アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜
77 唐突な邂逅
「こちらです」
案内がなければ直ぐ迷ってしまいそうな廊下を、メイドさんに案内してもらう。
・
・
・
「君に、我が娘の家庭教師を頼みたい」
アウストラリア王国公爵、ブラームス・テラ・ノーフォークからの予想外なお願い。
「それはどういう・・・」
僕は当然、話の意図が飲み込めずに質問を返す。
「私の娘はな、年齢こそ君より上だが、同学年の少女だ」
確かに、そういえば入学式の時公爵様がそんなことを言っていたような。
「しかし娘はスクールには向かわせずに、専門の家庭教師をつけて座学をなさせていたのだ。・・・私は認めんが、・・・私は認めんが!!・・・なにせ公爵である私の娘。将来はどこかの上級貴族の元へ嫁ぎ、領地経営を補佐したりと一般のスクールで学ぶこととは大きく外れた役割を担うことになるだろうからな」
「ミリア様は行く行くは中等部に上がられる際には王都の王立学院に進学されることが決まっている。僕たちも臨時の家庭教師として度々召喚されていたんだけど、ただ最近ちょっと・・・問題が起きてしまってね」
そういって落胆するようにはぁ〜・・・とため息をつく二人。
「ああ。実は最近、行商から今王都で話題になりつつある、あるものを買い与えたのだが、娘がそれをいたく気に入ってしまってな。元々その分野に興味あった娘はどんどんのめりこんでしまい・・・」
「ついには引きこもり、勉学を拒否して日々それに没頭するようになってしまった」
二人して頭を抱えて顔を青くする。
「それを辞めさせるのは最早困難。かと言ってそれは王都でも王城や少数の上級貴族にしか献上されていないような品で、講師を雇うのも困難な新しく完成されたばかりのもの。おかげで毎日新しい発見があり、自制も効かぬらしい」
さらに公爵様は、「私は嫌われてたくない!」と威張って宣言する。・・・嫌われたくなくても、時には子供の外れた道を修正してあげるのは親の務めだと説きたい。
「それは一体・・・」
僕はとりあえず喉元まででかかった言葉を飲み込み、話を続ける。
「・・・楽器だよ。かなり大きいが、なんと百年前に我が国に太平をもたらした、かの勇者が設計した・・・な」
ブラームスの言葉が、僕のアンテナを刺激する。
『楽器か・・・。それは興味あるが・・・』
しかし ──
「勇者・・・」
後に付け加えられた内容が、それを塗り替えていく。
勇者。この世界にいたという類稀なる力を持った者。
「君も歴史の授業・・・、というか今年からダンジョン学をとっていたはずだから、その人物については知ってるだろう?」
世界のバランスは主に4種の種族によって構成されている。
それは神、人、魔物、そして竜であった。
この世には2対の神が存在し、それぞれ善神と邪神と呼ばれた。
神たちは世界を作り、その後は深い眠りへとつく。
かつて一番力のなかった人は皆、善神を崇拝し対極に魔物は邪神を崇めていた。
竜は神をも食らう存在として恐れられ食物連鎖の頂点に立ち、何者にも咎められることのない唯我独尊を貫く高等生物。
ある日、一匹の竜が世界樹のある世界へと迷い込み、神の揺り籠、善の神が眠るとされる世界樹に害をなし始めた。
世界樹の番人であり、神に作られた精霊たちの王、精霊王はその竜と対抗して戦った。
しかし戦況は劣勢。その竜は当時の竜たち全てを束ねる存在、竜王だったのだ。
精霊王とその配下達は悪戦をしいられ、徐々にその巨大な力に押されていった。
だがその戦火にある日、遂に眠っていた善神は眠りから目覚め、そして憂いた。
神は自ら世界に干渉できない存在。何かのきっかけがなければ。
だから善の神は人に力を与え再び眠りについた。自身を崇め、願いをこう人に。
