月下の幻想曲

矢能 智郁

47話


4日目。最終日。

この日は全班が集合場所に遅れることなく到着することが義務付けられている。

昨日は魔物や人となかなか遭遇しないと言う不吉な予兆があったものの、特に何も起こらなかった。クエスト自体は昨日の時点で終わらせていたため害は無かった。






リヒトらは2日目に一度報告の為に戻ったこともあり、比較的浅い所に居た。時間的に余裕があるため周囲を散策していたところ、ゴブリンや森狼など昨日は何故か姿を見せなかった魔物と遭遇した。






昼を過ぎた辺りで集合場所に着くと、既に報告を済ませている班がいくつか見受けららた。

「4日間お疲れ様でした」
係の教員が対応し、討伐証明部位を提出。報告などの手続きを済ませ待機する。



「やあ、リヒト。どうだった?」
既に到着していたイルマが声をかけてくる。
「イルマ。こっちは異常が多かったよ。そっちは?」
他でもおかしなことが起こっていないか確認するために尋ねる。
「至って普通。ただ少し気になったのは、日が経つにつれて魔物と遭遇しなくなったことかな。これだけの人数が一度に入れば減っていくのは当たり前なんだけど、その死骸すら見当たらないのは少しおかしいかなとは思った。
そっちの異常って?」
「やっぱりイルマもそう思ったか。こっちのは、話して大丈夫なのかな」
危険を知らせるために出会った班にも話していいと言われていたが、行事が終わった今も適応されているのか疑問に思う。既にいくつかの班は知っている以上どうやっても噂は広まり、それをイルマが耳にしないということは無いだろうが。
「そんなにやばいことなのか?」
「まぁ、一応。非常事態になりかねないイレギュラーではあったよ。まぁ俺が討伐したからそうはならなかったんだけどね」
「リヒトがそういう位の魔物が浅いところに出たのだとすれば、何かが起きてるのは間違いなさそうだね。

……ああ、この森で何かが起きてるのは間違いなさそう」
リヒトが何かに気付く。
「どうした?」
「小規模だけど、魔物が1箇所に集まってる」
「どうしてわかるんだ?」
「噂が広まってると思ってたんだけどそうでもないのかな。俺の固有魔法だよ」
「えっと、[探知魔法]?」
一時期噂として耳にした情報。眉唾ものだと切り捨てていた記憶を手繰り寄せる。
「正解」
「それは名前通り探知系の魔法なのか?そうすると範囲が広すぎると思うんだけど」
「鍛え方が他とは違うからね」
常識外の実力はイルマ自身目の当たりにしているため、乾いた笑いしか出来なかった。




ふと、イルマが告げる。
「噂が広まってないのは、キフェルネだからだよ」
どうして噂を聞いてきたのにも関わらず切り捨てていたのか。リヒトには心当たりがないようなので教えようとした。
「どういうこと?」
キフェルネだから、と言われて不思議に思わないはずもなく、素直に尋ねるリヒト。家に居た時は家の噂は殆ど聞かず、辺境伯という立場から連想して調べようともしなかった。
「自分の家の事だけど知らない?」
「聞いたことすらない」
「曰く─、」
自ら進んで調べなかったことを少しだけ後悔する。なぜなら─、

「ごめん、ちょっとやばいかも」
気になる情報を聞き、意識がそちらへ向かっていたせいで気づくのか遅れてしまった。
「どうした?」
「魔物の集団がある班に接近してる」
再び事が起きようとしており、リヒトが出向かないといけないからだ。この距離感で異常を察知するのはその道の達人でも難しいだろうと言う程の距離がある。

「先生に報告しに行こう。態々リヒトが出る必要もないと思う」
「いや、残念ながらこの場では俺じゃなきゃ厳しそう。結構距離があるし、時間も無い。普通に森の中を行くのであれば手遅れになる」
ここまで気付けなかったのは自分の怠慢であるとリヒトは思っている。そして危険が迫っているのをわかっているのにも関わらず見なかったことにするのはリヒトの良心が痛む。

「リヒトなら間に合うのか?」
日頃の接し方からリヒトがこの状況で嘘をつく人間ではないと判断していたイルマは、リヒトを信じる。
「間に合うよ。本当は本人達に片付けて貰いたいんだけど、状況がね……」



「はぁ。イルマ、先生達に報告しておいて」

そう告げてリヒトは森の中へと駆け出す。およそ人とは思えないスピードで。木々を器用に掻き分け、誰の目にも止まらないところで件の集団の近くへと転移した。





勢いを殺さず、現場へと急ぐが既に交戦してしまっていた。
「キャプト、大丈夫?」
魔物の軍勢と交戦していたのはキャプトの率いる班。上位クラスを中心に陣形を保ち、未だ目立った負傷者は出ずにいた。
「リヒトさん?!どうしてここに」
「細かいのは後で。今はこれを片付けるよ」

「はいっす!風刃、風刃、風刃!」
リヒトと言う心強い援軍に活気付く。
「───その焔は運命さだめの印。諸悪を滅し闇を穿て!災厄の業火インフェルノ」
リヒトの横を通り過ぎ、魔物の群れを、周囲の木々を焼き尽くす。

