アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

87 手紙と薔薇

── 拝啓 カリナ姉さん。

 夏も本番となり、連日の猛暑ではございますが、お変わりなくお過ごしでしょうか。

 僕の方は変わりなく、氷魔法を応用して暑さを凌ぐ今日この頃です。こうして暑さを避け、快適に過ごせるのもカリナ姉さんが氷魔法を熱心に教えてくれたおかげですね。

 さて、これは私事ではありますが、実は先日ある出来事がありまして、この度スクールの友人と婚約を結ぶ運びとなりました。突然のご報告となったこと、お詫びします。そしてカリナ姉さんにも是非、僕の幾久しい良縁を願っていただけると幸いです。

 では、カリナ姉さんの益々のご健勝とお活躍を願っております。

── リアム。

「 ── っと、かなり畏まった文章になったけどこんなところで・・・」

 リゲスのところに訪れて四日後、僕は今、王立学院にいるカリナ姉さんに向けて手紙を書いていた。

「リアム〜ッ! そろそろ行くわよ〜ッ!」

 すると、僕を呼ぶ母さんの声が聞こえてくる。

「は〜いッ! 今行く〜!」

 そして僕はその手紙を畳むと、母さんたちの元へと急ぐ。

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「これはこれはリアム様、それにそちらはお父様にお母様であらせられましょうか? ようこそいらっしゃいました」

 父さん、母さん、そして僕を屋敷の玄関前で迎える執事のバット。

「どうも、リアムの父でありますウィリアムです。本日はお日柄もよく・・・」

「リアムの母、アイナです。本日はご招待いただきありがとうございます」

「いやいや、こちらの方こそ礼を・・・。今日はわざわざ足を運んでいただき、誠に感謝する」

 玄関先で、互いに挨拶をする両親とヴィンセント。

「リアムッ!」

「エリシア・・・」

 そんな大人たちの横で、無邪気に飛びついてくるエリシアに苦笑いの僕。

「さて、今日は我が家で存分にもてなさせてもらう。こちらへ・・・」

 そして屋敷の主人であるヴィンセントに招かれ、僕たちは中へと入る。

「此度は急な話で、お二人もさぞ驚かれたことだろう。まずはこちらの方から説明申し上げるので、どうぞその後はなんでも質問して欲しい」

 それから、屋敷の中へと招かれテーブルについた僕たちは、婚約についての説明を受ける。

「・・・ということだ。では、長くなってしまったが是非に質問を・・・」

 そして大方の説明を終えた後、ヴィンセントが質問を受け付ける。・・・大体の内容は先日僕に個人的に話してもらった内容と変わりなかった。

「では、質問させていただきたいのですが・・・」

 すると、質問がありげにそのことを匂わす母さんであったのだが ──

「できればこちらからもお話ししたいことがいくつか、込み入った大切なお話もあるので、できれば二人に席を外してもらいたい」

 なんと父さんと二人して、僕とエリシアに目配せした後席を外して欲しいと要求する。

「・・・わかった。エリシア、リアムくん、ここから少し大事な話をするので、別室で暇を潰すか、それとも庭にでもでて散歩してくるといい」

「わかりましたお父様!・・・だったらリアム!一緒に庭を散歩しましょ!!」

 そしてエリシアは有無も言わさぬスピードでそれを承諾すると、すぐ様僕の手を引いてその場を後にしてしまった。

「それでは、話を再開しましょうか・・・」

 最後に、微かにそう聞こえたヴィンセントの言葉。僕はその言葉に後ろ髪引かれる思いであったが、無邪気に手を引くエリシアには勝つことができなかった。
 

▽      ▽      ▽      ▽

「これがガリカ・・・こっちがアルバやモスで・・・」

 庭園を歩きながら、エリシアが僕にそこに植えられた植物をそれぞれを説明してくれる・・・が ──

「でももう花は散っちゃって・・・もう少し早ければ見頃だったんだけど・・・」

 どうやらそれらは全て薔薇のようで、花をつける季節は既に過ぎ去ってしまったようだ。しかし──

「・・・リアム、これから行くところは内緒にして・・・」

 そう小さな声でエリシアが僕の耳元で囁くと、ついてきてと言わんばかりに、また僕の手を引いていく。

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「ここよ・・・」

 エリシアに連れられ、やってきたのは庭園の隅に建つ小さな赤いレンガの家。その所々には薔薇のつたが張っており、白や赤の花をつけている。

「薔薇が咲いてる・・・」

 僕は建物を綺麗に彩るその薔薇の色彩に目を奪われる。赤いレンガの上に張った茶のつるについた緑の葉と赤や白の花びらが織りなすその色彩は、まさに丁度良い量のバランスで保たれていた。まるでおとぎ話にでも出てきそうな家である。

