月下の幻想曲

矢能 智郁

41話

「さて、先日まで創世記やそれ以降の歴史、カルノティアの歴史について学んできたわけだが、今日からは国内について深く触れていこう」


「現在、カルノティアを治めているのはホルトースカス家。元は宰相だった家だ。
そしてその下には公爵四家、侯爵六家、伯爵八家、辺境伯二家と上流貴族が並ぶ。他国と比較してみれば数は少ない方だが、その代わりに下流貴族と分類される子爵、男爵家が多いのが特徴だ。

これから暫くは各領について学んでいくことになる。ある程度詳しくはやっていくつもりだが、情報量や正確さには限度があるから、補足があれば随時頼む。

でだ、今回は四大公爵家について話していく訳だが、何故そう呼ばれているかは知っているな?」


カルノティアが建国されたのは今から約300年前のこと。それはカルロストン国が潰え、魔族と人族の争いに他種族も巻き込まれ、戦乱の世と化していた時代。

そんな中興った国の1つがカルノティアだった。現在同様魔族領の南に位置し、国境では小競り合いが日常茶飯事だった。
そんな魔族の猛攻を食い止めていた兵達を率いていたのが、フレカニル家だった。
人類の中でも隔絶した力を持つ魔族相手に一歩も引かない攻防を繰り広げ、領土防衛に尽力を尽くしていた。

その功績が讃えられ授爵、いつしか公爵の地位にまで上り詰めていた。
その名残りで、家を継ぐ長男以外の男性は王立騎士団・魔法師団の上層、中枢で今尚活躍している。

他にも、国交に於いて功績を為した 知のアンシュワーツ家、国家間の貿易に於いて功績を残した 商《あきない》のウェミン家、罪人を捌き国内の平定を担った 司法のクスタカール家がその地位に居り、当然国の中枢を担っている。

「ってなわけだ。どの家も相応の業績を残してきたからこそ、今の地位にいる。

当然、授爵している他の家についても何かしらの理由があるわけだから、その家に生まれた子供は期待の目で見られてしまうわけだ。そんな経験あるだろ?」

シレナをはじめとする何人かが頷く。
過去に経験があるのか、その目はどこか昏い。

「だが、これだけは忘れるな。
良家の子供だからと言って、天才の親から生まれたからといって、必ずしも才能のある奴が生まれるわけじゃない。悪人の子供だからと言って、そいつもそうだとは限らない。''その可能性が高い''ってだけだ。

だから、個人の本質を見極めろ。偏見で物事を測るな。采配しだいではどんな奴でも予想外の、最大限の力を発揮しうる。そうさせるのが導くものの力だ。人類に潜む力を見縊るな」

ラトステッドの言葉には、揺るぎない根拠があるようで、ひどく重く感じた。口調からも今までにないほどの真剣さが読み取れ、誰であろうと無下にはできないと思わせる何かが篭っている。

「これが、俺の、俺達《・・》の人生に基づく一番の経験だ。

特にジン。お前、「平民だから」「貴族だから」なんて考えをしてたら一生成長でいないぞ。俺の実体験からすると、そう言っていた奴らは例外なく嵌められて処刑されるか、謀反か、暗殺されるか。いずれにせよいい結末は迎えない」
これまでにそういった例を何人も見てきているのだろう。齢40にも届きそうな見てくれからひしひしと伝わる。

「さて、話が反れたな。
この国を支える四大公爵。その四家が───」









「おう、最近調子に乗ってるリヒトってのはどいつだ?」
突然教室の扉が開かれ、入ってきたのは明らかに柄の悪そうな人とその眷属2人。
「どのリヒトかは存じ上げませんが、このクラスでリヒトという名を持つのは私ですね」
相手をおちょくるように用いる敬語。ある意味通常運転。

「そうか、お前が。ちょっとツラ貸せ。、ってもんを教えてやる」
「ホルバ=ティスタノール先輩?」
突然の知り合いの乱入に、しかもその標的がリヒトとなれば困惑するのも当然だろう。

