月下の幻想曲

矢能 智郁

42話


時は流れ、蒸し暑さが体を苛む季節がやってきた。服装も涼し気なものに変わり、クラス内でいくつかのグループが形成されていくのが見受けられる。

リヒトの人気は落ちることなく、未だに校内では有名人の様に騒がれることもある。すると当然妬みの篭った視線を当てられるのだが、Sクラスのトップであり常識を覆したということが幸いして誰も手を出せずにいる。少なからずそういった者がいた事は確かだが。


イルマを筆頭にSクラスの6人は徐々に成果が見えており、何人かは既に他の色1つを使えるようになっていた。
残りの1人はというと、一度正面から拒否してしまったが為か断固として練習に参加しようとはしなかった。




穏やかな日々は、一旦の終わりを告げる。
「さてお前ら。来週からは校外演習が始まるのは知っているな?」

校外演習とは、このミアロスク学園で伝統的に行われている夏の行事の一つ。ギルドと連携し、国外で実戦を行うことを目的とする。
期間は3泊4日。4人ー班でグループを作り、自給自足で生活する。その日に向けた授業は前々から実施されており、その成果が試させる。
全員参加なのは、冒険者として活動する予定のある人の為の予行演習と、貴族については何らかの移動中に野営することがあり、その際に誤った指示を飛ばさないために一度実地で学んでおこうという魂胆だ。



グループ分けは学園の方で行われており、その発表は既に終わっている。
本日はその班ごとのミーティングが行われる日だった。


「やあリヒト。元気か?」
「ああ、ディドルト」
彼は班員の一人ディドルト=セルドイト。Bクラスに所属しており、剣術を選択している。ひょろっとした見掛けによらず体格はがっちりしており、鍛えられているのがわかる。

「こんにちは」
続いてやってきたのはラスタナ。こちらはCクラスに所属している。剣術を選択しており、入試の時のリヒトの剣技を見た時からリヒトを尊敬しているらしい。ファンであることは周囲には隠しているが、バレるのも時間の問題だとか。

「ユミノも来た。それで揃ったね」
最後の1人はユミノ。説明は不要だろう。



「さて全員集まったところで、今日はクエストの内容を決めるわけなのだが」
ディドルトが班を取り仕切っているのは、偏に彼が立候補したからだ。リヒト自身、班長という立場に固執しているわけではないので素直に譲った。他の2人も頷き難なく決まったが、リヒトに合わせたのが実情だろう。ただし、リヒトが彼の指示が明らかに間違っていると感じた時、乃至緊急事態に於いてはその限りでないことを約束として取り付けている。


「選択肢は4つある。この中から一つを選び、それを達成するのが目標とされている」

今回学園側から提示されたのは次の4つ。

・ゴブリン 15匹 の討伐
・さざら草 30束、ナコの実20個  の採取
・オーク 5体 の討伐
・森狼《フォレストウルフ》 8体 の討伐


「どれにするか」
ディドルトの投げかけた疑問にそれぞれ意見を述べていく。

「んー、無難にゴブリンの討伐かな?、のクエストを取ってもリヒトさんがいるから大丈夫ではあるんだろうけど、それだと私達3人がただの荷物になりかねないし」
「そうだね。誰も戦ったことないし、クエストはゴブリン討伐にして、それ以上のレベルの魔物に遭遇したときはその都度判断しよう」
リヒトがラスタナの発言を拾いつつ広げる。

「よし、リヒトの案で行こう。たぶんそれが現実的だ」
「採取の方が簡単なんじゃじゃないですか?」
ユミノが尋ねる。
「小耳に挟んだ程度なんだが、ナコの実は、の森の深い所まで行かないと実らないはずだ。このクエストを選ぶ奴らに、というかそもそもこの学園に森の奥まで行けるやつはSクラスにしか居ないし、そのSクラスも他3人を抱えながらでは不可能だ」
「つまり罠ってことなのね。選ぶ段階から試されているってわけ」
「恐らくそうだろう。この中だとゴブリン討伐を選ぶのが正解なんじゃないか?オークだと上位クラス任せ、少なくとも下位クラスでは太刀打ち出来ないはずだし、森狼《フォレストウルフ》は群れで行動している。四、五匹なら1人1匹でなんとかなるだろうが、八匹を超えると実力によるが中々に厄介だろうと思う」

事前に色々調べて来ている様で、自分の意見をしっかりと持っている。
それに、とディドルトが続ける。
「上位クラス任せになるのも良くない。あくまでもこれは実習なのであって、全員が経験していないと駄目なんだろう。学園側に確認する術があるのかは分からないが仮にも試験という形をとっている以上、反するのは良くない」
それなりの根拠を得ているようで、真偽は抜きにしてもこの発言には説得力があった。

