月下の幻想曲
31話
「俺はこれから1年間このクラスを担当する、ラトステッド=サグノリアだ。よろしく」
突然絡まれたリヒトだったが、その人物─ジンが最後の一人だったということもあり、、がさっさと席に座らせたことで落ち着くことが出来た。
「サグノリアだって!?」
イルマが反応する。
「知ってるなら隠しててもしょうがないな。そうだ。お前の予想通り「叡智」サグノリア家」
「うおっ!まじか!サグノリア家ってパーティとかに全く参加しないから会えないもんだと思ってた。こんなところで会えるなんて……!!後でお話聞いてもいいですか?」
「ああ。ただ話すことは何も無いぞ?」
「それでもです!」
いつぞやのルナのように目の色が変わっている。
「そうか……。今日は忙しい。入学してからな」
「ありがとうございます」
「で、これからこの学園について話す訳だが……、お前ら自己紹介しておくか?見たところ何人かは知り合いなんだろうがたった10人しかいないクラスだ。全員が仲のいい方がいいだろう?」
「そうですね」
イルマが返事をする。要らないことをするなとジンからガンを飛ばされてはいるが。
「内容は、名前と適正、得意武器でいいだろう。どうせ後でバレるんだ。騙っても意味ないからな。では、1位から」
さも当然のように振ってきたので少し戸惑ったリヒトのだが、落ち着いて話し始める。
「えー、リヒトです。得意なのは青魔法と緑魔法。武器は刀を使っています。1年間よろしくお願いします」
「俺はジン=フレカニル。フレカニル公爵家次男。適正は赤。武器は剣」
それだけ言うと彼は明らかに不機嫌そうに黙り込んでしまった。
フレカニル公爵家。このカルノティアを支える4つの公爵家の1つ。武を司り、国防のトップを務める。
その性質から武に優れた者が多く、ジンもその1人なのだろう。
そして次。シモネの番。
「シモネです。得意なのは緑魔法。武器は小物類なら何でも大丈夫です。これからよろしくお願いします」
「名前はルナ。得意なのは白魔法。魔法一筋だから武器使ってない。強いて言うなら杖。」
本当にそんな信条を持っているのかは知らないが、訓練では度々武器を使っていた。
「へえ。ロートル家みたいな事言うんだね」
イルマが反応する。
ロートル家は魔法を重視する家柄で、魔法を使えなければ人に有らず、という心情を掲げている。
「ノラノル侯爵家次男、アムット。武器、槍。適正、青魔法・黒魔法」
独得な、と言うべき話し方で初対面と思われる人達が困惑している。
それを見てイルマがすかさずフォローを入れる。
「ごめんね皆。ジンは訳あって不機嫌で、アムットは人見知りなんだ。心を開けば普通に接してくれるんだけどね。
あ、改めまして。僕はイルマ=アルレス。アルレス伯爵家の長男だよ。適正は緑魔法。武器は長物が得意かな。
ジンとは4年くらい前から話すようになって、シレナとは領地が隣で偶に遊びに行ってたんだ。長男ってこともあってパーティにはよけ出てたから同年代の貴族とはほとんど知り合いなんじゃないかな。
何かあったら僕に聞いて。これからよろしく」
「そのシレナって言うのはあたしだょ。適正は白魔法。武器は、家では習わなかったねぇ。白魔法の回復面を重視されてたった感じだったかなぁ?。これからよろしくねぇ」
「じ、自分はキャプトと言います。適正は……知らないです。恥ずかしながら」
「はっ、これだから平民は」
「ちょっとジン。今のはダメだよ。仮にもこれから同じ部屋で学んでいくわけだし、その平民嫌いを克服する良い機会なんだからさ。はじめから強く当たってちゃダメだよ。キュペルさんにも言われてるでしょ?」
兄の名前を聞いた瞬間、リヒトは吹き出しかけた。
ルナとシモネも動揺を隠せない。
状況が笑いを許さないとしても、突然突っかかってきた相手が自分の兄を尊敬しているとなると話は変わってくる。
…ちなみにキャプトはジンの威圧に怯え、既に小さくなってしまっている。
「次は俺か。俺はガント=カノー。武器は剣。適正は赤魔法だけだ。
キュペル=キフェルネと言う人を目標にしている。よろしくな」
リヒト達の状態を察し、ジンにバレないようにすべく話を変えたガントだったが、流石にリヒトが笑っているのがキュペルのことだとは思いもよらない。
そのせいでリヒト達は余計に笑いを堪えなければならなくなってしまった。
「でもキャプト、適正を知らないのにどうやってここに入ったんだ?」
「ええとですね、暇な空いてる時間に色々やってたら、気がついたら出来てたっす。赤魔法と青魔法の2つっす」
「独学で魔法体得。すごいね。後で話そう?」
「は、はいっ、お願いしますっす」
一区切り着いたところで次。
