アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

91 これで雲散霧消の

「ヴィンス・・・昨日も言ったけれど、リアム君には鑑定で私の症状を見てもらったし、私の病状のことも話したわ」

「リンシア・・・。彼の鑑定のレベルはⅢだ」

「・・・それは」

「鑑定は対象の名前や種族、状態といった生体・物質・魔法情報を観察し解析できるスキルであり、レベルは使用者の知力に依存。使用者の欲しい一定範囲内の情報を、アリスのワールドアーカイブと接続して情報を落とすことで間接的かつ段階的にそれを読み解くことのできる特殊なスキル・・・」

 ヴィンセントが言うには、どうやら鑑定の仕組みは知の書に近いもので、世界に存在するというワールドアーカイブに自動的に接続することで発動していたらしい。しかしそれを一体どうやって観測したのかは・・・謎だ。

「前に依頼した鑑定持ちの医者のスキルレベルはⅡ。リアム君の方がレベルが高く、可能性は十分にある」

「でもヴィンセントさん。僕は昨日もリンシアさんを鑑定しましたし、その時にわかったのはリンシアさんが魔力変異に侵されているということだけでした」

 僕はヴィンセントに待ったをかける。そう、リンシアのいった通り、僕は昨日療養所を訪ねた時、鑑定で彼女の症状を診ていたからだ。

「君が先日行った鑑定はあくまでもリンシア・ブラットフォードという一人の人間を鑑定したに過ぎない。・・・私は君に、リンシアの魔力契約の印を鑑定してほしいのだよ」

 この時、ヴィンセントの放った言葉に僕はイマイチ要領を得なることができなかったが ──

「リンシアの魔力契約の印にはエリシアを出産してからというもの、ヒビのような亀裂が刻まれている・・・。鑑定はあくまでも対象を限定して生体情報や物質、魔法情報を断定する・・・であれば」

「・・・! その変化のあった魔力契約の印自体を鑑定すれば違う結果が得られるかもしれないと?」

「・・・そういうことだ」

 ヴィンセントの付け加えた情報により、ようやく彼が何をしたいのか理解することができた。しかし ──

「でも・・・であればなおさら疑問なんですが・・・、僕と同等の知力で鑑定を持つ方ならば他にいたのでは・・・?」

 僕は当然のごとく込み上げてきた疑問を口にする。すると ──

「・・・ハァ・・・いや、すまない。少し嫌なことを思い出したのでな・・・」

 ヴィンセントは僕の質問に一度大きなため息をつき、すぐ様謝罪を入れて切り替える。

「確かにいるにはいたのだが、私の探すことができたのはみな、高等教育を受けた貴族ばかりでな・・・。私はあくまでも一代貴族の子、父が同伴してくれたのならばまだしも、私からそれを彼らに懇願するとなると、彼らは大きな代償を求めてきた」

 例えばそれはブラットフォードの派閥への参加やいくつかの商売権の譲渡、果てにはエリシアを妾にという条件まであったらしい。ヴィンセントはあくまでも現在放浪中と言う父親の代理。前者ではそこまでの裁量は持ち合わせておらず、後者の条件に至っては、それこそこれまでエリシアにリンシアの不調の理由を隠し通し、リスクを負ってまで産んだ我が子を妾になんて彼らの意思に反する条件であっただろう。

「あとこの街では有名な鑑定持ちであるブラームス様も然りだな。彼のお方に依頼することは貴族でない私にとって難しいことであるし、私が一貴族の息子であるという点が、より状況をややこしくしている。・・・きっと彼の方ならば快く引き受けてくださっただろうが、立場を考えればこそ、己が身分を弁えねばならなかった」

 それは僕にとって今日一番の衝撃的な新事実であった。

『嘘・・・。あのおじさん鑑定持ち? ・・・ということは転生者とステータスの情報ならまだしも、他の今隠蔽しているスキルや称号を全部見られた? ・・・それってヤバくないか?』

 なぜ僕がそのような結論に至ったか。それは先日『入学試験の次の日、ブラームスが僕と接触していた』という情報を当の本人から聞いていたからだ。あの時、僕はまだ隠蔽のスキルを試しておらず、なんらステータスにマスクをかけていなかった。あの場では『直感的に』なんて言葉がそれらしく聞こえたものだが、もし、ブラームスが直感的にではなく、その時得た情報に基づき僕と契約を交わしたというなら、尚更合点もいく。

