アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

70 暗雲

「グギャギャ!」 

「何故だ?まだ距離はあったはずだろう」 

「ふえぇぇ・・・」 

 僕たちを睨みつけるゴブリンライダーたちを見て疑問を口にするアルフレッドにたじろぐフラジール。 

「ゴメンウォル兄・・・魔力が足りなくて感知が不安定になってたかも・・・というかこれ以上は・・・」 

「いや、お前はよくやってくれた」 

 その光景を見て謝罪するラナに労いを送るウォルター。ここに来て、感知を強めていたラナの魔力も一気に消費されてしまったようだ。 

「それにおそらく感知はミスっていない。ゴブリンは意外と賢い・・・おまけにあいつらは今キングの統制下・・・俺らを追い回して安心、もしくは疲れ切って立ち止まったところで奇襲しようとスピードを態と緩めて機を伺っていたんだろう」 

 ウォルターは今正に向かい合うライダーたちを見据え、出方を伺いながら推測を述べる。 
  
「スピードの対比からライダーはいないと踏んでいたが、奴らがいつも以上に狡猾であることを失念していた」 

 そして悔しそうに、歯噛みしながらこれからの対策を考え始める。しかし── 

『あれが・・・なんか思ってたのと違う・・・』 

 ウォルターの無念の声にももちろん耳を傾けていたのだが、僕はどうしても先ほどから気になるゴブリンの跨るモンスターに目をとられてしまう・・・だって、ゴブリンライダーの跨るモンスターが── 

『ウサギじゃん・・・でかい』 

 そう、それは先ほどまで僕たちが狩っていたフォレストラビットを一回りも二回りも大きくしたような大きなウサギだった。 
 おそらくゴブリンたちが僕たちとの距離を測れたのもあのモンスターのおかげだと思われる・・・多分だけど。 

「来たわね!たった三びき・・・しかもラビット種を使役する雑魚! これだったら私にも・・・」 

 しかし僕の疑念も他所にライダーたちに発破をかけていくエリシア・・・そして── 

「くらいなさい! ダストデビル!」 

 矢継ぎ早に、先手必勝と言わんばかりに魔法を詠唱する。 

「 ──ッ!」 

 エリシアの手元からびゅうびゅうと次々に生み出される風。その激流はやがてライダーたち包み込んでいき ──

「ギャッ!ギャーッ!」 

 ゴブリンたちを閉じ込めた旋風から時折発生する鎌鼬が彼らの体に傷を刻み、血をさらっていく。 
  
「グ・・ゲ・・・」 

 程なくしてゴブリンたちは跨っていたラビットから巻き上げられ、地に体を打ちつける。因みにゴブリンたちが跨っていたラビットはその大きさにみあい物理・魔法耐性も高かったのか、平気な顔して魔法を最後まで耐えた後にどこかへと消えていった。 

「ほら!簡単じゃない・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ」 

 息絶え、地に横たわるゴブリンを見て自信ありげに胸を張るエリシア・・・しかし彼女の息が少し荒いような・・・? 