「たしか、ユミノさんは魔法選択、ラスタナさんは剣術選択なんだよな?」
「ええ」
「なら俺とラスタナさんは前衛、ユミノさんは後衛になる。リヒトはどっちもいけるのか?」
「ああ、そうだよ」
「なら前後衛のバランス上、基本的には後ろにいてくれ。俺も剣術選択の端くれである以上、足でまといにはなりたくない。ただリヒトという存在を無駄にしているのは良くないというのがネックだな…。どうするべきか」

「なら、自由に動いてもらえばいいんじゃない?」
ラスタナが提案する。
「どういうことだ?」
「固い言葉を使うなら遊撃手。貴重な戦力を無駄にしたくないのなら、多分それがいいんじゃないかな?」
「なるほどな。そういうのもあるのか。それを採用しよう。ただ前衛を軸に動いて欲しい」
自分に無かった考え方を素直に受け入れ、それを採用できるのは彼の長所と言えるだろう。それが出来ずに死んで行った例が、ラトステッドの言っていた人達なのだから。
「了解。こっちで勝手に、邪魔をしない程度に動けばいいのね」
「ああ、それで頼む」









後日、Sクラスの教室に見知った顔が見えた。
「ディドルトか。何しに来たの?」
「い、いや、一応同じ班で期間中は一緒に動くわけだから、少しくらい皆のことを知ってもいいんじゃないかと思ったんだ」
このクラスに足を運ぶのに相当勇気が必要だったのだろう。今尚微妙に緊張している様に見える。
「それで俺を誘いに来たと」
「ああ、そういう事だ」
「他の2人は?」
「ああ、それが、なかなか誘いにくくてな…」
「なるほど。どうする?」
「居てくれた方がありがたい」
「そうか。じゃあ呼びに行こう」


校舎の作りは特別複雑なわけでもなく、6クラスが等間隔に並んでいる。そのため気軽に他クラスへ行けるのも強みではあり、AからB、BからCへ等は日常的に見られる。2クラス以上を跨ぐのがカースト的な問題ではばかられる傾向にあるのは、実力順にクラス編成されるこの学校の欠点だろう。ただし、リヒトの功績が表に出た時は、学年クラス問わず集まった、ということはあったが。

数刻もせずにCクラスへ到着した2人は、教室の中を覗き込み、当然騒ぎになる。
「え、リヒト様?!ど、どうしてこちらへ?」
扉近くに居た彼女は状況が飲み込めていないのだろう。殆ど反射的にそう口が動いていた。
「ラスタナに用があってね、何処に居る?」
「ラスタナ、ですか。彼女なら…」
彼女探すために教室を見渡していくと、彼女がいると思われる付近で声があがったため直ぐに居場所が判明した。


「ええ、!?あなたどうやって知り合ったの!?」
「だから言ったでしょ。校外演習の班が一緒なんだって」
「あれ本当だったの?妄想とかじゃなくて?」
「だから本当だってば……。とりあえず呼ばれてるから行くね」
姦しいトークを強制的に打ち切り、気分よく駆け寄ってくる。


「何かあったの?」
「いや、ディドルトが親睦を深めに何処かへ遊びに行こうって話になってね。それで誘いに来たんだけど…迷惑っぽい?」
「い、いや、そんなことない!それで、いつなの?」
全力で否定するラスタナ。彼女の背後から感じる狂気に少しばかり戦くディドルト。
「今日の放課後、でいいんだよね?」
「あ、ああ」
「だってさ」
「わかった。開けておくわ」
「よろしく」
「そ、それだけ?」
「ディドルト曰くそれだけだけど……、それより後ろを見てみたら?視線が怖いんだけど」
リヒトが指摘したことで変に静まり返ったせいか声がよく響いてしまう。
その事に気付いた彼女達は何も無かったかのようにニコニコと平静に振る舞うが、時既にお寿司。

「うっ、戻ったら殺されそう……。次ユミノの所に行くんでしょ?付いていってもいい?」
「ああ、いいよ。というかお願い」
リヒトからお願いされたことにか、目を輝かせる、。
「たぶんEクラスでもこんな風になると思うし、ラスタナが居てくれた方がいい」
「はぁ、今日私死ぬんだ……」
誰にも聞こえないように呟くがそこはリヒトクオリティ。リヒトだけには聞こえてしまう。
「ラスタナが必要だからまだ死なないで」
周りを気にして小声で囁くが、耳元でとなれば結果はあまり変わらない。
「はうぅぅ」
結果はラスタナのノックアウト。突然座り込んだことに驚くリヒトだった。






ラスタナを直ぐに回復させた後、3人はユミノのクラスへと向かうのですが、割愛させていただきます。何故なら内容が殆ど同じだからです。

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