月下の幻想曲

矢能 智郁

33話


季節は巡り新生活が始まる
制服を身に纏い、この日の為に飾られた花道を往く。
年に数度のめでたい日だと街は賑わい、子供たちの晴れ姿を見ようと親は子を送り出す。


時に、大通りの真ん中を馬車が通り過ぎる。貴族の子女が乗り登校する馬車だ。
この光景を見て、あれはどこの貴族だ、あれはどこどこの息子さんだ、と民衆は大騒ぎ。
普段ならばそんなことはせずに直接学園へ向かうのだが、この日は入学式ということもあり、擬似的なパレード状態になっている、
一体誰が始めたのか、既に定かではないが、気が付けばこれが慣習となっていた。もちろん参加しない者も居るが、折角の機会だからと参加するものや何らかの打算を込めて歩む者がほとんどだ。







その道を制服で1人、歩む者がいた。
「はぁ、ついにこの日ね。「創世の王」を継ぐものが学園に入るって情報が来たから私が入れられたけど本当に居るのかしら?本部には目立つなって言われてるからSには入らなかったけど……。「創世の王」の力があればそれなりに力はあるし目立つわよね。となればSに居る可能性が高いから、入らなかったのは失態よね…。ああ頭がいたい……。今年は情報収集に徹して、来年から捜索?いやそれまでに成長してるわよね。どうしよう……」

ここでもまた1つ、思惑が動こうとしていた。












変わって門手前。
校舎を見上げる男の姿があった。

「自分がSクラス……。父さんも母さんも喜んでくれたっすけどやっぱり荷が重いっすね。
……はぁ。レーリは今頃何してるんすかねえ。4年前に別れて、その時にここで、Sクラスでまた会おうって約束したのに居なかったし。もしかして忘れられてるんすかね?それだったら悲しいけど4年も前のことだし、って今からしんみりしてちゃダメっす!
偶然でもSクラスに入れたんすから頑張らないと。ましてや落ちるのだけは勘弁っす。

よっしゃあ!男キャプトの物語はこれからっすよぉぉぉぉ!!!」



……1人で落ち込んだり突然叫び出す姿は、後に笑い話として広まるのはまた別の話。



「えっ、キャプト……?」
そう呟いた者が居たこともまた、別のお話。













「えー、人生には「節目」というものがあります。皆さんは今、高等学校入学という大きな「節目」を迎えました──」
厳格な式における話が長いと言うのはどこの世界においてもお決まりなのだろうか?
退屈な時間を過ごしながら時間は進む。







「新入生代表挨拶、ジン=フレカニル」
普通はこういう挨拶は首席が行うことだが、学園の体裁上貴族に行わせたかったのだろう。リヒトとしても、この類のことはあまり得意ではないため都合がいいことは確かだが。
試験時の登録上、リヒトは市民扱いであり、学園側はリヒトが辺境伯家の息子だという事実を知らない。
平民が貴族を騙ることは大罪とされているが、その逆に罰則はない。平時には騙ることメリットがそもそも存在しない点と、仮に騙らなければならない状態に陥るのであれば余程の事情がある点を加味すれば当然とは言える。

ジンの形式的な挨拶が進み終盤に差し掛かった時、彼の空気が変わった。
「そして最後に、首席のリヒト。いずれ俺がその席を貰う。首を洗って待っとけ」

事実上の宣戦布告。先日悲痛なほどに打ちのめされたのにも関わらず、再度挑んでくるつもりなのだろう。
その言葉に鬱陶しさを覚えつつ、リヒトは次はどう倒そうか考えていた。





ゴーガンと戦った際は相手の実力が解らず、制限しながらも全力で相手した。安い挑発に乗ってしまったのを見て、これなら大丈夫だと先手を譲りはしたが。
一方、ジン相手には、キュペルに負けていることを事前に知り、同年代であるということでシモネらを相手取る程度の力で対峙したが、予想よりも下であったがために余裕が生まれた。


あの程度であればなんの問題もないと感じると同時に、同年代という枠組みの中に自分を置いた時にどれだけ逸脱しているかも感じ取り制御する必要があることを知ったが、目下の敵は「常闇の夜明け」。下手に油断することは出来ない。