「お断りします。見ず知らずの人には付いて行くなと親からこっぴどく言われているので」
「んだと?あんまり調子に乗るなよ」
先輩である俺に口答えし、あまつさえ反論したリヒトに制裁を加えようと殴り掛かる三下。沸点が相当低いのだろう。そして無駄に力を持っているが故に誰も止められなかったのだろう。
一方でSクラス全員は冷やかな目で三下の無事をほんの少しだけ願っていた。
しかしてっきり殴りかかって来た相手を返り討ちにするものだと思っていた彼らの予測は大きく外れることになる。
なぜなら、三下が殴り掛かろうとしたまま静止していたからだ。
「皆、これってさ、状況証拠として先生に言えないかな」

学園内での私闘は相応の理由がない限り、訓練所を除いて禁じられている。当然貴族が権力を振り翳すことも禁止されており、もし違反した場合には重い処分、最低でも停学となる。
「大丈夫、じゃないかな。現に証人はここにいるわけだから」
非現実的な光景に戸惑いながらアウラが答える。
「そう。ならいい」
「お前、何をした」
「どうして貴方の質問に答えないといけないんですか?」
イレギュラーにより誰の目から見ても、の不利は確実となり焦り始めるホルバ。どうにか言い返そうにもリヒトの威圧の前に萎縮してしまう。先の時点で連れてきたもう1人の部下は動くことすらも既に出来なくなっている。
「まさか自分達が勝つことを想定していて、負けるとは微塵も思っていなかったとか?」
的確な考察にホルバの顔が強ばっていく。
「他人の人生を壊すんだから、まさか自分達はそうじゃないと言うわけではありませんよね?」
「い、今すぐそいつを解放しろ。さもないと」
「さもないと?どうするんですか?」
「親に言いつけてやる。貴様みたいな平民の家くらい子爵の地位を使えば造作もなく取り壊しだ」
「いや、ちょっとまって。ホルバ先輩、まさか、知らないんですか」
決定的な齟齬にイルマ口を挟む。
「あ?ああ、イルマですか。何がです?」
「今先輩が絡んでいる、そこのリヒトなんですが、貴族の息子ですよ?」
「は?」
ホルバの顔が徐々に強ばっていく。
「しかも、キフェルネの」
「はぁ!?キ、キフェルネって、あのキフェルネですか?」
「ええ。剣の申し子キュペル、智のフィーナを擁する、あの」
「……」

一貴族の名前として、キフェルネの名はさすがに聞いたことがあるらしく、いや聞いたことがあるどころか畏怖の対象であるらしく。

「で、先輩なら取り壊しが可能、と。流石ですね。尊敬します」
冗談めかせて、いや皮肉を効かせて告げるイルマに反射的に反応してしまう。
「う、嘘なんですよね?!今まで3人目が居たことなんて聞いたことがない!」
「だと良かったんですけどね。先日の入学パーティーで正式に発表されていましたし、キフェルネ夫妻もいらっしゃったのでまず間違いではないです」

知らなかった驚愕の事実にたじろぐホルバ。嘘であると願いたいその事実も否定しようのない裏付けがあるのならば信じざるをえず、どうして情報収集の段階でわからなかったんだ、と己の部下を睨む。もっとも、その部下が調べてきたことも、学生の身ではなしどげれず噂が誇張したものだろうと決めつけたのは彼自身ではあるが。

「力差、奇襲、情報、それにこの状況。どれをとっても勝ち目は皆無。素直に身を引いた方が身のためですよ。それとも一方的に嬲られたいんでしょうか?今、ここで」
5人という少なくはない人数で殴り込みに来たのにも関わらず、たった一人に返り討ちにされたという事実が広まれば、3年のSクラスに席を置く者の一人として君臨する彼の評判に傷が付くことは想像に固くない。
証人の大半が影響力のある人物である以上、家の権力を使って抑え込むしかないが、ジンが居るがためにそれも不可能。
それらを天秤にかけたかどうかは不明だが、彼等は潔く撤退を選択した。
この選択が後に及ぼす影響を考えもせずに。


……どちらを選んでも悲惨なことになることだけば間違いなかったが。

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