「ふん!こいつのか弱い魔法でも息絶えるとはそこまで警戒する必要もなかったんじゃないか?」 

 そしてそれを横で見ていたアルフレッドも、その拍子抜けな結果に今までの自分たちの過剰対応について一蹴する。 

「違う!そいつはあくまで奇襲兼足止め用の先行だ!だからこいつらの部隊の本体が後ろから迫ってくるは・・・!」 

 しかしそんな彼らとは裏腹に、ウォルターは焦り忠告をしようとするが・・・ 

「グゲゲ」 

 倒れるライダーたちが来た少し距離のある後方から、先ほどよりも多くの鳴き声と共に複数の足音が聞こえてきた。  

「やばいッ!メイジがいる!!」 

 少し遠目に見える緑色の群衆の中から、一匹ほど毛色の違うフードを被ったものが確認できる。 
 近づくゴブリンの集団に各々反応を示すメンバーたち。 

「そんなもの、また速攻でやっつけてやるわよ!」  

「今度は僕も参戦するぞ!」 

 威勢を張る者に 

「はわわわわ〜」 

 戸惑う者。 

「グギャギャギャ」 

 そしてついに目の前まで迫ってきたゴブリン達も、これから始まる戦闘に息を巻く。 

『多分普通のゴブリンが15くらいにメイジが1・・・かな』 

 対峙するゴブリン達の数をとりあえずざっくりと数える。奥の方にはボロのフード付きのローブを着るゴブリンがいた。おそらくあれがゴブリンメイジであろう。 

「ここまで来ると逃げるのは無理か・・・」 

 ウォルターもどうやら対峙するゴブリン達に観念したようだ。 

「今回はメイジもいるし不用意に攻撃せず様子を見ながら持久戦にしたい」 

 そして先導者として、自身の経験から僕たちに指示を出す・・・が 

「ラナは魔力が少ないから弓で援護を、そして俺たちは・・・」 

「そんなまどろっこしいことしてられないわよ!」 

 突如ウォルターの作戦を無視し、興奮冷めやまないエリシアが横槍を入れる。 

「そうだな!僕も早く手柄を上げたい!」 
  
 そしてそれに追随するアルフレッド。それから二人はすかさず前に出て、短杖を構える。 

「ちょっと待て!中途半端なことをしたら・・・!」 

 直ぐ様二人を止めようと呼びかけるウォルター・・・しかし── 

「ダストデビル!」 
「グラベル!」 

 ウォルターの必死の呼び止めも虚しく、二人は魔法鍵を唱えゴブリンの群れに魔法を打ち込む。 

「グギャギャ!?」 
「ギャ・・ギャッ!」 

 二人から放たれる中距離からの魔法にゴブリン達が包み込まれる。ゴブリン達は自分達が吹き飛ばされないように踏ん張るので精一杯だ。 
 先ほどのゴブリンライダー達を倒したエリシアの魔法は切り傷を作ったが、主にそのダメージは落下し地面に叩きつけられたことが決め手であった。しかし今回の魔法は先ほどのエリシアの魔法に加え、アルフレッドが作り出した鋭利で小さな砂利も加わり、ゴブリン達の負うダメージがかなり増しているように見える。 

「こうなったらリアム!フラジールちゃん! 俺たちも援護射撃をするぞ・・・ッ!」 

 その様子に長期戦は諦めたのか、ウォルターも僕たちにそういうと旋風の中へ向けて弓を放ち始めた。 

「はわわ・・・」 

 突然の攻撃命令に更に戸惑いを増させるフラジール。そんなフラジールに、僕はあるお願いをする。 

「フラジール・・・もしよければエリシアの魔法にミストの魔法を乗せてくれない?」 

 それは水魔法の一種であるミストをエリシアの放つ風に乗せて欲しいということ。 

「・・・ッ! はい!」 

 僕の魔法指示に、フラジールの戸惑いもどうやら吹っ切れたようだ。フラジールは僕の願い通り、エリシアの魔法にミストの魔法を加えていく。 

「それじゃあ僕も・・・アイスパイル ×5」 

 フラジールが魔法を放ったとこを確認し、僕は空中に五つの魔法起点を作る。空中には魔法が発生する際に発現する起点の陣が5つ現れ・・・ 

「ライフル・・・一斉射撃ショット!」 

 空中に出現した陣から円錐に近い氷の杭がその合図と同時に、弾丸のように、回転を帯びて一斉に放たれる。 
  
 魔法練習ができるようになってから1年、水魔法の派生兼発展系の氷魔法は王都へ行ったカリナ姉さんの熱烈的な・・・献身的な指導のおかげで並列して魔法を行使できるまでになっていた。今の僕のスキル欄には新たに氷魔法が追加され、そのレベルはⅢ、テクニックは上級レベルで、魔力に加減を加えなければ余裕で最上級以上の威力が出せる・・・かも。とりあえず人種の枠をまだはみ出したくない僕は、操作可能の最大魔力で魔法を放つことをまだ試したことがない。 

「ギ〜・・・」 

 虚しく轟くゴブリン達の断末魔。 
 体に傷を刻み、弓で射られ、氷の杭に貫かれ潰される。更に風で閉じ込められたゴブリン達は逃げ出すこともできず、吹き荒れるミスト、そして打ち込まれた氷の杭の相乗効果で確実に体力を奪われる。 