学園にいる間は目立つために手出しはしにくくなるが、零であるとは限らず既に潜入している者がいる可能性もある。「常闇の夜明け」に依頼した何者かからの接触、トナの存在やルナの姓イェーリッグという問題が舞い込みかねないため気が抜けず、これまでよりも大変な生活になることだろう。











ミアロスク学園では寮においては全クラス混合の男女別で、身分も考慮せず3人一部屋で振り分けられる。
現在リヒトはその部屋に1人で向かっている最中だ。


部屋に入ると、そこには既に先客が1人。
「貴方が同室の子ですか?はじめまして。私はラッタルです。よろしく」

「リヒトです。よろしく」



「ここか!お、もう居たんだな。てっきり我が一番だと思っていたぞ」
突然勢いよく扉が開いたと思えば、ガーッハッハッとでも笑いそうな口調に耳が痛くなるほどの騒がしい声量で体格のいい、いやごつい男が入ってくる。

「我はデゴン。よろしくな」
「ああ、よろしく。全員集まったところで聞いてもらおう。私はAクラスに配属されることになった。全体では42位だ。どうせ2人とも私を超えることはできていまい。この部屋では私に従ってもらうよ」
挨拶の時に少しでもまともだと思ってしまった自分が馬鹿だったとリヒトは思った。どうもラッタルは自分の成績がいいことを、調子に乗るタイプらしい。しかし残念ながらこの部屋には1位という圧倒的上位が居るため意味をなさない。

「何を言ってるのかわからないんだけど?」
さも当然のようにいう、にリヒトが問いただす。
「誰が質問していいと言った。君たちは私の指示を聞けばいい。まずは部屋の整理からだ」
「はははっ。お前の基準では自分より順位の低い者は塵芥、奴隷扱いなのか?ならその考えは無理だな」
「五月蝿い。早く動きたまえよ」
「ガーッハッハッ。我がそのようなたまに見えるかい?そしてこの部屋には学年1位が居る」
「何を馬鹿なことを言っているんだい?ほら、リヒトも早く」

「ラッタルより順位が高ければ聞かなくていいんだよね?」
「ああその通りだ。無論そんなことは起きないがな」
「なら俺は聞かなくていいね」
そう言ってリヒトはポケットから先日渡された緑色のバッヂを取り出す。
「なっ?緑色だと?まさかSクラスだとでも言うのかね!?」
「ああそうだよ」

「そんな馬鹿な。上位クラス、AクラスとSクラスは同じ部屋にならないはずだ!」
この寮の部屋割りは、同クラスの者が出来るだけ同じ部屋にならないように振り分けられている。加えてCクラス以下には寮を利用するものが多く、Aクラスに居れば部屋の中で上位を取れるのは確実だと思うだろう。
しかしSクラス10人中7人が利用するという事態がその希望を打ち砕いた。

「それにお前は貴族であろう?指図目身内にでも嫌われて逃げてきたか」
「なっ、どうして」
「簡単な話だ。その考え方。そんなにも独裁的に考えられるのは貴族しか居らん。こちら側なら貴族を恐れて始めから強がるなんてことはしない。偶にそんなバカは居るがな。後は細々とした所作が我らと異なっておるよ」

そう指摘されると、ラッタルは思い詰めた表情で話し始める。出来るだけ隠しておきたかったのだろうか。
「ああそうだ。私はハートヨーク家の八男だ。しかし高尚である貴族に生まれたのに八男であるが故に親に見向きもされず、妾の子だからと兄弟にも敵視されてきた。だから私は逃げ出してここにきた。推薦を受けられなかったのは正妻のあいつに直前でバレたからだ。受けると決めた時から猛勉強猛特訓だった。そしてAクラスに入ったんだ。
そんな日々だ。多少の反動があったところでおかしくはないだろう?」



「いや、まぁ、うん、そうだね。うん。
まあたぶんラッタルのことを知っている人がそうなることを危惧したから俺をここに割り振ったのかもね」
でもまあ、早めに片付いてよかった。下手に長引けば面倒なことになっていたかもしれない。

「リヒトがSクラスだと知らずに突っかかって行ったと思うとゾッとする」
「はは、じゃあ改めて、これから宜しくな?」
「ああ」

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