月下の幻想曲

矢能 智郁

30話



2日後、合格発表が行われるためリヒト達は学園へと赴いた。
試験を受けたほぼ全員が一箇所に集まり今か今かと発表を待っているため人口密度が半端ではない。そのためリヒト達は一歩引いて遠くから見守っていた。


時間になり紙が貼り出されると、全員が一斉に飛び付いた。学園側もこれを予期してか普通よりも高いところに貼り付けていた。

飛び跳ねて確認を試みる者、押し合いをしたり、挙句喧嘩へと発展している者まで見受けられる。

この表には、貴族も含めた全受験者の順位の内、一般入試を受けた者のみ番号と名前が、貴族には幾らかの加点がされているが、全て成績順に記されている。
合格人数は、毎年一律してSクラス10名、Aクラス40名、Bクラス60名、Cクラス60名、Dクラス60名、Eクラス60名の計230名。


リヒトは魔力により視力を強化して探していく。特に自信があったわけではないが、試験を見た限り自分が下に居るとは思えなかったので、念の為50位辺りから確認していく。






42位  352番   ラッタル

38位   296番  キャシー

35位   15番     オスシ

16位   168番   サノヘ
13位   206番   ラルト

                                 以上、Aクラス 計40名



8位      56番  キャプト
4位    302番  ルナ
3位    301番  シモネ







1位    300番  リヒト

                                 以上、Sクラス 計10名


喜びを反芻する。1位。やはり、天辺というのは何時とっても嬉しいものだ。
喜びで感涙しそうな所を押し堪え、再度確認してみる。

4位    301番   ルナ
3位    302番  シモネ
1位     300番  リヒト


席次上位に食い込めれば僥倖と思っていた2人も3位と4位。
ふとその2人の方を見てみると、魔力による強化も忘れ、どうにかして見ようと頑張っていた。その光景にリヒトの方から少し力が抜けた。

「ルナ、シモネ。何してるの……」
「何って、順位を確認しようと」
「今まで何を頑張ってきた。散々教えたよね」
「あっ」
ルナはそれで気付いたらしく、一歩下がり視始めた。

その姿を見てシモネも気付き、使い始める。


「よくがんばった。おめでとう」
労いの言葉。このたったの一言にリヒトの想いが込められていると言っても過言ではないだろう。
「えっ」
突然ルナが悲しみだす。
「シモネに負けた」
何事かと思えば。2人で競い合って伸びてくれるなら大歓迎だ。
しかし対するシモネは、
「よし3位っ!って!ご主人様が首席じゃないですか!?」
とルナには目もくれていない。いや、3位と喜んでる時点で目には入っているのだろう。
「ああ、1位は無理だと思っていたんだけど、獲れてよかったよ」





「それじゃ行くか」
この後合格者は指定された部屋に行き、諸々の説明を受け、制服の採寸などが行われる。

この時、リヒトは思っていた。
「たしか1番上のSクラスは10人。そのうち4人が一般組ということは貴族は6人。少しの不安は残る。でも結局は人間。プライドの高いやつも、個性的なやつも居るはず。どうなるか楽しみだ」








教室に到着すると、既に3人が席に着いていて、「漸く平民組のお出ましか」といった言葉が聞こえてきた。
「席は左から順位順に座ってだってさ」
3人のうちの1人がそう告げる。

順位順となると、彼は6位。他は5位の人と10位の人がいる。
自席に座ろうとすると、件の男から声をかけられた。深みがかった青色の短髪、当たり障りのない爽やかそうな顔立ち。イメージは爽やかな青年に胡散臭さを少し足したような感じだろうか。
「君が話題の首席くんか。僕はイルマ=アルレス。アルレス家の次男だよ。便宜上今日は皆のこと何席の子って呼ぶことにしてる。よろしくね」
アルレス侯爵家。たしか海に面していて、海産に富んでいたはずだ。
「リヒトです。よろしくお願いしますね」
当たり障りのないように返事をする。
「そこの2人とは知り合い?一緒に入ってきたけど」
「はい。そうですよ」