「これからリンシアには私との魔力契約の印をだしてもらう。・・・そしてリアム君には、速やかにその印を鑑定・・・できれば分析までしてほしい」

「・・・わかりました・・・いいですよ」

 頭の中で現状とは関係のない一抹の不安を抱えていた僕であったが、ヴィンセントの願いを断る理由もなく、うなだれながら了承する。

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「・・・準備はいいかな? 二人とも」

「ええ」「はい」

 場所をリンシアの療養所へと移した僕たちは、ヴィンセントの言葉に頷く。

「それでは・・・始め!」

 そして、ヴィンセントの言葉を合図に、リンシアが今では半分もない自分の魔力をかき集め、魔力契約の印へとそれを流す。すると ──

── ポゥ・・・っと、彼女の左手薬指に、ヒビが入った魔力契約印が浮かび上がる。

「でた!・・・リアム君!」

「鑑定!」

 それを確認したヴィンセントに促され、僕は鑑定の呪文を唱える。
 
「魔力契約:ヴィンセント《損傷:魔力変換の封印損傷及び制御不可》・・・」

 鑑定を行うと、対象の整理された情報が頭の中に入ってきて、一定範囲内に視覚情報としてポップアップが浮かばせてみることもできる。
 そして僕は鑑定によって得た情報を読み上げた。すると ──

「よし!・・・いいぞ!」

 ヴィンセントが歓喜の声をあげる。

「リアム君!・・・そのまま分析もたの・・・」

 が ──

「うぅ・・・」

 途端、魔力を流すリンシアから呻き声が上がった。

「リンシア?・・・いかん中止だ! 魔力を止めなさい!」

 急いで検査の中止を告げるヴィンセント。しかし ──

「うぅ・・・止まらない。止められないわヴィンス!」

 左手に流れていくリンシアの魔力が止まらない。

「止めようとしても・・・ドンドン印に魔力が吸われていく・・・このままじゃ!」

「落ち着きなさいリンシア!今魔力回復のポーションを!!」

 それを聞いたヴィンセントは慌てて魔力回復のポーションを取り出し──

「ほら、これで君の魔力の回復量が上がったはずだ」

 リンシアに全て飲ませた。しかし──

「ヴィンス・・・私、今変な気分よ・・・」

「何・・・?」

「あのね、真っ赤な液体が・・・そう、血が欲しいって衝動が脳裏をよぎり始めて・・・」

「・・・!」

 リンシアが、まるで魔族の種族癖を思わせるかのような一言を口にした後・・・ ── 失神した。

「このままではまずい!・・・なんとかせねば・・・」

 一方で衰弱していくリンシアに対し、ヴィンセントはどうやら施せる処置術がないようだ。

「分析・・・」

 そんな絶望渦巻く中、僕は分析の呪文を唱える。

「リアム君・・・何を」

 ヴィンセントには、その行動の意味と目的を理解することができなかった。なぜなら分析は良くも悪くも事細かに対象の情報を読み取るだけのスキル。その力で魔法を分析すれば、膨大な量の数値・数式が頭の中に入ってくるだけで解析には至らないスキル。だが ──

「分析に加えて僕には自動翻訳もある・・・それに ──ッ!」

 それに ──

「カスタマイズ」

 僕にはそう、オリジナルスキルの《カスタマイズ》があった。

「分析で得た情報を言語化してインポート・・・魔力変換のフォルダは・・・あったこれだ!」

 鑑定に出ていた問題のあるそれらしいフォルダを探しあて、中身を開く。

「なるほど・・・ここは普段鍵がかかった不稼働領域なのか。鑑定にあった封印の崩壊がこの鍵の破損で、もしこれが不調の原因だとしたら・・・!」

 そして中身を一気にスキャンし、概要を AI にまとめさせると──

「封印式の崩壊度の大きいところを洗い出してピックアップ・・・自動修復で壊れた部分の再建を開始」

 そのまま無理やりピックアップをさせて自動修復まで丸投げする。

「そしてこれが終了するまでは・・・ええっとヴィンセントさん! 僕の魔眼、発動していませんか?」

 それまで、唖然と僕の一連の行動を傍観していたヴィンセントに、僕は自分の今の状態を問う。

「・・・? あ、ああ、発動はしていないが?」

「良かった・・・できればそのまま、僕の魔眼が発動していないかどうか見ていてください!」

 そして僕はヴィンセントにそう言い残すと、魔力感覚に全神経を集中させて ──

『魔力を無理やり流して絡めて・・・引っ張り出しては捨てて次・・・』

 それは毒蛇に噛まれた傷口から血を吸い出し、吐き捨てるようなイメージ。少し違うのは魔力を体内に流してそれを絡め取っていること。瀉血に近いだろうか。これは危険な行為であるが、きっと魔族の魔力より人である僕の魔力の方が大きな害はない・・・はずだ。そして──