 エリシアとアルフレッドが魔法を放って40秒ほどの出来事。僕たちはゴブリン達の呻きがなくなったのを確認すると、魔法を放つのを止める。 

「もう無理です〜・・・」 

 魔法を止めた瞬間に、その場に座り込むフラジール。この中で一番魔力の少ない彼女は、どうやらほとんどの魔力を使ってしまったらしい。 

「お疲れ様・・・よければこれ、後で飲んで」 

 僕は亜空間から一つの瓶を取り出し、彼女に手渡す。 

「ありがとうございます」 

 フラジールはそれを受け取り、探索前に僕が渡したポーションの入ったポーチの中にそれをしまった。 

 彼女に手渡したのは魔力マナポーション、魔力を回復するためのポーションである。 
 このポーションは他のポーションと違い制作にかなりの魔力を消費するため一際高価な品なのだが・・・ 、魔力値が異常な僕にはその制作もどうってことないが、先日彼女に高価な品を渡した時に少し考え今回は自重していた。しかしフラジールに魔法を指定してお願いしたのは僕だし、決して贔屓し貢いでいるわけではない。 
 因みに後で飲んでと言ったのはここに今、悲惨なゴブリン達の死体とそこから香る血の匂いが充満しているからである。ゴブリンの血の色は赤ではなく青と緑の中間のような奇怪な色をしているのだが、不思議とその匂いは人間や動物のそれと変わらない。その死体を尻目に一息つくメンバー達 ── 

「なんのことはなかったな! これならC地区に挑戦しても余裕だったんじゃないか?」 

 特に傷を負うこともなく呆気なく終わってしまった戦闘に軽口を叩くアルフレッド。 

「お前達・・・魔法強すぎだ」 
  
 そしてそれを聞き、ダーッ!っと息を吐き背伸びするウォルター。確かに一番魔力値の低いフラジールが座り込んでしまったとはいえ、8歳近くも年の差のあるアルフレッド達が広域の魔法を使い持続させていたことに驚くだろう。更に貴族のアルフレッドならいざ知らず、今回一番魔力を使ったのが一応平民に当たるエリシアだ。まあエリシアの自慢話から注釈を加えると、彼女のご先祖は一度多大な功績を残して一代限りの名誉爵位を賜ったほどの実力家系であるそうだが。 
 ウォルター自身は魔法が苦手でほとんどそれを使わないために、その溜息はなおのこと驚きと呆れが入り混じっていたように聞こえた。 

「・・・・・・」 

 因みにエリシアは、魔法の連続行使で疲れたのか下を向いて黙り込んでいる・・・僕も変な緊張感から解放された今、ゆっくり腰を落ち着け休憩したい気分だ。 

「よし・・・とりあえず今回は討伐部位だけを回収して早く撤退しよう。まだ他の集団が徘徊していないとも限らない」 

 しかし休憩も束の間、一度背伸びをしたウォルターは仕切り直すように次の作業を提示して行動に移ろうとする。 

「は〜い」 

 その休まらない心に僕も一度背伸びをし、締まらない返事をとる・・・が ── 

「ウォル兄! メイジがいない!」 

 緩んだ空気を瞬時に緊張させる一言。ラナは先の戦闘に参加せず、魔力回復に努めていたために率先して作業に移ろうとしていた。 

「── んなッ!」 

 その一言にウォルターはバッとゴブリン達の死体を見渡し、メイジの証ともいえるローブを探す。 

「おい、あんな地面の盛り上がり・・・最初からあったか?」 

 すると、ゴブリン達の倒れる奥の地面に一部可笑しな点を見つけたアルフレッドがそれを指摘する。 

「確かに・・・あんなのなかった気が・・・」 

 僕の記憶違いでなければ、確かにあそこにあんな不自然な地面の盛り上がりはなかったはずだ・・・いや、この辺はそもそも平地で絶対にそれはなかった。 

 ── ザッ! 

 盛り上がっていた土の一部分が崩れ、更に盛り上がり穴が開く。そして── 

「グゲゲ・・・」 

 崩れたその土山から、一匹のローブを着たゴブリンが現れる。 

「・・・メイジ!」 

 どうやらゴブリンメイジは僕たちが魔法を放った瞬間、土魔法で自身を埋め囲い防護、防空壕のようにして僕たちの魔法から逃れていたようだ。 

「ゲゲゲッ!」 

 すると僕たちがその光景に驚いていたのも束の間、ゴブリンメイジはすかさず手を翳し、死体となった仲間のゴブリン達の上に陣を展開する。 

「下がれラナ!」 

 それを見たウォルターから放たれる後退の指示。 

「── ッ!」 

 元々この手のことに敏感で反応早いラナは、その言葉を聞き素早く後退する。 

「クソッ!」 

 悪態と共に素早く弓を引く・・・しかし ──

「グゲッ!」 

 突如ゴブリンメイジの後ろから現れたゴブリンが、その矢を身を呈して防いでしまった。どうやらもう一匹、ゴブリンメイジと共に土の中に隠れていたゴブリンがいたようだ。 

「土の中にもう一匹いたのか!」 

 外してしまった矢に悔しそうに歯噛みし、再び新しい矢に手を伸ばすウォルター・・・だが ── 
  
 ギュルギュルッ ──・・・! 

