アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜

Blackliszt

51 預かり知らぬ契約

「ケイト・・・いくら彼が才気溢れる子でも、私は彼にこんなに早くから特別措置をどんどん適用していくことは反対だ」 


 アランはただただ真っ直ぐな目で、今回の魔法に関する特別措置を発案、進めてきたであろうケイトを見据えて僕の教育方針について訴えていた・・・・・・しかし── 


「遺憾です。限りなく遺憾ですよアラン」 


 それが単なる思い過ごしだとでも一蹴するように、ケイトがアランに遺憾の意を示す。 


「皆さんも、私がその辺りも考えずにリアムさんに措置を適用したと思われているのなら、それはとても遺憾です」 


 そしてアランに追随していた他の教師陣に対しても、ケイトは遺憾の意を示し始めた。 


「私がそのように配慮に欠ける教師だとお思いで?」 


 きっぱりと、堂々と自分がそんな考えなしで動く人間ではないと豪語するケイト。しかし── 


「先輩・・・」 


「お前がそれを言うのかよ」 


 なぜかそこで、ケイトのここぞという台詞はうまく決まらない。 


「お前確かこの間も、『魔法陣学の未来と発展のためです』とかいって校庭に馬鹿でかい陣を作るために魔石粉マジックパウダーをばら撒いたくせに、パウダーに魔力を混ぜるのを忘れて結局、相当量の魔石粉が風に運ばれて無駄にしてたじゃねぇか・・・」 


 ジェグドから告げられるケイトの失敗暴露話。 


「うっ・・・」 


 ケイトはジェグドの話す凡ミス暴露話に、後ろめたそうに顔をしかめた。 しかし ──


「・・・コホンッ!まあしかしそれはそれ、これはこれです。全く持って今回の件とその件は関係ないのでその件はセーフです、セーフ!」 


 なんとか言葉を絞り出し、かなり無理のある言い訳でその場を乗り切ろうするケイト。 


「とにかく!アランの懸念のおおよそについては、こちらで学長先生と話し合っているのでご心配には及ばないと思います」 


「・・・どういうことだ?どうせここまで話したんだ。それが本当のことならば私たちもリアムくんの担当をこれから交代で担う訳であるし、話せケイト」 


 自身の懸念が杞憂であると述べるケイトに、アランは説明を求める。 
  
「これはオフレコの話だったのですが・・・・・・まあ良いでしょう。リアムさんのその件については、一先ず安心と言っていいです」 


 アランに説明を求められたケイトは、「これはできる限り内緒だったのですが・・・」と前置きをしつつも、その説明を始めた。 


「あまり他言はしないようにと言われていましたが、必要に応じては話して良いと言われていたので話しますと、リアムさんの特別入学が認められた時に、彼は公爵様によってある程度の身分の保証がなされているのです」 


「・・・え?『なにそれ初耳!』」 


 僕はそのケイトのまさかの発言に驚きを隠せない。 


「どういうことだ?」 


 ケイトの説明に初耳だった僕だけでなく、一緒にそれを聞いていたアラン達までもが理解できていないようだった。 


「正確には公爵様に保証していただけるように学長先生が便箋を図った・・・と言うのが正しいのですがね、スクールに通う現在、彼は公爵家の使用人見習いとして雇用登録されています。私はリアムさんの担任であるので、そのことを学長先生から聞かされていました」 


「はぁああッ!?」 


 その更なるケイトの爆弾発言にジェグドが驚きの声をあげ、どうやら他の教師一同も驚きを隠せないようであった。 


「もちろんそれこそが特別措置の大元であり、かつ秘密裏の内容で本人にも了承を得ていないのですが、 


 1.契約者当人には公爵側の命令に対する一般的な拒否権を与えて縛られないものとする 


 2.この契約は契約者の蛮行を許すものではない 契約者が罪に問われる犯罪行為に及んだ または それが発覚した時点でこの契約は無条件的に破棄されるものとする 


 3.この契約は一方的にお互いが破棄できる ※ただしスクール在籍間のみに限り 契約者が契約条項第2に抵触しない場合 公爵側からの一方的な破棄は見送る 


 という実質、公爵様の威光のみを貸し与えるようなかなり太っ腹な内容です」 


 正に驚きである。 


『そんな無茶苦茶なことを公爵様が保証してくれてたの!?・・・現実味が無さすぎる・・・』 


 僕はそんな意味のわからないいつの間にか交わされていた契約内容に、戸惑いと驚きが止まらない。 


「ん・・・?でもそれって実質的な雇用契約に近いものですよね?・・・リアム君本人が預かり知らないことのようですけど、どうやって彼側の合意を手続きしたんですか?」 


 当然の疑問である。一緒にその内容を聞いていたフランは、そんなツッコミどころ満載な契約に疑問を投げかける。もちろん、僕もそんな契約に一度たりとも合意した覚えはない。 


「ああ・・・私が聞いた話では確か、リアムさんが入学試験を受けられた日にご両親様がサイン、本人サインは『彼が使ったティーカップについていた指紋?というものから拇印を再現して押しといた、どう?凄いでしょ?』と学長先生が自慢げに話していました」 


 そんなことをさも当然のように説明するケイト。 


『あの時かーっ!なにやってんだよ学長先生!それ軽く犯罪だよ!ていうかこの世界にそんな技術があるの?何気に凄いよ!』 


 確かにそれが可能であったであろう自身の行動に幾許かの心当たりがあるし、両親が僕の試験中にそんなことを話し合っていたなんて驚きだ。 


「しかしそれって、本人が知っていなければいざって時に『ヘッヘッヘッ!こう見えて俺は公爵様の関係者で、俺に手を出すってことは公爵様に手を出すことと同義なんだぜ!』と公爵様の威をかれないのではないですか?」