そして人は魔法に目覚めた。それは魔物や竜の使う力。世界の理に干渉し、書き換える力を。
魔法に目覚めた人の世は、急激に発展していった。そして人々が魔法を使えるようになって五百年の時がたった頃、世界に勇者が現れた。
勇者はその類いまれぬ才気と能力で人々を魅了し、当時争っていた魔族と条約を結び閉戦、平和をもたらしたのちに、魔王とその配下と共に精霊王と合流、やがて一騎打ちにもつれた竜王に咎を刻み、次元の狭間に閉じ込め見事勝利した。
「そしてそれが約百年前の話、勇者は竜王を悠久の檻に閉じ込めたが、同時に姿を消してしまった。勇者が姿を消した理由は、一緒に次元の狭間に竜王を道連れにしたとも、善の神に誘われ、世界樹で共に眠っているとも言われています」
ダンジョン学の初講義で、フランから教わった内容を思い出していく。
「熾烈を極めた竜王と勇者一行の戦いは世界に様々な穴を開けてしまい、勇者一行の願いを聞き遂げた善の神がその穴を修復、その副産物に今のオブジェクトダンジョンが作り出されたとあります。そしてその勇者の名は ──」
僕はあの日の講義を思い出す。その勇者の名前は確か・・・
「・・・ベル」
「ああそうだ。その勇者ベルが設計したものが、ここ最近になってようやく形になり完成したというわけだ」
「今回の作戦は、その勇者ベルの一行が竜王を倒した後、戦いの勝利を祝い、世界樹の麓で開かれた宴の声に善の神が誘われ再び目を覚ましたと伝わる逸話を基にした」
・・・なんかどこかで聞いたような話である。
「同学年の君が勉学や、外の話をすることで注意をそちらに惹きつける。それが本作戦、「花の宴・天(あま)の揺り籠」だ。
それは天に揺られるように気持ちの良い揺り籠から、神様が起きてしまうほど楽しい宴を指してつけられた逸話の名。娘一人の興味を惹くのに、なんとも大層 × 馬鹿らしい作戦である。
「さてリアム君。君、確かケイトくんから特別処置をするに至り結んだ文書のことを聞いたんだったね・・・」
するとルキウスが、どこからともなく懐かしい裏契約の話を持ち出す。
「確か僕の指紋を勝手にとって拇印を押したんでしたよね?」
僕はルキウスをジトッとした目でみて、じわじわとした圧をかける。
「まあ、ゆくゆくは平民代表として、息子か娘の補佐、護衛、あるいは見本にでもなってもらえるとありがたいと意図して結んだんがね?」
すると今度は、ブラームスが注釈を入れる。
「ちなみにこれが、その書類だ。確認したまえ」
手渡された一つの書類。書面には昔ケイトから聞いた規約条項と同じ内容、そしてブラームス・テラ・ノーフォークの名と僕の家族のサイン、僕の拇印が押されていた。
「あの、つかぬ事をお聞きしますが、この書類の写しや控えなんかは・・・」
そしてそれを受け取った僕はある悪知恵を働かせ、一つ彼らに質問する。
「ああ、それなら同じ形式の書類に私のサインを書いたものを君のご両親が一枚持っているはずだ。・・・それ以外には不要なため控えはないが、君にも新しい写しが必要かね?」
「いいえ、そういうわけでは」
僕はそれを否定する。そして ──
「では、もし僕がこのサインの入った書類を燃やしてしまえば、この契約はすっかりなかったことにできると・・・」
そう、僕が聞きたかったことはまさにそれである。・・・しかし実はこれ、あくまで僕の公爵様に対するいいがかりであり、先ほどいじられた仕返しがてらに口にしたことであったのだが・・・。
「まあな。魔力契約までは施されていない書類だ。私はその大事な大事な契約を証明する書類を君に不用意に渡してしまったわけだが・・・」
眉ひとつ動かすことなく、澄まし顔で言葉を紡ぐブラームス。