「この建物に巻きついている薔薇はね、土属性の魔石を肥料にあげているの・・・」

 僕がその薔薇と建物に見とれていると、エリシアが自慢するように今も薔薇の咲いている理由を教えてくれる。そして──

「・・・そしてね。ここには今、お母さんがいる・・・」

 まるで巣で休む小鳥を驚かせないように、小さな声で話すエリシア。

「それって、療養中っていうお母さん?」

「そう・・・。お母さんは5年前から身体が弱っていて・・・。屋敷の方では来客もあったり、広くて移動も大変だから普段はこの小さな家で療養していて、無闇にここに近づかないようお父さんに言われているんだけど・・・」

 どこか寂しそうな表情でエリシアは話す。

「時々こうして、お母さんに会いに来てるのは内緒・・・」

 そしてその寂しさを紛らわすような笑みを見せる。

「お母様〜ッ!」

 家の中に入ると、真っ先に走って行ってしまうエリシア。

「あらあらエリシアったら・・・また来ちゃったの?」

 その人は、綺麗な人であった。長い金髪に黄色の目、優しそうで病床ながらも包容力のような安心を感じさせる・・・すると──

「あら、そちらはお友達かしら・・・それとも話に聞いていた・・・」

「リ、リアムです。よろしくお願いします」

「あらあら、こちらこそよろしくお願いします。・・・私はリンシア・ブラットフォード。エリシアの母です」

 僕の自己紹介に、こちらもよろしくと優しく迎えてくれるリンシア。

「ごめんなさいね・・・ベットの上から。体が弱いもので・・・」

 前世では体が弱くよくベットの上にいた僕はその光景を見てなんかこう・・・グッと込み上げてくるものを感じる。

「それは先天的なもので?」

「いいえ、五年前にね・・・。どうやら魔力に問題があるようなのだけれど・・・」

「原因は・・・」

「それがわかっていなくて・・・」

 そして僕はついその好奇心で、リンシアの病状を尋ねてしまう。先ほどエリシアからも聞いた通り、どうやらリンシアは5年前から後天的に体が弱くなっていたようだ・・・だったら ──

「あの、もし差し支えなければ診てみてもいいですか?・・・その、病状の方を・・・」

 僕はリンシアに、診察の許可を求める。

「えっ?・・・それは構わないのだけれど・・・大丈夫かしら?」

 そんな僕の唐突な提案に一瞬戸惑いを見せるも、子供のすることだと割り切ったのか許しをくれるリンシア。そして許可を得た僕は ──

「鑑定・・・」

 スキルの鑑定を唱える。これまでにもこのスキルを使うことはあったのだが、精々その用途は自作したポーションがちゃんと完成しているかどうかをチェックする程度、ダンジョン探索もまだ碌にしていないため、このスキルを持て余していた。

「・・・魔力変異?」

 僕は情報的かつ整理されて頭の中に入ってきたリンシアの状態に、その病状を見出す。

「・・・・・・!」

 すると、僕のつぶやきを聞いたリンシアが驚きの顔を見せる。そして──

「エリシア・・・。少し、席を外してくれるかしら・・・」

「えっ・・・。でも・・・」

「大丈夫。リアムくんとあなたの婚約について少し話しておくことがあるから・・・そう、 実は先日ブラッティローズの大苗がようやく植え替えできそうなの! よければその子達のお世話をしてくれる?」

