アナザー・ワールド 〜オリジナルスキルで異世界とダンジョンを満喫します〜
32 暴走
入学式の後、僕はスキルについて一つの疑問を抱いた。
── その疑問とは、僕の持つスキルの一つ《自動翻訳》である。この世界に来てからかなり重宝しているであろうこのスキル。このスキルは、その翻訳機能が発動した時、思考を邪魔しない程度になんとなく発動していることを知覚させてくれる。
・・・つまり、何が言いたいのかというと、このスキルが自動的に発動した時僕は魔力を使っているのではないか、もしくはそもそもスキルには魔力を消費せずに使うことができるものがあるのではないか、という仮説だ。
僕は今までスキルと魔法を完全に混合していた。全てのスキル発動において、魔力が必要なのではないかと・・・・・・しかし ──
実験的に意識して、『翻訳・・・翻訳・・・』と念じ、いつも感じる感覚を呼び覚ます。それから僕が、『自動翻訳が発動しているな・・・』と感じたタイミングで、ステータスを念じて開いてみることにしたのだ。
すると、案の定ステータスボード上の魔力は、一切減ってはいなかった。
『ということは・・・』
そして僕は、その時点で一か八か、更なるExスキル《隠蔽》の発動を試したのだ。すると ──
「成功だ・・・」
成功、してしまった・・・・・・。
僕が《隠蔽》を唱えた時に想像したのはユニークスキルから下のスキル名欄のみを隠したステータスボード。
──そして、確かにステータスボード上の魔力に変化はなく、ユニークスキルから下が消えていた。
「隠蔽解除」
それから、念のため解除も試しておく。すると、隠れていたスキル名欄と称号欄が現れていた。
『これならいける・・・!』
現在、僕のステータスボードからはユニークスキルより上のスキル名欄、称号欄、Exスキルから《隠蔽》、スキルからは《精霊魔法》のみを隠し、幸運値表示を書き換え、魔力と魔法防御も平均値より導き出した適正な数値に書き換えてある。
ちなみに余談であるが、母さんに事前に質問したところ、僕が今まで使っていた唯一魔力を消費していそうなステータスの魔石については既にギルドがステータスの魔石の魔力プロセスを公表していることがわかった。
どうやら、ステータスの魔石は基本大気中の薄い魔素を集めてその内包する魔法を発動するようで、大気中の魔素不足の時に限り使用者の魔力を使い発動するような魔法プロセスで構成されているらしい。
また、とりあえず今回は賭けでスキル使用したが、自ら危険に飛び込む必要はこれ以上今はないため、残りのスキルは魔力の自己認知、ある程度操れるようになってから使用しようと考えている。
↓ーーーーーーーーーー
僕はこっそりとケイトに書き換わったステータスボードを見せる。
「・・・!・・・・・・はい・・・結構です」
僕のステータスを確認したケイトはそれを確認した後、一瞬意識を手放しそうな顔をする。しかし、どうやら彼女は直ぐに頭の中の世界から現実へと戻ってきたようだった。
「リアムさん・・・」
すると、突然真剣なトーンで話しかけてくるケイト。その声に僕は思わず身構えてしまう。しかし ──
「リアムさん・・・是非、自由科目選択の際は魔法陣学を履修してください」
他の生徒には聞こえないように、小さな声で僕に話しかけるケイト。
「へっ・・・?」
何を言われるかわからないと身構えていた僕は、そんな彼女の言葉に動揺する。
「是非・・・是非!魔法陣学を履修しましょう!」
すると、一度では帰ってこなかった僕の答えを引き出すべく、ケイトが先ほどよりも気持ち強く、僕の両肩を握ってそんな勧誘をしてくる。
「ええっと・・・なぜですか?」
僕はそのケイトの意図がよくわからず、思わずそう聞き返す。
「?・・・なぜって・・・」
その僕の質問に、ケイトは「何をいってるの?」と言う如く、不思議そうな顔をする。
「なぜってそれは・・・、あなた、スキルに《魔法陣作成》をお持ちではないですか」
そう当たり前のことを語るように話すケイトの顔は、徐々に先ほど講義を脱線させた時に見せたような恍惚とした表情に変わっていく。
「そのスキルを取るのにどれだけの勉学を納めないといけないと思っているのですか?・・・それにそんな優秀な方でもそのスキル獲得をできる方とできない方が別れるような神聖なスキル・・・それをまさかあなたがその若さで習得しているとは・・・」
『ケイト先生?・・・もしかしてこの人、専門は魔法陣学じゃなくて魔法神学とか言う謎の学問だったりする・・・?』
新しい魔法陣を作成するだけのスキルであろうこのスキルに『神聖』とまで言って退けるケイトに、僕はそんなダジャレのような失礼なことを考えてしまう。どうやら、ケイトにとって全属性魔法や他のExスキルなどより、最も大切なのはその《魔法陣作成》のスキルであるようだ。