「そもそも規約事項では、私は君側からの一方的な契約破棄を認めているし、それに君はそれを消失させてしまうような馬鹿者でも、自分お立場を理解していない愚か者でもないだろう?」
そして見事に、僕の口実を否定することもなくプレゼントを添えて返されてしまった。
・・・愚問か。
ブラームスのいったことは何も間違ってはいないし、最もだ。全くもって食えない人である。
「はぁ〜・・・食えない人ですね、全く」
僕は心の声をため息とともに吐き出す。
「はっはっは! それはお互い様のようだがね」
それを笑い飛ばすブラームス。
「互いにメリットがある。そして今のところ目立つデメリットもない。ならばこそ気兼ねなく互いが互いを利用できる関係にあろうではないか」
一介の平民が公爵にここまで言わせる。ある意味で不届きなような気がするが。
僕側からの利用方法が固定されていることだけはあれだけど、それを補って余りある恩恵を受けている・・・はずだ。
「わかりました。とりあえず、会ってみるだけ会ってみて、様子をみさせてください」
この先のことを考えると、これは受けておいたほうがいい。カードが多ければ多いほど良しと昨日学んだばかりだし・・・。
「そうか! では早速・・・」
早々に、机の上にあったベルを鳴らすブラームス。
・・リィン・・・リィン・・・リィン。
するとそのベルは輪唱するように部屋の中を響き渡ると、デクレッシェンドしながら音が消えていった。どうやらあのベル、魔道具の一種のようである。
「あ、あの、詳しい打ち合わせとかは・・・」
僕はその早すぎる展開に待ったをかけ、詳しい打ち合わせを打診する・・・が ──
「それなら、君より先に少し件に当たっている先輩がいるから、心配するな」
『そんな無茶苦茶な・・・』
聞く耳持たず、どうやら先にそれに勤しんでいる先輩がいるらしく、その人に聞けと言うブラームス。
「失礼します」
「ああ、ご苦労。では、このリアムくんを娘のところに案内してやってくれ」
「わかりました」
そして執務室へとやってきたメイドさんに連れられ、僕はその場を後にしたわけだが・・・
・
・
・
あれから、5分ほどが経ち、未だ廊下を歩き続けていたわけだが・・・。
「リアム様、到着しました。ここがミリア様の私室にございます」
僕を案内してくれていたメイドさんが、目的地に到着したことを知らせる。
「ありがとうございます。・・・あの、ノックしても?」
「はい。それで大丈夫でございます」
念の為入室の方法を確認し、ドアの前に立ってひとつ深呼吸する。
「スゥー・・・ハァー・・・」
そして僕は深呼吸を終えると、胸に一度手を当てて意気込んだ・・・のだが ──
「よしッ!いく・・・ッ!」
突然開くドアに、僕は後ろへ飛んで後退する。
「あ、あぶなッ・・・!」
僕は突然の出来事に混乱する頭を落ち着かせながらも、無事それから避難できたことに安堵する。しかし ──
「へっ?」
今度は、開いた扉の向こう側から何かが飛んできた。
「・・・ッ!」
僕は、それを回避するべく横に飛びのく。
「いてぇ・・・」
すると、回避し目の前に転がる飛んできたものの中から、うめき声が聞こえてきた。
「一体何が・・・」
僕は一瞬、何がなんだか理解できず、頭をかかえるが・・・
「── ッ!」
束の間、その扉の向こうから飛んできたものに驚愕する。
「アルフレッド!」
「んあ? リアムか? ・・・どうしてお前がここに」
そこにいたのは、なんと昨日喧嘩別れをしてしまったロガリエメンバーの一人、友人のアルフレッド・ヴァン・スプリングフィールドであった。
「大丈夫ですか!?」
すると今度は扉の向こうから、一人の少女が駆け寄ってくる。
「アルフレッドさ・・・ッ!」
そして駆けてきた少女、アルフレッドのお守り役であるフラジールも立ち尽くしていた僕をみて足を止める。
