月下の幻想曲

矢能 智郁

46話

金獅子は目的を達したからか、友との約束を守るためか、一方的に約束を取り付けてその場を去っていった。






「かはっ」
極度の緊張から解放され、その場に崩れ落ちる。全身から汗が吹き出し、息は暫くは整いそうにない。その様子に気づいたシモネが自身も似たような状態にありながらも駆け寄ってくる。
「ご主人様、大丈夫ですか」
「うん……。なんとか。シモネこそ大丈夫?」
「は、はい。それよりご主人様、今のは……」
「後でルナも交えて絶対に話す。今は聞かないでほしい」
隠していた事が意図しない所からバレてしまったのだ。リヒトの心中をシモネは汲み取る。
「わかりました」
「それとわかってるだろうけど、今の事は他言しないように」
「はい。もちろんです」
万が一に備えて釘を刺す。命令するほどの余裕はない。



「それにしても、金獅子がどうしてここに。「友に従いここへ来た」と言ってたけど、過去に何かあったのか……?」
考えることか多すぎる中で真っ先に口に出たのは何故いるのかということだった。
「''コゴロウ''絡みの何か、でしょうか」
「話からして十中八九そうだとは思う。でもコゴロウと金獅子は宿敵なのであって仲のいい関係ではなかったはず。だけど「我が友」と言っていた。まさか一切を隠蔽してきたのか?」

「数百年に渡って全く姿を見せなかったから本当に討伐されたのだと国は認識していたけど、それすらも嘘だったということですね」
2人の頭はいつになく回り、あれだこれだと意見を交わし合う。
「考えることが多い。頭の中を整理してから合流しよう」





先に送り出した集団に追いついたのは、それからしばらくしての事だった。

「リヒト、大丈夫だった?」
真っ先に気付いたラスタナが駆け寄り、心配の声を掛ける。
「うん。心配事は片付けた。でも、オーガが出てきたことに変わりはないから、一応報告には行こう。森を出た所の街道付近に居るはずだから」


「他の班はどうする?」
「シモネ達はこのまま続けます。まだ終わらせていないことがあるので」
そう言ってシモネの班はここで別行動に。他の2班も同様の返事をした。


時間短縮のために、隠れて[時空魔法]を使いながら森の中を掻き分けて進んでいく。4時間もする頃には森の端が見え始めた。

「おいお前達、どうしてここにいる。まだ演習期間中だろ」
「ああ、セルドイト先生。緊急でご報告が」
「なんだ?」
「オーガが出ました」
「お前ら、そんな奥層にまで行ったのか?」
「いえ、僕等がいたのはここから3時間程度の浅瀬です」
「なっ、いや、だとしても信じ難い」
「証人は居ます。シモネさんの他、計3つの班です」

「そう出されると頭ごなしに否定出来ないな。事情を探るために急いで討伐隊に知らせに行かねば」
「落ち着いてください。そのオーガなんですが、リヒトさんが既に討伐しました」
「これが、証明部位となります」
ギルドの以来では、討伐の証拠として体の一部を納品する制度を導入している。ゴブリンなら左耳、オークなら指、先程のオーガなら爪、と言った風に。


「これは……。こちらで確認してみないと分からないが、恐らく本物なのだろう。話を聞く。ついて来い」

一連の出来事を説明しら部位が本物であることが確認されたのは、しばらくしてからの事だった。
「お前ら。報告感謝する。対策としてこちらから、哨戒部隊を派遣することになった。今から全員を集めることは不可能に近いから予定通りに進めるが、出会ったやつらには注意喚起をしておいてくれ」
「はい。わかりました」








「なあ、オーガの後にリヒトが出会った魔物?あいつは強かったのか?」
直接対面しておらず、リヒトに目立った怪我も無かったことから疑問に思ったのだろう。
「うん。一目で敵わないと判断出来るほどには」
「その相手の強さがわかる感覚ってどんな感じなの?」
感覚自体に疑問を持ったラスタナが尋ねてくる。
「そうだね。さっきのオーガが迫ってきた時に怖いって思わなかった?」
「思った。ものすごく」
「それは何を見て?」
「迫力がゴブリンとは全然違ったし、怖いって思った。何より直感で勝てないって」
対面した時の恐怖を、内心を手短に語る。
「それと似たような感じ。纏ってる雰囲気や身体の使い方や殺気。そういったのをよく見ると、素人と玄人では全然違うんだ。どうしても無意識的な所で癖が出てるからね。そう言うのを見て感じて、自分より上かどうかを判断してる」
「んー、よくわからないわね」
「なら、試しにやってみようか?」
「うん、お願い」