 その犯罪同然の行為を聞いた後に何故か何もなかったかのように中々に酷い質問を続けるフラン。 


「フラン・・・つまりそれは逆をとればリアムさんが見えないように工作さえすれば公爵様のを威光使い放題・・・ということになりませんか?貴族や名家に属する方達ならまだしも、一般の平民にとってそれはとても過ぎた力なのですよ?」 


「あっ・・・なるほど〜・・・」
 『とんだ風評だ・・・』


 その契約の1番の当人であろう僕の反応レスポンスは他所に、ケイトとフランが話を進めていく。 


「私が今回このことをリアムさんも含めてお話ししたのは一教師として、彼が少なくとも現在はそのような蛮行に及ばない生徒であると判断したからです。もちろん、彼にまだこの責任は重すぎるので私も担任としてフォローをしていくつもりですが・・・」 


「しかしそれでもやはりこのように他の生徒たちから目立つようなリスクを取る必要はないのではないか?それにあまり言いたくはないが、公爵様と関係があると知って藪をつついてくる馬鹿者がいないとも限らない」 


「リアムさんの学力は少なくとも既に中等部クラス程度にはあります。それはアランが一番よく知っているでしょう?どうせ学問でリスクが同行するのですから、そこに魔法が加わったって同じようなものです」 


『いや、それは全然違うんじゃない・・・?』 


 続けて繰り広げられているアランとケイトの会話に、もちろん僕は心の中でツッコミを入れる。 


「それにリアムさんが魔法の練習をしてアース側のスクール魔法練習場が全壊・・・なんてことになるより大分目立たなくて良いと思いますが、違いますか?」 


 しかし僕の心のツッコミも束の間、その全てを蹴散らす元も子もないセンテンスを放つケイト。 


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「・・・・・・なるほど、大体の言い分はわかった」


『わかっちゃったの!?』


 そして数秒・・・ケイトの言葉を理解したと告げるアランに、僕の心のツッコミは止まらない。


「つまりその話では、リアムくんがアース側のスクール魔法練習場を破壊する可能性があるということだが、それはつまりビッドさんを除くと、我々が行使できる最上級魔法に匹敵する魔法を使用するということになる。ならばケイト、お前がそこまで懸念するリアム君の魔法の力・・・見せてくれないか?」 


 ケイトの発言からしばらく、静まり返っていた場を切り開くように口を開いていくアラン。 


「リアム君も、どうだろう?」 


 それから続けて、アランは僕にも確認をとる。 


「わかりました・・・・・・いいでしょう。ということでリアムさん!」 


 そしてその要請にいち早く答えるケイト。


「は・・・はい?」 


「ここはオブジェクトダンジョン。ここで負った傷はダンジョンを出れば治りますし、最悪死んでも生き返ります」 


 僕の曖昧な返事に、ケイトはなにやらとても不穏な前置きを始める。 


「それにここら一帯はスクール専用の演習地。セーフエリアからも少し出たここからあちらの森までは他の探索者や冒険者はいませんし、更地にしてしまっても特殊な魔法道具を使わねば傷ついた自然は一夜で元通りです・・・」 


『へぇ〜、それは知らなかった。思わぬ新情報だ・・・・・・じゃない!』 


 ことごとく判明する新情報の一つにダンジョンの神秘が垣間見えた瞬間であったが、僕はなんとか想像から現実へと戻ってくる。 


「先生・・・?あの、僕は意識して魔法を使ったことはありませんし、そもそもそんな大きな魔法を使う必要性は・・・。ましてや更地なんて言い過ぎですし、まずはロウソク程度の火を出す魔法でも目指して少しずつ練習を・・・・・」 


 僕はそんな不穏な情報を連ねるケイトに、いきなりそんな魔法を目指して試運転する必要はないのではないか・・・と打診する。しかし── 


「さあリアムさん!今こそあなたのその眠れる才能を解き放つのです!あの森を更地にしてしまいなさい!」 


 打診は全くもって意味がなかった。ケイトはその打診を完全にシャットアウトし、まるでどこかの艦船主砲の発射を指揮するように、堂々とその手を眼前に広がる森へと向けていた。そして── 


「では私は念の為、演習場に残っている生徒たちを集めてきますね」 


 そうしてビッグマウスを放ったケイトは、僕たちが何か異を唱える間も無くさっさと川や丘、森の手前の方まで散らばる生徒たちを集めに行った。 


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 今日は口にすることのできない感情の起伏が激しい。 


『解き放つのです!じゃないよ!そんな大規模な魔法って想像できないし、そもそもそんな魔法を使う必要性がどこにあるっていうんだ!』 


 僕はケイトのお巫山戯の域に達しているのではないかと思われる発言に、更に内心で文句を連ねながらも遠ざかっていくケイトの背中を眺めながら頭を抱える・・・すると── 


「リアム君、昔からケイトは自分の興味あることとなると、ああやって暴走しがちなのだ。大目に見てやってくれ」 


 抱えていたの頭の上に突如、何かが置かれた感触を感じとった僕は顔を上げる。
 すると今も「さあ皆さん!危険ですからこちらの方に集まってくだっさい!」と演習場に残っていた生徒たちをかき集めるケイトを呆れた表情で眺めながら、僕を諭すアランがいた。 


「そしてすまないのだが私も、念の為にこの目でしっかりと君の実力を確認しておきたい。さすれば私は教育者としてきっと、君の将来のためとなる正しい判断と指導が提供できるというもの・・・・・・だから私にも、君の今の実力を見せておいてくれないか?・・・よろしく頼む」 


 そうして僕は、何故かこれまで行使したこともない魔法を訳のわからない期待と検証のために、魔法演習の先生総出の前で実演する羽目となった。 

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