「どうして二人がここに・・・」
「それはこっちのセリフだ」
急に生まれるぎこちない雰囲気・・・しかし ──
「・・・ッ!アルフレッド様危ない!」
一呼吸置く間も無く、何かに気づいたフラジールがアルフレッドの前に立ち、何から守ろうとする。そして──
「ッ!ウィンドウォール!」
それに気づいた僕は両手を構え、魔力を集中して風の壁を作る。
『なんでこんなものが・・・』
そして、僕は扉の向こう側から飛んできたものに目を見張る。
「イスが飛んで来るんだ・・・?」
部屋の中から飛んできたもの、それは立派な装飾の施された椅子であった。
「・・・ガ・・ギギィ」
間一髪、なんとか間に合った僕の魔法はそれを跳ね返すことなく風の壁内にそれを閉じ込めてしまい、椅子は荒れ狂う風の中軋みをあげ次々と傷ついていく。
「や・・・やばい!」
そしてその豪華な椅子が傷ついていることに気づいた僕は、それが急に飛んでいかないようにかつ、素早く魔法を解除していく。
  ・・・カコン。
うまく調整された風で、ゆっくりと床に下された椅子。
『この椅子・・・いくらだろう・・・』
僕はその椅子をみて絶望する。だってかなり高価そうな椅子だったから・・・。
「助かったぞ、リアム」
しかし僕の内心は他所に、ひとまずアルフレッドから礼が述べられる。
「ありがとうございました。リアムさん」
そして一安心したのか、胸を撫で下ろすフラジールからも・・・。
「一体何があったの?」
僕は二人の言葉にとりあえず現実へと戻る。
「いやそれが、僕たちは公爵様の要請でミリア様の・・・」
そして、その疑問にアルフレッドが答えようとしてくれるが・・・──
「私の邪魔をするなぁー! ・・・お前達なんて嫌いだ!」
その言葉は部屋の中、一人息を乱し怒る少女の声によって遮られた。
案内がなければ直ぐ迷ってしまいそうな廊下を、メイドさんに案内してもらう。
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「君に、我が娘の家庭教師を頼みたい」
アウストラリア王国公爵、ブラームス・テラ・ノーフォークからの予想外なお願い。
「それはどういう・・・」
僕は当然、話の意図が飲み込めずに質問を返す。
「私の娘はな、年齢こそ君より上だが、同学年の少女だ」
確かに、そういえば入学式の時公爵様がそんなことを言っていたような。
「しかし娘はスクールには向かわせずに、専門の家庭教師をつけて座学をなさせていたのだ。・・・私は認めんが、・・・私は認めんが!!・・・なにせ公爵である私の娘。将来はどこかの上級貴族の元へ嫁ぎ、領地経営を補佐したりと一般のスクールで学ぶこととは大きく外れた役割を担うことになるだろうからな」
「ミリア様は行く行くは中等部に上がられる際には王都の王立学院に進学されることが決まっている。僕たちも臨時の家庭教師として度々召喚されていたんだけど、ただ最近ちょっと・・・問題が起きてしまってね」
そういって落胆するようにはぁ〜・・・とため息をつく二人。
「ああ。実は最近、行商から今王都で話題になりつつある、あるものを買い与えたのだが、娘がそれをいたく気に入ってしまってな。元々その分野に興味あった娘はどんどんのめりこんでしまい・・・」
「ついには引きこもり、勉学を拒否して日々それに没頭するようになってしまった」
二人して頭を抱えて顔を青くする。
「それを辞めさせるのは最早困難。かと言ってそれは王都でも王城や少数の上級貴族にしか献上されていないような品で、講師を雇うのも困難な新しく完成されたばかりのもの。おかげで毎日新しい発見があり、自制も効かぬらしい」
さらに公爵様は、「私は嫌われてたくない!」と威張って宣言する。・・・嫌われたくなくても、時には子供の外れた道を修正してあげるのは親の務めだと説きたい。