 ゴブリンメイジの展開する陣が一瞬強い光を放ったかと思うと、その下に転がっていたゴブリン達の死体や血が陣の中に吸い込まれていった。それを見たウォルターは新しい矢に手を伸ばす事を止め、これから起こる出来事に備える。 
 ゴブリンメイジは通常、自分の周りに魔力による壁を形成している。先ほど弓を放ったウォルターは一射目の矢でそれを破り、もう二射目でトドメを刺すつもりだったのだろうが、もうそれも手遅れで次に備えた方が良いと判断したのだろう。 

「オークは力がある代わりに知能の低いモンスターだ・・・」 

 真剣な目で陣を見つめ、携帯する投げナイフに触れて状態を確認しながら僕たちにオークの説明を始めるウォルター。その陣の下からは、何やらブヨブヨした二つの太い物体が生えてきていた。 

「馬鹿で誘導し罠に嵌めやすい為に討伐ランクは下から2番目のEランク、しかしゴブリンメイジに召喚されたオークは別だ・・・ゴブリンメイジはゴブリンの中でも魔法が扱える分知能が高い。そしてそんなゴブリンメイジに使役されたオークの討伐ランクは・・・」 

 すると、空中に浮かぶ陣から生えた二つの物体が徐々に一つにまとまっていき、それが何かの下半身だと認識できるまでになった。そして ── 

「・・2つ跳ね上がってCランクだ」 

 その、ウォルターのつぶやきと共に、一気にスルンと陣から落ちてきた大きな塊は、地に触れると同時に ──ドスンッ!と地面を揺らし ── 

「ブォーーーッ!」 

 大きく鈍い咆哮を上げる。 

「ラナ!・・・皆を連れて先にセーフポイントまで行ってろ!」 

 咆哮を聞くと同時に、ラナに皆を逃せというウォルター。どうやら彼は殿を務める気らしい。 

「ウォルター?・・・まだまだ魔力は残ってるよ?」 

 僕は殿を提案するウォルターにふと引き止まり、その必要はないのでは?と疑問を返す。 

「お前達は今日はロガリエ・・・わざわざ初挑戦で危険を冒してまで怖い思いをする必要はないさ」 

 横目に、しかし諭すように「無理する必要はない」と口にするウォルター。 

「なぁに・・・オークは鈍足だし足して割れば1対1みたいなもんだ」 

 その目には決して諦めはなく、どうやらリヴァイブ送りになるまで足止めをする気もなさそうだ。 

「・・・それに俺はちょろまかして逃げるのは得意なんだ」 

 そしてウォルターはそう呟くと、不敵に笑ってみせる。 

「ねえウォルター・・・逃げる前に一発、魔法かまして行きたいんだけどいいかな?」 

 殺傷性の高い火属性は森の中ということもあり使えないが、先ほどのように別属性の魔法なら大丈夫であろう。ここが森や洞窟でなければ僕もゴブリンと遭遇次第火魔法で一掃していたし、それを生贄にオークを召喚されることもなかった。しかし二年前、あの時は不可抗力だったとはいえ同じ轍を踏むわけにはいかない。 
  
「わかった・・・やってみろ」 

 僕の提案を聞いてどこか諦めた様子でそれを許すウォルター。そういえば彼にはまだ僕の魔力量の話をしたことなかった。彼はマレーネの家の子であるし、信用も十分にある人間だ。今度打ち明けてみてもいいかもしれない。 

「ありがとう」 

   僕はチャンスをくれたウォルターに一言礼を言い、そして魔法の準備に取り掛かる。 

「ええーっと・・・アイスランス ×3、アースランス ×3」 

 先ほどは風中を飛ばすということもあり、太い杭に回転を加えて射出したが、今度はより鋭利に長く形作ることで貫通性を上げる。 

「おいおい・・・どこが一発だよ」 

 空中に形成される六つの槍を、まるで信じられないものを見るように眺めるウォルター。 

「セット・・・」 

 僕は槍の矛先をオークに向け、狙い構える。そして槍の射出合図を── 

「スピ ──ッ!」 

 しかし槍の射出合図である”スピア”の号令を取ろうとした瞬間 ──ッ! 