リヒトはほんの一瞬だけ、2人に向けて殺気を向けた。
「ひっ……」
「あれ、ちょっと強かった?」
リヒトとしてはそれなり抑えたつもりだったが、まだまだ未熟だったようだ。
「ちょっとどころじゃない……」
「ごめんね。今2人が感じたのも、ひとつの判断基準としてるんだ。本当に強い人となると、これを自在に操る」

ここまで話していてリヒトは不思議に思った。地球での知識にあるもので話していたもの後、やけに現実味を帯びていたからだ。その違和感は、実は今までに何度も感じていたものだった。

「自在に操れるのならあまり信用出来ないんじゃないのか?」
「うん。だからあくまでも判断材料の一つ。でも自在に扱えるのは上位の、ほんのひと握りの人だから基本的には信用して大丈夫」

「リヒトも操ってないか?」
「いや、俺のは違うよ」
ディドルトが的確な疑問を口にする。
しかしリヒトは謙遜し、自己分析の結果をを述べる。
「自在にって言うのは、無の状態から全力までを任意で使えるってこと。それに対して俺はまだ今みたいに加減を誤ることもあるし、完全に消し去るなんてことも出来ない」

ただし、と付け加える。
「因みにこれは身につけたいと思って身に付くものじゃない。あくまでも成長過程での副産物だからね」
「どういうこと?」
身に付けたいと思った2人にとってはその言葉を疑問に思うのも当然である。
「これは飽く迄も俺の見解だけどね、皆は犬に吠えられて怖いと思う?」
「いや、全く」
「だよね。
力量的に格下の相手に脅されても何も怖くない。だって返り討ちに出来るんだから。それでも怖いと思うのは、先入観やその人の特徴、雰囲気のせい。強面の冒険者が威張ってるのは、半分くらいそういうこと。他には、本当に相手を憎んでて殺そうとしている場合かな」
「判断出来ないと、本当はそこまで強くもないのに印象から気圧されるわけか。でも、今のリヒトのを受けたせいで少し感覚が鈍りそうだ」
「なら、実戦経験を積んで強くなればいい。幸いそろそろ許可も降りるしね」
「そうか、もうそんな時期か」

ミアロスク学園では、入学して4ヶ月、即ちこの演習が終わったあと、学費や小遣いを稼ぐ手段として冒険者登録をすることが認められている。これは安全に配慮した処置であり、知識の無いまま挑み、負傷・死亡してしまうのを防ぐ意図がある。

学園に通う生徒には貴族の次男次女以下や平民が多く、前者は実戦経験を積むため、後者はお金を稼ぐために登録している人が過半数を超える。

「リヒトも冒険者登録するのか?」
「うん、そのつもり。学費も稼がなきないけないし、実地での経験も欲しいからね」
「リヒトは一体何を目指してるの……?やっぱり「王立」?」
王立、は王立騎士団と王立魔法師団を纏めて言う時に巷で使われる呼び名である。

「どっちでもないよ。卒業後は世界各地を旅するつもり」
「えっ、そうなのか。俺らからしたら「王立」にはいってエリートコースかなと思って羨ましかったんだけど、やりたいことがあるならそれもいいと思う。ただ厄介事が多そうだ。リヒト程の力の持ち主なら各国の中枢や貴族から声が掛かってもおかしくはないし、変なところから目をつけられるかもしれない」

この時、リヒトは既に「常闇の夜明け」から目をつけられているとは口が裂けても言えなかった。当然、「実は貴族の息子である」と言うことも、既に声をかけられている、とも。
「そこら辺は何とかするさ。別に権力だけが力じゃない」

隣でユミノがクスクスと笑っている。知っている身だからか、この話が滑稽なのだろう。
「それにしても、何も出ないね」
ラスタナが不思議そうに言う。
「たしかに。少しおかしい。人に会わないのもそうだし、ましてや魔物も零は特に。初めに入った時はこれくらいでもう見かけてたよな。俺らのいない間に何かがあったということか……?」
「間引きさせるには浅い、かといって弱い魔物もその死骸もない。ちょっと変だね」

4人全員がこの違和感に嫌な反応を示す。しかしリヒトの[探知魔法]にある違和感と言えばこの周囲に魔物が居ないことくらいで、他の班とは少し離れた位置ですれ違っているのが確認できている。
思い過ごしなのだろうか。頭の隅で不安を感じながらも、演習は3日目を終えた。

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