「いいなあ。ねえ、紹介してよ」
「嫌です」
「えー。そっか。じゃあ僕から声をかけようかな」
2人の方を見てみると、嫌そうな顔が努力は見られるが隠しきれていなかった。
「いやー、今は止めといた方がいいですね……。片方は機嫌悪いみたいですし。貴族相手にも容赦ないからなぁ」
貴族《俺》にもはじめから辛辣に当たってきたルナのことだ。状況が違うとはいえぞんざいに扱うのが目に見えている。
「君がそう言うならそうなんだろうね。今はやめておくよ」
彼は残念そうな顔をしながらそう呟いた。





「でもまあ、まさか1位が平民から出てくるなんてなぁ」
イルマが話題を模索していると、ふいにそんな言葉が投げられた。
「ああごめんごめん。私はアウラ=クルネラット。席でわかる通り十席だよ」
女性らしい体型をしており、出るとこと引っ込んでいる所が視線を惹き付ける。
「リヒトです。よろしくお願いします」
クルネラットは伯爵位に就いていたはずだ。
その伯爵家の中でも栄えていると聞いている。

「これから同じ教室で学んでいくわけだし、口調はふつにしていいよ」
「はい、わかりました。あっ、わかったよ」
思いっきりデジャヴな会話だなぁと思いながら訂正する。

「ふーん。君が1位ね。なんか納得って感じ」
「どういうこと?」
「ジン─次席の子なんだけどね、ここだけの話、ちょっと性格があれで厄介なのよ。プライドがやけに高かったり、気性が荒かったり。おまけに実力も権力もあるから私達じゃ止められなくって。現に私達は彼が首席だと思ってたほどの実力はある。
対して君は落ち着いてて、やけに大人びてて。上に立つ人ってこんな感じなんだろうなって」

「そう言ってくれるのはありがたいけど、むしろ上に立つのは苦手なんだ」
「そうなの?でもやってみたら意外と向いてるかもよ?」
「リヒト、残念ながらアウラの目は確かだ。昔からその観察眼はよく当たってる」
「そうなんですか。んー、でも俺には表よりも裏から支える方が向いてると思います」
「本人が言うならそうなんだろうね。まあリーダーと一口に言っても色々あるからね。機会があればやってみなよ」
「心には留めておきますね」


ここで、1人入ってきた。
イルマもアウラも知らないらしく、お互い顔を見合わせている。少し挙動不審になっている所から、恐らく一般組だろう。
「おい、早く入れよ」
今入ってきた人の後ろから低い声の脅すような台詞が聞こえた。

「やあガント。そこの子は?」
「さあな。ここの前でキョドってたから無理やり入れてやった迄だ。たぶんそいつ平民だろ?イルマが知らないってことはそういうことだろうし」

「で、君。名前は?」
イルマが聞く。
「キャプトでありますっ」
緊張が解けないのか、やはり噛んだ。
「そしたら第8席の子かな?」
「は、はい!恐縮ながら、そうでありますっ」

「ふふ、そんな緊張しなくていいよ。誰彼構わず取って食べるような真似をする人はここには居ないよ。1人心配だけど」
暗にジンを示唆しているのだろう。

「で、イルマ。そこの3人は誰なんだ」
「ああ。そこの彼─キャプトと同じ一般組の3人だよ」
納得のいった反応をし、自己紹介をし始める。
「なるほど。よろしくな。俺はガント=カノーだ」








「よし、おお、集まってるな。よし、席につけ」
ここで教員─状況的には担任と思しき大人が
入ってきた。
「あと足りないのは、2人か」
居ないのは次席のジンと七席の人。
どんな人なんだろう、と耽っていると、
「すみません遅れました!」
と元気のいい声と共に1人の少女が入ってきた。紫色の髪をお団子状に括っているのが特徴だ。
「何をしてたんだ。遅刻だぞ」
「すみません。道に迷ってました」
「そうか。早く席に着け」
「はーい」


しばらく待っていると、突然扉が開いた。
その人物はズカズカと入ってきたと思えば、リヒトの前で立ち止まり、見下しながら低い声で告げた。
「そこは俺の席だ」




……面倒事の予感。


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