「わ・・・わかりました。魔法陣学には元々興味があったので履修させていただきます」
元々魔法陣学を履修したいとは思っていた。それに加え、興奮した顔で「是非!」といってくるケイトに「No」と言う必要は全くない。
「・・・!・・・それでは約束ですよ!」
ケイトは、普段はまだ若いのに大人びて見えるのだが、今は本当に子供を相手しているような・・・。そんな感覚に陥るほどにはしゃいでいる。
「・・・さて、では本題もほどほどに、魔石の反応を見てみましょうか」
もう、ついに魔法陣学勧誘の話を本題といってしまったケイトは、麻袋から僕の属性分の魔石を取り出す。
すると教室が一気にざわつき始め「オイあれって」「なんであんなに魔石を」と疑問の声が所々から聞こえてくる。
「ではリアムさん。まずは火の魔石から」
しかし、そんな教室中から溢れている疑問の声をぶった切るように、ケイトはそういって火の魔石であろう赤い魔石を差し出してくる。
「はい」
僕はケイトが差し出す魔石を受け取る。そして・・・
『光れー・・・!光れー・・・!光れー・・・!光れー・・・!』
僕は必死に心の中で『魔石よ光れ〜』となんども反復し念じる。しかし ── 
『光らない』
その魔石が光ることはなかった。
「?・・・できませんか?」
すると、その様子を見たケイトが、心配して声をかけてくれる。
「すみません。僕、精霊と契約できてないので・・・」
おそらく1番の原因はそれであろう。僕は精霊との魔力のやり取りなど経験したことがない。
「・・・そうですか。・・・そういえばそうでしたね」
精霊契約ができていないことは入学試験をした日、既に学長先生に伝えてある。担任として、ケイトも学長先生からそのことは聞いていたのであろう。
「では、少し助言をしましょうか」
ケイトはウンともスンとも言わないその魔石を見て、アドバイスすることを提案する。
「いいですか?・・・まずは目をつぶって深呼吸をし、心を落ち着かせます」
そして始まる僅かな個人レッスン。
僕は、魔石を握ったまま目をつぶって、ケイトに言われた通りに試してみる。
「心が落ち着いてきたら、手の中に握る魔石に集中してください」
僕はまた、言われた通りに手の中の魔石に意識を集中する。
「そうすると、体の中にその魔石に引き寄せられるような何かを感じませんか?」
「感じます」
わずかだが、胸の中心あたりに、わずかに温かく、震えるような何かを感じる。僕はケイトの問いに肯定で答える。
「よろしい。・・・それではそのまま感じたそれに、全神経を集中させていってください」
そのケイトの言葉を最後に、僕は手に握る魔石を確かに感じながら全意識を体内のその何かに集中して向ける。
── すると突然・・・!・・・体の中心、心臓のあたりにものすごい力の本流を感じた!
そしてその何かは、本流から派流を通って体全体に行き渡り、派流を通ってはまた本流に帰結するような、そんな目まぐるしく動く流れを感じさせる。
『これが・・・・・・魔力・・・!』
── その流れは正に暴流。その正体はまるで、果てしない宇宙と超新星爆発をイメージさせるような、それくらい果てしなく続く森羅万象の爆発的な力の流れだ。・・・・・・しかし、そんな激しい力の体を激しく巡っているはずなのに、なぜか嫌な感じが全くしない・・・・・・それどころか、妙な温もりを感じるのだ。
おそらくはこの流れを流れる何かが、魔力と呼ばれるものなのだろう。僕はしばしその流れを感じることに集中し、気持ちの良い温もりに包まれる。しかし ──
「ピキッ・・・」
何かに罅が入ったような・・・そんな音と触感を魔石を握る手の中から感じる。
「ィアムさん・・・リアムさん・・・!」
気持ちの良い魔力の揺りかごの外から、僕を呼ぶ誰かの声が聞こえる。
「リアムさん・・・!魔石から手を離してください!」
その僕の名を呼ぶ声は、どうやら手に握る魔石を離すようにと警告しているようだ。
「・・・!」
僕は、ようやくその声の主であるケイトの存在を思い出し、唐突に目を開いた。
『この風と光は・・・!』
そうして目を開けた僕が感じたのは、僕を囲うように勢いよく吹き荒れる風。そして手の中で光り輝く何かから伸びる光の螺旋の渦。
「・・・アツッ!」
その状況を知覚した瞬間、手から急激な熱の高まりを感じ、握っていた魔石を床へ放り投げる。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
すると、僕を取り巻き吹き荒れていた風と光は「シンッ」と、そのなりを潜めた。
