アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

83 早い春、遅い春

「私は、リアムが好き・・です ── 」

 いつもよりしおらしく、そして愛おしいエリシアの態度。

 僕はすぐにでも、頭の中が彼女の言葉を肯定して抱きしめたくなる様な感情と衝動に支配されそうになるが ──

「僕はね・・・。エリシアが言ってくれたほど思いやりのある人間じゃないよ・・・」

 その衝動をなんとか押さえ込んで、僕も自分の最近のことを話すことにした。

「最近気付いたことなんだけどね。僕は人より与えられた力があって、それを自慢したいのに褒められたり持ち上げられるのが嫌で謙遜し・・・」

 僕は昨日一人悩んでいた自分を思い出しながら ──

「でもどこか心の中では愉悦に浸っていた嫌なやつ・・・」

 自分の核心に触れていく。

「昨日エリシアに叫んだことだって、自分が犯した罪を弁明したいだけの喚き、自分のしてしまったことを誰かに肯定してもらいたくて出た我儘・・・」

 これはみんなに甘えようとした結果であり ──

「そして今、エリシアにこうして身の内を話ていることすらも、心のどこかで自分を肯定するためなのかもしれないって思ってる・・・」

 今もこうして、甘えようとしているのかもしれない。

「その心のどこかで思っていることを、更に心の中で思っていることも・・・ってついついエンドレスに考えてしまって疑心暗鬼・・・嫌になるよ・・・」

 そう思うと、益々そんな自分が嫌になる。

「少なくともそれくらい面倒くさい考えや価値観を持っていて、成長できないでいる・・・」

 未だ体は子供、更に彼女よりも年下の僕が成長できないとは笑ものである。

 しかし、結局はこうして結果が出るのが現実だ。これを無責任だというか、甘えだと思うかもまた人ぞれぞれ・・・。

「僕を好きだと言ってくれたエリシアにもう一度・・・こんなことを尋ねるのは酷く女々しいことだけど・・・」

 しかし人はどこかできっぱり区切りをつけなければ、気づけないことがある。過程や結果よりも、少しだけ先の未来を信じること。それは昨日思い出したばかりの過去の教えだ。

「それでもエリシアは・・・、僕のことを好きと言えるのかな・・・」

 ・・・これはかなり悪質で意地悪な言い方だ・・・なにせ相手はまだ十年も生きていない少女。そうでなくとも、相手の気持ちを聞いた上で、再びその気持ちを確かめる・・・それも限りなく彼女の優しさに圧力をかけ、真実を探る形で。

 しかし僕はやはり、彼女の真に迫った言葉を聞きたかった。決して種族的な特性に左右されない彼女の気持ちを彼女のために。これが種族の悪癖に振り回されているエリシアを手助けできる唯一の方法として・・・、お互いが仕様が無いで済ませないためにも・・・。