「それは一体・・・」
僕はとりあえず喉元まででかかった言葉を飲み込み、話を続ける。
「・・・楽器だよ。かなり大きいが、なんと百年前に我が国に太平をもたらした、かの勇者が設計した・・・な」
ブラームスの言葉が、僕のアンテナを刺激する。
『楽器か・・・。それは興味あるが・・・』
しかし ──
「勇者・・・」
後に付け加えられた内容が、それを塗り替えていく。
勇者。この世界にいたという類稀なる力を持った者。
「君も歴史の授業・・・、というか今年からダンジョン学をとっていたはずだから、その人物については知ってるだろう?」
世界のバランスは主に4種の種族によって構成されている。
それは神、人、魔物、そして竜であった。
この世には2対の神が存在し、それぞれ善神と邪神と呼ばれた。
神たちは世界を作り、その後は深い眠りへとつく。
かつて一番力のなかった人は皆、善神を崇拝し対極に魔物は邪神を崇めていた。
竜は神をも食らう存在として恐れられ食物連鎖の頂点に立ち、何者にも咎められることのない唯我独尊を貫く高等生物。
ある日、一匹の竜が世界樹のある世界へと迷い込み、神の揺り籠、善の神が眠るとされる世界樹に害をなし始めた。
世界樹の番人であり、神に作られた精霊たちの王、精霊王はその竜と対抗して戦った。
しかし戦況は劣勢。その竜は当時の竜たち全てを束ねる存在、竜王だったのだ。
精霊王とその配下達は悪戦をしいられ、徐々にその巨大な力に押されていった。
だがその戦火にある日、遂に眠っていた善神は眠りから目覚め、そして憂いた。
神は自ら世界に干渉できない存在。何かのきっかけがなければ。
だから善の神は人に力を与え再び眠りについた。自身を崇め、願いをこう人に。
そして人は魔法に目覚めた。それは魔物や竜の使う力。世界の理に干渉し、書き換える力を。
魔法に目覚めた人の世は、急激に発展していった。そして人々が魔法を使えるようになって五百年の時がたった頃、世界に勇者が現れた。
勇者はその類いまれぬ才気と能力で人々を魅了し、当時争っていた魔族と条約を結び閉戦、平和をもたらしたのちに、魔王とその配下と共に精霊王と合流、やがて一騎打ちにもつれた竜王に咎を刻み、次元の狭間に閉じ込め見事勝利した。
「そしてそれが約百年前の話、勇者は竜王を悠久の檻に閉じ込めたが、同時に姿を消してしまった。勇者が姿を消した理由は、一緒に次元の狭間に竜王を道連れにしたとも、善の神に誘われ、世界樹で共に眠っているとも言われています」
ダンジョン学の初講義で、フランから教わった内容を思い出していく。
「熾烈を極めた竜王と勇者一行の戦いは世界に様々な穴を開けてしまい、勇者一行の願いを聞き遂げた善の神がその穴を修復、その副産物に今のオブジェクトダンジョンが作り出されたとあります。そしてその勇者の名は ──」
僕はあの日の講義を思い出す。その勇者の名前は確か・・・
「・・・ベル」
「ああそうだ。その勇者ベルが設計したものが、ここ最近になってようやく形になり完成したというわけだ」
「今回の作戦は、その勇者ベルの一行が竜王を倒した後、戦いの勝利を祝い、世界樹の麓で開かれた宴の声に善の神が誘われ再び目を覚ましたと伝わる逸話を基にした」
・・・なんかどこかで聞いたような話である。
「同学年の君が勉学や、外の話をすることで注意をそちらに惹きつける。それが本作戦、「花の宴・天(あま)の揺り籠」だ。
それは天に揺られるように気持ちの良い揺り籠から、神様が起きてしまうほど楽しい宴を指してつけられた逸話の名。娘一人の興味を惹くのに、なんとも大層 × 馬鹿らしい作戦である。
「さてリアム君。君、確かケイトくんから特別処置をするに至り結んだ文書のことを聞いたんだったね・・・」