そして ──
「ゴォォォ ──」
── 次の瞬間、手放した属性魔石から豪炎が立ち上る。
「きゃあぁぁぁぁ」
生徒の一部から上がる悲鳴 ──。
「ッ!カワズ!・・でできてッ・・・!」
僕の様子を終始見ていたケイトがその立ち上る炎の柱を確認した途端、大声で叫ぶ。
すると、ケイトが大声で叫んだ束の間、ケイトの肩に乗る一匹のカエルのような精霊が現れた。
「動かないでその場で待機!」
パニックになりかけている生徒達に、ケイトは続けて大声で叫び戒める。
「カワズッ!・・・このままだと教室どころか校舎の一部が崩壊する・・・!」
僕はその崩壊という言葉に「ビクッ」と反応する。確か、このスクールの校舎は全て強化の魔法陣が施されており、更に校舎を構成するその多くは石材であったはずだ。
「初めから全力・・・最上級の魔法を使います!・・・・・・カワズは精霊魔法で援護を!」
「ゲコッ・・・」
そういうケイトは懐から杖を取り出し、それを構える。
「── 森羅万象の一を司るは水・・・星を旅する水は雨となり、川となり、海へと帰り、時には生を、時には死を司る ──」
早く ──。しかし丁寧に、ケイトは魔法呪文の詞を語る。
「しかしそれらが水の性質は普遍的に静 ──」
すると、ケイトの周りに小さな光々が出現する。
「そなたは水。あらゆる動を沈め、やがて全てを呑み込む偉大な水である」
現れた光は徐々に光を強くし、その色を青く変えていく。
「今まさに、我が魔力は動を捕らえる水の牢獄、我を脅威から守る守護者であることを願う」
徐々に強くなっていた光は、やがてその強光を一定とする。そして ──
「我が祈りを、願いを顕現せよ!── 最上級水魔法《守護者・水螺旋の牢獄》!」
── 次の瞬間!
ケイトの前に、全長5メートルほどもある大きな水の巨人が姿を現した。
── その疑問とは、僕の持つスキルの一つ《自動翻訳》である。この世界に来てからかなり重宝しているであろうこのスキル。このスキルは、その翻訳機能が発動した時、思考を邪魔しない程度になんとなく発動していることを知覚させてくれる。
・・・つまり、何が言いたいのかというと、このスキルが自動的に発動した時僕は魔力を使っているのではないか、もしくはそもそもスキルには魔力を消費せずに使うことができるものがあるのではないか、という仮説だ。
僕は今までスキルと魔法を完全に混合していた。全てのスキル発動において、魔力が必要なのではないかと・・・・・・しかし ──
実験的に意識して、『翻訳・・・翻訳・・・』と念じ、いつも感じる感覚を呼び覚ます。それから僕が、『自動翻訳が発動しているな・・・』と感じたタイミングで、ステータスを念じて開いてみることにしたのだ。
すると、案の定ステータスボード上の魔力は、一切減ってはいなかった。
『ということは・・・』
そして僕は、その時点で一か八か、更なるExスキル《隠蔽》の発動を試したのだ。すると ──
「成功だ・・・」
成功、してしまった・・・・・・。
僕が《隠蔽》を唱えた時に想像したのはユニークスキルから下のスキル名欄のみを隠したステータスボード。
──そして、確かにステータスボード上の魔力に変化はなく、ユニークスキルから下が消えていた。
「隠蔽解除」
それから、念のため解除も試しておく。すると、隠れていたスキル名欄と称号欄が現れていた。
『これならいける・・・!』
現在、僕のステータスボードからはユニークスキルより上のスキル名欄、称号欄、Exスキルから《隠蔽》、スキルからは《精霊魔法》のみを隠し、幸運値表示を書き換え、魔力と魔法防御も平均値より導き出した適正な数値に書き換えてある。
ちなみに余談であるが、母さんに事前に質問したところ、僕が今まで使っていた唯一魔力を消費していそうなステータスの魔石については既にギルドがステータスの魔石の魔力プロセスを公表していることがわかった。
どうやら、ステータスの魔石は基本大気中の薄い魔素を集めてその内包する魔法を発動するようで、大気中の魔素不足の時に限り使用者の魔力を使い発動するような魔法プロセスで構成されているらしい。
また、とりあえず今回は賭けでスキル使用したが、自ら危険に飛び込む必要はこれ以上今はないため、残りのスキルは魔力の自己認知、ある程度操れるようになってから使用しようと考えている。
↓ーーーーーーーーーー
僕はこっそりとケイトに書き換わったステータスボードを見せる。
「・・・!・・・・・・はい・・・結構です」
僕のステータスを確認したケイトはそれを確認した後、一瞬意識を手放しそうな顔をする。しかし、どうやら彼女は直ぐに頭の中の世界から現実へと戻ってきたようだった。
