アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

66 挑戦の朝

── エリアB挑戦当日。

「おはよう」

「おはようリアム!」

「二人は?」

「二人ならとっくにダンジョンに行ったよ?ものすごく張り切ってた!」

 学校も夏休暇へと入り、遂にセーフエリアの外へ、そしてモンスター狩りへと向かう僕は、ダンジョンへ向かう前に” 森の木陰の薬屋 ”へと顔を出す。 

「なんかいつもより嬉しそうだね?レイア」

 いつもより少し明るいレイアに向けた僕の言葉に、レイアは「そう?」と少し惚けてハニカム。

「えっとね、昨日父さんと母さんが帰ってきたの!」

「カミラさんとエドガーさんが?」

 カミラとエドガー。この名はレイアの両親の名前であり、僕がマレーネの店に初めて訪れた日に、父さんがマレーネに尋ねていた二人である。

「うん・・・あーあ。私もダンジョン行きたかったなー」

 すると突然、残念そうに天井を見上げて呟くレイア。

 レイアの両親であり、僕の両親とも親しいらしいエドガーとカミラ・・・しかし実を言うと、僕は未だ彼らに面と向かって会ったことがないのだ。
 というのも、どうやらレイアの父であるエドガーは薬物学者であり、珍しい薬草の研究や物資の調達を速やかに行なうためにダンジョンのとあるエリアにログハウスを建て、そこで暮らしているらしい。
 また母であるカミラは元戦闘職で、薬物研究する夫のサポートのために共にそのログハウスで暮らしており、アース側のこの家に戻ってくるのは月に一度あるかないかということだ。 
 そして僕がそんな彼らにこれまで会う機会が一度もなかったのかというと一度だけ、僕が彼らに会えるはずの機会があったのだが・・・その話はまた別の機会に。

「レイアがダンジョンに行ける様になったら一緒に探検にいこう?」

 それから少し寂しそうにするレイアに、僕は自分のできる限りの提案をする。

「うん!約束!」

 そんな僕の言葉に嬉しそうに相好を崩す彼女の笑顔もまた、二年前から変わっていない。


▽      ▽      ▽      ▽

 必要な物を購入し、森の木陰の薬屋を後にした僕は、テールの建物の前へとやって来た。

「「おーっすリアムーッ!!」」

 すると息ぴったりに僕に呼びかける重なった声。

「おはようウォルター、ラナ」

 その声の主は、カリナ姉さんの親友にしてレイアの姉のラナ、そして僕がダンジョンに入った初日、入場カウンターで出会ったあのウォルターである。

「他のみんなは?」

「ああ、お前の友達ならあとはエリシアって子だけだ。後の二人は買い忘れたものがあるとかで少し外している」

 僕の質問にしっかりと答えてくれるウォルター。そして何故、今日この二人が僕たちを待ってダンジョンの前にいるのかというと、経験のあるこの二人に先導役を頼んだのだ。
 そして実はこのウォルター・・・なんと驚き、彼はマレーネの孫、つまりラナとレイアの兄だった。ある日いつもの様にポーション作りを学びに行き、彼が店番をしていた時はかなり驚いたものだ。

「エリシアか・・・ん?」

 ウォルターの答えに、とりあえず彼女が来るまで待とうと思考する僕・・・しかしその視界の先に、ふとある光景が映る。

「すぅ・・・すぴー・・・」

 回廊の端にあるベンチで横になり、寝息を立てる一人の少女。

「おーい・・・エリシアー・・・」

 僕はベンチにゆっくり近寄ると、そんな少女を起こすべく彼女の名前で呼びかける。すると──

「うーん・・・あれ?どうしたのリアム?」

 僕の呼びかけに反応し、ベンチで寝ていたエリシアが目を覚ます。

「どうしたのって・・・エリシアこそなんでこんなところで寝てたの?」

 しかし起きて間も無く、そんな的外れな質問をするエリシアに、僕は質問に質問で返す。

「・・・・・・」

 僕の質問の意味が理解できなかったのか、束の間の無言の後にキョロキョロと周りを見渡すエリシア。そして ──

「あっ・・・!」

 どうやらようやく、エリシアは自分の置かれていた状況を理解した様である。

「えっと、今日の探索が楽しみで・・・それで朝の六時からここで待ってたんだけど・・・」

 どこか恥ずかしそうにその理由を説明するエリシア。

『なるほど・・・つまり楽しみすぎて早く来すぎたと』

 現在の時刻は丁度八時を少し過ぎた頃。そして僕たちが事前に約束していた集合時間はその八時である。

「まあ、アルフレッドたちも何か買いに行ってるらしいし、気にすることはないよ」

 そして理由を聞いた僕は、なるべくエリシアが恥ずかしがりそうなその内容を避け、彼女を励ます。しかし ──

「いや・・・その、そういうことじゃなくて」

 僕の気配りも虚しく、何故か更に顔を赤くしてしまうエリシア。すると ──

「ん?なんだお前たちももう来てたのか」

 道ゆく冒険者たちの雑踏から聞こえてくる、聞き覚えのある声。

「さっきね、忘れ物は買えた?」

 僕はつい先ほど着いたばかりだということを説明し、アルフレッドへ返事をする。

「まあな」

 そして僕の返事に、アルフレッドも満更ではなさそうな返事を返す。しかし──

「ところで何故そこの馬鹿者は茹で上がった様に真っ赤なのだ?」

 唐突に指摘される放置してしまった彼女の存在。

『ヤバい・・・忘れてた』

 僕はエリシアと話の途中だったことを指摘され思い出し、直ぐに彼女の方へと振り返る。すると ──

「リアムのバカーっ!」

 プルプルと震えていたエリシアが更に顔を真っ赤にし、遂には走り出して行ってしまった。

「ゴメン、ちょっと追いかけてくる」

 僕は遠ざかるエリシアの背中を追いかける。そしてこの日、僕が彼女を連れ戻すまでに数十分かかってしまった。まさか出発前に問題が起きるとは・・・。
 結局、追いついて三十分ほどの説得と謝罪の末にようやく皆の元に戻ることができた。
 因みに説得の際、エリシアにそれとなく初めに顔を赤くしていた理由を尋ねると、どうやら僕が彼女の寝顔を見てしまったことが原因らしい。 
 配慮が足りなかった僕も僕であるが、やはり乙女心は難しい。

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