するとルキウスが、どこからともなく懐かしい裏契約の話を持ち出す。
「確か僕の指紋を勝手にとって拇印を押したんでしたよね?」
僕はルキウスをジトッとした目でみて、じわじわとした圧をかける。
「まあ、ゆくゆくは平民代表として、息子か娘の補佐、護衛、あるいは見本にでもなってもらえるとありがたいと意図して結んだんがね?」
すると今度は、ブラームスが注釈を入れる。
「ちなみにこれが、その書類だ。確認したまえ」
手渡された一つの書類。書面には昔ケイトから聞いた規約条項と同じ内容、そしてブラームス・テラ・ノーフォークの名と僕の家族のサイン、僕の拇印が押されていた。
「あの、つかぬ事をお聞きしますが、この書類の写しや控えなんかは・・・」
そしてそれを受け取った僕はある悪知恵を働かせ、一つ彼らに質問する。
「ああ、それなら同じ形式の書類に私のサインを書いたものを君のご両親が一枚持っているはずだ。・・・それ以外には不要なため控えはないが、君にも新しい写しが必要かね?」
「いいえ、そういうわけでは」
僕はそれを否定する。そして ──
「では、もし僕がこのサインの入った書類を燃やしてしまえば、この契約はすっかりなかったことにできると・・・」
そう、僕が聞きたかったことはまさにそれである。・・・しかし実はこれ、あくまで僕の公爵様に対するいいがかりであり、先ほどいじられた仕返しがてらに口にしたことであったのだが・・・。
「まあな。魔力契約までは施されていない書類だ。私はその大事な大事な契約を証明する書類を君に不用意に渡してしまったわけだが・・・」
眉ひとつ動かすことなく、澄まし顔で言葉を紡ぐブラームス。
「そもそも規約事項では、私は君側からの一方的な契約破棄を認めているし、それに君はそれを消失させてしまうような馬鹿者でも、自分お立場を理解していない愚か者でもないだろう?」
そして見事に、僕の口実を否定することもなくプレゼントを添えて返されてしまった。
・・・愚問か。
ブラームスのいったことは何も間違ってはいないし、最もだ。全くもって食えない人である。
「はぁ〜・・・食えない人ですね、全く」
僕は心の声をため息とともに吐き出す。
「はっはっは! それはお互い様のようだがね」
それを笑い飛ばすブラームス。
「互いにメリットがある。そして今のところ目立つデメリットもない。ならばこそ気兼ねなく互いが互いを利用できる関係にあろうではないか」
一介の平民が公爵にここまで言わせる。ある意味で不届きなような気がするが。
僕側からの利用方法が固定されていることだけはあれだけど、それを補って余りある恩恵を受けている・・・はずだ。
「わかりました。とりあえず、会ってみるだけ会ってみて、様子をみさせてください」
この先のことを考えると、これは受けておいたほうがいい。カードが多ければ多いほど良しと昨日学んだばかりだし・・・。
「そうか! では早速・・・」
早々に、机の上にあったベルを鳴らすブラームス。
・・リィン・・・リィン・・・リィン。
するとそのベルは輪唱するように部屋の中を響き渡ると、デクレッシェンドしながら音が消えていった。どうやらあのベル、魔道具の一種のようである。
「あ、あの、詳しい打ち合わせとかは・・・」
僕はその早すぎる展開に待ったをかけ、詳しい打ち合わせを打診する・・・が ──
「それなら、君より先に少し件に当たっている先輩がいるから、心配するな」
『そんな無茶苦茶な・・・』
聞く耳持たず、どうやら先にそれに勤しんでいる先輩がいるらしく、その人に聞けと言うブラームス。
「失礼します」
「ああ、ご苦労。では、このリアムくんを娘のところに案内してやってくれ」
「わかりました」
そして執務室へとやってきたメイドさんに連れられ、僕はその場を後にしたわけだが・・・