「おお、凄いね」
この場にこれ程の使い手が居るとは思わなかったため、リヒトは純粋に驚く。
「当然です。私は今日まで死ぬ気で魔法に取り組んできた。だからこそ、貴方が気に入らない」
「そう思われるのは別にどうでもいいけど、ここは森の中だよ?赤魔法はダメ」

リヒトは2人に話しかけながらも、大規模な魔法を次々と行使していく。それに倣いキャプトも全力を尽くしているが、如何せん魔力量が少なく、もう少しすればガス欠になるだろう。
リヒトを気に食わないと言った彼女は、他よりは短い詠唱でどうにか抑えている。残りのふたりは援軍に来たのがリヒトだとわかったためか少し気が緩み、しかし魔法が飛び交う戦場に飛び込めずにいる。


魔法を使っている2人は1回につき3、4匹を討ち取るのが限度であるのに対し、リヒトは1回でその倍近くを一気に屠る。力の差は歴然であった。
「2人とも、下がって」
軽く数十分打ち続け、疲れ果てているのを見てリヒトは指示する。キャプトは素直に引き下がるが、彼女は引き下がらなかった。
「そろそろもう1つの大規模な集団が来る。死にたくなければ下がって」
「嫌よ。特に貴方に指示されるのは。私はまだ戦える」
「死んでも知らないからね」

数秒もしないうちに、呻き声が接近、姿を現す。
「先陣はまたオーガか」
姿を現したのは先日出てきたのと同じ、オーガ。しかし圧倒的に、こちらの方が威圧感があった。
「な、なにあれ」
目の前の明確な恐怖に足が竦む。
「オーガだよ」
「そ、そんなことはわかってるわよ。あれに……、勝てるの……?」
「勝てるも何も一昨日もやったんだけど。まぁそんなことは知らないだろうし。俺は大丈夫。だけど、」
彼女の方を向いて哀れみを含ませた視線を送る。
「オーガは君に目をつけたらしい。どうする?」
「どうもこうも……」
「だから下がれって言ったのに。詰まらない見栄如きで死にたいの?」
「どうもこうも、やるしかないでしょう!!」
命の危険に怯えていたが、無理矢理開き直り、無謀にもオーガと正面から対峙する。リヒトの言葉は耳に入っていないようだ。
「業火は回り、焔は踴る。我と共に有りて我が力となる。その焔は運命さだめの印。諸悪を滅し闇を穿て!災厄の業火インフェルノ」
放たれる猛火は、高熱の双翼となりオーガに迫る。
しかしオーガの持つ槌の一振りだけで消え去ってしまう。
「はっ?」
発動時は好感触を持っていた彼女だったが、予期しない結果に動揺し迫り来る恐怖に立ち竦んでしまう。オーガは武器を振りかぶり、叩き潰そうとしている。



「はぁ」

怯える彼女の耳に入ったのは振りかざされる槌の風を切る音──ではなく溜息だった。
何事かと見上げると、オーガの右腕は根元から千切れ、血が噴き出している。
「何回も言うけど、死にたいの?」
いつの間にかオーガの後ろに居たリヒトが刀を構え直しながら問いかける。
直後にもう一閃、オーガの胴体と下半身を切り離す。斬撃は彼女の頭上を通り過ぎ、後ろの木をも切り倒す。


「やばっ、力入れ過ぎたか。一昨日のより柔らかかったな」
後ろの木まで切ってしまったことを反省するリヒト。切り口が綺麗なせいかギリギリ形を保っているが、ふとした衝撃ですぐに崩れ去るだろう。
異次元の光景に、剣を扱う2人は自分の目が信じられない。




おまけに付いてきた有象無象もさっさと倒したリヒトは、キャプトの方へ歩み寄る。

「キャプト、当面の間はここら辺は平気だ。だから後は任せていいね?」
キャプトに任せたのは一種の信頼だった。しかし肝心の彼はリヒトとの力量差に、分かり切っていたことだが改めて直面し落ち込む。
「も、もちろんっす」
「そんなに落ち込まなくていい。あの威力のものを打ち続けられたんだ。その成長は誇っていいよ」
リヒトから褒められたことにか、キャプトの機嫌は一瞬で治る。
「はいっす!ところでリヒトさんは何でここに居るんすか?他の3人は?」
「訳あって今は一人だよ。班員はもう集合場所に居る」
「そうなんすか……。やっぱり俺もまだまだっすね」
「それじゃ、任せた。彼女のケアとか特にね」
未だ地面に座り込む彼女を視線に収めながら、キャプトに託す。
「はい。また後でっす」
キャプトの機嫌はリヒトから頼られたという事実に全て引っ張られていた。




キャプトと別れた後、リヒトはこれからどうするべきかの思考に入る。

「はあ、あと三箇所も。これは流石にギルドに投げるか。地道にやるのは俺一人じゃ日が暮れる」

日が暮れると言うのは自然環境に配慮した場合であり、適当にぶっぱなせばいいのであれば今すぐにでも終わる。
とは言え緊急事態となりうる場所は今のところ無かった。

「よし、やばそうなの1つ潰して戻るか」
リヒトは転移した。






9月末あたりから、個人的な事情で更新ペースが格段に遅くなります。
一応キリのいいところでまでは書き上げるつもりでいますが、それ以降の更新ペースをどうするか悩んでいます。読者側の意見も参考にしたいなと思っているので、作者のTwitterの固定ツイートを見ていただけると幸いです。
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