月下の幻想曲

矢能 智郁

29話



声をかけてきたのは蒼髪の少女。瞳は澄んだ水色で背もこの年齢にしては高い。肩にかかるまでに伸び降ろしている髪型が大人っぽさや清楚さを醸し出している。

「あっごめん。私はトナ。ただのトナだよ。よろしく」
「リヒトです。よろしくね。トナさん。試験はもう終わったんですか?」

「ええ。あなたほどよくはなかったけどね」
「まあ試験官もB・Cランクの冒険者らしいしね。そんなに気にすることはないんじゃないか?」
フォローしてみるが、自身のやったことを思えばフォロー出来ているとは言えなかった。
「ふふ。ありがと。ちなみにこの後予定ある?」
妖艶な微笑みでリヒトは目を奪われかけた。
「あ、あるけど、夜からだね」
「なら一緒にどこか行かない?私2日前にここについてそこから部屋に篭りっぱなしだったから、ここのことよく知らなくて」
ちょうどこの後見て回る予定だったので、正直ありがたい申し出だ。探知魔法の範囲を少しでも拡げておきたい。
「いいよ。行こうか」

2人は並んで歩き出した。
「トナはどこから来たの?」
「隣のアンシュワーツ領だよ。リヒトは?」
「キフェルネからです」
「へえ。キフェルネってどんなところ?」
無邪気にそう質問をしてくる。

「たぶん、他の領地とそんなに大差はないですけど、魔物が多い分冒険者の比率が高いです」
王都に来てから感じたのが街にいる人たちの服装の違いだった。

キフェルネ領は辺境伯と名が着くように比較的僻地にあり、栄えているとはいえその場所は限られている。また辺境にある分魔物の量も多いため、自然と冒険者の数も多くなる。

一方の王都メントキナは、やはり国内一栄えているだけあり商業の規模が違う。そのため利益を求めて各地からこぞって集まる商人関連の人が多くなっており、それに従い商人を狙う盗賊の数も多い。加えて魔物の数が0という訳では無いため冒険者は少なからず存在している。もしかするとキフェルネよりも多いまであるだろうが、そう感じないのは単に比率がおかしいだけだろう。


「そうなんだ。いつか行ってみたいな。あとその敬語、外していいよ」
「わかりま、わかったよ。これでいい?」
1度、ジト目─とでも言うべきか、どうしようもなく可愛かった─になったのを見て、慌てて訂正する。

「うん。あっねえ、あそこ寄っていい?」
「ん?あの店か。いいよ」
指されたのはアクセサリーショップらしき、小物を売っているお店。
「やったっ。行こっ」
はしゃいでいるように見えるのは、小物類が好きだからだろう。


「うわぁ、こういうのいいなぁ」
彼女が今手に取ってみているのは緑色の大きな宝石の付いたネックレス。店主のおばさんが言うにはエメラルドらしい。

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  翠緑玉のネックレス

              スキル  緑魔法補助 中、魔力回復助長

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スキルの効果は市販にしては高位。魔力回復を助けてくれるのはありがたいが、宝石の大きさと相まって価格が50000ノールと高い。

「いいなぁ……。うわっ、50000ノール……。ギリギリだ……」
「どんなのを探してるの?」
「こう…、なんて言うのかな。大きめの宝石が付いて、そこそこ効能のいいアクセサリーなんだけど」
「予算は?」
「53000ノール」
「となるとそうだね……」
今後のためにも知識として入れておきたいので値段と効果、見た目を吟味しつつ真剣に探していく。
「これとかは?」
「んー、違うけど違わない」
「どういうこと?」
「ほとんど直感なんだけど、なんか違うなぁって」
トナはたまに居る、感覚で判断できるタイプらしかった。

「得意な属性は?」
「適正?赤だよ」
となると……、これか。
「これは?」
「ん……!これいいね!値段は、うん大丈夫っ。おばさん、これ下さい!」
目的のものが見つかってよかった。彼女の感性にも引っかかったみたいだ。


流石に引っかかることが多々あったので、今のうちに鑑定しておくか。


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 ステータス
        クトゥナ=ヨートニク(人族、14歳)


        固有魔法 :  共鳴魔法

        魔力残量 : 86%

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へえ。トナはやはり《・・・》偽名か。姓があるということは貴族。だがヨートニクの名は聞いたことがない。別の国の貴族なのだろう。
そしてあの会場にいたということは推薦が降りず仕方なしに一般から入ることになってしまったためだろう。
少なくとも本人から聞くまでは黙っておこう。

「おまたせ」
「じゃあ次に行こうか。どこがいい?」
「お腹も空いたしお昼にしない?」
「そうするか。少し時間的には遅いけどね。場所はどこにしよう。何が食べたい?」
24時間制に直せば今は2時半と言ったところだろうか。
「あ、さっきあった、春の風は?美味しそうな匂いしてたし!」