・
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あれから、5分ほどが経ち、未だ廊下を歩き続けていたわけだが・・・。
「リアム様、到着しました。ここがミリア様の私室にございます」
僕を案内してくれていたメイドさんが、目的地に到着したことを知らせる。
「ありがとうございます。・・・あの、ノックしても?」
「はい。それで大丈夫でございます」
念の為入室の方法を確認し、ドアの前に立ってひとつ深呼吸する。
「スゥー・・・ハァー・・・」
そして僕は深呼吸を終えると、胸に一度手を当てて意気込んだ・・・のだが ──
「よしッ!いく・・・ッ!」
突然開くドアに、僕は後ろへ飛んで後退する。
「あ、あぶなッ・・・!」
僕は突然の出来事に混乱する頭を落ち着かせながらも、無事それから避難できたことに安堵する。しかし ──
「へっ?」
今度は、開いた扉の向こう側から何かが飛んできた。
「・・・ッ!」
僕は、それを回避するべく横に飛びのく。
「いてぇ・・・」
すると、回避し目の前に転がる飛んできたものの中から、うめき声が聞こえてきた。
「一体何が・・・」
僕は一瞬、何がなんだか理解できず、頭をかかえるが・・・
「── ッ!」
束の間、その扉の向こうから飛んできたものに驚愕する。
「アルフレッド!」
「んあ? リアムか? ・・・どうしてお前がここに」
そこにいたのは、なんと昨日喧嘩別れをしてしまったロガリエメンバーの一人、友人のアルフレッド・ヴァン・スプリングフィールドであった。
「大丈夫ですか!?」
すると今度は扉の向こうから、一人の少女が駆け寄ってくる。
「アルフレッドさ・・・ッ!」
そして駆けてきた少女、アルフレッドのお守り役であるフラジールも立ち尽くしていた僕をみて足を止める。
「どうして二人がここに・・・」
「それはこっちのセリフだ」
急に生まれるぎこちない雰囲気・・・しかし ──
「・・・ッ!アルフレッド様危ない!」
一呼吸置く間も無く、何かに気づいたフラジールがアルフレッドの前に立ち、何から守ろうとする。そして──
「ッ!ウィンドウォール!」
それに気づいた僕は両手を構え、魔力を集中して風の壁を作る。
『なんでこんなものが・・・』
そして、僕は扉の向こう側から飛んできたものに目を見張る。
「イスが飛んで来るんだ・・・?」
部屋の中から飛んできたもの、それは立派な装飾の施された椅子であった。
「・・・ガ・・ギギィ」
間一髪、なんとか間に合った僕の魔法はそれを跳ね返すことなく風の壁内にそれを閉じ込めてしまい、椅子は荒れ狂う風の中軋みをあげ次々と傷ついていく。
「や・・・やばい!」
そしてその豪華な椅子が傷ついていることに気づいた僕は、それが急に飛んでいかないようにかつ、素早く魔法を解除していく。
  ・・・カコン。
うまく調整された風で、ゆっくりと床に下された椅子。
『この椅子・・・いくらだろう・・・』
僕はその椅子をみて絶望する。だってかなり高価そうな椅子だったから・・・。
「助かったぞ、リアム」
しかし僕の内心は他所に、ひとまずアルフレッドから礼が述べられる。
「ありがとうございました。リアムさん」
そして一安心したのか、胸を撫で下ろすフラジールからも・・・。
「一体何があったの?」
僕は二人の言葉にとりあえず現実へと戻る。
「いやそれが、僕たちは公爵様の要請でミリア様の・・・」
そして、その疑問にアルフレッドが答えようとしてくれるが・・・──
「私の邪魔をするなぁー! ・・・お前達なんて嫌いだ!」
その言葉は部屋の中、一人息を乱し怒る少女の声によって遮られた。
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