月下の幻想曲

矢能 智郁

40話


翌日、学園にて改めて改定について発表された。同じタイミングで国内各地に同様に発表されているらしい。

学園では信憑性を上げるためにルナが、学園付近の城下ではリヒトがそれぞれ実演することになったが、他の場所ではそうもいかなず、この改定が浸透しているかは不明である。しかし一縷の望みに賭けて信じた者も中にはいるはずなので、信憑性は徐々に高まっていくだろう。

ちなみに「魔法大全論」を唱えたアネルノ=サグノリアを祖とするサグノリア家からの苦情もあったが、主張全てを論破し、「魔法大全論」の意義が消えた訳ではなく解釈の仕方が変わったと説明し事無きを得た。






この日のSクラスでは専らの話題はリヒトについてだった。
「えっ、リヒトさんって貴族様だったんすか?!」
「うん。黙ってて悪かった。言うタイミングが無かったんだ」
「これは僕もびっくりだったよ。昨日は話しかけに行こうとしたんだけど知り合いに囲まれてしまっててね。やっと空いたと思えばリヒトの方がお取り込み中だったから行こうにも行けなかったんだ」
「俺もイルマの方へ行こうとしたけど人が沢山集まってたから諦めたよ」
「そうだったのか。このこと、ルナとシモネは当然知ってたんだろう?」


「はい。リヒト様から魔法を教えて貰っている時から、既に」
「リヒトから一対二で教えて貰ってたんでしょ?いいなぁ」
「ええ、感謝しています。たかが──だった私をここまで引き上げてくださったことには」
そう濁して言った。聞き取れたのはリヒトくらいだろう。






事が起きたのは、寮へ向かう途中、即ち下校中だった。
想像通り、今朝の発表から噂を聞き付けた者に囲まれたのだ。むしろこの日の授業中に囲まれなかったことが不思議とは言えるが。
「キャー」と言った黄色い声や勧誘の声が聞こえてくる。

その輪は徐々に野次馬やどうにかして縁を結ぼうと必死になる者によって大きくなっていき、収拾がつかなくなっていた。
四方八方から飛び交う質問、声援に耐えきれず、リヒトは徐々に気配を薄めていき、大多数の視界に入っていないことを確認するや否や、転移した。








転移先は寮の裏手。
その近くに2つの影が見える。
「ルナ、それと貴方は、先日の」
「はい、そうです。覚えててくれたんですね」
「ユミノから魔法を教えてって頼まれたんだけど、一応リヒト様の許可を取っておきたくて」
「ああなんだ、いいよ。というかルナに頼むように言ったのは俺だからね」
「本当だったんだ。わかった」
「教えることで気付くこともある。時間はあるし、好きに教えてみなよ」
「わかりました」


「ん?その為だけにここに居たの?」
「うん、そうだけど……?」
「そうなのか……。なら、今から始めるつもりなの?」
「うん。これから部屋に戻って始めるつもり」
「なら場所を変えよう。俺も付き添うまぁ口出しするつもりはないけど、寮の前があの様子だと入れそうにもないしね。いつの間にか中に居ました、じゃ余計変な噂が立つ」
大衆の前で転移したあたり既に手遅れな感じはするけどという言葉は飲み込み、ルナ達について行く旨を伝える。










3人は場所を変え、ルナによる指導が始まった。
「よし、始めるよ」
「お願いします」

(今回はリヒト様が見てる。ちゃんとしなくちゃ)

「まず貴方の魔法に関する認識から変える必要がある。今日の発表は知ってるよね?」
「うん。にわかには信じ難いけど、目の前で実演されると信じざるをえないというか……」

「私が今から教えるのは、その2つよりも極秘の、世界を変えうる秘術。やってることは全くもって難しくないけど、それだけで今までにない革命が起こりかねない。悪党はより力をもつし、犯罪もより巧妙に。加えて街で暮らす人達も力を持つようになるから冒険者の依頼も減る。
だからたぶん、リヒト様も広める気は無い。急激な変化で世界が狂わないように。