「あー、さっきのか。いいよ。行こう」






「いらっしゃいませ〜。席は~ご自由にどうぞ〜」
独特な響きの女性の声が店の奥から聞こえてくる。

「何にしようか」
「そうね……。すみません。オススメってなんですか?」
「本日はですね〜、カルガロスのソテーがオススメです〜。今朝いいのが入ってきてて〜」
カルガロスは蛇の魔物カルガラが進化した魔物と言われており、その体は確認されているのもでは全長20mを超えるという。
その体ゆえ狩るのに苦労する魔物となっているはずだ。その分肉は絶品となっているが。
「俺はそれにする。トナは?」
「私もそうする」

しばらくすると料理が運ばれてきた。









「ふう、美味しかったね。たまにはこういうのもいいかも」
お気に召したのか、先ほどよりも上機嫌になっている。

「さてと、どこに行こうか」
「お互いどこに何があるかわかってないし、適当に散策でもよさそう」
「そうだね。適当に回って色んな所を見ていこうか」

それからの時間、2人は短いながらも充実した一時を過ごした。王城を近くから眺めたり、待ち合わせによく使われる噴水を見たり、露店で買い食いしてみたり。
その姿はさながら恋人のようで、華やかだった。
リヒト自身はトナと言う美少女と共に歩けたことに満足していた。
トナも年相応にはしゃぎ、その一時を楽しんでいた。


しかし楽しい時間というものは無慈悲にも直ぐにすぎてしまうものである。
「そろそろお開きにしようか。もうこんな時間だし」
「そうね」
「お互い、受かってるといいな」
「リヒトは大丈夫でしょ。私は、どうかなぁ」

「試験を見たわけじゃないけど、大丈夫じゃないかな?」
「そう?まああまり期待しないでおくわ」
「わかった。それじゃあ、またね」
「うん。また」












宿へ戻ったリヒトは既に帰っていた2人と共に宿の食堂で夕食を取ることにした。小さめの祝賀会だ。

「今日はお疲れ様!乾杯!」
「「乾杯!」」
本来、奴隷の身分の者は主人と同じ食卓で、乃至同じ目線で食事を取っては行けない、というのがしきたりなのだが、旅の前にリヒトに説得され渋々一緒に食べていた名残で今も同じ食卓を囲んでいる。
もちろんこれはリヒトの日本での記憶によるもので、彼女たちを奴隷扱いする気が毛頭ないということにも繋がる。
彼女たちの言葉遣いも同様である。

「2人ともどうだった?」
「筆記はまずまずですね。最後の方の数問は難しかったです」
「最後の問い、どう書いた?」
「あの「魔術で1番大切なのは何か」ってやつですね?シモネは魔力の質とイメージって書いておきました。ご主人様から教わったことと一般に言われてることを組み合わせた感じです」
「無難に行ったんだね。たぶんそれが一番利口だよ。ルナは?」
「私は扱える魔力量を増やすことと想像力のことを、教わったことと絡めて書いた」
「なるほど…。2人ともありがとう」
「ちなみにリヒト様は?」

「俺はね───」




「ええ!? あ、ああなるほど!そう書けばよかったんですね……。」
「これが正解って訳でもないけどね?あくまでも一例ってだけで」
「でも、それが一番正解に近いと思う」
「そう言ってくれるのは嬉しいんだけどね、世間では聞いたことの無い情報が混ざってるからさ」
「この問題が出てるってことは出題者は当たり前のことを聞きたいんじゃない。普通知らないことを知ってるかどうかを見たいんだと思う。知った方法はどうであれ。じゃないとなんでこんな問題が出たのかの説明がつかない」
「それは俺も考えた。貴族対象であればその説でいいんだけどね、これは全員受けるテストなんだ。となれば単に「魔法というものに対する捉え方」を聞いているだけかもしれない」
「深読み、しすぎじゃないですか?シモネはただ、だけだと思ってるんですけど」
「まぁ今考えてもしょうがない。どうしても気になるなら入学してから聞きに行こう」
「わかった」


「それと、実技は2人とも問題ないもんね」
「どうしてそう思ったんですか?」
シモネがキョトンとした顔でこちらを見てくる。
「俺が終わってから試験監督に捕まってね。話し込んでいたら2人の試験が始まったんだ。折角だし見てたんだよ」
「見てたんですか……。もっとちゃんとやれば良かったです」
シモネがあからさまにしゅんとする。
もしケモ耳が付いていたら垂れ下がっていることは間違いない。

「他の人のも見てたんだけど、筆記は置いといて、実技─魔法や剣術のレベルは思ってたほど高くなかった。2人のを見てたら、Sクラスは余裕に入れるんじゃないかな」
「うん。リヒト様ほど強い人は居なかった。ただ貴族組がどうなるか分からない。体面上、2位に誰か挟んでくるはず。だから私達は高くて3位4位」
「たしかにそうだね。まあそれは明後日にならないとわかんない。終わったことにどうこう言っても仕方ない。合格は確定してるようなもの。潔く結果を待とう」





本当は食レポを挟みたかったのですが、(語彙力の)都合上カットさせていただきました。
どうしても美味しそうに伝わらない……

加えて前半部はワンクッション置きたかっただけなので過去30話の中で一番雑になりましたすみません。

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コメント

  • 如月 薊

    この世界観凄いwww

    0
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