「私はアウラ=クルネラット。男爵家の三女よ。適正は青魔法と白魔法。シレナと違って白魔法は光がメインね。武器は……そうね、細剣《レイピア》と言ったところかしら。迷惑はかけないようにするつもりよ」
その言い方には少し、わたしのがこの場にいるのは間違いなんじゃないかと言う謙遜が混ざっていた。
「よし、終わったな。この後も少し時間はあるからその時にでも話に行け。
んでだ、次は確認事をしていくんだが、まずこの中で寮を使う者は?」
リヒトら3人とキャプトはもちろん、他にアムット、イルマ、アウラの計7人が手を挙げた。
「おお、意外と居るもんだな。
次は他クラスなら学ぶ科目を選んで欲しいのだが、お前らは未来のこの国を先頭で背負っていくということで様々な知識を知っていてもらいたい、ということで選択はない。
その分勉強量は多くなるが、その程度で音を上げてもらってはこのクラスの名折れだ。
恨むならこのクラスに入ることが出来てしまった自分を恨め。
でだ、次は──」
そんなこんなで細かい確認を行い、次に移る。
「さて、制服の採寸なんだがな、これは他のやつが呼びに来る手筈になってるんだ。
同時に胸元に付ける、クラスを示すバッヂも渡される。これは生徒であることを示すものでもある。お前らの色は緑だ。
さて、回ってくるまでにそれまでに時間がかかるから、しばらく自由にしてていいぞ」
その言葉と共に部屋は騒がしくなった。ラトステッドは一度教室を出てこのあとの準備をしに行った。
隣の人と話す者や、イルマのように積極的に話しかけに行く者など様々。そんな中、リヒトはさっさと席を離れてルナとシモネと話していた。
「リヒト、先程は大変でしたね」
発したのはシモネだ。数日後にはバレることにはなるが、とりあえず今日はできる限り隠し通して面倒事を回避しようという魂胆で、無理を言ってとりあえず呼び方を変えてもらっている。敬語だけであれば、こんな喋り方なのかな?と、ある程度は誤魔化せる。リヒトとしては敬語も抜いて話してほしかったのだがそこは2人に拒否されてしまった。
もっとも、これが悪い結果に繋がったとは言えなくもないが。
「いや、そうでもないよ。こうなることは覚悟してたさ」
「そうなんです「おい」」
シモネの言葉を遮って聞こえてきた、先程と同じトーンの声。
「はい、何でしょう」
「どうしてお前みたいな平民如きがあの席にいる」
「なぜと言われましても。私《わたくし》如きには皆目検討もつきません。学園側に問われてみては?」
できるだけ癪に障る感じを醸しつつ答える。
態と煽っているのは、彼がリヒトの兄であるキュペルを慕っているからだ。目的はただの意地悪だが。
「んな事知るかよ。どうせ裏で何かやったんだろ。でないとあの席に居るのは俺だ」
「既に終わったことで愚痴愚痴言われましても。私程度にはどうすることも出来かねますし」
「んだと?!」
「そこまでにしなよ、ジン。あとリヒトも。態と煽ってるでしょ」
止めに入ってきたのはイルマだ。
「今問題を起こすのは良くない。それに止めておくのはジンのためでもある。まぁその前に、ジンじゃ太刀打ち出来ない」
「俺の方が弱いって言うのか?」
「うん。たぶん、圧倒的に。でしょ?アウラ」
「えっ私?そうね……。うん。少なくとも私の目ではリヒトの力の底は見えないかな。こんなの久しぶり。キュペル=キフェルネ以来かな」
ここで兄さんの名前が……。兄さん何やったんだ?
「はぁ?このひ弱そうな奴がか?巫山戯るな。絶対に俺の方が上だと決まっている」
「ジン。本当にそこまでにした方がいいと思うよ。忠告する」
イルマは真剣な面持ちでジンを見つめる。
「しょうがねえ、イルマに免じて今は引いてやる。だが、この後訓練場に来い。力の差を教えてやる」
そう言うとジンは自分の席にズカンと腰を下ろした。不機嫌なのはもちろん、どこか1位に固執しているようである。
「リヒト、本当に悪いんだけどさ、あいつの鼻をへし折ってくれないかな。完全にこっちの事情でしかないんだけどね。これまで何回もキュペルさんにやられたり、先輩方に負けたりしてるんだけど「俺は強い」って言い張っててさ。現にしばらくしたらその人達にも勝っちゃってるし。今のところ1回も勝ててないのはキュペルさんと騎士団の上の方の方々くらいなんだ。同い年の人に負けたら少しは考え方を変えてくれないかなって。だからお願い」
「わかった。引き受けるよ。あれの自信を叩き折ればいいんだね?」
「う、うん。正直圧倒は難しいと思うけど、できる限りね」
「ん?何が起きたんだ?まあいい、行くぞ」
神妙な空気は、何も知らないラトステッドの登場で幕を閉じた。
この後は採寸や教科書など細々とした物を購入し、再度ラトステッドの話を聞いて解散となった。
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