「リアムさん・・・」
すると、突然真剣なトーンで話しかけてくるケイト。その声に僕は思わず身構えてしまう。しかし ──
「リアムさん・・・是非、自由科目選択の際は魔法陣学を履修してください」
他の生徒には聞こえないように、小さな声で僕に話しかけるケイト。
「へっ・・・?」
何を言われるかわからないと身構えていた僕は、そんな彼女の言葉に動揺する。
「是非・・・是非!魔法陣学を履修しましょう!」
すると、一度では帰ってこなかった僕の答えを引き出すべく、ケイトが先ほどよりも気持ち強く、僕の両肩を握ってそんな勧誘をしてくる。
「ええっと・・・なぜですか?」
僕はそのケイトの意図がよくわからず、思わずそう聞き返す。
「?・・・なぜって・・・」
その僕の質問に、ケイトは「何をいってるの?」と言う如く、不思議そうな顔をする。
「なぜってそれは・・・、あなた、スキルに《魔法陣作成》をお持ちではないですか」
そう当たり前のことを語るように話すケイトの顔は、徐々に先ほど講義を脱線させた時に見せたような恍惚とした表情に変わっていく。
「そのスキルを取るのにどれだけの勉学を納めないといけないと思っているのですか?・・・それにそんな優秀な方でもそのスキル獲得をできる方とできない方が別れるような神聖なスキル・・・それをまさかあなたがその若さで習得しているとは・・・」
『ケイト先生?・・・もしかしてこの人、専門は魔法陣学じゃなくて魔法神学とか言う謎の学問だったりする・・・?』
新しい魔法陣を作成するだけのスキルであろうこのスキルに『神聖』とまで言って退けるケイトに、僕はそんなダジャレのような失礼なことを考えてしまう。どうやら、ケイトにとって全属性魔法や他のExスキルなどより、最も大切なのはその《魔法陣作成》のスキルであるようだ。
「わ・・・わかりました。魔法陣学には元々興味があったので履修させていただきます」
元々魔法陣学を履修したいとは思っていた。それに加え、興奮した顔で「是非!」といってくるケイトに「No」と言う必要は全くない。
「・・・!・・・それでは約束ですよ!」
ケイトは、普段はまだ若いのに大人びて見えるのだが、今は本当に子供を相手しているような・・・。そんな感覚に陥るほどにはしゃいでいる。
「・・・さて、では本題もほどほどに、魔石の反応を見てみましょうか」
もう、ついに魔法陣学勧誘の話を本題といってしまったケイトは、麻袋から僕の属性分の魔石を取り出す。
すると教室が一気にざわつき始め「オイあれって」「なんであんなに魔石を」と疑問の声が所々から聞こえてくる。
「ではリアムさん。まずは火の魔石から」
しかし、そんな教室中から溢れている疑問の声をぶった切るように、ケイトはそういって火の魔石であろう赤い魔石を差し出してくる。
「はい」
僕はケイトが差し出す魔石を受け取る。そして・・・
『光れー・・・!光れー・・・!光れー・・・!光れー・・・!』
僕は必死に心の中で『魔石よ光れ〜』となんども反復し念じる。しかし ── 
『光らない』
その魔石が光ることはなかった。
「?・・・できませんか?」
すると、その様子を見たケイトが、心配して声をかけてくれる。
「すみません。僕、精霊と契約できてないので・・・」
おそらく1番の原因はそれであろう。僕は精霊との魔力のやり取りなど経験したことがない。
「・・・そうですか。・・・そういえばそうでしたね」
精霊契約ができていないことは入学試験をした日、既に学長先生に伝えてある。担任として、ケイトも学長先生からそのことは聞いていたのであろう。
「では、少し助言をしましょうか」
ケイトはウンともスンとも言わないその魔石を見て、アドバイスすることを提案する。
「いいですか?・・・まずは目をつぶって深呼吸をし、心を落ち着かせます」
そして始まる僅かな個人レッスン。
僕は、魔石を握ったまま目をつぶって、ケイトに言われた通りに試してみる。
「心が落ち着いてきたら、手の中に握る魔石に集中してください」
僕はまた、言われた通りに手の中の魔石に意識を集中する。
「そうすると、体の中にその魔石に引き寄せられるような何かを感じませんか?」
「感じます」
わずかだが、胸の中心あたりに、わずかに温かく、震えるような何かを感じる。僕はケイトの問いに肯定で答える。
「よろしい。・・・それではそのまま感じたそれに、全神経を集中させていってください」
そのケイトの言葉を最後に、僕は手に握る魔石を確かに感じながら全意識を体内のその何かに集中して向ける。
── すると突然・・・!・・・体の中心、心臓のあたりにものすごい力の本流を感じた!
