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41 体験授業 Ⅲ

 ビッドのプチ授業の後、アルフレッドとフラジール、そして息も整ったエリシアと共に薬物学の体験授業を終え、僕はその三人と次に取る体験授業の相談をしていた。 


「後1、2教科は体験できるのではないか?」 


「そうだね・・・まあ、僕はもう一つは体験する授業を決めているんだけど・・・・・・」 


「そ・・・そうなんですか?」 


 僕は三人に既に一つ、受ける体験授業が決まっている旨を話す。 


「うん、僕は魔法陣学の体験授業を受けるよ・・・・・・」 


 しかし、その言葉は文末に近づくにつれ、どんどん元気が無くなりしぼんでいく。 


「・・・・・・なるほどな、では我々もそうするとしよう」 


 そして僕のそのなんとも言えない表情に、アルフレッドとフラジールは何かを察し、同情しながらそう言ってくれる・・・・・・だが約一名、次の体験授業の相談も他所に、心ここに在らずな少女がいた。 


「もう・・・マンドラコラは見たくない・・・・・・」 


 どうやら、先ほどの体験授業で起きた出来事が頭の中でフラッシュバックしているようだ。 
  
「大丈夫ですか?・・・エリシアさん」 


 そんなエリシアに、人見知りながらも、その素はとても優しく気配り上手であるフラジールが声をかける。 


「だ・・・だいじょばないかも・・・・・・」 


 しかし、そのフラジールの気配りも虚しくどこか遠く見つめるように、エリシアは彼女らしくない返事をする。 


 ──因みに、薬物学の体験授業の内容は、実践的にマンドラコラから解毒薬を作ってみようという趣旨のもので、できた解毒薬は各自持ち帰ることができるという中々子供心を掴む内容だった。 


 マンドラコラは手を魔力で包み、鉢から引く抜かなければならない植物であり、素手の状態でそれに触れれば、叫び声をあげたり、暴れたりするのだが・・・先ほどのトラウマから、魔力操作を誤り素手同然でマンドラコラに触れてしまったエリシアは、言わずもがな・・・・・・である。 


「フンッ・・・・・・先生も魔力操作ができない生徒は無理をしなくていいと言っていたのに、見栄を張るからそうなるのだ」 


 そのアルフレッドの言葉に、どこか犬猿の仲っぽいエリシアも彼に噛み付くことができず、歯噛みをしながらも俯き、黙り込んでしまった。 


「・・・まあ、それでも諦めずに挑戦して、いつか克服できるとかっこいいかもね」 


 そんな二人の間に入り、僕はエリシアに助け舟を出す・・・すると── 


「!・・・・・・そうね!頑張って克服してみせるわ!」 


 僕の助け舟にいち早く反応し、早々に復活してみせるエリシア。 


「じゃあ、早く次の授業にいきましょ!」 


 そしてエリシアは「ほらほら」とアルフレッドとフラジールの背中を押して、急かし始める。 


「ふえぇぇぇ・・・!?」 


「こら、押すな!危ないだろ!」 


 急に背中を押されたアルフレッドとフラジールは、それぞれ違う反応を見せる。 


「ほら、リアムも!」 


 そして今度は、そう言って僕に手を差し出すエリシア── 


『カッコイイという言葉で立ち直るのがエリシアらしいというか・・・・・・』 


 少女に対して出したちょっと的外れな助け舟に反し、急に切り替えそう意気込むエリシアを見て、僕はなんだか少し元気をもらえた気がした。 




▽   ▽   ▽   ▽ 


「本日は、皆さんに基礎魔法陣についてご説明したいと思います」 


 そう言って授業を始め、黒板に何かを描き始めるケイト。そして── 


「誰か、この魔法陣についてご存知の方はいらっしゃいますか?」 


「「「「・・・・・・」」」」 


 しかし、そのケイトの問いかけに、挙手し答えるものは誰もいない。 


『・・・誰も知らないの?』 


 既にいろんなところで悪めだちをし、なるべく目立たないようにとそれについて知っていたのに手をあげなかった僕は、妙な驚きに包まれながら思わず周りを見渡す。すると── 


「ではリアムさん、答え合わせをお願いします」 


 ケイトが突然、その答え合わせの人柱に僕を指名してきた。 


「・・・・・・はい?」 


 僕はその突然の指名に、キョロキョロ周りを見ていた視線をケイトの方にスッと移し、とても間の抜けた返事をする。 


「(とぼけてもダメですよ?弟思いのカリナさんから、リアムさんについては色々と聞いていますから)」 


 僕の耳元で、普通の聞こえ方とは少し違った直接的・・・・・・まるでイヤホンを通したようなケイトの声が聞こえてきた。 


「!・・・な・・・なんで・・・・・・」 


 僕はその違和感のある音の聞こえ方、あるいは、昨日の今日でカリナ姉さんから色々聞いているというその言葉に戸惑ってしまい、ケイトの方をハッと更に見つめながら、そんな驚きを呟く。 


「(これは私のオリジナル魔法陣の一つで、発動すると精神干渉系の簡単な魔法で私の考えを読み取り、一方的にですが、指定した相手の耳に直接風魔法の派生系である音魔法で隠密的に語りかけるものです・・・どうです?すごいでしょ?)」 