「血・・・血はどこ?」 

 先ほどから動きのなかったエリシアの方から、信じられない言葉が聞こえてきた。 

「さっきまであんなにいっぱいあったのに・・・」 

 虚ろな目で、何かを無くした子供のように辺りをキョロキョロとし始めるエリシア。 

「どうして?・・・どこにいっちゃったの?」 

 聞き間違いでもなければ、彼女は一体何を言っているのだろうか。 

「血を・・・私に血を・・・!」 

「・・・エリシアちゃん?」 

 それを同じく聞いていたウォルターも状況が飲み込めていないのか、様子のおかしいエリシアの名を疑問形で口にする。 

「もっと血を! 血の香りを!」 

 まるで何かに八つ当たりするように、地面に向かって大きく叫ぶエリシア。 

「エリシア!?」 

 その突然の変わりように僕は驚愕する。他のメンバーたちも信じられないものを見るように、固唾を飲んで彼女をみていた。 

「・・・・・・」 

 僕の呼びかけに僅かに反応したエリシアだったが、彼女はこちらを一瞥した後、すぐ様狙いをオークに変える。 
 そしてその一瞬の一瞥の瞬間、僕はエリシアのある変化に気づいた。 

『目が・・・赤い?』 

 そう、彼女の目がいつも以上に鈍く、赤い光を放っているように感じたのだ。普段はブロンドの髪に映える宝石のような透き通った赤い虹彩をしているのだが、今その目にはいつもの純粋さが失われ、ただただ血のように燃える真っ赤な瞳がそこにはあった。 

「血を ──・・・」 

 ゴブリンメイジを守るように立ち尽くすオークを見つめて呟くエリシア。 

闇の鎌ダークサイス・・・」 

 ふと彼女が何かを呟いたかと思うと、その手には黒い魔力が集まっていき、やがて自身の身長よりも大きい鎌を持っていた。 

「血を・・・ ── 見せてッ!」 

 束の間、オークへと突っ込んでいくエリシア。あんな魔法、彼女と魔法練習している時には見たことがない。 

「──ッ! 待ってエリシア! 接近戦は危ない!」 

 オークに向かっていく彼女を止めるため、必死に呼び止めようとするが ── 

「── あはッ!」 

 彼女は鎌の切っ先をオークに向け振り上げると、その左肩から右腰に向けて突き立て袈裟斬りする。 

「ブフォ・・・!?」 

 突如向かってきた自分よりはるかに小さい少女に傷をつけられたオークは、その痛みに驚きの鳴き声を上げる。 

「ほらッ! 血が垂れてるよ〜・・・もう一回ッ!」 

 するとそれを見たエリシアは満足そうに微笑むと再び鎌を持ち直し、今度は反対側から袈裟斬りしようとする・・・しかし ──  

「ッ! ちょっと!離してよッ・・・これじゃ血を出せないじゃない!!」 

 追撃を入れようとしたエリシアは、横から迫る彼女の全身をすっぽり包み込めるほどの大きなオークの手の内に捕まってしまった。 
 手に持っていた鎌は地面に落ちるや否や霧散していきやがて消えた。やはり切っ先が尖っただけの鎌で突き刺し切り裂いても傷は浅く、オークの分厚い皮膚の前ではなんら大きなダメージにもならなかったようだ。 

「エリシアッ!」 

 僕は捕まってエリシアを助けるため、オークの隙をついて魔法を射出しようとするが・・・ 

「ブォ・・・」 
「グゲゲ」 

 咄嗟の判断も虚しく、ゴブリンメイジに操られるオークはエリシアを握った手を前に出し彼女を盾にしてしまった。 

「ゲッ! ゲゲゲゲゲッ!」 

 オークの後ろから、まるで「その魔法を今すぐ下げろ!」とでも言うかのようにゴブリンメイジが声を上げる。 

「リアム・・・魔法を下げろ・・・」 

 それを聞いたウォルターも、僕に魔法を消すように命じる。 

「わかった」 

 僕は仕方なく自身の魔法を仕舞い、敵の思惑通り言うことを聞く。すると ── 

「ブォッ!フォッフォッ!」 

 それを確認したオークは、まるで僕たちに前に出てこいとでも言うかのように、エリシアを掴む反対側の手で僕らを挑発するのであった。

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