂しがりで甘えん坊、人と魔族の血を引いて種族癖という因縁とついこの間まで一人戦っていた孤独な彼女。

 まだ8歳という幼さではあるが、そんな彼女の背景を知っているからこそ、その瞳と同じ色の大人っぽいドレスがまた、より一女を物語り引き立たせていた。

「リアム?」

 不安そうな声色で、再びエリシアが僕の名を呼ぶ。・・・いけない。エスコートを待つ女性を不安にさせてしまうとは、男として恥ずかしい。

 僕は目を瞑って一礼する。そして同時にそれまで抱いていたパーティーへの不安や緊張感、雑念をリセットし ──

「お手をどうぞ・・・」

 彼女に貰った最高の笑顔で、エリシアに右手を差し出す。すると──

「・・・はい」

 エリシアも少し恥じらい含んだ笑顔で左手を差し出すと僕の手をとり、最高の返事で答えてくれる。

 大きく口を開いた城の玄関へと続く光と影の道。僕たちは二人、手をとり合ってその夜の楽しい一時へと足を踏み出す。
 

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