「自分がみんなと違うから、いっぱい勉強してテストで1位を取るんだって頑張っていたのに・・・」

 すると目を伏せ、再び口を開くエリシア。

「あの日、私は2番で1番は同じ齢の子どころかまだ2歳も年下のリアム」

 ・・・それは悪いことをした。僕は心の中で、エリシアに謝る。なぜって僕の成績はあくまでズル。前世の知識と時間があってこその賜物だ。

「ものすごく悔しくて意地はって泣いちゃって・・・けど、私はあの日から、どこかリアムが気になっていた」

「最初の授業の日、魔石からぐわーッてすごい火を出した時は驚いたけどクラスのみんながその後精霊のこととか噂してて、私と同じかもって頑張って声をかけてみた」

 僕は今、あの日ライバル宣言?したエリシアが僕の隣にきた謎を紐解く。

「けどまた失敗しちゃって泣いちゃいそうな私をリアムが一生懸命励まそうとしてくれてたって、後になって気付いて」

 エリシアが僕の顔を見てハニカム。

 しかしあの時エリシアに助けられたのは僕の方だ。クラスに入るのが怖くて、案の定警戒されてナーバスになっていたところにエリシアが声をかけてくれたのだ。

「リアムを独り占めしたくなって、それなのにそれだけはなんでか言えなくて・・・」

 そしてエリシアはそんな今までの後悔を口にし、まるで全てを悟っていく様にその声を萎めていく・・・すると ──

「だからやっぱり・・・私はリアムが好きッ!」

 エリシアが勢いよく僕の胸に顔を埋める。その大胆な行動もさることながら、自分のことを真っ直ぐ貫いてぶつけてくる彼女は、僕の知るいつものエリシアだった。

 こんな僕がこんなに良い子に好きと言ってもらえて良いのだろうか。

 僕は今も抱きつき、顔の見えないエリシアの方を見る。

『これは初めての光景かな・・・』

 そう言えば彼女の方が年も上、こうして上から近く彼女のことを見ることは今までにはなく、僕はまた、新しい彼女の一面を知った。

 僕はそんな彼女のつむじから目を話すと、両手を胸の高さまで持ってきて

「ありがとう・・・」

 こんな僕を選んでくれた彼女に礼を言いながら、静かに抱きしめる。

 ・
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 時間の流れをゆっくりと感じる。

 光が差し込んでくる窓からは、オレンジ色の光が差し込んできている。もう時刻は夕暮れだ。

「とにかく、父さんと母さんに話してみるよ・・・」

 僕とエリシアは二人、再びベットに腰をかけ直してこれからの話をする。

「その・・・、吸血はそのときに___ 」

「わかった・・・待ってる」

「それから改めて、昨日のことは僕が軽率に責めすぎた。ゴメン・・・」

「私だって、変な意地はっちゃってリアムを困らせちゃって・・・」

「・・・それじゃあ!・・・お互い仲直りしたってことで・・・握手でもしようか」

 気まづさゆえか、僕はそんな安直な提案をする。・・・と言うか、あんな婚約や好きがどうのって話の後に握手とは、順序がめちゃくちゃだ・・・。

「・・・うん」

 しかしエリシアも、どこか頬を染めながらもそれに応じてくれる。果たしてそれが夕日に照らされたものなのか、彼女自身の感情によるものなのかはわからないが・・・。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 だが、それは一瞬のこと。結局は会話も途切れ、僕とエリシアは握手をしたまま黙り込んでしまう。すると ──

「リアム様、お嬢様・・・。お話中のところ申し訳ありませんが、時刻もそろそろ夕暮れ。・・・誠お節介かもしれませぬが、リアム様はお時間の方大丈夫でしょうか?」

 部屋の外から扉をノックし、そんなブラッドフォード家執事のバットの声が廊下の方から聞こえてきた。

「あっ・・・!」「はっ・・・!」

 僕たちはその声で瞬時に互いの手を離すと ──

「あっ・・・それじゃあそろそろ僕は帰るね・・・」

「そ、そうよね・・・。もう、そんな時間よね・・・」

 いつの間にか、僕たちの雰囲気はいつも通りに戻っていた。


▽      ▽      ▽      ▽

「それじゃあまたね」

「いつでもまた遊びにきなさい・・・バット」

「はっ・・・リアム様。こちらは貴族街に入るための我が家への招待状となっております。期限はとりあえず夏季休暇の終わりまで、形式は冒険者への依頼と召喚状となっておりますので、是非にご活用ください」

 屋敷の玄関先まで、僕を見送りにきたエリシアとヴィンセント、それに執事のバットさんが僕に招待状を手渡してくれる。・・・これで、ミリアの家庭教師に来た時以外でも、貴族街の中のエリシアの家には訪ねることができる・・・公私はしっかり分けねば。

「ありがとうございます。・・・では、またお返事に来るときに使わせてもらいますね・・・それでは」

 そうして僕はバットから招待状を受け取ると、招待主であるヴィンセントに向けて礼をいい、ブラッドフォード家を後にする。・・・しかし ──

『本当に、婚約の理由がそれだったのか・・・』

 僕はエリシアの家からの帰り道、ふとそんなことを思ってしまったのだ。
 
 ヴィンセントが仮に同情に訴えたくはなかったと言うのならば彼の話の内容から真実を明らかにすることは大事であろうし、なんなら隠してはいけない必要事項であった。・・・だが、彼はかなり大事なデメリットを明らかにしていない。

 それは吸血による魔力契約にまつわるものだ。もしお互いに契約を結び、信じたくはないがもし、彼女が僕のことを必要ないと思った時は・・・。

 それになぜ彼らは僕をこう優遇し、一般的な平民である僕を婿にまでというのか・・・。明らかに種族癖の話だけでは説明がつかない。 
 もしヴィンセントの言ったことが全て事実で、種族癖を消すために善の神に認められないといけないのならば、仮にその神も善と名のつく神。僕の悪い予想が当たるとすれば、それなりのリスクもある・・・。

 貴族制といった階級関係は僕のイメージではもう少しこう差別的なイメージがある。
 エリシアの父は貴族ではないが貴族となったものの血をひく平民。もちろんこの世界の世俗自体が違うことは十分考えられるが、でもやはりこう引っかかる部分がある。
 直近で公爵様の家に出入りしたこともあり、そんな自覚が少し芽生え始めていた・・・自覚するのが遅すぎるけど・・・。

 初めは公爵様の贔屓には自分の将来性への期待から、それも雇用という形で裏契約がなされていたためにいい意味で「能力主義者なのかな〜」なんて思っていたが、今回の婚約の件といい、流石にそうであったとしても僕が優遇されすぎなような気がしてきた。人の期待に鈍感すぎる。前世であまりにも周りの期待がなかったために起きた弊害だ。

「今日の約束がてら・・・、これも相談しよう」

 僕はそんな新たな相談事をまた一つ心のメモに残し家路を歩く。

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