そしてその何かは、本流から派流を通って体全体に行き渡り、派流を通ってはまた本流に帰結するような、そんな目まぐるしく動く流れを感じさせる。
『これが・・・・・・魔力・・・!』
── その流れは正に暴流。その正体はまるで、果てしない宇宙と超新星爆発をイメージさせるような、それくらい果てしなく続く森羅万象の爆発的な力の流れだ。・・・・・・しかし、そんな激しい力の体を激しく巡っているはずなのに、なぜか嫌な感じが全くしない・・・・・・それどころか、妙な温もりを感じるのだ。
おそらくはこの流れを流れる何かが、魔力と呼ばれるものなのだろう。僕はしばしその流れを感じることに集中し、気持ちの良い温もりに包まれる。しかし ──
「ピキッ・・・」
何かに罅が入ったような・・・そんな音と触感を魔石を握る手の中から感じる。
「ィアムさん・・・リアムさん・・・!」
気持ちの良い魔力の揺りかごの外から、僕を呼ぶ誰かの声が聞こえる。
「リアムさん・・・!魔石から手を離してください!」
その僕の名を呼ぶ声は、どうやら手に握る魔石を離すようにと警告しているようだ。
「・・・!」
僕は、ようやくその声の主であるケイトの存在を思い出し、唐突に目を開いた。
『この風と光は・・・!』
そうして目を開けた僕が感じたのは、僕を囲うように勢いよく吹き荒れる風。そして手の中で光り輝く何かから伸びる光の螺旋の渦。
「・・・アツッ!」
その状況を知覚した瞬間、手から急激な熱の高まりを感じ、握っていた魔石を床へ放り投げる。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
すると、僕を取り巻き吹き荒れていた風と光は「シンッ」と、そのなりを潜めた。
そして ──
「ゴォォォ ──」
── 次の瞬間、手放した属性魔石から豪炎が立ち上る。
「きゃあぁぁぁぁ」
生徒の一部から上がる悲鳴 ──。
「ッ!カワズ!・・でできてッ・・・!」
僕の様子を終始見ていたケイトがその立ち上る炎の柱を確認した途端、大声で叫ぶ。
すると、ケイトが大声で叫んだ束の間、ケイトの肩に乗る一匹のカエルのような精霊が現れた。
「動かないでその場で待機!」
パニックになりかけている生徒達に、ケイトは続けて大声で叫び戒める。
「カワズッ!・・・このままだと教室どころか校舎の一部が崩壊する・・・!」
僕はその崩壊という言葉に「ビクッ」と反応する。確か、このスクールの校舎は全て強化の魔法陣が施されており、更に校舎を構成するその多くは石材であったはずだ。
「初めから全力・・・最上級の魔法を使います!・・・・・・カワズは精霊魔法で援護を!」
「ゲコッ・・・」
そういうケイトは懐から杖を取り出し、それを構える。
「── 森羅万象の一を司るは水・・・星を旅する水は雨となり、川となり、海へと帰り、時には生を、時には死を司る ──」
早く ──。しかし丁寧に、ケイトは魔法呪文の詞を語る。
「しかしそれらが水の性質は普遍的に静 ──」
すると、ケイトの周りに小さな光々が出現する。
「そなたは水。あらゆる動を沈め、やがて全てを呑み込む偉大な水である」
現れた光は徐々に光を強くし、その色を青く変えていく。
「今まさに、我が魔力は動を捕らえる水の牢獄、我を脅威から守る守護者であることを願う」
徐々に強くなっていた光は、やがてその強光を一定とする。そして ──
「我が祈りを、願いを顕現せよ!── 最上級水魔法《守護者・水螺旋の牢獄》!」
── 次の瞬間!
ケイトの前に、全長5メートルほどもある大きな水の巨人が姿を現した。
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