 急な言葉に戸惑うエリシアを諭すリンシア。

「・・・はい」

 そしてエリシアはリンシアにそう諭されると一人、家の外へと向かっていった。

「・・・凄いわね。まさか私の病気を言い当てるなんて」

 エリシアが退室した後を見計らってそう口を開くリンシア。その口ぶりはまるで、自身の病状がわかっていたようで ──

「もしかすると・・・、いいえ、殆どその可能性はゼロでしょうし少々若すぎるけど・・・いい機会だから話しておくわね」

 自分の病状についてより踏み入った話を始める。

「私のこの病気が発症したのはそう・・・今から八年前・・・」

「八年前・・・? でも確かエリシアは五年前って・・・」

 僕は、そのリンシアから告げられた年月に疑問を抱き ──

「・・・あっ!」

 そしてあることに気づく。

「あなたは本当に聡い子なのね・・・」

 僕が何かに気づいたことを悟ったリンシアは窓の外を眺める。・・・そしてそこには、並べられた鉢に根付く薔薇の世話をしているエリシアがいた。

「そう、それは私がエリシアを身籠った時・・・」

 それから数秒、窓の外から目を離して今度は自分のお腹をさすりながらそう呟くリンシア。

「・・・やっぱり」

 そして僕も、自分の中で悟った答えにそれを照らし合わせる。

「主人のお義母様は魔力も豊富、気丈で誇り高い立派な人だったそうよ・・・でも私は・・・」

 苦悩、劣等・・・しかし悲壮、その表情からは様々な感情が見て取れた。

「私も人、主人は魔族の血を引いたハーフ。そしてその魔族の血が特殊なことはあなたも聞いたのでしょ?」

「・・・はい」

 僕はリンシアの問いに首肯して答える。

「自分の変化に気づいたのはエリシアが生まれる5ヶ月ほど前、本当に小さな違和感だった」

 それは本当に小さな違和感だったらしい。

「その時にはもう、エリシアを身籠ったことも分かっていた。・・・そして少しずつ膨らんでくるお腹にやがて自分が一つの命を宿していると実感してきた頃・・・突然、自分の中に妙な自分以外の魔力が流れ込んできて、留まったのを感じた・・・」

 どうやらエリシアがある程度お腹の中で育って安定期に入った頃、それは起きたようだ。

「でもやっぱり最初はそれが大した問題だとは思わなかった。魔法も問題なく使えたし、体がこうして弱っていくこともなかったから・・・」

 魔力が変異すると、やはり魔法も上手く使えなくなるのであろうか・・・。

「だけどその変化は、急に私の体を蝕み始めた。・・・エリシアを産んだ後に」

 そう語るリンシアの目からは、やはりこれまでの苦しみが見て取れるが、どこか満足げだ。

「元々私の目の色はね、緑だったの・・・」

 緑・・・、そしてヴィンセントとエリシアの目は赤であるから ──。

「けど今は見ての通り黄色、それにほら・・・」

 リンシアは目を僕に合わせると ──

「私の犬歯は元々、もう少し丸みを帯びていたのだけれど、今はこうして尖ってきている」

 下唇を指で押さえながら、口をいの形にしてその歯を見せる。

「私の中に存在している魔力はおそらく主人の魔族のもの。・・・そしてエリシアを宿した時に一緒に私の中に根付き、人と魔族の血を引くあの子が私のお腹にいたことで、抑えられていた魔族の魔力が出産を引き金に完全に覚醒して暴れ始めた」

 病状はどうやら僕と同じ鑑定持ちの医者に診てもらうことで判明、故にそこからは憶測の話だとリンシアは言う。・・・しかしここまでくると、その憶測は大方間違ってはいないのだろう。

「それじゃあやっぱりリンシアさんはエリシアを身籠ったことをきっかけに・・・」

 僕はその痛ましい過去に思わず、自身の闘病の記憶から引き起こされた同情を抱いてそのやるせなさを呟く。

「フフフッ・・・でもね、別に私はそれを不幸とも運がなかったとも思っていない」

 すると、僕の曇りを晴らすように笑いかけるリンシア。

「今日みたいに、エリシアは主人の目を盗んでは私にこうして会いにきてくれるし、主人も実は毎日そこの窓の外にきては顔を見せて色々お土産を持ってきてくれているのよ」

 その笑みからは彼女の溢れ出る幸せを十分に感じられるものの ──

「こうして家族との接触が制限されているからこそ気づける幸せがある・・・だから私は寂しくない」

 実に皮肉な話だ。病にかかったことで気づく幸せ。僕はそれを身体的な自由という形で知っているが、リンシアはそれが家族との繋がり、そしてこの家族ならばきっと、彼女がこの病にかからなくてもそれは実感できたはずの必然であったはずだ。