だから覚悟して。これから教えるのは、下手したら世界を滅ぼしうる力」

あまりの真剣さにたじろぐユミノ。しかしその圧が故に事の重大さを否応無く悟り、若干のゆらぎが生じかけていた。

「リヒトさんに、ルナちゃんに教わるのがそんなことだとは想像もしてなかった。あまり実感はないけど、でも覚悟は決めた。
今のままじゃ嫌だ。変えたい。見下してきた人たちをあっと言わせたい。その為ならリスクは負う」
過去を鑑み、を、え、決意が揺らがぬ内にユミノは答えを出した。副次的に起こる災害には気付きもせずに。

「決心したね。じゃあ教えていくよ」
「はい。お願いします」
「まずは魔力操作。これが、全ての基本になる」
「魔力操作……?」
「うん。私達は魔法を使う時、体内にある魔力を変換して魔法を使っている。これは扱うことの出来る魔力の絶対量を増やすためのもの。他にも使い道はあるけど今はそれでいい。ちなみに実践してみるとこんな感じ」

言葉で伝えるよりも実際に見せた方がわかりやすいだろう、と実演してみせる。
- [ ] 余りにも見事な技術力に、初見の彼女でさえ、を感じた。
「わぁ、すごい…」
「これを、これから1ヶ月間毎日やってもらう。これをやってるかやってないかてま実力は天と地の差。実際私もこれをする前は、と同じ程度の実力しかなかった。それが、大体3ヶ月前」
「え、3ヶ月?!」
淡々と述べられた事実に、高々3ヶ月程度で世界のトップレベルにまで上り詰められるのかと驚愕を隠せない。
「そう、たったこれだけ。やってることは何も難しくない。さっき言った意味はこういうこと。
世間では無意味だとされてきたことだけど、実際問題そんなことない。だけど無意味とする風潮はある意味正解だったのかもしれない」
ルナなりに導き出した根拠に耳を傾け、自分が今から教わる力への恐怖が心を蝕もうとする。
「……具体的には、どうすれば」
そんな恐怖から半ば無理矢理に抜け出したユミノは、声を絞り出すように疑問を発する。
「んー、自分の魔力って感じることは出来る?」
「魔力を感じる、か。詠唱している間に体の中を何かが流れている気はするけど」
そんな問いに何か意味があるのか。一瞬頭を過ったその問いに、流れからして当然意味はあるのだろうと判断し返答する。
「それを意識的に引き起こしてみて」
「う、うん。んー。こんな感じ、かな?」
「そう、それが魔力。成功してるから。その感覚を忘れないで」
「んっ、は、はぃ」
どこか反応が色っぽいのは、気のせいだろう。



「これを、しばらくの間続けてもらう。
次は無詠唱。これは、これから学園で学んで行けるようになるとは思うけど、一応。練習の仕方は簡単。徐々に詠唱文を意識して短くしていくだけ。
これは4ヶ月後に使えれば早い方だから、出来なくても気にしないで。決して才能じゃないから」
4ヶ月経っても使えないかもしれないという可能性に気後れする。
「わかった。でもルナちゃんはこれを3ヶ月で?」
「うん。でも今とは状況がちがって、一日の大半をそれに費やさせられてたから」
「そうだったんだ」
「正直、魔法を教えると言ったものの、基本はこれだけ。基礎が出来ないと魔法は使えないから。これが終わってから他の色についても教えていくけど、私もまだ発展途上だから一緒に頑張ろう。それと、自分で情報を集めるのも忘れないで」
そう締めくくり、一通りの話を終えたルナは、魔力操作の感覚について事細かに説明していくのだった。







ルナに指導を任せてみたけど、正解だったみたいだ。思った通り、自分の言葉で伝えることで改めて理解出来ている。本当の狙いは次の段階だけど、この調子だと問題ないだろう。
今の俺でもわからないことの方が多いため口出しは出来ないが、良くない方向に転ばなければそれでいい。


彼女は一体どこまで化けるだろうか。

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