 他の生徒たちには聞こえないよう、魔法陣を通してそう語りかけてくるケイトは、僕に何気なく自身の指につけているリングを示唆する。 


『なにそれ凄い!・・・・・・欲しぃ』 


 その、ものすごく可能性を感じる魔法陣のリングに対し、僕はついそんなことを思ってしまうが・・・・・・後になって思えば、カリナ姉さんとの秘密の歓談、おそらくただ驚かせたかったケイトの行動に、この反応はきっと正しくはなかった。 


「どうかしましたか?・・・できれば早めにお願いします」 


 そんな自分で指名し、秘密裏な会話を持ちかけた当人であるケイトのその理不尽な言葉に、僕は仕様がなく、ステータスの魔石にその魔法陣が発現した時に、母さんから教えてもらったことを思い出しながら、基礎の魔法陣について答える。 


「はい、結構です。大変素晴らしいですね」 


 そして無事、それらの図が示す内容について答えた僕。 


「なんでお前は皆が知っているようなことは知らないくせに、そんなことだけは知っているんだ?」 


 すると、隣に座るアルフレッドが小声でそう僕に話しかけてくる。 


「あれ?アルフレッドって魔法陣は使わないの?」 


 これは、失敗してしまったものの、入学式の日に高度な魔法を行使しようとしたアルフレッドが、当然ながら、魔法陣を使うことができるのではないかという、僕の勝手な先入観によるものだ。 


「魔法陣を使うことはできるといえばできるのだが、俺の場合、スプリングフィールド家に伝わる魔法陣を覚えているだけで、実際の陣のメカニズムに関しては全くもってど素人だ」 


 そんな僕の質問に、やれやれといった感じで答えるアルフレッド。 


「それに通常、他のスクールで魔法陣学は中等部から学ぶ科目なんだ・・・・・・だから基礎の魔法陣の理論に関しても、簡単にその理論を理解することは難しい・・・・・・なのにお前という奴は全く・・・」 


 そして、それが一般的には当然であるという見解の付け足して、皮肉を込めながらも教えてくれる。 


「えっ・・・それって・・・・・・」 


 しかし、なぜこのスクールで初等部から魔法陣学が学べるのか・・・毅然と教壇に立つケイトを見直して、なんとなく察してしまう僕であった。 


「巷では既存の魔法陣が流通し、皆さんはその魔法陣をなんの疑問も持たずに使っている方も多いのではないでしょうか?」 


 すると、ケイトが問題提起から授業の続きを始める。 


「しかし、それを使用することと理解することは別のこと。この授業では、若いうちからその魔法陣の構成に迫り、文字と図形で魔法を体現する神秘に没入、いては、初級魔法程度には、即興でオリジナルの魔法陣を作れるようになることを目指します」 


 中々に壮大な計画を語る──。 


「ですので、その基礎となるこの魔法陣は皆さん、しっかりと覚えておくように」 


 そして、ケイトは本件に関する内容を綺麗に締めた。しかし── 


『あれ?・・・でもそれって・・・・・・・』 


 ここで、僕の中で一つの疑問が浮かぶ。 


「先生、質問をよろしいでしょうか?」 


 すると僕がその一つの疑問を抱く中、教室で一緒に体験授業を受けていた一人の少年が手を挙げる。 


「はい、よろしいですよ。どうぞ」  


 眼鏡を掛けた、いかにも勉学の虫のようなその少年の質問を、ケイトはすんなりと受け入れる姿勢を見せる。 


「あの、つかぬ事をお聞きしますが・・・この内容って、普通、魔法陣学の一番最初にするような授業なのでは?」 


「?・・・確かにそうですね、それで?」 


「今回の授業はあくまでも体験授業ですよね?あの・・・その・・・」 


 しかし勇気を出し、ケイトの授業に対して意見を述べるが、「それが何か問題でも?」と毅然と受け答えをするケイトに、その先は言いにくそうに口ごもってしまう男子生徒。 


『その気持ち、凄くわかる』 


 そんな男子生徒に、僕もなぜか他人事のように思えず、遂、同情してしまう。すると── 


「いいのです。自分で調べ聞き、学ぶこともまた学問なのです」 


 急に諭すように、しかし胸を張ってそれらしいことを言うケイト・・・しかし── 


「・・・・・・それに皆さんは魔法陣学の素晴らしさに見せられ集まったいわば未来の同志ですので、少し道の外れた同士とはこれくらいのリーチはあっても問題はないでしょう(ボソッ 」 


 何か良からぬ考えをボソッと付け加えるケイト。 


『『『『絶対こっちが本音だ・・・』』』』 


 恐らく教室中の誰もがそう思ったことだろう。魔法陣学に対して時々見せるケイトの、そんな謎の熱が籠った対応には、しばしば、教室の一体となった雰囲気を感じることができるから不思議である。 


 ・・・ 
 ・・・・・・ 
 ・・・・・・・・・ 


 果たして、この教育方法はよろしいのだろうか・・・・・・。 


 因みに、後日談として僕は魔法陣学を当然のように履修したのだが、一応、始めの授業で基礎の魔法陣についての紹介はあったものの、その詳しい解説はせず、解らない生徒に関しては、他の生徒に聞いたり、自分で調べたり、どうしても理解できなければ別途個別に聴きにくるようにというハードなアナウンスを経て、次の内容へと移っていった。 


 一番最初の教えねばならぬ基礎を自分で学ばせると言う狂気そのものの所業とスタンス、その問題ありありな発言をするケイトに対し、この先について僕は一抹の不安を覚えた。 

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