『なんとか治す方法はないのか・・・』

 僕は頭をフル回転させて考える。

『魔力を特定してそれだけを引き剥がす? 』

 ・・・でもその異種魔力が体に混在し始めて時間も経っている。きっとその魔族の魔力はもう満遍なく、細かく分布してしまっていることだろう。

『丁寧に、散在する魔力を感知した上で引き剥がしていく・・・』

 魔力の特性は3次元と4次元の狭間に介在するような感知はできるが物質的な性質がないもの、干渉することでその性質を変化させる生命エネルギーに準ずるものだ。 

『近い性質で3次元的なものは空気・・・水? 体の中を流れる水は血液・・・ッ!』

 頭の中で魔力の性質について詰めていく過程で、僕は魔力と血液の近似性を見出していく。

『同質の魔力を培養できれば・・・いや・・・』

 僕は一瞬、ヴィンセントかエリシアの魔力とリンシアのものを比べることで純粋な彼女の魔力を探知し、それと同質の魔力を培養してそっくり入れ替える方法を考えてみるが──

『単純にヴィンセントさんの癒着してしまった魔力を探知して引き剥がすような魔力を循環させる魔法か陣、道具を作れればあるいは・・・』

 更に僕は一歩、前世の医療行為から新たなヒントを得る。

「魔力の透析・・・」

 透析、それは腎臓の不全などから自然にろ過できなくなった老廃物などの血中有毒物質、または水分を、人工的に血液をろ過することで取り除く療法。

 前者の新しい魔力への置換は血液と同等に考えるならば輸血同様拒否反応のリスクを考えなければならないが、後者ならばそのリスクも幾ばくか減らせるだろう。・・・それに前者で根治できるのならば、そもそもリンシアがただただ魔力を垂れ流しにでもすることで、癒着した魔力も共に消費されるはず。その点を考えると、きっと魔力を回復する働きを持つ僕の知らない機構に、何かしらの異常があるのだろうと推測できる。この場合、魔族の魔力が癒着している・・・というより、その機構に異常が発生していることで新たな魔力が生み出される際に、魔族の魔力も共に生み出されている・・・という認識の方が正しいのかもしれない。

「消費した魔力を還元した場合に消費分の魔力が回復するのか、それとも補填した分の自然回復がないかを調べる必要があるけど・・・」

 魔力は消費すれば自然と回復するもの。もし消費する形で外に出した魔力を還元した場合、魔力飽和を通り越して余剰が発生しないか、またそれが発生した場合に状態異常が引き起こされないかを研究する必要性がある。

「混じった魔族の魔力を希釈することで影響を低減、長期的に実践することであるいは・・・」

 根治はできなくても、傷ついた魔力の回復機構が修復される可能性を否定しきれない。・・・とりあえず、今パッと考えられる治療法と注意事項はこれくらいだ。

「どうかしたの? リアムくん?」

 突然、ブツブツと呟き始めた僕に問いかけるリンシア。

「い、いえ、なんでもありません。ごめんさない」

 そんなリンシアに僕はなんでもないことを告げて、不安を抱かせたことを謝る。ここで僕の考えを告げてもよかったのだが、もしそれができなかった時に彼女らにぬか喜びをさせてしまうことになる。将来的に家族になるかもしれない彼女たちに、そんな失望を抱かせるようなことはしたくない。

「そう・・・それじゃあ・・・」

 僕の状態を確認したリンシアが、その足をベットの淵に下ろして側の窓を開ける。

「エリシア! 今日は調子も良いし、本邸まで一緒に行きましょうか?・・・リアムさんの親御さんもいらっしゃってるようだし」

「本当!?お母様!!」

「ええ、だからその汚れた手を洗っていらっしゃい」

「うん!」

 これから本邸の方に戻る僕とエリシアに、同行する意思を見せるリンシア。

「あっ・・・それとリアムくん。いました話はエリシアには・・・」

「はい・・・内緒にしておきます。僕もエリシアが自分を責める姿をこれ以上見るのは嫌ですから・・・」

「ありがとう・・・。それじゃあ行きましょうか」

 そうして立ち上がったリンシアの横顔は僕の知っているそれ、病人とは思えない凛々しさを感じさせる、一人の母親の顔であった。

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