 ・・・対象魔法式の修復完了。

 5分ほどその応急処置を繰り返していただろうか。一か八かAIに命じた自動修復がうまくいったようで、カスタマイズからの通知が脳裏に浮かぶ。

「終わった?・・・よし!早速印を修復してリブート・・・!」

 僕はすかさず、修復された魔力契約式を傷ついた印へとデプロイし、諸々リセットするために強制的に、印に流れ込む魔力を押さえつけ、再び流した。
 
「・・・止まった? ・・・止まったぞリアム君!」

 リンシアの中に、同じ魔力の暴走を感じ取っていたヴィンセントから、一先ずの落着が告げられる。しかし──

「め・・・めまいが」

 突然、急激なフラつきと眠気に襲われる。そして僕は状態異常を調べるため、自分自身に鑑定の魔法を唱える。

「鑑定・・・・・・ステータス・・・。ああ、一か八か無理やりやらせてみたけど・・・こんなに魔力を消費するなんて・・・これは参った」

 鑑定を行うと浮かんでいたのは『魔力不足』の文字と普段では考えられないほど減っていた魔力。そのままステータスも唱え、一応自分の魔力を確認してみるとなんと、残存魔力は2万3459 / 30万2100。急激な消費と緻密なコントロールの繰り返しを並行して行なっていたせいか、またもや魔力保有量が1万近く上がっていたが、しかしその残りは1割を切っていた。

 魔力不足を起こす消費割合は個人差があるが、だいたいは保有魔力の1割を切ると症状が起こると言われている。これに強くなるため、王都の騎士団ではひたすら魔力を消費し、ギリギリまで意識を保ち魔法操業に回せる魔力を増やすなんて無茶な訓練もしているそうだが、僕はもちろんそんなことはしていない。つまり ──

「ヴィンセントさん・・・、僕は少しお休みさせていただきます・・・おや・・すみ・・な・・・」

 僕はそのまま抵抗することもなく、近くのソファに倒れこむと、誘われるがままに束の間の眠りへと落ちていった。

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「目覚めたか、リアム君・・・」

 それからどれくらいの時間が経っただろうか。目覚め体を起こすと、リンシアの眠るベットの横で看病していたのであろうヴィンセントが、こちらをみて呟く。

「君のおかげで妻は救われた・・・ありがとう」

 そしてそのまま深く頭を下げ、礼を述べる。・・・どうやらさっきまでの緊急事態は夢ではなかったらしい。

「あの、ヴィンセントさん・・・。よければあなたの魔力契約印も解析させていただけませんか?」

「ん?・・・それは構わないが、君は魔力不足で倒れたのであろう?・・・大丈夫なのかね?」

「はい・・・。元々の量が多いせいか、回復速度に対して回復量も多くて・・・」

 僕は再びステータスを開き、魔力を確認する。先ほどはAIに無理をさせ相当量の魔力を消費したが、ある程度回復すれば分析してカスタマイズで情報を観察するのに必要な魔力など、僕にとっては雀の涙ほどの量だ。

「どうやらこのリンシアさんの魔力契約印はヴィンセントさんの契約印と同じもの。ヴィンセントさんの契約式に一部魔力を登録した契約者の魔力へと変換・融合する力があり、リンシアさんの契約印にも同じ式が組み込まれていたようです」

 一通り、ヴィンセントの印を解析し終わり、リンシアのものと比較した後結論をまとめ始める。
 
「しかし人と魔族では根本から魔力量が違ってくる。魔族にとってそれが一部の取るに足らない魔力でも、リンシアさんにとっては中毒を引き起こしてしまうほど重大な量の魔力となってしまう・・・だからそれを最適化するために・・・」

「人側の契約者にはその魔法式が機能しないように封印が施してあったというわけか。・・・なるほど、それなら多くの魔力が必要となる後魔眼の所有者が、契約を魔眼に組み刻み、生み出した魔族の魔力を調伏して操れることにも納得がいく」

「この封印式の解除条件は1. 魔力を一定量保有していること 2.対象の血を摂取すること ・・・みたいです。おそらくリンシアさんがエリシアを妊娠した時から不調をきたし始めたのは、お腹の中にヴィンセントさんの血を引く彼女を身ごもったため・・・」

 結果、リンシアが不調をきたした理由や、吸血種という種族が生み出した不思議な魔力契約の謎の大半をこの時読み解くことに成功した・・・が ──

「・・・ただ、一つだけ。それだと僕とエリシアが魔力契約を交わした結果、どうしてエリシアの魔力が増えてしまったのかが謎で・・・」

「ん?・・・ああ、それならばだな・・・」

 しかし直ぐに好転、どうやらヴィンセントにはその心当たりがあるようだ。

「リアム君の解析した契約情報にそれがないということはきっと契約とはまた別口なのだろう・・・。ほら、我々は魔力契約を結ぶ際、吸血を行うだろう?」

「はい」

「おそらくそれが原因ではないかな?・・・君やリンシアには魔力量の変化はなかったが、私もリンシアと魔力契約を結んだ後その量に変化があった。・・・私の場合は魔力量が減ったのだがな・・・」

「・・・なるほど」

 契約を結ぶ時に吸血することに意味があった。・・・魔族が己が種族の血から逃れるために人に近づいた代償。エリシアの場合、代償どころか魔力量がグンと跳ね上がってしまったが。

「きっとこの儀式は微妙なバランスの下に成り立っているのだろうな。・・・本当に煩わしいやら愛おしいやら」

 そうして、再びベットで眠るリンシアの方に体を戻し、布団の間から覗いていた彼女の左手を、両手で包み込むヴィンセント。

「それじゃあ、僕はこれで失礼しますね・・・」

「・・・ああ、ありがとう・・・リアム君」

 そんな扉を閉める途端にもう一度垣間見た光景は、なんとも形容しがたい人の情に溢れていた。

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 ── 時刻は夕暮れ。

 その後、一人置いてけぼりをくらっていたエリシアに事情を話し、号泣した彼女にしばらく抱きつかれて泣き疲れた彼女をバットに引き渡したりと、小一時間ほどブラットフォード家に滞在することとなった。

 ようやく家路につき、やっと帰り着いた僕は、一人、自室のベットに腰をかけてステータスを開く。

「魔力が増えたけど、まさかあんなに消費するなんて・・・」

 現在の僕の魔力はほぼ全快の状態。魔力不足で倒れていた時間が大体1時間、その後の滞在時間が1時間、そして帰宅にかかった時間が1時間ほどであるから、合計3時間ほどで約9割近くの魔力が回復した計算になる。
 
「学習型であるから、今後成長して省エネ化してくれるとは思うけど・・・」

 結果、AI が処理できる領域やできることが増え、省エネ化できた消費魔力以上に魔力を消費する事態になれば目も当てられない。

 僕はその前途多難なオリジナルスキルの運用に頭を抱え、ベットに横になる。

 天井を見上げるように仰向けになりながら、ステータスボードに指を這わせる。

「《魔眼:魔族の血胤》に《魔力契約:エリシア》・・・。本当に婚約したんだよな・・・」

 ユニークスキルに現れた新しい力と称号の欄に載る契約の証。しかし ──

「まさか浮気って人まで対象にはならないよな・・・ハハハ」

 僕はふと、同じ称号の欄にある《精霊王の寵愛》に目を止める。

『精霊と魔族ってもしかしなくても相性悪いよな・・・。そこんとこどうなんだ?』

 突然溢れ出る冷や汗。現実ばかりに目を向け、細かいところまで考慮できていなかったことに気づく。

「・・・ゴクッ」

 思わず生唾を飲む。

 震える手を何とか制しながら、人差し指の先を何とか照点と合わせて ──

「 ── うッ!」

 その文字列を強く押した瞬間、僕は思わずその恐怖から目を瞑ってしまった。しかし、いつまでも目を瞑っているわけにはいかない。

 僕は恐る恐る目を開く。そしてそこに表示されていた内容は ──

  《精霊王の寵愛》: 精霊王の寵愛を受けしもの  ・・・許容範囲 

 変わっていた。・・・確かに前の『浮気ダメ・・・これ絶対』から変化はあったが ──

「なんだよ・・・それ」

 後日、その説明は『浮気はダメ、ゼッタイ』と少しリニューアルされて戻っていた。しかし今の僕は只々力の抜けるその四文字に、夕食まで再び、事切れたように束の間の眠りへとついたのだった。

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